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第51話 女の勘(センサー)


 8月に入って、気が付けばあっという間に1週間が過ぎ去ってしまった。

 姉ちゃんは照葉(しょうよう)学園の生徒会メンバーと皆で2泊3日の旅行に出かけてしまったので、明後日まで家には俺一人だ。

 久しぶりに気兼ねなくアレコレできるので、早速スマホゲームを立ち上げる事に。

 このゲームは可愛い女の子しか出てこない事もあり、人前でプレイするのはどこか気恥ずかしくて、普段はデイリー消化しかしていない。

 しかし! 今日から3日間は人目を気にすることなく存分にメインストーリーを愉しめるのだ!

 これは僥倖っ!!

 という事で、スマホのスピーカーから音を出しながらプレイしちゃうもんね!


『ぶる~あ~くっ!』


 なんて開放的なんだ……っ!

 可愛らしいキャラクターのボイスを垂れ流しても、誰からも何も言われないなんて素晴らしすぎる!

 さて、夏イベも周回しなきゃいけないし、ガチャもいっぱい回しちゃうぞ~。

 俺はそう意気込むと、早速イベントのストーリーを見始める。

 ふむ、今年の夏イベは海とかプールじゃなくて、まさかのバンドとはね。

 ピックアップキャラの衣装も露出が多すぎず、とても素晴らしい。

 久しぶりのソシャゲタイムに心を満たしていると、蓮からのLoinが届く。


『ブルアクの夏イベ、結構アツくね?』


 ほほう、蓮も夏イベの面白さにようやく気付いたか。

 練習やらデートやらで忙しそうにしてたが、ちゃっかり毎日デイリー周回はしていたらしい。

 送られてきたスクリーンショットを見るに、天井1回と半分程度は貯蓄もあるし、頑張れば2キャラ分のSSRは期待できそうだな。

 俺は蓮に『実際激アツ。あとでPU何枚引けたかで勝負だな』と返すと、『乗った。負けたら1食分奢りで』との事。

 ふふふ……勝ったな。

 蓮は天井1.5回分の貯蓄だが、俺は2回分も貯めているのだ。

 さて、イベントストーリーもひと段落したし、早速ガチャタイムだ……!

 と、意気揚々と10連ガチャのアイコンを押そうとした瞬間、Loin電話が掛かってくる。

 電話の主は朱音か……。


「もしもし?」


『昨日はよくも切ってくれたわね』


「可愛いって言われるのそんなに嫌なのか?」


『……イヤじゃないけどさぁ』


「じゃあいいじゃん」


『でも絶対ウチの事揶揄(からか)ってたでしょ!』


 その通り。

 とは言えないので、適当にお茶を濁す。


「まぁまぁ。それで、午前中にわざわざ何の用件で電話したんだ?」


『なんか適当にあしらわれた感じがしてムカツク……んっと、今遼は家に一人?』


「え? そうだけど」


『……ホントに?』


 普段よりワントーン低い声で尋ねてくる朱音。


「ああ。俺以外は誰も居ないぞ?」


『そっか……気のせいか……』


 一体なんだ?

 もしかして姉ちゃんから俺が誰かを家に上げてないか、探りを入れるように言われているのだろうか。


「えっと、聞きたかったのはそれだけか?」


『まぁそんなとこね。綾ちゃんの一件もあったし、遼がホイホイ女の子を家に上げてないか確認したかったのよ』


「……そうか」


 たった一度のやらかしのせいで疑われ続けるの、なんだか社会の縮図みたいでイヤになるな……。


『一人ならいいわ。急に電話掛けちゃってゴメンね?』


「いいよ。どうせ一人でやる事もないし」


『そう? なら鬼電しよっかな~』


「それはヤメロ」


『ふふっ冗談よ。それじゃ、また今夜にでも電話するわね』


「ほーい。それじゃ」


 通話を終えた俺は、再びソシャゲの画面に戻して10連ガチャを回す。

 ……あちゃ~最低保証かー。

 まぁまだ10連だからセーフセーフ。

 そのあと何度かガチャを回すが、なかなかピックアップどころかSSRすら出てこない。

 くっそ~青封筒ばっかり回してきやがって……実は裏で間引いてるんじゃなかろうか……。

 若干フラストレーションが溜まってきたところで、更に10連ガチャを回すと、遂に確定演出が表示される。


「よっしゃ! ちゃんとピックアップの子が来てくれるかな……?」


 期待に胸を膨らませながら当たったキャラクターを見ていき、遂にSSRの子が――。


「……こんなタイミングでまた電話……」


 今度は綾からの電話のようだ。

 俺はSSRキャラが誰なのか確認する前に、綾からの通話に出る。


「もしもーし」


『やっほー! 遼ちゃん今ってヒマ~?』


「おう。姉ちゃんも泊りがけの旅行で居ないし、暇つぶしにゲームしてたところだ」


『そっか。えっとね? 今って家に一人?』


「え……? うん、一人だけど……」


 今度は綾から確認される。

 朱音はまだしも、どうして俺が一人で居るのか確認してくるのか。

 そしてなんで声のトーンが低くなるんだ……?


『ふぅ~ん? ホントに?』


「ああ。なんならビデオ通話でもしようか?」


『ううん? 本当に一人っぽいし、そこまでしなくてもいーよ』


 明るい声に戻った綾は、『……ビビッと来たんだけどなぁ』などと意味の分からない事を呟く。


「えーっと、用件はそれだけか?」


『うん! あ、そうだ。お土産なにがいーい?』


「マジでそれだけなのかよ……そうだな、美味しいお菓子とかそういうのがいいな」


『分かった! じゃあ遼ちゃんの好きそうなお菓子いーっぱい買ってくるね?』


「ちょっとでいいちょっとで! あんまりいっぱい買ってもご両親の財布が可哀そうだろ」


『だいじょーぶ! 私のお小遣いで買うから!』


 全然だいじょばないが?

 綾のヤツ、お土産コーナーのお菓子がどれだけ高いのか知らないだろ……。


「まぁ、ほどほどにな」


『はーいっ。じゃあ期待してて待っててね~』


 そう言ったところで綾は通話を終えた。

 さっきから立て続けに、一体何が目的の通話なんだ……?

 単に俺が何をやっているのか気になっているのだろうか……。


「ま、考えても分からないものは分からないか……」


 謎の電話の事は一旦思考の隅に追いやり、ガチャのSSRキャラを確認する。

 ……うわ~すり抜けかぁー。

 まぁ完凸してなかったキャラだったし、別に悪くはないけども、今はピックアップの限定衣装のキャラが欲しいのだ。

 ガチャ石が心許なくなってきたが、未だ蓮からの報告が来ていない事もあって、まだ心のゆとりはある。

 さて、次で90連だ……次こそは当たって欲しい。


「おっ。また確定演出じゃん! 神すぎ~」


 今回もSSR確定のようだ。

 当てたキャラを確認してみるが……おお!

 やっとピックアップきたーっ!


「まぁ目当てのキャラじゃなかったけど、当たりは当たりだからな。よし、蓮に自慢したろ」


 俺はピックアップを引いた画面のスクショを撮り、Loinで蓮に送り付ける。

 即既読が付かない辺り、アイツはまだ引けていないと見た。

 先手を取れてホクホクの俺は、そのまま10連ガチャを回し続ける。

 出来ればもう一人のピックアップキャラが来てほしいのだが、こういう時に限ってなかなか出てくれないのだ。


「あと60連、頼む……っ!」


 神に縋るような気持ちでガチャを回すと、一瞬いつもの青封筒かと思ったが、画面が切り替わる瞬間に確定演出へと変わる。

 よし! これでピックアップが当たってくれれば……!

 と、引いたキャラの確認画面に移行するところで、三度Loin電話が掛かってくる。


「えぇ……しかも今度は橘さん……?」


 やむを得ず俺は通話に出る。


「もしもし……?」


『もしもし。こんにちは、橘ですっ!』


「珍しいね、橘さんから電話掛けてくるなんて」


『そうですね……! あ、あの~つかぬことをお聞きするのですが……』


 橘さんは一呼吸置くと、朱音や綾同様いつもよりトーンの低い声になる。


『今、ご自宅ですか?』


「う、うん」


『お一人ですか?』


「一人だけど……」


『……嘘は吐いていませんよね?』


 さっきからなんで皆俺の言葉を疑うのか。

 そんなに嘘吐きまくってるって思われてるのだろうか……。


「俺……嘘吐いたことあった……?」


『あっいえ! ごめんなさい、霧島君を傷つけるつもりは一切なくて……!』


 俺の落ち込んだ声を聞いたからだろうか、慌ててフォローをしてくる。


「えっと……ちなみに用事は……?」


『あっ、うーんと……私、今関東に来ていまして、その……どこか面白い場所などはご存知でしょうか……?』


「関東!? えっと、俺ずっとこっちで暮らしてるから分かんないや……」


 何故田舎暮らしの俺に関東の名所を聞いて来たのだろうか。

 あっ、でもそういえば――。


「確か東京に手芸道具とか文房具の専門店があった気がするから、そういう所を回ってみるのも良いんじゃないかな?」


『それ、とっても素敵ですね! とても良い情報を下さり、ありがとうございますっ!』


「いやいや、家族旅行楽しんでね」


『はいっ! それでは失礼いたします!』


 橘さんとの通話を終えた俺は、3回続けて家に一人だけか尋ねられた事が不思議でしょうがなかった。

 まさか気付かないうちに姉ちゃんが帰って来たのかと思い部屋を覗いてみるが、やはりもぬけの殻だった。

 もしかして皆、俺の防犯意識を高めようとしてくれているのだろうか……?

 ますます謎は深まるが、今は引いたガチャの内容を確認しよう。

 お~ピックアップがまた来てくれるとは……!

 でもさっきと同じ子かぁ~。1凸になって嬉しいけど、狙いはもう一人の子なんだよなぁ。

 とりあえず蓮にスクショ送って煽っとくか。

 その後数回10連を回したが、SSRは出ない。

 流石にそろそろ打ち止めか? と思いつつ、最後の10連を回すと、なんと確定演出が!


「よっしゃ……あとはカズセが来てくれれば……!」


 と興奮したところで、またしても電話が鳴る。

 今度はレーナさんからのようだ。


「……もしもし?」


『こんにちは。唐突に連絡してしまってごめんなさいね』


「いえ。どうかしましたか?」


『水族館の後に熊本旅行に行ったのだけれど、あなたにお土産を渡したくて……』


「えっ!? ありがとうございます!」


 なんて律儀な先輩なんだ……!

 こんな暑い中持ってきてもらうより、むしろこっちが受け取りに行った方が良いのではなかろうか。


「わざわざ持ってきて頂かなくても、待ち合わせ場所を言って頂ければそちらに伺いますけど」


『あなたの家の近くを通るから、そのタイミングで、と思ったのだけれど』


「そうなんすね。じゃあお言葉に甘えまして……何時ごろ来られます?」


『もうすぐ着くわ。多分1~2分後くらいかしら』


「マジすか! では家で待っておきますね!」


 そう言って通話が切れるのを待つが、なかなかレーナさんは電話を切らない。

 電話越しの彼女の足音だけが聞こえてくる。


「あの……」


『……なに?』


「電話、切らないんですか?」


『あなたは電話を切って欲しいの?』


「いや、そういうワケじゃないんですが……」


 なんか以前にもこんな事あったな。

 確かテスト期間中だったかな……?

 どうやらレーナさんは通話や会話の終わり方がいまいち掴めていないらしい。


「だいたいこういうタイミングで、友達は通話を切る事が多いので、なんだかこう……気まずいと言いますか……」


『そうなの? ごめんなさい、まだそういった事に慣れていなくて』


「木下さんにはそういう事は言われないんですか?」


『言われたことはないわね。木下さんはずっと喋って、勝手に満足して勝手に通話を終えるから』


 そういうタイプだったかぁ~。

 まぁ確かにこちらが切り上げないとずっと喋ってそうだもんな、あの人。


「じゃあ次からは俺を練習台にして、通話の終え方を勉強していきましょう」


『そうね。じゃあ切るわね』


 そう言うとレーナ先輩との通話が唐突に終了する。

 いや、雑過ぎないか?

 会話を終える方向への持って行き方とか、そのあたりから覚えてもらわないとダメそうだ。

 レーナさん専用の会話の終え方講座を頭の中で纏めていると、インターホンが鳴る。


「はーい、今出まーす」


 ラフな格好のまま玄関へと向かい扉を開けると、薄いブルーの半袖シャツに淡いベージュのストレートデニムを履いて、小物やサンダルをキャメルカラーで合わせたコーデのレーナさんが立っていた。


「こんにちは霧島君」


「どうも。わざわざ暑い中ありがとうございます」


「いいのよ。私がしたくてやっている事だから」


 そう言うと、レーナさんはビニール袋に入ったお土産を差し出してくる。


「これ、あなたの口に合うと良いのだけれど」


「お菓子ですか……あぁ~! 陣太鼓(じんだいこ)ですか!」


 袋の中には、熊本土産として昔からポピュラーな陣太鼓が入っていた。餅のような求肥を、寒天で固めた小豆餡で包んだ和菓子だ。

 最近洋菓子しか食べていなかったから、とてもありがたい。


「私の父がこのお菓子を気に入っちゃって、工場見学に行ってきたのよ」


「なるほど、それで熊本に行ってたんですね?」


 偏見だけど、ドイツの男性ってヴルストとビールのイメージしかなかっただけに、ちょっと意外だな。


「俺もレーナさんのお父さんと同じで、陣太鼓大好きなんですよ」


「そう。それなら良かったわ」


 俺が陣太鼓の入ったビニール袋を受け取った所で、レーナさんは俺の背後――つまり家の中を気にするような素振りを見せる。


「……ねぇ、少し聞きたいのだけれど」


「なんです?」


「今、家にはあなた一人なの?」


「はい、姉ちゃんは照葉学園の生徒会メンバーたちと旅行に出かけているので、今は家に俺一人ですね」


「……本当に?」


「ええ、そうですけど……」


 何故か険しい表情のまま俺の背後を気にするレーナさん。

 ……もしかして俺が知らないだけで、家の中に誰か居るのか……?

 俺は恐る恐る振り返るが、やはりリビングには誰の姿も見えない。


「あの……もしかして誰かいるんですか……?」


「いえ……なんとなく気になっただけよ」


 そう言うと、レーナさんはポツリと「知らない女性……気のせい……?」と呟く。

 日中なのにも関わらず、俺は背筋が冷たくなるのを感じる。

 もしかして、霊とかその類なのか?


「多分、私の気のせいよ。あまり気にしないで頂戴」


「えぇ……」


「では、目的は果たしたから、私は家に帰るわね」


「は、はい……ありがとうございました」


 俺の感謝を受け取ったレーナさんは、少し微笑むと去って行った。


「……なんか怖くなってきたな……」


 俺は玄関の扉を閉めると、部屋を見渡しつつソファへと戻る。

 怖い事は早く忘れようと、気を取り直してガチャで当たったキャラを確認すると、なんと狙っていたピックアップのカズセが当たったのだ。

 恐怖を一瞬にして忘れ去った俺は、蓮へとスクリーンショットを送る。


「それにしても、蓮のヤツ全然ピックアップ当たらなかったのかな? 既読すら付かないんだけど……」


 そう呟いた俺の元へ、姉ちゃんからの電話が掛かってくる。


「……もしもし?」


『遼……あたしや周りの女の子に飽き足らず、ネットの女の子にまで手を出したでしょ』


 言い方悪すぎる。


「もしかしてゲームのキャラの話してる?」


『まぁなんでもいいけどさ、それやめて』


「なんで」


『なんか……ずっとモヤモヤすんのよそれ。絶妙にお姉ちゃんセンサーに引っかかって鬱陶しいのよ』


 そのセンサー、しきい値バグってるから校正に出すか買い替えた方がいいぞ。


『だからあたしが旅行に行っている間、そのゲーム禁止ね』


「えぇ~」


『約束守らなかったら、どうなるか分かってるわよね……?』


「……分かりました」


 俺の言葉を聞いた姉ちゃんは、通話を切る。

 すると同時に蓮からのLoinが届く。



『愛衣にブルアクがバレてアンインストールさせられたから、奢りの約束はナシで』


今回もお読みいただきありがとうございます。


次話は、11月6日20:30頃に更新できるよう頑張ります……!


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