二の十九
鳩羽がいなくなった教室では、申し訳なさそうな土器が桔梗に問いかけた。
「ね、あれで良かったの?」
「ああ、ありがとう」
「ううんっ!鳩羽の実力は私も気になるし」
「お前、顔赤くしながら言うなよ。照れてんのバレバレ」
「赤……いいじゃない。桔梗ってびっくりするぐらい格好いいんだもん」
色白で遠くから見れば王子様のようで、思春期真っ只中の土器がうっとりするのも無理はなかった。
似た梅染にも最初は見惚れたが、彼の性格を知れば知るほど冷めてしまった。
それに桔梗には梅染にはない色気や危うさといった大人の魅力がある。
これから大人になるともっと格好よくなるだろう。きっと色々な女性から言い寄られる。
そうなる前に自分はできるだけ近寄っておきたい。
あわよくばいい関係になっておけば、人脈も繋がる。
……という建前で土器は桔梗にはいい顔をしておこうと決めた。
「にしても手紙ぐらい読ませてやればよかったんじゃね?泣きそうだったぞ」
「鳩羽は追い込んだ方が実力発揮できるだろうから」
「へぇ、そうなんだ。術使校での鳩羽の話聞かせてくれる?」
「俺も聞きたい。あいつ、規格外すぎるくせに本人は全くそのこと分かってないんだよな」
「いいよ。代わりに俺が来るまでのここでの鳩羽の話も聞かせてほしい」
「僕も気になるなぁ」
「濃縹先生」
気配なく現れた濃縹を筆頭に、教室で聞き耳を立てていた他の生徒や浅縹も扉から入ってきた。
「間近で見ていた貴方から見て鳩羽について聞きたいわ」
「先生から見ても鳩羽はすごいんですか?」
「……そうね」
言葉少なく頷く浅縹を見て、桔梗は考えた。
将来、敵対すれば間違いなく手間取る。
今のうちに殺すかどうか。
「もう、勝てるのは校長ぐらいじゃないかしら」
「昨日は桔梗が勝ちましたけど」
「鳩羽はまだ本気じゃないから」
「え、手を抜いてんのか」
「ええ」
憎めない相手、ましてや同級生に本気になれる性格ではない。
と教師陣と土器は思ったが、プライドが傷ついた生徒もいたようだ。表情には出ていないが、一瞬で空気が張りつめる。
「で、鳩羽の話聞かせてよ」
土器が話を変えようと桔梗に笑いかけ、桔梗はそれに乗って鳩羽の話を皆に聞かせた。