15 研修旅行と信者誕生②
※この作品はフィクションです。作中の考え・思想はあくまでも登場人物のものであり、作者の意見ではありません。作中に暴力的な表現がありますが、犯罪行為、暴力行為を助長する意図はありません。暴力も犯罪も絶対にしてはいけない行為です。また、作中に出ている危険行為は絶対に真似しないでください。
彼らの言った通り警備員にお金を渡すと、従業員出入り口から出してくれた。二時間以内に戻ってくるという約束だ。
意気揚々と夜道を歩く彼らの後ろをついて行く。街中に立っているホテルなので、街頭がそれなりにありそれほど道も暗くはない。お店はほとんどしまっていて開いているのは居酒屋とコンビニくらいだ。
「」
後ろから音がした気がして振り返った。誰もいない。僕は少し怖くなってみんなに駆け寄った。
「あ、あれじゃね」
先頭を歩いていた人が指さした先にゲームセンターはあった。朝の四時まで営業中らしい。近づくとたばこのにおいがする。中を覗くとそれなりに客が入っているようだが薄暗いしあまり入りたい雰囲気ではない。
「マジでドラマみたいだな」
僕以外の四人はためらうことなくゲームセンターに入っていく。僕もはぐれたくないので四人について行く。
対戦ゲームの機械やUFOキャッチャー、レースゲーム、カプセルトイ。四人ははしゃいであらゆるゲームを遊んでいった。そんなだから、すぐに小銭は無くなって困っていると、近くにいた同い年くらいの男子が両替機を教えてくれた。
両替機で小銭を作って遊んで、また小銭を作って遊んでと繰り返すうちに千円札が無くなり、財布に入ってるのは一万円だけ。
「一万円は対応してないのかよ。はあ。どうすっかな」
「もう帰ろうよ。十分遊んだし」
もうホテルを出てから一時間半は経ってる。そろそろ帰ったほうが良いだろう。僕が声をかけると、四人はスマホで時間を確認し、それもそうだとうなずいた。
「ま、戦利品も結構手に入ったし、帰るか」
一人が大きなぬいぐるみを抱えて言った。彼はこれをとるために五千円以上使っている。
みんなそれぞれお菓子やぬいぐるみ、フィギュアなんかを持ってお店を出る。
ホテルに向かって歩き始めると、僕たちの行く道をふさぐようにして数人の大人が立ちふさがった。柄が良いとは口が裂けても言えない見た目をしている。大人たちの後ろには先ほど両替機を教えてくれた少年がいる。
「よお。お坊ちゃん。ずいぶん景気が良いみてぇじゃねえか。」
大人の一人が僕たちに向かって声をかけた。
おびえて返事をしない僕たちを彼らは鼻で笑った。
「は。ちょっと面貸せや」
大人たちから距離を取ろうと思って一歩後ろに下がるとトンと何かにぶつかった。
「逃げない。逃げない。」
後ろからも声がする。僕らはいつの間にか囲まれていた。後ろから来た人にがっしり肩を掴まれて僕たちは人気のない場所まで連れられて行った。
「そんなにビビんなよ!要はさ、誠意。セイイってやつを見せてくれればいいわけじゃん?」
女の人が煙草をくわえながら言った。
「お、お金ってことですか?」
僕は声を絞り出す。
「そうそう!わかってんじゃん。さ・い・ふ。財布だして」
僕らは顔を見合わせておとなしく財布を出す。
「いい子。いい子。さすがはお坊ちゃんだわ。ウケる」
彼らは乱暴に財布を受け取るとお金を取り出し勘定を始めた。
「なんだよ。しけてんな。」
五人合わせて十万円程度。もっと入っていると思っていたのか渋い顔をした。この時代に現金で大金を持ち歩くわけない。高額商品を買うときはクレジットカードか電子決済だ。
「ま、いいか。ほら一人一万。」
リーダー格の男の人が仲間に一万ずつ渡す。余った三万は自分のポケットにねじ込む。
「ほら、たばこ」
「え?」
男は自分の後ろポケットから煙草を出すと僕たちに差し出した。僕らは困惑する。
「持てって言ってんだよ!」
「は、はい。」
僕らは無理やり煙草を持たせれる。
「そうじゃねぇよ!こう持つんだよ!」
指に挟むように指示される。男は僕たちの持っている煙草にライターで火をつけた。
「くわえろ」
「え?」
「タバコ!くわえろって言ってんだよ!」
「で、でも。」
「さっさとしろ!殴られてぇのか!」
すごい剣幕で怒鳴られて、青い顔をしながら僕らは煙草をくわえる。
カシャ
カメラの音がした。音の出たほうを見ると女が僕らの写真を撮っていた。
「お前らの親、金持ちなんだよな。この写真いくらで買ってくれると思う?」
「そんな!」
誰かの悲痛な声が聞こえた。僕だったかもしれない。
「親じゃなくてもいいわな。どっかの週刊誌とか、高く買ってくれるとこなんていくらでもあるだろ。」
大人たちは上機嫌だ。うつむき土色の顔をする僕たちと肩を組んでさらに写真を撮る。
僕たちは持っていた煙草を落としてこれからのことを考えていた。終わりだ。僕たちの親の会社は僕たちのせいでいくらの損害を出すんだろうとか、親に知られたらもう外に出してくれないかもしれないとか、学校も退学になるかもしれないとか、人生が終わってしまうかもしれないとか。とにかく絶望的だった。
「力が欲しいか」
なじみのある声が聞こえた。僕らも大人たちも一斉に声のほうに振り向く。
そこにはスウェットにホテルの館内履きというラフな格好の黒川叶がいつものようにヘラヘラ笑いながら立っていた。