EP02 異世界の初仕事。その6
やったァー! 俺の怒りの鉄拳が純ヴォイヴォの大男――盗賊のひとりを打ちのめしたぞ!
だが、何故? 弱々しい拳だって馬鹿にしてた癖に……こうも呆気なく……。
うーむ、そこら辺が納得いかなかったりして……。
「う、今になって気づいた! 俺、こんなパンツ穿いてたっけ?」
「おいおい、お揃いとは奇遇だなぁ☆」
「ちょ、マリウス! 何故、ズボンを脱いでいるのさー!」
「いやぁ、メディエリカが同じパンツを穿いていたもんで、ついつい……」
「こ、この露出狂ーッ!」
「誰が露出狂だ、サマエル! つーか、お前も脱げー!」
「い、嫌だァーッ! 僕はそっち側に引き込むような真似をするなァァァ~~~!」
「そ、そんな事はともかくッス! メディエリカさん、壊命拳を無意識のうちに使ったみたいッスよ」
身に覚えがないんだが……。
俺はいつの間に、セクシーな黒いビキニタイプのパンツなんか吐いたんだァ?
つーか、何がお揃いだよ! 同じパンツを穿いていたからってズボンを脱ぐなよ、マリウス!
それはともかく、壊命拳ってなんだ? ソイツを俺が無意識のうちに使った…だと…!?
「壊命拳について俺が説明してやろう」
「その前にズボンを穿けよ、マリウス……」
「いんだよ、細ェ事は――とにかく、その技はサキュバス特有の特技を応用した技みたいなモンでね。触れた対象の生命力を吸収し、我がモノにするって感じだ」
「へ、へえ、そうなんだ。ふむ、だから、あの大男な盗賊が呆気なくぶっ倒れたワケね……」
壊命拳……そういう原理が働く技だったようだ。
あの如何にも頑丈な身体が売り文句のような筋肉隆々の純ヴォイヴォの盗賊――略して盗賊Aも、なんだかんだと、生き物である。
故に、その命の根幹である生命力を吸収されりゃ無事ではいられないかァ……。
ちなみに、盗賊Aは死んではいない――が、苦悶の声を張りあげて蹲っているし、この調子だとしばらくは動けないだろう。
「おい、メディエリカ……油断は禁物だぜ! お前が運良く倒せた盗賊は、アインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊の一人にすぎないって事を忘れるな!」
「お、おお……」
そ、そうだ、忘れちゃいけない! 俺が偶然とばかりに倒す事が出来た盗賊は、アインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊共の一人にすぎないって事を――。
「チ、チィィッ――よくも弟を!」
「弟だと!? うーん、それにしても体格が違い過ぎじゃないか?」
「う、五月蠅いッ……黙れッ! デヤーッ!」
「ギャッ! このチビデブ、お前も魔術攻撃かよ!」
むう、新手のアインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊の一人が襲いかかってくる……え、弟だって!?
とりあえず、盗賊Bと仮称しておくか――って、コイツも魔術攻撃を仕掛けてくる!
うぐ、直撃はしたけど、肉体的なダメージは負わなかったぜ……だ、だが、シャツが吹っ飛んでしまった――が、間一髪のところで胸の部分だけが残ったぞ!
し、しかし、純ヴォイヴォの魔術攻撃ってヤツは、際どい部分を残すカタチで対象の着ている服を破く事に特化している気がするんだ……。
ああ、どうでもいいけど、盗賊Aは筋骨隆々の大男だったけど、その兄こと盗賊Bはチビでデブである……ププ、体格がまるで違い兄弟だな、おい☆
「グハハハ、その無駄に大きい肉の塊が丸見えにならなくて運が良かったなァァァ~~~!」
「ああ、確かに! てか、わざとやってないか、お前ェー!」
「な、なんの事かな……かな? さて、もう一丁ーッ!」
「う、うお、また魔術攻撃かよ! ああ、お前、俺を丸裸にする気だな!」
「……かもしれないな! さて、ここは俺に任せろ!」
「マ、マリウス! うおー、ズボンを穿いてから行動しろ……え、えええ、チビデブ盗賊が放ってきた魔術攻撃を……高熱波を吸収した!?」
デブでチビの盗賊Bだけど、中心に大きな目玉とそれを囲むかのように六つの小さな目玉が描かれた奇妙な仮面の下は、髪の毛が一本残らず抜け落ちてしまったハゲ頭なんだろうなぁ、と予測してみよう。
それはともかく、盗賊Bが放った魔術攻撃――高熱波が、俺の目の前に立ちはだかったマリウスの身体に直撃するのだが、どうやら高熱波をその身に吸収したみたいだ!
「ふう、ご馳走様でした☆ う、でも、あまり美味くなかったわ、お前の魔力……」
「俺の魔術攻撃を吸収した…だと…!?」
「まあ、そういう事になるねェ☆ さて、どうする?」
「決まっている! お前を……お前らをここから追い出す! 頭目から〝あの剣〟を守護するように命令を受けているのだから……って、おい、俺以外、誰もいなくなっているじゃないかァ!」
頭目? ああ、アインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊共――純ヴォイヴォのリーダーの事か?
で、ソイツから、あの剣――超巨大柱の根元に突き刺さった勇者の剣を守護するように命じられたみたいね、盗賊Bは。
だが、奴の仲間達は、すでに逃げ出したようだ。
もしかして俺が盗賊Aを倒したので恐れをなしたのか?
とにかく、アインゼルン神殿遺跡に巣食う盗賊共は盗賊A、盗賊B兄弟を残していなくなってしまったワケだ。
「く、こうなったら仕方がない……ブルアアアアーッ!」
「お、お前、何を……勇者の剣を引っこ抜く気なのか!?」
「その通りよ! お前達の中に、コイツを引き抜けるモノがいたら大変だ! だから、俺が引っこ抜いて頭目のところに持って帰るーッ!」
「あ、あのぉ、ソレを引き抜けるのは勇者の資格を持つモノだけって、この聖典ミタークミーに記されているのですが……」
「なん…だと…!? し、知らなかった、そんな事……グ、グワーッ!」
「わお、勇者の剣を引き抜こうと、そんな勇者の剣の柄の部分を掴んだデブチビ盗賊の両手が弾け飛んだぞ!」
俺達の中の勇者の剣を引き抜ける事が出来るモノがいたら大変だァ?
まあ、そんな勇者の剣を守護しているモノである盗賊Bにとっては死活問題だよなァ……。
で、盗賊Bが起こした行動——勇者の剣を突き刺さっている超巨大柱の根元から引き抜いて頭目とやらにもとへ持って帰る、という作戦に打って出たワケだが、ここで発生した問題が〝勇者の資格〟の持ち主であるかって事である。
さて、案の定、盗賊Bは勇者の資格を持たぬモノであったせいか、ドパァンッ――と勇者の剣の柄の部分を掴んだ両手が、まるで地面に叩き落とした西瓜の如く弾け飛んでしまうのだった。