もしも黒川叶がプリンセスだったら~鏡よ、鏡。この世で最も強いのはだあれ?編~
※この作品はフィクションです。作中の考え・思想はあくまでも登場人物のものであり、作者の意見ではありません。作中に暴力的な表現がありますが、犯罪行為、暴力行為を助長する意図はありません。暴力も犯罪も絶対にしてはいけない行為です。また、作中に出ている危険行為は絶対に真似しないでください。
※このお話は本編には全く関係ございません。
「『××年度 慧煌学園高等部 漫画アニメ研究会部誌~冬号~』より
まえがき
いつもならテーマを決めず、自由に寄稿しているのですが、今回は部員の筆が進まず何を書いたらいいかも決めかねている様子でしたので今回はテーマを決めることに致しました。
はじめは【もし身近な人が童話の登場人物だったら】というテーマでした。身近な人であれば人物像を掴みやすく、短く誰もが知っている童話をテーマにすることで筆を執りやすくするためでした。しかしながら、部員たちの書いた原稿を読みますと一人を除き、モデルにした身近な人物がある人に集約されておりました。モデルになった人物も我が部活の部員でありますが、その人物は確かにまるで創作の中から現れたような強烈な印象を持っており、モデルにと考えるのも無理はありません。そういうわけで、モデルが一人に絞られてしまったのでやむを得ずテーマを変えることに致しました。
【もしKさんが童話の登場人物だったら】
これが今回のテーマに決まりました。現在高等部に通っているかたは一度は噂を聞いたことがある型破りな生徒です。皆さんもこの部誌を読むうえでモデルを想像するとより楽しめるかもしれません。また、Kさん本人につきましては自分をモデルに話を書くのは辛いという申し出がありましたので、他の部員の原稿を読んで一言コメントをもらうことに致しました。そちらも合わせてお楽しみください。
××年△△月○○日 慧煌学園高等部 漫画アニメ研究会部長 上谷 開」
※参考:白雪姫
女は城の薄暗い部屋で自身を鏡に映した。豪奢なドレスを身にまとった女は自身の美しい顔を眺めて満足げに微笑んだ。
「鏡よ、鏡。この世で最も美しいのはだあれ?」
美女は自信満々でそう聞いた。自分と目を合わせてうっとりと見つめている。ところが、鏡面が波打ち、次に映し出されたものを見て驚愕で顔をひきつらせた。
「お答えします。この世で最も美しいのは“白雪姫”です」
無機質な声が響く。
美女は顔をひきつらせたまま、鏡の中を食い入るように見た。
黒檀のような長い黒髪。雪のように白い肌。すらりと長い手足。長いまつ毛で彩られた涼やかな目元。凛とした佇まい。神に愛されたかのように完璧な娘。
しかし、怒りと嫉妬に狂いそうになった美女は思いとどまった。困惑したのだ。
「どういうこと?」
その娘は紳士用の服に身を包んでいた。長い黒髪は簡素なリボンで括られている。その姿は夢見がちな少女が想像する貴公子そのものだった。
「鏡よ、鏡。なぜ白雪は紳士のような恰好をしているの?」
「お答えします。動きやすいからです」
(確かにお姫様が着るドレスよりは紳士服の方が動きやすい。動きやすいけれど)
美女の困惑は深まるばかりだ。
美女は尚も白雪姫を映し出す鏡を見続けていると、あることに気が付いてしまった。
「か、鏡よ、鏡!なぜ白雪は剣を握っているの?」
鏡の中の白雪姫は片手に木剣を握っていた。そして、ニコニコと笑いながら何かを言っているのである。
「お答えします。白雪姫は騎士と手合わせをしております」
「なぜそんなことに?鏡よ、鏡。なぜ白雪は騎士と手合わせをしているの?」
鏡は波打ち、ある場面を映し出す。そこには年若い下女を無理やり宿舎に連れ込もうとする騎士の姿が映っていた。
「お答えします。嫌がる侍女を連れ込もうとする騎士を見とがめ、手合わせを申し入れました」
宿舎の前を通りかかった白雪が下女から騎士を引き離し、何やら話をしている様子が映し出される。
「鏡よ、鏡。なぜ騎士を咎めることが手合わせになるのかしら?」
「お答えします。白雪姫は言いました。『もし私と手合わせをして負けたなら騎士をやめよ』と」
わからない、と美女は呟く。何故そう言う話になったのかが全くわからないのだ。騎士をやめさせたいのなら自分の父親である国王に相談したほうが良いだろう。
「分からないけどわかったわ。鏡よ、鏡。なぜ騎士は手合わせに応じたの?」
「お答えします。白雪姫が騎士を煽ったからです」
「騎士を煽ったですって?鏡よ、鏡。白雪はどのように騎士を煽ったの?」
「お答えします。『え?もしかして負けるのが怖いの?騎士のくせに?』『騎士って血筋が良ければ実力がなくてもなれるんだあー。あーあ。ザコじゃん』『こんなザコ騎士が騎士やってるなんて不安すぎるんですけどー!流れの傭兵雇ったほうがマシじゃない?』などと白雪姫は言いました」
「どこでそんな言葉づかいを…!」
美女は目を見開いた。白雪姫はこの国唯一の王女。大切に、それはそれは大切に育てられてきたはずだった。汚れを知らぬこの国の可憐な白い花。心優しいプリンセス。
「止めなければ」
白雪姫の心配をしたのではない。あの騎士は美女の子飼いの息子、貴重な手駒だ。姫を剣でぶったとなれば騎士ではいられない。
「鏡よ、鏡。この手合わせが行われている場所はどこ?」
「お答えします。騎士の訓練場です」
美女は急いでその場に向かった。
美女が訓練場に着き、目にした光景は悲惨なものだった。中央に立つのは木剣を手にした白雪姫。周りには虫の息といった様子の騎士たちが折り重なるようにして倒れていた。死屍累々。この言葉がふさわしいほどの情景にあっけにとられ、美女は声が出ない。
パッと急に美女の方に振り向いた白雪姫は、彼女の姿をとらえると嬉しそうに笑いながら駆け寄ってきた。
「お母様!」
白雪姫は木剣をぽいっと捨てて、美女の手を取った。
「見に来てくれたんですね。でも、もう大丈夫!片付きましたから」
白雪姫は美女の手を引き訓練場の外へと導いていく。白雪姫の継母、現王妃である美女は彼女に従い外に出た。
「貴女が全員、倒したのかしら」
継母が訪ねると白雪姫はヘラヘラと笑いながら答えた。
「ええ、まあ。あのくらいなら何人かかってきてもへっちゃらですよ!」
「そう」
王妃は押し黙る。彼女に陶酔している狩人は騎士よりも弱い。白雪姫には敵わないだろう。
「そうそう!今日の夕食はウサギのシチューなんですよ」
「あら、そうなの」
「はい!私は狩ってきたんです。一緒に食べましょうね」
「狩って…?」
「はい!近くの森で。今度は鹿かイノシシを狩ってこようと思います」
「鹿?イノシシ?」
「ええ。どちらも畑を荒らしているようでどうせならおいしくいただいちゃおうかと」
「そう」
王妃は口を閉じた。無理だ。彼女を純粋な力によって始末しようとすれば、十中八九失敗に終わる。王妃はそう確信した。
「そう言えば、お母様。」
「…」
「今朝、裏庭を掃除していたら不審な男が塀をよじ登って侵入し、私に接触してきたので拘束しておきました」
「そう」
もう何も驚くまい。そう思った矢先、白雪姫は爆弾を放った。
「その男、自分が隣国の王子だとか意味の分からないことを言っていて、困っているんです。本物の王子様ならあんな風に侵入せず堂々と正門から入ってくるはずですし、書状ももっていませんでした。でも、自分のことを王子様だと深く信じ込んでいるようで…。お母様、お知恵を貸してくれませんか?」
くらり。めまいがして王妃はその場にしゃがみこんだ。心配する白雪姫が美女の顔を覗き込む。
(王子。隣国の王子。それが本物なら国際問題になりかねない。今、この国が傾いては困る。せっかく王妃にまで上り詰めたのに…)
幸い王子は温和な性格で大事にはならず、戦争は回避できたが、相変わらず白雪姫は問題ばかり起こしている。男物の服に袖を通し、城を抜け出しては何かと荒事を解決している。いや、荒事で解決している。そして厄介なことにこのような問題児であるにも関わらず、お作法やダンス、学問、お姫様が学ぶべきことは全て完璧にこなしていた。家庭教師を呼んでも机に縛り付けることはできないだろう。
王妃はこの問題児をどう始末するかという課題に取り掛かり、毒はどうかという結論に至った。白雪姫は身分を偽り、平民に交じって街を歩く。その時に毒入りの何かを売り付ければよいと考えたのだ。
ある日、王妃は毒リンゴを籠に盛り老婆に姿を変えて、街を歩いている白雪姫に接触した。
「おーい。そこのお嬢さん。リンゴはいらんかね。真っ赤でおいしいリンゴだよ」
白雪姫は王妃の期待通りに真っ赤なリンゴを手に取った。
「わぁ、本当に赤いリンゴだね」
「ひひひ、そうだろう?」
ほくそ笑むのもつかの間、老婆はガシリと腕を白雪姫に掴まれた。
「ところで、おばあさん。なんで私が女だって知っているの?」
はっとして老婆は白雪姫を見た。彼女は動きやすい服に包まれていた。つまりは、男性用の服である。その姿は間違いなく美少年だった。一目見て、少女だと疑うものはまずいないだろう。
老婆は逃げようと藻掻いたが白雪姫の力は強く、老婆の腕はとらわれたままだ。軽薄な笑みを張り付けて詰問してくる白雪姫はまるで悪魔の様だった。
「ひったくりだー!」
もうおしまいだと老婆が観念したとき、どこからかこんな声が聞こえてきた。
白雪姫は老婆と声のしたほうを交互に見た後、短く息を吐いて老婆の腕を放した。
「次はないよ、おばあさん」
脅しともとれる言葉を吐いてから、白雪姫は声のしたほうへ走り出した。その後ろ姿を見送った老婆はその場にへたり込む。額からはだらだらと脂汗が伝っている。
やっとの思いで城に帰った王妃は毒リンゴを暖炉にくべて処分すると、ソファに倒れこむようにして座った。
「毒も駄目だわ」
数年後、王国は祝福に包まれていた。今日は戴冠式。新しい王の誕生である。もちろん、新しい王とはこの国唯一の王女であった白雪姫だ。
白雪姫は冠をいただき、ロッドを掲げた。割れるような歓声と拍手の音。空には花火が打ち上げられ、国民にはご馳走が振舞われた。
「白雪女王、バンザイ!」
「バンザーイ!」
「白雪女王、バンザーイ!」
皆が盛大に新しい王をお祝いする中で、たった一人顔を引きつらせている女がいた。そう。王妃である。今はもう前王の妃で厳密にいえば王妃ではないが、彼女は今も王妃様と呼ばれている。
「大丈夫かい?我が愛しの妃よ」
そんな風に歯の浮いたようなセリフで彼女を気遣うのは夫である前王だった。
「そなたには色々と気苦労を掛けた。これからは離宮で二人のんびりと過ごそうではないか」
「陛下。お気遣いいただき感謝いたしますわ。陛下と共にゆったりと過ごせるのがとても楽しみですわ」
王妃は微笑んだ。
「もう私は陛下ではない。名前で呼んでおくれ。ハニー」
父王はチャーミングに微笑んでウィンクをした。そして、王妃の手をそっと握りこう続けた。
「世界で一番美しいそなたに名前を呼ばれるのはこの上ない喜びだ。鏡などに問わなくともこれからは私が何度でも答えようぞ」
夫に熱っぽく見つめられ、王妃は顔を青くしたり赤くしたり忙しそうだ。
数年後、白雪女王は生涯結婚しないと宣言し、次の王には父と継母の子である生まれたばかりの弟を指名した。そのころには王妃はすっかり毒気を抜かれ、毎日愛をささやく夫とともに末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたし。めでたし。
白雪:Kさんエディション。フィジカル最強で王妃に暗殺をあきらめさせることに成功した。王妃が魔女だということは父から聞いていた。奇行強行が目立つ印象だが、国策としては安定した道をとり、堅実な施政に努めた。
王妃:美しさが正義な美女。自分よりも美しい白雪姫に嫉妬し殺害しようとしたが失敗。引退した夫から砂糖を吐きそうなほど大量の愛の言葉を浴びせられ続け、いつしか絆された。今は夫が「世界一美しい」と言ってくれるので満足している。
王様:白雪の父親だけあってとてつもなく美形。引退してから髭を剃り、若々しくなった。王妃が魔女であることは百も承知であるが、一目ぼれしたのでしょうがない。あの娘なら殺されそうになっても問題なかろうと静観していた。
Kさんからの一言:私なら騎士をその場で殴っています。




