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絶望のアルデバラン  作者: 朱華のキキョウ
Chapter1 継ぐもの
18/27

Episode17 得て弱き

 地面を滑る稲妻が踵を返し、バランを狙う


「くっ!」


 剣でなんとか稲妻を防ぎ、直撃を免れる。稲妻は剣から放たれる靄とぶつかって分散する。


「あの剣すごいねフィスティーナ」

「そうだねファルティエラ」


 バランは息を切らし、二人に目を向けながら剣を地面に突き立てる。


 ──さすがに魔法に剣で挑むのは無謀すぎるか。つっても魔法なんて使えない。剣すらただ力任せに振ってるに過ぎない。さらに相手は最速の雷魔法と来た。どうしたもんかな


 剣を地面から抜き、バランは一歩、二歩と後ろに下がる。


「あれ?逃げるつもりなの?バラン」

「わたしたちからは逃げられないことぐらい、あなたも分かってるでしょ」

「別に逃げるわけじゃねぇよ。魔法は使えんがどういう魔法かぐらいわかる。距離が近いと防げないときもあるからな」

「バランって意外と頭いいんだね」

「少なくともお前らよりかは勉強してる方だ。それより来ないのか?」


 言葉を投げかけるバランに二人は顔を見合わせ、人差し指と中指をバランに向けた。


「「このままじゃらちが明かない」」


 綺麗に言葉を合わせる二人にバランは眉を顰める。


 ──二本指?


 二人は疑問を持つバランにただ静かに魔力の塊を向けた。


「「罪人の嘆きを嬉々給(ききたま)え その尊き知恵にて 万物を冠して死をもたらしめよ」」


 二人の指先に魔力の塊が集中し、重なり合う。そしてさらに膨張するそれはバチバチと不穏な音を立て、詠唱が終わると同時に一瞬にして消え去った。

 呆然と立ち尽くしていたバランに二人は笑みを浮かべ、立てていた親指を中指の付け根に下ろした。


「「ずどーん」」


 空が白く光ると同時に落雷がバランに向けられる。


「まじかよっ!」


 バランはすぐさま剣を持ち上げ、ガードの体勢に入る。

 落雷は容赦なくバランへと放たれ、まるで光線のようにバランを攻撃し続けた。


「無駄だよバラン」

「それは狙いに当たるまで放たれ続ける落雷」

「「防いだって無傷じゃ済まない」」

「知るかよっ、んなことっ!」


 剣で防いだまま落雷を押し返そうと強く踏ん張るが、落雷はさらに威力を増してバランを押し、バランは膝を着いた。


 ──さすがに無理かっ!


 頑張っているバランを見ながら二人は笑みを浮かべた。


「これで終わりだねフィスティーナ」

「これで終わりねファルティエラ」


 二人はそう口にしながら背を合わせ、人差し指をバランに向けた。

 落雷に夢中になっているバランはその二人の行動に気づかなかった。


「「世弄る醜悪に 淀み解けし際の神罰を ここに下せ」」


 二人の指から放たれた稲妻は容赦なくバランを狙った。


「──ッ!?」


 腹を劈く稲妻にバランは怯む。そしてその瞬間、防いでいた落雷を防げなくなり、バランは更なる激痛に襲われた。

 バランをぶち抜く稲妻。とてつもない轟音と共にバランを包み、地面すら抉る落雷。今のバランに為す術などありはしなかった。

 雷が止み、静寂がその場を包む。地面に倒れるバランを見て二人は背を向けた。


「話に聞いていたほどじゃなかったね、フィスティーナ」

「弱かったね、ファルティエラ」


 二人は同時に同じ足を動かし、歩みを進めようとした。だが、一歩足を出した瞬間、背後から聞こえた声に足を止めた。


「ごほっ!」


 フィスティーナとファルティエラは振り返り、バランを見た。その顔はとても信じられないという表情だった。


「……今ので、なんで死なない?」

「二度の雷撃を受け、更に私たちの大技の落雷まで当てたのに……どうして」


 息の荒いバランは首を横に振り、目を開いた。


「知るかっ……俺だって、驚いてんだ……ごほごほっ!はぁ、はぁ……」


 痺れと痛みで体を起こすことも出来ないバランは空をただ見上げる。時折月を消す雲とそれに揺らめく煙に目を細めた。


 ──何だこの煙


 地面に寝っ転がり咳と荒い呼吸を繰り返すバランを見てフィスティーナとファルティエラは指をバランに向けた。


「まだ死なないなら、何度だって撃ち続けるだけ」

「その命が尽きるまで、攻撃し続ける」


 バランは二人の言葉を聞いて目を瞑った。


 ──立ち上がれない、体全体が痺れて言うこと聞かねぇ……さすがにこれは、死んだか?


 指に魔法を溜める二人を見てバランは笑みを浮かべた。


「力を貰っても、俺は弱いままだな……」

「「世弄る醜悪に 淀み解けし際の神罰を ここに下せ!」」


 フィスティーナとファルティエラの指先から放たれた稲妻は容赦なくバランへと突き進んだ。

 稲妻とバランが目と鼻の先になり、遂に終わりかとバランが思った突如。


「ふぅ、間に合ってよかったわぃ」


 声が聞こえたと途端に稲妻が真上へと打ち上げられる。稲妻はそのまま空へと進み、雲に風穴を開けた。

 バランは目を開き、声を発した人物に目を向けた。そこには見慣れた老人が剣を片手に立っていた。


「やれやれ、意気揚々と出てボロボロじゃなぁ、バラン」

「おっさん、アトリアのこと頼んだのに、なんで来た」

「そんなこと言われてもわしの出番なさそうじゃったしなぁ。ちょっと様子を見に来たらお前さんのがボロボロじゃったし助太刀に来たわけじゃ」


 リゲルを見てフィスティーナは少し笑みをこぼした。


「まさか、そんなヨボヨボで助けに来たの?」

「悪いか?わしかて歳じゃ、仕方ないじゃろ。それになぁ」


 リゲルは剣を地面に置き、フィスティーナとファルティエラを見下ろした。


「お主ら相手には全盛期なぞ要らんわぃ。今のわしで十分じゃ」


 リゲルの言葉にフィスティーナとファルティエラは眉をぴくりと動かし、指を突き立てた。


「「口だけだってことを証明してあげる」」

「おぉ、綺麗に揃ったのぉ」


 攻撃が来そうな雰囲気なのにリゲルは武器を取ろうとせず、ただにこやかに笑ってフィスティーナとファルティエラを見ていた。

 それが余計に二人を苛立たせる。


「「世弄る醜悪に 淀み解けし際の神罰を ここに下せ!」」

「おぉ、いきなり来たのぉ」


 そう言って二人の指から放たれる雷撃を笑って見ていた。


「これで」

「終わり」


 フィスティーナとファルティエラの言葉を聞きながらリゲルはゆっくりと中指と親指を合わせた。


「雷撃を呑み込め、黒淵こくえん


 言葉が放たれ終えると同時に鳴り響く指、その音は雷撃の音にかき消され、フィスティーナとファルティエラの耳には届かなかった。

 完全に勝ちを確信した二人だったが、目の前で雷撃が一瞬のうちに消え、唖然としかできなかった。


「お?難なく呑み込めたのぉ。そんな難しいものじゃないんじゃが」


 リゲルは手を下ろし、腰を叩いた。


「……今、何をしたの?」

「なんじゃ、聞こえなかったのか?()()を発動しただけじゃよ」

「魔術……?なんで、剣士のはず」


 驚くフィスティーナとファルティエラにリゲルは首を傾け、笑みを浮かべた。


「わしは一度も剣士とは言っとらんが……なにか勘違いをしたようじゃな」

「勘違い?そんなわけない、だって、剣で防いでた!剣士じゃないのに、できるはずない!」


 声を荒らげるファルティエラにリゲルは剣を持ち上げた。


「わしは鍛冶屋じゃ。剣を作ることに関しては右に出る者はいないほど、わしは剣を打ってきた。わしが握ってきたこの剣はわしが一番最初に打った剣。もう六十二年の付き合いになる。()()()を聞くぐらい、どうってことないことじゃ」


 リゲルはバランに剣を渡し、笑みを浮かべた。


「バラン、その剣離すなよ。それはわしの大切な相棒なんじゃ」


 フィスティーナとファルティエラの方を向き、リゲルは長い鼻をピンと指で弾いた。


「それ以上傷つくとわしも傷つく」

「調子に乗らないで!ファルティエラ!」

「うん!」


 フィスティーナとファルティエラは指を絡めて手を繋ぎ、体を引き寄せ、もう片方の掌をリゲルに向けた。


「「汝に下すは神の混濁 放浪に靡く便箋に耳を傾け 不殺の契りを破りしを 今時こんどきの歪みに証を残さん……」」


 詠唱を始める二人を見てため息をつき、リゲルは服の裾を捲りあげた。


「長ったらしくべらべらと……そんな詠唱今日日口にする者なんぞおらんぞ」


 手首に深く刻まれた()()()を指でなぞり、その指で空をなぞる。


「今眼前に並ぶ二人の小娘に絶望をもたらせ……」

「「神の使いとなりて 覡を執行せん!」」


 フィスティーナとファルティエラの詠唱が終わる。その直後、二人の掌から真白な光線が放たれた。

 そして、その光線が放たれると同時に、リゲルが空をなぞり終えた。


「……黒槍」


 空に描かれた弓を手に取り、リゲルは黒く揺れる槍を撃ち放った。

 黒い槍は空気を切り裂きながら突き進み、光線の中へと潜り込む。光線が黒い槍を飲み込んだと思われたが、リゲルは不敵に笑みを浮かべた。

 光線はものすごい速度で突き進んでいた、はずだった。

 フィスティーナとファルティエラが不敵に笑みを浮かべるリゲルに眉をひそめていた、その時だった。

 先程まで勢いづいていた光線は一気に勢いを無くし、リゲルに触れる直前で砕けていった。


「なんでっ!」


 フィスティーナがそう口にする。だが、その疑問が解決する間もなく黒い槍が光線から現れ、二人の掌の間を潜り抜け、頬を切り付ける。

 黒い槍は二人を通り抜けて直進し、すぐに消滅していった。


「「……!」」


 槍の消滅と共に二人は膝から崩れ、地面に座り込んだ。その間も、手はずっと繋がれたままだった。

 リゲルは袖を戻し、二人に歩み寄った。


「どうじゃ?立つこともできぬほど魔力が抜けた感想は」


 二人は顔を上げ、リゲルに顔を向けた。二人の顔は悲しげで、絶望を()()()()()かのような顔だった。


「安心せぇ、わしはなんもせん。ただ、一日くらいは動けんじゃろな」


 リゲルは二人に優しく声をかける。だが、二人は尚も暗い顔をしていた。


「リゲル、強いな。そんなに強いなんて知らなかった」

「さすがにお主よりかは強い。といっても、もう現役の頃の力は出んがな」


 よろよろとその場に現れたバランは二人の顔を見た。暗い顔で下を向く二人にバランは首を傾げた。


「……お前ら、何を見てるんだ?」


 その言葉に二人はただ小さく口を開いた。


「「……依頼主だよ」」

「俺を殺すように命じたやつか」


 二人は頷き、バランの顔を見た。


「……お願い、バラン」

「いきなり攻撃した私たちが、こんなことを言うのは、違うってことは分かってる」

「「でも、それでもお願い、バラン」」


 口を揃え、二人はバランの服の裾を力弱くに掴んだ。


「ファルティエラを」「フィスティーナを」


 二人はバランを涙目で見つめる。裾を掴んでいる手が小刻みに震え、先程よりも力強くに握った。


「「助けてください……」」


 涙を流し、二人はバランに縋りついた。

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