偉大なる勇者の武器。それは・・・
あれから二週間の時が流れ、私は玲奈さんの言うことを聞かなかった事に対して罰として一週間の謹慎処分にされた。
体につけられた傷はまだ少々痛むが、あれから一週間で退院して、仕事に戻ろうとしたが、さっきも言ったとおり、私は玲奈さんに一週間の謹慎処分を受けたのだ。
玲奈さんは言っていた。
小夜子ちゃんを助けたい気持ちに対して、喜んでいるが、半分は怒っているって。
もし私がけが人じゃなかったら、速攻でぶっ飛ばしていたって言っていた。
聞いたときは言葉通り、半分は嬉しくて、半分はぞっとしてしまった。
それで私はさっきも言ったが、謹慎処分で今日がその謹慎がとける。
ちなみに小夜子ちゃんは、連中に心に大きな傷を負わされ、精神科の病院に入院している。
そこの病院にお見舞いに行こうと考えたが、面会は家族しかできないと言われ、諦めるしかなかった。
でもやっぱり小夜子ちゃんが心配で両親に小夜子ちゃんの事を聞いてみると、あんなに大好きだった絵を描くことが嫌いになってしまったようだ。
でも私は毎日絵を描き続け、その絵をメールで添付して送っている。
心にできた傷はそう簡単には治らない事を私は知っている。
だから友達である、私が出きることをして、いつかきっと笑顔の小夜子ちゃんに出会えると信じる事だ。
それと玲奈さんから聞いたが、私達が助かった理由は、あの老人が私の人柄が気に入ったそうだからだ。
もし私が自分の事しか考えないエゴイストだったら、銃で私の頭に風穴をあけていたところだって言っていたそうだ。
私は連中が私の事を許しても、私は連中を許せないと思っている。
気の弱い小夜子ちゃんを利用して、無理矢理、金儲けのために絵を描かせて、小夜子ちゃんに大きな傷を与えたことに。
色々と考えながら、伏せた顔を上げ、その瞳を開いて辺りを見渡した。
そこは以前横浜太郎に出会った、繁華街の中央に位置する噴水広場だ。
この一ヶ月、小夜子ちゃんの事でいっぱいで、横浜太郎の事を思い出す余裕がなかった。
でも小夜子ちゃんは精神を患ってしまったが、無事であることに、私の心にゆとりが生じた。
それで私は自然と横浜太郎の事を思って、ここに来てしまった。
そう。私は誰にも話せない事だけど、横浜太郎の事が好きなのだ。
あれから二時間くらいが経つのに、現れる気配はない。
さすがの私もいらだちが生じて来た。
そこで私は考える。
待っているだけじゃダメかもしれないと。
私は勇気を振り絞って、立ち上がり、手がかりを探すことにした。
繁華街の入り口に位置する、カラオケの呼び込みをしている二十歳位の男性に聞いてみる。
「横浜太郎?あー知っているよ。この辺じゃ有名人だよ。何でも非行に走ろうとする少年や少女を更生させる為にボランティアでこの繁華街を回っているそうだよ」
この町では有名人で少年や少女の更生に励んでボランティアをしていることはわかった。
でもそれだけでは手がかりにはならない。
繁華街のラーメンやの前で、客がこなくて、うんざりして退屈そうにたばこを吸っている亭主に聞いてみる。
「あー横浜太郎ね。出会ったと言うことはお嬢ちゃん、非行に走ろうと考えたんだね。まあ、それはともかく、彼の顔を知るものは誰もいないみたいなんだよ。まさにこの繁華街の月光仮面みたいな人だね」
素性がわからない挙げ句、月光仮面とまで言われる始末の横浜太郎。
ここでの手がかりは、その素性は誰も知らない。
繁華街の町に位置する、交番に聞いてみる。
「横浜太郎?なるほど、君はその人に会ったんだね。一つ僕から言っておくけど、不良になっても絶対に良いことはないからね」
横浜太郎に出会っただけで、非行に走ろうとしたことがばれてしまう。
なぜだろうか?横浜太郎の事を訪ね探しているだけで、心臓が破裂しそうな程高鳴り、胸が苦しくなってきた。
私はこの心境をテレビドラマで見たことがある。
それは私が横浜太郎の事を強く求めているからだ。
素性のしれない横浜太郎の事を求め思えば思うほど、その思いは募る。
素性がわからないなら、私はどうすれば良いのか?分からなくなって、とりあえず、破裂しそうな程高鳴っている胸を落ち着かせる為に噴水の中央広場のベンチに座って深呼吸をした。
少し落ち着いてきて、自動販売機から水を買って飲んで先ほどよりも、落ち着いた感じだった。
空を見上げると、日は落ちて、夜の闇へと変わろうとしている。
その下で私は自然とため息が落ちる。
そんな素性も知らない人を捜しても無理があるんじゃないかって思って、いっそ忘れた方が良いんじゃないかと結論を出すと涙がこぼれるほどの切なさに苛みそうになって、その思いを私の心の中で否定してしまう。
その思いを否定したのは私の理性ではなく本能だと言う事が分かる。
どうやら私はこのまま会えなければ、思いは募って、その思いに殺されてしまうって言っても過言じゃないかも。
じゃあどうすれば良いのかと、困惑して、涙がこぼれ落ちた。
こんな気持ち初めてだ。
こんな気持ちになるなら、恋何かしない方か良いんじゃないかと思う。
横浜太郎とは聞いたところによると、誰もその素性を知らない幻の人みたいだ。
人知れずため息をついた時だった。
「何をしているの?」
セーラー服に身にまとった艶やかな女性に私は声をかけられた。
「・・・」
何か怪しい感じがして、その場から立ち去ろうとすると、突然素行の悪そうな厳つい男に手を捕まれてしまった。
「何よ離してよ」
するとその男は手を離してくれた。
「お前こんなところで何をしているんだよ」
男は言う。すると女は、
「そんな女の子がこんな時間にこんなところにいると、悪い連中に目を付けられるわよ」
そこで私は、
「私は横浜太郎に会いにここに来たのよ」
「「横浜太郎」」
二人の声が驚きと共にはもった。そこで男が、
「横浜太郎と聞くと、お前も非行に走ろうとしたんだろう」
確かに非行に走ろうとあの時は考えたので、私は「そうだけど」と認める。
そこで女が目を細めて私に言う。
「あんた、横浜太郎に会いに来たと言うことは、横浜太郎に惚れたんだね」
女の質問に私は頭に湯気が出そうな程、熱くなって、
「そ、そ、そそそんな事はないよ」
「狼狽えているところを見ると、それは嘘だね」
見透かされ、私は嘘が下手な事に自分が嫌になる。
今度、そう言った嘘を見透かされないように練習した方が良いかもしれない。それはともかく女は、
「実を言うとね、あたしも惚れているのよ。こいつ(男)はあたしの世界で二番目に好きな彼氏って事になっているの」
それを傍らで聞いている男は、
「二番目かよ」
何て小声で女に聞こえないように文句を言っている。
時計を見ると午後十九時を回ったので私は、帰る事にする。
これ以上遅くなったら、涙姉さんが心配する。
先ほどのカップルから横浜太郎の事を聞いたが、あのカップルも非行に走ろうとして横浜太郎に助けられたと言っていた。
それで先ほどのカップルは横浜太郎に助けられ、更生することを決めたみたい。
二人は何度か会いにお礼だけでも言おうとしたのだが、一度会ったきりで二度は会えなかったと言う。
彼はいったい何者なのと聞くと、手がかりを探した時に聞いたように月光仮面と言われており、その他にも仮面ライダーや、もしかしたら横浜太郎と言う男は存在しない何て噂されているみたいだ。
それに横浜太郎に出会った人は幸運の持ち主とまで言われている。
つまり横浜太郎に出会えば、生涯幸せな人生を送れるらしい。
ちなみにあのカップルは、普段は夜学に通って賢明に勉強して将来福祉の仕事をしたいと言っていた。
それでたまに余裕があれば、繁華街を訪れて、横浜太郎探しをしているみたいだ。
なぜそんな事をしているのか聞くと、先ほども言った通り、ただお礼をしたいと思っているみたいだ。
だが、もう三十回ぐらい訪れて探して見ても現れてはくれないらしい。
それに先ほどのカップルの知人も助けられたとも言って、彼らも一度っきりしか会った事はないと言っている。
考えてみれば、私は彼と出会って、先ほどカップルが言ってたように幸運の持ち主かもしれない。
でも私は彼に会って幸運なのかもしれないが、それと同時に悲しい目にもあった。
それは彼に私の心を奪われてしまったからだ。
色々と横浜太郎の事を思いめぐらせ、私は帰宅する。
ドアを開いて靴を脱ぐと、涙姉さんが、
「遅かったね何をしていたの?」
「いや別に」
「夕ご飯出来ているから食べましょ」
私は作ってくれたのに悪いのだが、何か食欲がなくて、今は一人でいたい気分だから、
「ごめん後で食べるよ」
「どうしたの亜希」
心配そうに私を見つめる涙姉さん。
「何でもないからごめん」
と言って私は部屋に戻ってベットの上で寝転がった。
私はそこで初めて気がついたのだが、失恋してしまったのだ。
いや失恋と言うのだろうか、まだ思いも伝えられないのに、失恋なんて。
でも横浜太郎に関わって再会した人はいないと言っていた。
もう会えないのだろうか?
そう思うと私は一人部屋の中で、人知れず涙がこぼれ落ちた。
どうして会えないのだろう。横浜太郎に出会って、非行には走らず、ちゃんと更生の道に進んでいる。
でもさっきも思ったが、私の心は横浜太郎に奪われたままだ。
思いも伝えられないのに、失恋なんて、嫌だ。
せめて私は横浜太郎と再び出会って、この思いを伝えたかった。
まあ結果は別として、振るなら振る、受け取るなら受け取るってはっきりしてほしい。
受け取るなら、受け取るで私は横浜太郎の理想的な女になって、尽くしてお互いに幸せを供給していきたい。
振るのなら悲しいが、認めるしかないのだろう。
そのどちらでもないと言う状況に私は複雑な気持ちに苛んでしまった。
何か無性に叫びたくもなるが、この部屋で叫んだら、世間に不振な目で見られるだろう。
私はいつの間にか横浜太郎の事を思いめぐらしながら眠ってしまったみたいだ。
誰にでも訪れる日の光は、私の悲しいのか複雑なのかごちゃごちゃとしているが、そんな気持ちを少しだけいやされる感じだった。
時計を見ると、午前七時を回ったところだった。
今日で玲奈さんの謹慎処分が終わる日だ。
「亜希起きなさい」
台所から私を呼ぶ涙姉さんの声がした。
まどろんだ瞳をこすって、私はジーパンに黄色いカッターシャツと言うラフな服を着て台所に向かった。
昨日は横浜太郎の事でいっぱいだったが、そう言えばあの事件から、玲奈さんは私の前では笑わなくなってしまった。
そう思うと何か私は玲奈さんに嫌われてしまったのかと考えてしまう。
いや仮に嫌われたとしても、私には瞳ちゃんや小夜子ちゃんや涙姉さんだっている。
でも最近、この二週間瞳ちゃんからも連絡もこなくなっちゃったし、小夜子ちゃんだって心を閉ざしているそうだ。
それに涙姉さんも私の世話より、もっと友達とかと遊んだり、部活を楽しんだりしたいんじゃないかと思う。
私は生きていて邪魔な人間なんじゃないかと思う。
何て考えながら居間に入ると、とびきりの笑顔で朝の挨拶を交わしてくれた。
そんな笑顔にいやされるが、本当はその笑顔の裏に私というストレスを感じているんじゃないかと思った。
「今日からまた学校でしょ」
涙姉さんは相変わらずに私の顔を見る度笑顔だった。
私も笑顔を取り繕ったが、なぜか涙姉さんは、
「どうしたの亜希?」
心配そうに私の瞳を見る。
「何でもないよ」
と私は目を泳がせてしまう。すると姉さんは、
「あら、もしかして亜希、失恋でもしたのかな?」
真実を見抜かれ嫌みったらしく言う涙姉さんに私はいらだちを感じて、
「そんな事ある分けないじゃん」
と私はつい大声で言ってしまった。
それで私は大声で言ってしまった事に後悔してしまう。
いくら何でも言い過ぎなんじゃないかと思って、きょとんとして黙り込んでいる涙姉さんに、
「ごめん」
と謝っておいた。すると涙姉さんは笑顔で、
「冗談よ。ごめんね亜希」
その後朝食を共にして、涙姉さんはどう思っていたのかは分からないが、何か私は気まずかった。
そして涙姉さんは学校に行き、私は部屋でベットの上でうずくまっていた。
みんな私の事嫌いなのかな?
もしかしたら私は一人ぼっちなのかもしれない。
いやそうだ。
そう思うと、過去の事を思い出して、私は苛んだ。
パニック状態に陥って三階の校舎から飛び降りて、怪我を負い、おぼつかないかすかな意識の中で飛び降りた窓を見上げると、私を見下ろしてあざ笑う女の子。
私はもう考えたくない。
どうしてだろう?最近はこんな事を思い出しても苛むことはなかった。
苦しい。心が引きちぎられそうな気持ちになる。
誰か助けて。
そう心の中で呟くが、その思いは誰にも届かない。
出来るなら私は物を言わぬ貝になりたい。
いや私の存在自体をすべて消し、永遠の闇に消え苦しみも悲しみもないところに行きたい。
でもそうなることが怖い。
つまりそれは死を意味する思いだ。
死ぬ事に恐れ、生きることに苦しむと言う以前の私に戻ってしまった。
もはや私には悲しみの涙をこぼす事しか出来ない。
時計を見ると、そろそろ玲奈さんのところに行かなくてはいけない。
でも玲奈さんは私の事を嫌っている。いや玲奈さんだけではなく瞳ちゃんも小夜子ちゃんも涙姉さんもみんな。
悲しみの涙を流して、絶望感に苛んでいた時、私の携帯が鳴り出した。
着信画面を見ると、誰からか分からない非通知と表示されていた。
とりあえず出てみると、
「もしもーし」
とおどけた声で言う男性の声が聞こえた。
「どちら様」
と聞いてみると。
「俺だよ俺」
俺俺と聞いて俺俺詐欺だと思って通話を切ろうとすると、
「ちょっと待てよ。お前が思っている俺俺詐欺じゃない。俺は横浜太郎だ」
その名前を聞いてなぜか胸がドキっとした。
「お前、昨日俺を探して、繁華街で聞き込みしていただろ」
「・・・」
確かにしたけど、素直には認められず、黙ってしまった。
「俺に何か用か?」
「どうして私の番号を知っているの?」
「俺は何でも知っているんだよ」
「答えになってないじゃない」
「まあそれは置いといて、お前何泣いているんだよ」
「・・・」
見透かされ、何を言って良いのか私は困惑してしまう。
「また何かおいたして、叱られたのか?」
「そんなんじゃない」
と憤ってしまった。
「じゃあ、どうしたんだよ。俺でよければ聞いてやっても良いぜ」
なぜか私は躊躇なく話す事にする。
話が終わった後、横浜太郎は大笑いする。
「何がおかしいんだよ」
私は再び憤って、受話器を投げつけようとした。
「わりぃわりぃって、お前本当にひねくれているんだな。そんな事少し考えれば分かることじゃねえかよ」
「少し考えれば?」
何か私は横浜太郎に事情を話して気持ちが楽になった感じだった。
「でもまあ、訳もなくそんな事を考えてしまう時だってあるよな。俺も若い頃そうだった。そんな事を考えて非行に走ろうと考えてしまったが、実際はそうじゃなかった。気がつけばそんな俺のことを心配してくれていたよ。だからてめえも素直になって、てめえに笑顔をくれる連中に当たってみろよ」
「・・・」
何か複雑な気持ちだ。すると横浜太郎は舌打ちをして私に言う。
「ったく面倒くせえ女だな。てめえが非行に走る前にだまされたと思って、接して見ろよ。命懸けてもてめえが考えている事は絶対にあり得ないから」
今気がついた事だが、横浜太郎と話していると、枯渇しきった私の心に水があふれてくるように潤った。だから私はなぜか素直な気持ちになって横浜太郎に「ありがと」とお礼を言った。
「じゃあ健闘を祈るぜ」
と通話が切れた。
そこで私は重大な事に気がつく。
私は横浜太郎に思いを伝えたかったのだ。
横浜太郎の携帯にかけようと思ったが、非通知で番号が分からない。
何をやっているんだよと自分にいらだちを感じてしまった。
その気持ちはともかく私は騙されたと思って、玲奈さんの自宅まで足を運ぶ。
私が思っているような事はないと横浜太郎は命を懸けるって言っていた。
もし嘘だったら・・・どうしよう?
まあそれはともかく、玲奈さんのアパートの近くにたどり着いた。
玲奈さんは自分のバイクの手入れをしている。それに私が来た事に気がついていない。
もし嫌われていたらどうしようと私は何か心の準備と言うか、そういうのをしていなくて、しばし電信柱の陰に隠れた。
何か緊張する。横浜太郎は言っていた。考えればすぐに分かることだって。
玲奈さんが私を嫌うはずがない。
その真実を確かめる為に私は深呼吸でもして気持ちを整えようとしたところ、
「亜希ちゃん」
と玲奈さんが現れて、私は気持ちの整理もしていないので慌てて、その場から逃げようとしたところ、
「ちょっと何で逃げるの?」
腕を捕まれて牽制されてしまった。
こんなやりとり、そう言えば、玲奈さんと会って間もない頃にもあったっけ。
何で私はみんなに嫌われてしまった何て考えてしまったのかは、私って何か神経質なところがあるのかもしれない。
それで私に対してあの一件以来、笑ってくれない玲奈さんに嫌われてしまった何て考えてしまったのだ。
でも横浜太郎の言う通り、そんなの少し考えれば分かることだった。
みんな私の事を嫌うはずがない。
瞳ちゃんと会うのも何でだろうか?嫌われているのじゃないかと思って会う事に対して緊張したが、カウンセリング室の扉を開け、瞳ちゃんと目があった瞬間、本当に嬉しそうに私に抱きついてきた。私もそんな瞳ちゃんに対してすごく嬉しかった。
横浜太郎の言うとおり、私がみんなに嫌われている事はなかった。
いくら神経質だからと言ってそんな事を思ってしまうのか?
分かっているのにどうして嫌われているなんて思ってしまうのか?今の私にはわからないかもしれない。
そう言えば、ここの生徒の一人が、相手に送ったメールが帰ってこないから嫌われているんじゃないかと勘ぐっていた生徒の事を思い出した。
それと一緒なのかもしれない。
まあ、私は瞳ちゃんに二週間も連絡がない事に嫌われていたんじゃないかと思っていたっけ。
でも、そんな事はないのだ。
謹慎が終わって、私が勤めるカウンセリング室で瞳ちゃんと共にギターを弾きながら熱唱した。
そんな中、心の片隅に小夜子ちゃんを心配する気持ちが芽生えた。
そう思った瞬間だった。
すごいタイミングだ。
あの小夜子ちゃんがカウンセリング室にやってきたのだ。
そんな小夜子ちゃんに対して、私はギターをおいて、照れくさそうに苦笑いをしている小夜子ちゃんに抱きついた。
瞳ちゃんも玲奈さんも、ここに来る生徒達も嬉しそうにしていた。
描くことを嫌いになってしまった小夜子ちゃんは再び描く事を始めたみたいだ。
私が毎日描いてメールで添付した絵を見て、また描く気持ちが芽生えたと。
ちなみに私が描いた絵には楽しそうに描いていると言う心理が描写されていて、毎日かかさず見ていたみたいだ。
私が小夜子ちゃんが元気になってくれる事を思って送った私の絵を添付したメールは無駄ではなかったのだ。
まだここに来て半年ぐらいしか経っていないが私には百万ドルを差し出しても手に出来ない仲間がいる。
そんな仲間達に出会い、絆を深めて行ったのは、私を勇者と見込んでここで働かせてくれた玲奈さんだ。
その勇者。つまり勇気。それは生きるための大切なものの一つだ。多かれ小さかれ、誰の心にもそれは存在している。
歴史を勉強すると、どの時代にも悲しい問題が会ったことが分かる。
その問題を歴史に名を連ねた人が解決していった。
つまりその歴史に名を連ねた人が偉大なのは勇気を持っているからだと思った。
そしてこの時代に至っても、悲しい問題が山積みになっている。
それを解決するのは、先生や政治家や他の誰かではなく自分自身の勇気なのだ。
ちなみに私の勇気の根元は仲間だ。
悲しい時、嫌われているなんて思うひねくれた私も存在するが、私は一人じゃないと言う事が私の勇気の根元かもしれない。
でも一概には言えない。
人は一人一人、誰でも甘えやずるさ、嫉妬などの気持ちがある。
それを否定するのではなく、認める事だと玲奈さんは言っていた。
でも認めるって言っても、ただ単に頭の中で思っただけでは認める事にはならなかった。
じゃあどうすれば良いのか、今の私にはわからない。
そう人生とは分からないことだらけだ。
それを追求するのも人生の醍醐味なのかもしれない。
何が正しいのか何が間違っているのか、それも分からない。
だから私は生きているのかもしれない。その心に勇者の剣と言う剣を構えて。