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勇者の剣  作者: 柴田盟
21/22

偉大なる勇者の大切な物

「何?」

 と涙姉さんが言う。

「分からない」

 とりあえず部屋を出ると、私の部屋はともかく家中の電気が消えていた。

 そこで私はピンと来る。

「奴らが出向いたのかもしれない」

 そこで私は恐怖の念に苛む。

 気がつけば私は全身で震えていた。

 やっぱり怖いのだと。

 そんな私を抱きしめてくれたのが涙姉さんだ。

「大丈夫だよ亜希。亜希は私が守るよ」

 私は姉さんに抱きしめられ、恐怖の念が収まった。

 私は一人じゃない。

 恐怖の念を共有する事によって、緩和してくれるとは私は初めて知った。

 そして私は覚悟を決める。

 小夜子ちゃんを助けるには私の命が必要なのだと。

 奴らはこちらに出向いてくる。

 私は逃げも隠れもしない。

 そう決意して、外からバイクのエンジン音が私の家に鳴り響いた。

 少し考えて、このバイク音は玲奈さんもものだと言うことが分かった。

 私の部屋の二階の窓を開け、見下ろすと、そこには紛れもない玲奈さんの姿があった。

 ただ玲奈さんは合う度に私に笑顔を提供するのだが、その様子はなく、すごく険しい顔をして、せっぱ詰まった感じで二階の窓から見下ろす私を見上げた。

「玲奈さん?」

「とんでもないことをしてくれたね、あなたは」

「・・・」

 返す言葉もなく私は玲奈さんから視線を逸らして、申し訳なく思っている。

「亜希ちゃん」

 私の名を呼んで、玲奈さんは後方の席を親指でさして、乗れと合図した。

 部屋を出て外に出ようとすると、涙姉さんが私の手を握って心配そうなまなざしで私を見た。

「亜希」

 私の名を呼んで、私は笑顔で大丈夫だと言わんばかりに微笑んだ。そして涙姉さんは、

「私は亜希の事を信じているからね」


 玲奈さんの表情を見て分かったことだが、私はこれから命をかける修羅場に行かなくてはいけないのだろう。

 玄関で靴を履いて、外に出て、玲奈さんのバイクの後方にまたがり、玲奈さんにしっかり捕まった。

「行くよ」

 と玲奈さんは淡々と答えて、覚悟する気持ちが高まった。


『恐れるものなんて何もない』


 と言ったが、それは自分に格好よく言っているだけだと思った。

 だったらそれでも良い。

 仲間の為に死ねるのなら、私は思い残すことはない。

 改めて思うことだが、私は玲奈さんを始め仲間がいたからこそ、自分に自信を持てたりしたのだ。

 だから私にとって仲間は命より大切なものだと言っても過言じゃない。

 もしかしたら、小夜子ちゃんを引き替えに私の命をくれてやっても良いと連中に言ったって、それは無理なのかもしれない。

 私には小夜子ちゃんのような才能を持っていないし、何の価値も見いだせない私はただのジャンクだ。

 そう考えると、小夜子ちゃんを助けようとする私は無謀だったのかもしれない。

 もしかしたら玲奈さんの言う通り、それで涙姉さんや母さんに迷惑をかけてしまうのかもしれない。

 でもそうはさせない。

 それは私の命にかけても。

 玲奈さんが運転するバイクは夜の道路を走る。

 今河川敷を跨る橋を渡り、町がネオンを放ってとても綺麗だ。

 今度小夜子ちゃんと共にこの夜景を描くのも良いかもしれない。

 小夜子ちゃんだったら、この夜景をどんな風に描くのか興味がある。

 それはそうと、玲奈さんは先ほどから何も話してくれない。

 玲奈さんは言った。

 小夜子ちゃんの件は危険な何かが絡んでいるのだと。

 でももう怖くはなかった。

 相手が何百何千と言う力を持った人間であっても私は命を懸けても小夜子ちゃんを助ける。

 玲奈さんが運転するバイクは人の気配が感じられない港の倉庫にたどり着き、玲奈さんはバイクを止めた。

「降りなさい」

 言われた通り私は玲奈さんが運転するバイクの後方から降りた。

 そして玲奈さんは暗闇に包まれた第四倉庫と名付けられた倉庫に向かい、「来なさい」と言って私はその後に付いていった。

 いつも私の視線が合う度に笑ってくれる玲奈さんは今は一度も笑ってくれなかった。

 もしかしたら何か覚悟をしているのかもしれないと思った。

 倉庫の中に入ると明かりがついて、そこには黒服を着てサングラスをかけた、いかにもヤクザ的な感じの人たちが数十人位いた。

 その中からもんぶく姿の老人が身を乗り出して、私と玲奈さんの前に現れた。

 私には見える。

 一見ただの老いぼれに見えるが、言葉にはたとえがたい何か妙なオーラを感じた。

「お前さんか?わしらの商売を壊そうとしているのは」

 持っている杖を私に向け、この組織のリーダーだと思われる老人は言った。

 何か老人に発せられるオーラに圧迫されたが、それを打ち消す感じで私は叫びながら自分の思いを言った。

「私は小夜子ちゃんを助ける為にやったの。小夜子ちゃんこんな絵を描かされて苦しんでいる。だから小夜子ちゃんを返せ」

 と。

 そんな私の言葉を遮るように玲奈さんが私の口元に手を添えて。

「私もこの子と同じ意見を言いにここに来ました。私からもお願いです。どうかこの子と小夜子ちゃんを助けてはくれませんか?」

 と言って、ジーパンと上着を脱いで、玲奈さんは下着姿で土下座した。

 そんな玲奈さんを見て、私はひどく動揺して、

「ちょっと玲奈さん」

 と言ったが、私の声も耳に届いていない感じだった。

 あのいつも威風堂々としている玲奈さんがそこまでする事に恐怖の念が心のそこから、根付いて来た。

 それにそんな姿の玲奈さんを見てとても痛々しい。

 そこで改めて気づく事だが、私はどうやらとんでもないことに巻き込まれてしまったんじゃないかと思う。

 怖い。

 玲奈さんの言うとおりにしておけば・・・良くない。

 だったら小夜子ちゃんはどうなるの?

 そんな事を考えていると老人は、

「ほう?お前さんともあろうものが、そんなに小夜子と言う子を助けたいか」

「はい。助けたいです」

 何のためらいもなく即座に言う玲奈さん。

 そんな事を言う玲奈さんに私は茫然自失で立ちすくんだ。

 私はとんでもない事をしてしまった。

 あの時、玲奈さんの言うとおりにしていれば、こんな事にはならなかった。

 後悔の念に苛むや否や、そこで大切な事を思い出す。

 私は小夜子ちゃんを助けに来たのだ。

 苦しんでいる小夜子ちゃんを命に代えても助けるって思ったのだ。

 私の命よりも大切な友達。

 玲奈さんを始め、引き寄せられるように小夜子ちゃんと瞳ちゃんと出会った。

 その出会いは私の枯渇しきった砂漠のような心に、大量の水が流れ込み、潤っていろとりどりの花が咲きわたったような感じだ。

 当たり前のようだが、人間は一人では生きていけない。

 その事を知識では知っていたが、心に諭したのは仲間ができたからこその事だ。

 玲奈さんだって小夜子ちゃんの為にプライドを捨て、下着姿で土下座している始末。

 そこで私は理性ではなく本能に委ねて、叫んだ。

「小夜子ちゃんを返せ」

 って。

 そう叫びながら私は老人に立ち向かった。

 無謀な事だとは分かっている。

 ただ大切な友達を取り戻したいと言う気持ちで本能に身を委ねたのだ。

 本当に無謀な事だった。こんな事が勇気と言えるのか疑わしくなる。

 その挙げ句に私は老人に取り巻く部下にとらえられてしまった。

 部下に押さえつけられ、私の前に老人が私に尋ねてきた。

「お前さんは、どうしてあの小娘をそうまでして助けたいのじゃ?」

「友達だからに決まっているじゃん」

 私はナイフのような鋭い視線を向け老人に言った。

 そんな私を見て老人は目を細めて、

「お前さん、自分の立場が分かっておるのか?」

 老人はポケットから銃を取り出して私に向けた。

「やるならやりなよ」

 そこで、

「ダメー」

 と叫びながら私の前に現れる玲奈さん。

「お前さんはちょっと黙っていてくれないかな」

 そう言うと、部下がそんな玲奈さんをとらえた。

「私の事は良いから、その子に手を出さないで」

 と玲奈さんは叫ぶ。すると老人は、

「さてお前さん、命が惜しくないのか?」

「惜しいけど、そんな私の命より、友達の方が大事に決まっているじゃん」

 すると老人は銃を閉まって、その持っている杖をふり上げて、私の肩に直撃した。

「ああー」

 と悲鳴を上げる。

「どうじゃ、痛いじゃろ。ここでわしに謝れば、お前さんだけでも助けて上げてもよいぞ」

 そこで私の心は揺れる。

 私は助かりたい、小夜子ちゃんや玲奈さんの事をほおっておいても。

 でも。

 考えている最中でも老人は容赦なく私をその持っている杖で私を殴る。

 こんなのもう嫌だ。すべて小夜子ちゃんと玲奈さんのせいにして、自分だけ助かりたいと思う気持ちになる。

 でもそんな事をしたら、死ぬよりも恐ろしい事に私は苛むのだと思う。

 杖で私を滅多うちにする老人。

 だんだんそれも痛くなくなってきた。

 そして意識がもうろうとしてきた。

 私は死ぬのだろうか?玲奈さんと小夜子ちゃんを犠牲に自分だけ助かりたい気持ちと、みんなの笑顔が曇る姿が走馬燈のように私の頭に浮かんだ。

 この命は私だけの物じゃない。

 涙姉さんだったり、玲奈さんや小夜子ちゃんや瞳ちゃんの物でもある。

 だから私は一人じゃない。

 だからと言って、私は自分一人だけ助かりたいとは思わない。いや心の奥底で密かに思っているかもしれない。

 でも私はそんな悲しい人間にはなりたくない。私はこのまま死んでしまうのか?

 でも無駄死にだけしたくない。

 杖で私を滅多うちにする老人のわずかな隙に目を付け、その杖をつかんだ。

 杖で叩かれて、体も心もボロボロで私はゆっくりと立ち上がる。

「私の命と引き替えに、小夜子ちゃんと玲奈さんの事を助けられないかな」

 ナイフのような鋭い視線を老人に向ける。

 老人は目を丸くして驚いている様子。

「お、お前さん自分の命が惜しくはないのか?」

「惜しいよ。私だけ助かりたいって思ったりしたよ」

 私はそう言いながら、目の前にいる老人の距離を縮める。続けて私は、

「でも私にとって仲間は命よりも大切な物なの。だから小夜子ちゃんと玲奈さんを助けて上げてよ」

「ぐっ」

 と狼狽えて老人ははき捨てる。

「亜希ちゃん」

 とらわれている玲奈さんは私の身を案じてそう叫ぶ。

 周りに囲んでいる老人の部下たちが、私をとらえようとしたのか?動き出した瞬間だった。老人が、

「誰も手を出すんじゃない」

 距離を縮めながら老人の方に歩み寄ると、老人もナイフのような鋭い視線を私に向けた。

 しばし私と老人はにらみ合う。

 こんな威厳とした人にガン飛ばすなんて私はなんて命知らずなのだろうと思ってしまう。

 でも私は小夜子ちゃんや玲奈さんを助けるために命を懸けている。

 自分だけ助かりたいと思う気持ちをこらえて。

 そんな事を思ってガンとばしていると、突然老人が笑いだした。

 何がおかしいのだろうと私はきょとんとした。


 いつもの隣町が一望できる場所で小夜子ちゃんと絵を描きながら私は言う。

「うまく描こうとする気持ちも大事だけど、とにかく心から絵を描くことが楽しいと思う気持ちが大事なんだよね」

 小夜子ちゃんはにやりと笑う。

 小夜子ちゃんは絵が描き終えたのか?その絵を私に見せる。

 相変わらず、手腕な芸術家の描いたような感じの絵だ。

 そこで私はその絵をじっと見つめて、絵から描写される小夜子ちゃんの心を探ってみる。

 それは心の底から楽しく描いているのが私には分かった。

 そうだよ。楽しい事をすればいいのかもしれない。つらいときや悲しいときもある。

 それでも自分がこうだ、と言う気持ちで望めば良いと思う。

 世間にとらわれず、自分のやりたい事をすればいいのだ。

 そう誰にもとらわれず、自分の思った事をすれば良いのだ。

 それは難しいことじゃない。


 何か私の瞳に光が感じられる。

 どうやら私は気がついたみたいだ。

 そこは病院のベットの上だった。私は夢を見ていたみたいだ。

 右手に何か、なま暖かい温もりを感じがして、右手の方を見てみると、涙姉さんが私の右手をぎゅっと握り閉めながら、眠っているようだ。

 そんな涙姉さんを起こす。

 すると涙姉さんは、

「亜希」

 と瞳に涙を浮かべ、私の事を抱きしめた。

 私は状況が掴めず、その事を涙姉さんに尋ねてみる。

「私は?」

「玲奈さんから聞いたよ。とんでもない組織の連中に殺されかけたのよね」

 そこで私は何か大事な事を忘れているような感じがして、思い出した瞬間、気が気でなくて涙姉さんに聞いてみる。

「小夜子ちゃんと玲奈さんは?」

 と聞いてみる。そんな時だった。

「私ならここにいるよ」

 声の発信源を追いかけると、玲奈さんが扉の前で寄りかかってその腕を組んで私の方を見た。そこで私は、

「小夜子ちゃんは?」

 と聞いてみる。

 すると玲奈さんは私のベットの隣に指を指し、そこに視線を向けると、紛れもない小夜子ちゃんの姿であった。

 小夜子ちゃんを見ていると以前よりすごく痩せた感じだった。

「小夜子ちゃん」

 と身を乗り出して、近づこうとすると、体全体が所々痛みだした。

 これは老人に杖で叩かれた傷だ。

「亜希、無理しないで」

 そんな涙姉さんの言葉を無視して私は今は眠っている小夜子ちゃんのその無垢な寝顔に手を添えて、安堵の吐息がこぼれ落ちた。


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