おにぎり戦争
手違いで文章が中途半端になってました。
大変申し訳ありません。
おにぎり戦争後半部分付け足しているので良かったら見て下さい!
本当にごめんなさい。
今テーブルを挟んで二人の男性が睨み合っている。
一人はもはや説明のいらない一ノ瀬君。
もう一人は……一ノ瀬君とは今日初めてあった支倉洋さん。
何故二人が睨み合っているかと言うと……
「絶対、ぜーーったい、瑞樹さんが作る塩むすびが一番です! 」
「かぁ〜〜、わかってねえなぁ〜〜、瑞樹の作るおにぎりと言えば味噌握りだろうが」
ふう、聞いての通りです。
大の男がおにぎりでケンカですよ。
しかもかれこれ三十分こんなことをしているのですよ。
私もね、最初は微笑ましく見ていたのですよ、だけどね〜、こんなの五分で飽きるわ。
だいたいお互いの主張を曲げないのだ。
いつもは年上の人には礼儀正しい一ノ瀬君も、いつもは敬語を崩さない洋さんも、ぜんぜん引いてくれない。
コレ、どうすればイイの?
そんな風に途方に暮れていた私に二人が詰め寄って来た。
「瑞樹さんはやっぱり塩むすびが一番美味しいって思いますよね? 」
「そんなことないよな? 瑞樹も味噌握り好きだろ? 」
おいおい、そんなに興奮しながら近づかないでおくれよ。
二人とも鼻息が荒いっす。
「あ〜〜、そんなに興奮しないで下さいな。どっちも美味しいですよ、いや本当に。それよりそろそろ二人とも時間なんじゃないですか? 結局話し合いが終わらないからどっちも食事取れてないけど」
そうなんです。
この二人、私の家におにぎり食べに来たはずなのに話し合いに熱中するあまりタイムオーバー。
そしてようやくその事実に気付いた二人は仲良く落ち込んでいるわけで。
まあ、そんなことになるだろうなと思っていた私は既に持ち帰れるように二人のおにぎりを準備しているのであります。
私が二人にそれを手渡すと、二人ともパーッとお顔が明るくなりました。
「瑞樹さん、マジ天使です! 」
「あ〜〜、恥ずかしい姿見せてすみませんでした。そしておにぎりありがとうございます」
洋さんもいつもの敬語キャラに戻りホッと一息。
一ノ瀬君もキラキラのイケメンスマイルだね。
忙しい二人はおにぎりを大事そうに持って帰って行った。
はあ〜〜、ようやく静かになったよ。
いくら好物だからって、おにぎりであそこまでヒートアップしなくてもいいのに。
だいたい今回二人を引き合わせたのは洋さんに頼まれたからだ。
洋さんは映画の監督さんをしていて、次回作の主演で一ノ瀬君が決まっているから会ってみたいって。
なのに……何故あそこまでおにぎりで言い争いになってしまったのか。
二人ともおにぎりが好きなのはわかっていたけど、味でモメるなんてお子さまか?
普段のキリッとした監督とイケメン俳優のあの姿を見たらファンはどう思うのかしら。
「で、なんで私はここにいるのかしら?」
そう、何故私はここにいるのかしら?
ここというのは、一ノ瀬君主演映画『僕と私と君とアイツ』の撮影現場でして。
もちろん監督は洋さん。
半ば連れ去られて来た感じですよ、わたし。
「いつもすまないな、瑞樹」
そう言って私に手を振ってきたのは安定の蓮さん、一ノ瀬君の事務所の社長さんだ。
「何故、私は拉致られて来ているのでしょう? 」
休日の朝早くに呼びつけられるという、以前もあったなというイベント。
今日はダラダラ寝ながらゲームって決めていたのに………。
「あ、いや、本当にすまん! そんな目で俺を見ないでくれ。お前をいじめたなんて変な噂が立ったら俺の人生が終わる………」
終わらないと思いますよ。
それより現状報告早くして下さいよ。
「だから、その目! いや、うん、こっちが悪いんだから、うん。えーっと、それでなんで瑞樹を呼んだかと言うとだ、一ノ瀬と監督が揉めていてな、これは原因のお前を呼んだ方が早いとなったんだ」
「え? 一ノ瀬君と洋さん揉めてるの? しかも原因が私って………別に私何もしてないよ? 」
「いや、瑞樹さん、あなた、この間一ノ瀬と監督におにぎり渡したんだろ? 」
「へ? う、うん。うちに来た時に話しがヒートアップして食べる時間がなかったから作ったおにぎりお土産に持たせたよ。それが何かあったの? 」
「まあな………あの二人って、やたら瑞樹のおにぎりに情熱燃やしているだろう? で、だ。お前が持たせたおにぎりが逆だったんだよ。一ノ瀬に味噌、監督に塩」
「あ、間違えて渡しちゃったんだ………。ん? でも、なんでそれが問題に? それに二人からは特に連絡もなかったけど………」
「なんか、あの二人の意識に強烈な印象を与えたらしい………」
はい?おにぎりでなんの印象変化が起きるのかな?
私のおにぎりは兵器だったのかな?
「まあ、そのおにぎりがキッカケで今回の映画の解釈で二人の意見が真っ向からぶつかり合ってだな………撮影が進まないんだ」
………ますます意味がわからない。
私のおにぎりは何を引き起こしちゃったの?
間違えて渡しちゃったのは申し訳なかったけど、それが理由で撮影が進まないって………。
でも、だからって私にどうしろと言うのでしょうか? 蓮さんや。
私が蓮さんにそこんところを問いただそうとしたところ後ろから声をかけられた。
「瑞樹様!! 」
様付けで呼ばれ、誰だろうと振り向くとそこには………
うん? どこかで見たような気が?
私がイマイチ誰だかわからないと思っていたら隣で蓮さんが
「あ〜、円城寺さんところの事務所の若手じゃないか? ほら、この間瑞樹のこと撮影現場から追い出そうとして円城寺さんに激怒されていた」
あ〜〜〜、そういえばそんなことあったね〜。
あの後大変だったよ〜、私の拾い物仲間が知るところになってこの子に必要以上に当たろうとするから、さすがに私が止めたもの。
「瑞樹様! この間は大変申し訳ありませんでした! あの後事務所もクビになりそうだったのですが、瑞樹様が取りなしてくれたとお聞きしました。あんなことをした私に………本当に感謝しています! ありがとうございました」
おぉ〜〜〜、人はこんなに変わるのですね。
円城寺さん、どれだけ気合入れて再教育したんですか?
「あ、いえ、私は特には何もしていないですよ? この間のことも気にしていないので」
私の言葉に何故か瞳をキラキラさせている。
「やっぱり瑞樹様はステキな方です! あの! 私、また一から女優業頑張ろうと思って、この現場でも端役ですが出演させてもらっているんです。是非見ていって下さい! 」
キャラ変が凄すぎます。
なんだかわからないまま嵐のような彼女は嵐のように去っていった。
「彼女変わっただろう? 前も人気はあったけど、現場での評判はイマイチだったんだ。けど瑞樹の件があってから演技もスタッフへの対応も段違いで上がった。事務所の方針で今は主役やらせてないらしいけど、たぶんこのままいけば実力でもぎ取るんじゃないか」
ほ〜〜〜、良い方向に変われたのであれば良かったよ。
あのままにしておいたらいつまでもお仕置きが終わらない感じだったから。
「それじゃあ、そろそろ監督と一ノ瀬のところに行くか」
「その前にやることが出来ました。蓮さん、ご飯炊けるところどこ? 」
私は嵐のように去っていた彼女に会って急に閃いた。
塩と味噌でやりあっているなら、それ以外で攻めれば良いのではと。
「だから、ここの解釈はこちらの方が良いです! 」
「いいや、ここは主人公の気持ちが一番出ているところだ。だからこそここはだな………」
一ノ瀬君と洋さんが真剣な表情で台本片手に意見の応酬を繰り広げている。
洋さんが敬語じゃなくっているのはテンションマックスの証拠。
周りでは共演者の人たちやスタッフが困った顔で二人のやり取りを見ている。
おにぎり一つでなんでここまでこじれているのか。
私は蓮さんに頼んで二人を控え室に呼ぶようお願いした。
控え室に来た二人は私がいたことにビックリしている。
「一ノ瀬君、洋さん、話は蓮さんから聞きました。おにぎり一つでここまで揉めるなんて思いませんでしたよ?」
二人は気まずそうに私から目をそらした。
「………初めて味噌おにぎりを食べたら、なんでこんな美味しいものを否定していたのか考えて………それで演技でも違う演技も取り入れた方がと考え始めて………」
「久しぶりに塩握り………しかも瑞樹の手作りは初めてだったからな塩、初心に帰りたくなったんだ」
はあ〜〜〜、心の中でため息をつく。
なんでおにぎりでここまで思いつめるのか………。
とりあえずこれでも喰らえ!
私は二人の目の前におにぎりを出した。
二人とも同じおにぎり。
「瑞樹さん? これは………」
「ついさっき作ったおにぎりだよ。食べてみて? 」
私がそう言うと一ノ瀬君と洋さんは目の前のおにぎりを手に持ち一口頬張った。
「瑞樹、これは? 」
洋さんの言葉に
「これはね瑞樹特製醤油を塗って焼いた焼きおにぎりだよ。美味しいでしょう? 二人は今何故か塩か味噌ってそこしか選択肢がないって思い込んでる。でも、他にもあるんだよ? 」
私の言葉に二人は、深く頷きながら神妙に残りのおにぎりを平らげた。
どうやらなんとか落ち着いたようだ。
そして、二人はお互いをみて深く頷き、私へと声をかけてきた。
「「このおにぎりを作中で使いたいので追加お願いします!!」」
公開された『僕と私と君とアイツ』は空前のおにぎりブームを巻き起こした。
作中に出てくるおにぎりを出演者があまりにも美味しそうに食すものだから、どうしてもこれが食べたいと言うファンが急増。
シンプルだからこそ米の味も生きてくる、塩、味噌、醤油、それぞれ熱狂的なファンが付いている。
「瑞樹さーーーん、僕の塩おにぎりが全滅しました!! 」
一ノ瀬君が半泣きで台所の私の所にやってきた。
あの映画が公開されてから、うちに来る拾い物仲間もおにぎりに目覚めてしまったのだ。
今日も一ノ瀬君用に作っていたおにぎりを遊びに来ていた他のメンバーが食べ尽くしたらしい。
どうやら今日はずっとおにぎりを作り続けないといけないようです。