EP02 異世界の初仕事。その8
八大魔王――そう呼ばれていた悪しき旧支配者を倒し、アルシュバーン大陸を救ったとされる英雄こと先住民ことヴォイヴォが先祖代々、口伝によって伝えられる存在、勇者ソルファードが、まさか魔族——俺達の同胞だったとはねぇ。
そんなワケだから、アインゼルン神殿遺跡に残された勇者ソルファードの残した聖遺物的なモノ――勇者の剣を手にする資格を魔族である俺にはあるようだ。
無論、他の仲間も……ん、兄貴はどうなんだろう?
「アレを巡ってイザコザが起きる事がしばしばあってのう。このアインゼルン神殿遺跡に巣食っている盗賊共も然り……」
「は、はあ、そうなんだ」
「そんなワケじゃからのう。ソイツをさっさと持ち帰ってほしいのじゃ」
「お、おお、それじゃ遠慮なく……って、爺さん、どこへ行ったんだァ!?」
「ふえええ、突然、消えたッス! 何かしらの魔術ッスかねぇ……」
「おい、それより、あの爺さんの言う通りだ。俺が触っても何も起きないぞ!」
勇者の剣を巡ってイザコザが起きているって!?
ふむ、それはアインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊共も然りってか――。
さて、あの謎の爺さんの話は本当の事かもしれない。
マリウスが試しに――とばかりに超巨大柱の根元に突き刺さる勇者の剣の柄を握ったが、盗賊Bのように両手が弾け飛ぶなんて事はなかったワケだし。
「握っても何も起きたいけど、コイツ……抜けねェ!」
「よ、よし、俺も手伝うぞ!」
『ちょっと待ったァーッ! ソイツは私が貰う!』
マリウス一人の力じゃ勇者の剣を引き抜く事が出来ないのか!?
それなら、俺も力を貸すか! と思った刹那、雷鳴のような大声が響きわたる――う、何かが上空から舞い降りてきたぞ!
「ゲ、ゲェーッ! 巨大ドラゴンだァァァ~~~ッ!」
「ちょ、誰が巨大ドラゴンよ! 失礼しちゃうわァーッ!」
「う、うおお、小さくなった……ん、人間に変身したぞ!?」
「フッフーン☆ 人化の術よ。アタシくらいになれば、完璧……超完璧に人間の姿に変身する事が出来る!」
「え、超完璧? 尻尾と渦を巻き貝のような角が、そのまんまだが……」
「え、えええーッ!」
とまあ、そんなこんなで巨大な赤い爬虫類型の怪獣――ドラゴンが舞い降りてきたワケだが、ソイツがボンという軽い爆発音とともに人間の姿に変身するのだった――が、尻尾と角が、そのまんまという有様である。
ちなみに、そんな人間に変身した姿だが、白いワンピースを着たピンク色の長い髪の十五、六歳くらいの少女の姿である。
「お前は何でも屋、竜の旅団のリーダーの……アレ、名前はなんだっけ?」
「リリムよ! ちょ、アタシの名前を忘れたワケェ! まったく、これだから獲物は……」
「え、獲物? まあ、兄貴は兎ッスからねぇ。そんな見た目から肉食動物にとっては格好の獲物ッスね」
「ヤス、お前、兎をナメてんのかァァァ~~~ッ!」
「そ、そう意味では……モギャーッ!」
「兄貴がヤスのお尻に噛みついた……って、今は喧嘩をしている場合じゃないだろう!」
「そ、そうだったな。んで、何の用だ、リリム!」
「さっきも言ったじゃん。アタシはソイツをいただきに来たのよ。勇者の剣という聖遺物をね!」
尻尾と角は、そのままの状態であるが一応、人間の姿に変身した怪獣――ドラゴンはリリムと名乗る。
んで、竜の旅団という同業者――何でも屋のリーダーのようだ。
ついでに、エリザベートの兄ことエディスン、それに父親の依頼を受け、俺達と同じくアインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊を討伐しにやって来たモノの中にいたフリーの何でも屋のアイギス、それにリーロ団ボブのような他の何でも屋の一人が、あのリリムって竜娘だろう。
「兄さん、あんな怪獣にも声をかけたワケェ!」
「し、知らないよ! 僕は何も知らないィィ!」
「う、嘘を吐くなーッ!」
「どうでもいいけど、盗賊さん達に囲まれちゃったわね」
「あ、ああ、戻って来たようだな」
「今度は頭目が一緒っぽいッス!」
「頭目だァ? あ、ああ、あの巨大な馬に跨った仮面の男か?」
一難去ってまた一難ってヤツだろうか?
盗賊A、B兄弟を残していなくなった盗賊共が戻ってくる——ん、頭目っぽい輩も一緒のようだ。