13 夏休みの準備
※この作品はフィクションです。作中の考え・思想はあくまでも登場人物のものであり、作者の意見ではありません。作中に暴力的な表現がありますが、犯罪行為、暴力行為を助長する意図はありません。暴力も犯罪も絶対にしてはいけない行為です。また、作中に出ている危険行為は絶対に真似しないでください。
それから一週間は何事もなかった。生徒会はテスト期間中は他の部活と同様活動禁止なので、その前に終業式の準備確認や夏休み中のイベント準備などを片付けておきたいと忙しなく働いていた。
今、清水さんと私で夏休みイベントのパンプレットのゲラを確認中である。
「夏休みも仕事あるんですね」
清水さんが少し疲れた顔で言った。
「あ、言ってなかったけ?別に実家帰るんなら参加しなくていいんだよ。この夏休みイベントは実家に帰らない寮生のためにやってるやつだから。実際、バ会長と長谷部君は参加しないし。別に準備さえ終わってれば当日は仕事少ないからさ。」
そうこのイベントは学園に引きこもっている寮生に少しでも夏らしい思い出を作ってもらおうと考えられた実に庶民的なイベントで当日はそこまで忙しくない。
まあ、夏祭りの再現のためにグラウンドに大きな櫓が立てて、その上には本物の歌手と和太鼓とプロの奏者、盆踊りの周りには数々の屋台が並ぶのでなかなかお金がかかっているのだが、お金持ちからすると庶民的でいい意味で貧乏くさいらしい。
花火も何発か打ち上げてもらう。どこが貧乏くさいのか理解に苦しむ。金持ちは景気がいいよな。
「ほんとに仕事少ないんですか?」
清水さんはイベントの詳細が書かれた資料をざっとみて、私に懐疑的な視線を向けた。
「ほんと、ほんと。当日はプロに運営任せるから。ほらこの前、副会長がお客様と一緒にどっかに行ったでしょ。あの人たちが運営会社の人。」
「え、そうだったんですか?てっきり生徒の親御さんかと思っていました。職員室と間違えて生徒会室に来ちゃったから副会長が案内してたのかと。」
たしかに子供がトラブルを起こしたがために学校に呼び出された親に見えなくもなかった。そう見えるほどには青ざめた顔で冷汗をかきつつペコペコしていた。ま、周りがみんなどっかの社長だか会長だかの子供で何か気に入らないことをしたら首を飛ばされかねないのだからああなるのも理解できる。対応してた副会長は西を中心に展開している旅館、料亭の老舗グループの会長の息子だったからなおさらだろう。
「粗相したら首が飛ぶからね。あの人たち。去年はもっと場慣れした人が来てたんだけど、担当変わったっぽいね。かわいそうに」
清水さんは私の言葉になるほどとうなずいた後、ため息をついた。
「親が偉いからって子供も偉いわけじゃないのに、なんだか嫌になる話ですね。」
「意外な発言だね。清水さんなら『そんな理由で解雇するなんておかしい!抗議してきます!』くらい言うかと思ったのに」
「私だって、そこまで無鉄砲じゃないですよ。確かにおかしいとは思いますけど、実際に辞めさせられた人はいないんですから」
清水さんは、私のことそんな風に思ってたんですかと不愉快そうに私を一瞥した。
私はごめんごめんとヘラヘラ謝ると、パンフレットを閉じて机に置いた。
「誤字・脱字修正終わり!」
「あ、はい。私ももうすぐ終わります。レイアウトについては一応副会長に確認したほうがいいですよね?」
「ま、一応ね。これでいいから、これでゲラ刷ってるんだけど、最終確認しとくか。」
「私が行きますよ。黒川先輩、笹田先輩に呼ばれているんですよね。今日はもうこれで終わりですし、先に上がってください。」
「あら、清水さん。覚えていてくれましたのね!お言葉に甘えることにいたしますわ。」
私は努めてお上品な言葉を使ってお礼を言い、テーブルの向こうにあるリュックを取るために、得意のパルクール技能を生かしてテーブルを飛び越えた。最近アクションドラマで見てやってみようと思っていたのだ。
「ちょっと!やめてくださいよ!」
すぐさま清水さんから苦情が入る。
「ごめーん。ごめーん!めんご、めんご。…あ、窓から出て良い?今日の待ち合わせ旧校舎のほうでさー」
「ドアから出てください!」
へーい、と仕方なくドアに向かう私とぷんぷんしてる清水さん。いやあ、清水さんはツッコんでくれるからボケがいがあるよなぁ。
実は生徒会室にいた長谷部君は一連のやり取りをみて穏やかな笑みを浮かべている。おそらく去年の一年間で私の奇行にも慣れているのだろう。
スライド式のドアをがらりと開けたところで、私のスマホから着信音が聞こえた。
やばい、ささたんがご立腹だ。
「ごきげんよう!」
美術室まで全力ダッシュだぜ!
「走らない!!」
後ろから清水さんの声が聞こえて、おとなしく早歩きに切り替える。たまには私も清水さんの言うことを聞くのである。
「今日も平和だね」
僕がそういうと清水さんはげんなりした顔をした。
「どこがですか。相変わらずめちゃくちゃですよ、あの人。」
「清水さん、黒川さんの扱いに慣れて来たよね。うまくやれてるように見えるよ。」
清水さんは、「それは、まあ」と歯切れ悪く言った。
「黒川さん、なんだかんだ言って生徒会の仕事はきちんとするし、面倒見もいいからね。あ、そういえば最近は一年生の内部生のいじめもおさまってきたんじゃない?」
「そうですけど…」
清水さんは納得したくないのかとても難しい顔をしている。はぁ、と少し息をついて清水さんは言った。
「私、副会長に確認とってきます。」
「うん。いってらっしゃい」
僕は生徒会室から出て行く清水さんを見送った。




