24話 ハインとダリア
先に仕掛けたのはハインだ。
地面を思い切り蹴って走り出したハインは、ダリアが反応して剣を構えるよりも速く、数メートルの距離を一瞬で詰める。
「ッ速い──!」
剣で受け止めることが不可能と判断したダリアは、ハインが剣を振りかぶった一瞬の隙をついて、「錬成魔法」と呟く。
すると、剣の向かう先──左肩のあたりに半透明の盾が出現し、代わりにダリアの剣は消滅。
直後、ハインの一振りはダリアの盾に弾かれ──はせず、瞬時に剣を逆手に持ち変えたハインは、勢いはそのまま、剣の柄でダリアのみぞおちにヒットさせた。
その場でうずくまるように倒れたダリア。
それを皮切りに、この討伐隊のリーダー格である青髪ナルシストが大声で「俺たちも続け!!」と剣を掲げながら言い放つ。
鼓舞された有象無象も一斉に剣を上に向けると、まるでじならしのように地面を揺らしながら悠、叶多、ルメリアの方まで押し寄せていく。
「そっちは頼んだよ! 僕は兄妹同士、かたをつけてからすぐに向かうよ」
「お前こそ、妹なんかに負けるんじゃねえぞ」
相変わらず嫌味混じりの気に食わない言い方をするユウだったが、ハインは自分が妹に負けないことを、他の誰よりも知っている。
それはダリアの戦闘スキルは全て、昔ハインが教えたものだったからだ。師であり兄であるハインに、敵うはずもないのだ。
「問題ない」
これは強がりでもなんでもなく、ただの事実なのだから。
×××××××
ハインとダリアは、南の国サウリオンのそのまた南側の辺境の村生まれの、ごく普通の一般家庭で育った。
近くの森林でかくれんぼをしたり、大きめの池のほとりで虫を捕まえて遊んだり、裕福とはいえない家庭だったが、それなりに楽しく遊んで暮らせていた。
そんなある日。いつも通り郊外に仕事に出かけた父親が、帰って来なかった。
こんなことは過去に一度としてなく、母親と一緒に色んなところを駆け回って行方を探した。
それでも見つけることができず、数週間ほど経ったある日。
当時のハインは十歳、妹のダリアは八歳だった。
毎日、日が暮れるまで父親の行方を探し回って、へとへとで帰ってきたときだ。一つの置き手紙と共に、父親の遺骨と思われるものが、家の前に置いてあったのだ。
のちに分かったことだが、北の四大獣、玄武を討伐するべく組織された部隊に所属していた父親は、現地で無惨にも喰われて死亡し、命からがら逃げ出してきた一人のメンバーが、息子のハインたちにその旨だけでも報告するべくやったことだという。
結局、誰が持ってきたのかまでは知ることができなかったが、その彼は、いまでも顔や名前を変えて国を転々としているだろうと踏んでいる。
なぜなら、戦地で死んでいった者たちを見殺しにして、持ち帰ってきたものが玄武の首ではなく、メンバーの骨一つだけ。遺族にも、この国にも、顔向けできるはずがないからだ。
その一件の後、ハインとダリアは、己に休む暇を与えず、研鑽に研鑽を重ね、やがて国を背負って立つ護衛騎士にまで上り詰めた。
そう。全ては、父親を殺した元凶──四大獣をこの手で葬り去るため。
そのためには、同じく四大獣討伐という目的を持つ、ハイン以上に強いとされる人を見つけて行動を共にする必要があったのだ。
ようやく見つけた原石を、みすみす見逃すわけにはいかない。
「見損なったよ兄貴。よりによって、お父さんの仇をとるのに悪魔を使うだなんてね。そもそも、そんな悪魔ごときに四大獣は倒せない。人数も少ないし、それで私たちに勝てると思ってるわけ?」
苛立ちを抑えられずに足を小刻みに震えさせているダリア。
ハインの意図として、決して悪魔の力を借りたいなどとは思っていないのだが、その悪魔カナタと一戦を交えたときに、ハインは確かに感じたのだ。
この人間なら、歴史上誰も倒せたことのない史上最悪の怪物を葬ってくれる存在になる得るのではないかという、そんな淡い期待を。
「ダリアに理解してもらおうとは思わない。僕は僕のやり方でお父様の仇をとる。邪魔をするなら、容赦しないよ」
目を細め、訴えかける妹を冷たい言葉で一蹴するハイン。
「そう……」
下を向き、小さく一言だけ呟いたダリア。
直後。ダリアは右足をお引き、身体を低姿勢に保ち鋭い目つきでハインを睨みつける。重いであろう甲冑がきしきしと音を出す。
同時に、引いた足で強く地面を蹴り、飛ぶように距離を詰めてきたダリア。
その速度から抜刀される剣の威力は凄まじく、いくらハインでも追いつけない──ことはなく、冷静に剣を交え応戦する。
「この実力で四大獣に勝とうなんて、何を考えているんだか。弱者が何人揃おうと、あの化け物には敵わない」
ハインの右腹を狙った一撃を剣でいなしたハインは、続けて斜め下から上に切り上げられた剣を、後方にステップして避ける。
兄の心無い発言にムキになったのか、次第に動きが単調になるダリアの攻撃に、いなしては避け、いなしては避けを繰り返す。
何度も繰り返し同じ攻撃を続けるダリア。それでも攻撃パターンを変えないようだった。
「なんで……! 当たらないの……! 私だって……! 努力してるのに……!」
激しい金属音と同時に、不満をぶつけるダリア。
しかしそれは、ハインにはどうしようもできないことだ。
「少なくとも僕に一太刀でもくらわせられたら、もしくは……と思ったけど、やっぱり。ダリアに、お父様の仇はとれない」
そう言い、空いた左手をダリアのみぞおちに向けてかざし、「錬成魔法」と一言。
周囲の空気が一瞬にしてハインの左手に収束し、高密度の小さなエネルギーの塊を作り出す。
ダリアが剣を振るうよりも早く、放出されたエネルギー弾はみぞおちにクリーンヒットし、数十メートル吹き飛ばされ、巨大な岩にぶつかり地面に倒れた。
「カナタ、ユウ、ルメリア、そっちは大丈夫かい!」
無事ついた決着に少しの安堵を感じつつ、リーダーの青髪と一対一で戦っているカナタと、対複数を相手にしているユウとルメリアの方を振り返ろうとした──その刹那だった。
頭上から忽然と降ってきた牢獄のような巨大檻が、ハインを捕えた。




