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絶望のアルデバラン  作者: 朱華のキキョウ
Chapter1 継ぐもの
16/27

Episode15 語られる元凶

 ガルガンはアルデと共に城が背を向く街を進む。そこは簡単に言ってしまえばスラム街で、荒れている。

 巨大な街の規模からすればそこはほんの小さなひと枠に過ぎないが、その場所がこの街の裏を照らしていた。

 二人はスラム街を少し進み、少しボロボロの家にやってきた。


「そういえば、汝の家を見るのはこれが初めてだな。まさかこんな所にあるなんてな」

「俺は元々母子家庭で稼いでたわけじゃないからな。それでも、母さんのおかげでここで何とか生活できていた。今は病気になっちまって病院に行ってるけど」


 ガルガンは家の扉を開き、ボロ屋へと入っていく。中も綺麗とは言えないが、それなりに生活ができる環境だった。


「お?ガルガン帰ったのか?」


 家の奥から男性の声が聞こえ、その声の主はアルデ達の前に姿を出した。


「ディルベッド、お前またここに遊びにきてんのか?」

「いいだろ?オレ達のスラム街(せかい)じゃここぐらいしかまともな家がねぇしな。それに──」「ガルガン兄ちゃんかえってきたの!?」


 ディルベッドの言葉を遮るように奥から少年少女が三人出てきた。

 かわいい少女が二人、そしてその二人の後ろに隠れる少年が一人だった。


「こいつらも喜ぶしよ」


 一人の少女の頭を撫で、ディルベッドが笑顔でそう口にする。ガルガンは溜息をつき、首を横に振った。


「ったく、んな事言われたら断れないだろ」

「お前のことはかなり知ってる方だからな」


 自慢げに笑みを浮かべるディルベッド。それを横目に頭を撫でられた少女の腕を掴むもう一人の少女がガルガンに指を差し、口を開いた。


「この人、だれ?」


 その言葉にアルデは少女に顔を向け、笑みを浮かべてしゃがんだ。


「我はアルデだ。まぁ、このお兄ちゃんの知り合いってところだな」

「しり合いなの?」

「腐れ縁ってやつだな」

「くされえん?」

「おいガルガン、変な言葉を教えんなよ」

「悪い悪い」


 少し意地悪な顔をしてガルガンはそう口にする。


「そうだ、俺はこいつとちょっと話するから()()()に行ってくる」

「あぁ、そうか。オレ達は当分ここにいるし、何かあったらすぐ知らせる」

「悪いな、助かる」


 ガルガンはそう言って部屋の奥へと歩みを進める。その後ろをついて歩くアルデ。

 廊下と部屋の区切りを通り、ガルガンは部屋の端に移動し、しゃがみ込んだ。


「よっこらせ」


 老人臭い言葉を口にしながらガルガンは地面の木の板を外す。その板の下には梯子があり、中にはうっすらと明かりが点っていた。


「……なんだ、ここ?」


 恐る恐る問いかけるアルデにガルガンは返答せず、梯子を使って降り、アルデに顔を向ける。

 アルデは固唾を飲み、梯子を使って降りていく。一番下に辿り着き、地面に足をつける。

 靴から伝わってくるほどの寒気を放つ床に薄暗く狭い長ったらしい道が不気味さを演出する。

 ガルガンは黙ってその廊下を進む。奥から伝わってくる謎の悪寒に少し鳥肌を立てながらアルデはガルガンの後を追う。

 薄暗い廊下を進み、ガルガンとアルデは鉄で出来た扉の前に止まる。

 ガルガンは鉄の扉のレバーハンドルを握り、ゆっくりと開く。鉄の扉は重々しく唸り、奥の景色を隠すのを辞めた。

 扉が開かれたと同時に二人に暖かな空気が襲いかかった。


「……おぉ」


 アルデの喉の奥から声が思わず漏れ出す。アルデの目に映った景色、それはスラム街にあるとは思えないほどに綺麗で生活感のある空間だった。

 机は勿論、ソファやクッション、台所まである。床には絨毯が敷かれ、部屋の高級感を上げている。


「すげぇだろ?スラム街の働けるヤツらが協力してくれてな、こんな部屋ができちまった。いつ見ても圧倒される」


 そう口にするガルガンの顔には笑みが溢れていた。

 ガルガンは扉を開けたまま中に入り、ソファに腰掛けた。


「さ、話をしよう。教えてくれ、お前に何があった?」


 そう問いかけられ、アルデもソファに腰掛けて口を開いた。


「どこから話そうか……汝も、我が同族から嫌われているのは知っているな?」

「あぁ、目の当たりにもしてきたからな」

「それが嫌になって、ここも故郷も捨て、旅に出た。その先で我はバランに出会った。仲間と共に狩りをするバランを。だが、バランはそこで仲間を失った。我の種族が従える奴隷によってな」


 アルデは顔を下に向け、自分の手のひらに目を向けた。


「……我はその時、ただ様子見をしていてな。遅れたのだ。結果、バランの仲間は救えず、唯一生き残ったバランと契約し、その奴隷を倒した。そののち、我とバランは暫し別れてな。と言っても、数時間程度しか離れていなかったが。その時、バランが故郷でされている仕打ちを目の当たりにしたのだ。とても残酷で、実に不愉快な様だった」


 グッと拳を作り、それからアルデはため息をついて手をソファに着く。それからゆっくりと背もたれに体を預け、天井に顔を向けた。


「……バランはああ見えて、なんの力も持ち合わせていない。バランが言っていたように、あの者に力を授けているのはあくまであの禍々しい剣だ。契約した時にハッキリとわかった。そして、バランは無力のせいで親を殺され、仲間も殺された。ただ無力というだけでだ。その時、我は思ったんだ」


 上に向けていた顔を少しだけガルガンの方へ傾け、寂しげな笑みを浮かべた。


「もう全部がどうでもいいと。バランに比べれば安いものだろうが、我も同族から毛嫌いされ、嫌がらせを受けてきた身だ。バランの気持ちを嫌でも理解出来たし、痛みもわかっていた。我の能力の『共鳴』によって、バランのふつふつと湧いてくる怒りと押し殺しても押し殺しても溢れかえってくる悲しみをずっと感じ取っていた。それを感じれば感じるほど、我はもう何もかもがどうでも良くなったんだ。それと同時に、無性に殺意が湧いてきた」


 膝に肘を置き、また下を向くアルデ。哀愁が漂うその笑みは段々と薄れていき、次第に真剣な顔になっていった。


「今もうっすらと伝わってくる彼奴の痛みに我は怒りが込み上げてくる。なぜバランがこんな思いをしているのか、なぜ我は同族から毛嫌いされていたのか、なぜ……バランの大切な人が死ななければならなかったのか。そう考えていると、怒りが湧いてくる。この怒りはいつの間にか我の心を蝕んで、殺しに躊躇いを覚えなくさせていた。周りの人間や魔物がゴミ同然としか思えない……爺さんとかガルガンは、まだちゃんと仲間だと思えているのが不思議だ」


 アルデの長い髪が垂れ下がり、顔を隠す。その長い髪の間からうっすらと見えるのは、血走った目だけだった。

 その目を見てガルガンは耐え難い恐怖を身に覚え、少し息を詰まらせた。

 アルデは全てを話し終えたのか、黙り込む。ガルガンはアルデから伝わってくる歪みに歪んだ殺意に言葉が出てこなかった。そのまま静寂が二人を包み、廊下からの風のみが騒がしく吹いていた。


「……少し、重たい話だったな」


 長い間続いた沈黙をアルデが破り、そう優しい口調で話す。


「……あ、いや……最初に聞いたのは、俺だから」


 そう辿々しく話すガルガン。どう声をかけたらいいのか、何を口にすればいいのか分からず、ガルガンは口を閉じた。

 その時だった。


「お兄様!」


 部屋の扉を開いてすぐ左にある木でできた扉の向こうから幼い少女の悲鳴が聴こえてきた。

 ガルガンは勢いよく立ち上がり、その扉を見た。開かれた扉、そして奥から聴こえてきた声。ガルガンは歯を食いしばり、急いで扉の方へと向かった。


「おい!」


 ガンッと扉にぶつかりながらガルガンは部屋の中を確認した。そこには大きな袋と数人の男が立っていた。


「ちっ、ずらかるぞ」


 一人がそう口にする。ガルガンは扉の前に立ち、男共の行方を塞ぐ。


「行かせるかよクソッタレ!」

「邪魔だ」


 一人の男がそう口にし、ガルガンに手のひらを向けた。その瞬間、ガルガンはとんでもない風に押され、反対側の壁に背中をぶつけた。


「ガルガン!」


 突然壁に激突したガルガンにアルデが声を荒らげて呼びかける。その目の端では数人の男共が大きな袋を持ってかなり急いだ様子で走っていた。


「……アルデ、そいつらを、止めてくれ」

「よく分からんが承知した! ” バン ” !」


 アルデの口から放たれた言葉は力を持ち、男共に向けられる。しかし、男共は止まらず、その場を離れていく。


「効かない?いや、そんなはずは──」「その程度の魔法で、我らの邪魔ができるとでも?」


 アルデの背後から男の低い声が耳を劈く。


「っ!」


 アルデは振り返る。だが、そこには誰もいない。


「どこ見てんだ?俺様はこっちだぜ?」


 声のする方向に顔を向けると、そこには口元と頬に切り傷が刻まれている男が立っていた。


「……汝、誰だ」


 問いかけられるも、男はため息をつき、答えようとはせずに首を横に振った。


「こんな状況で呑気に誰だと問いかけるか。随分余裕じゃないか、なぁ?龍族の穢れ」


 頬を持ち上げ、男はアルデに目を向ける。アルデは男の言葉に眉を顰め、殺気立つ。


「おっと、そう怒るなよ。俺様はただ()()を取りに来ただけだ。それじゃあ、俺様はこの辺で」

「待て──」「罪人に鎖をもたらさん」

「くっ!」


 また魔法を使おうとするアルデだったが、先に男が魔法の詠唱を口にした。

 鎖が地面から出現し、アルデを縛り付けた。


「じゃ」


 男は不敵に笑みを浮かべ、その場を立ち去った。

 鎖に縛り上げられたアルデはその場から身動きが取れなくなった。


「くそっ、身動きが、取れない……ガルガン、動けるか?」

「ゴホッ、なんとかな」


 ガルガンは立ち上がり、壁に手を着いた。


「……鎖を、取る。急いで、行くぞ」

「行くって、どこに行くつもりだ?」

「はぁ、はぁ……決まってるだろ、この国の中心、ヘッゼルヘン城だ。()()()を、奪還する」


 ガルガンの目には怒りが滲んでいた。

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