十六話 悲恋の乙女にして呪いの魔女王
呪いを学んだ彼女は正しい力の使い方を知らず……そして育ての親を失った。そして一人暮らしを始めた。人里に出なかったのはその必要性を感じなかったからだ。
世界はすでに完結しており不満はなかった。
そして変化も求めなかった。
そのまま一人で行き続けてくれたら物語は無かっただろう。
けれども運命というのは時に残酷だった。
物語が語れ始めたのだ。
一人の若者がその若き呪いの魔女王の前に現れたのだ。
その男は美しく狭い世界しか知らない彼女からみたらとても魅力的でとてもほしかった。その男がほしくなった。
それ故に呪いをかけた。
最初は簡単なもので近づいてその男のそばにいようとした。
そして魔女王は世界を知った。
「その若者は……ある小国の王子でもあった」
怪我をしていた王子を治療した(厳密にいうと怪我を他者へと移し替えると言う呪いだったらしいが……)こともあり優れた魔法使い。だが、世間をしらない。
王子はその才能を正しく使うことができるように……。
このまま世間に埋もれさせてはいけない。
そう思ったのだろう。
国へと城へと招待した。
呪いの魔法しかしらないが……。それは師匠の話だろう。
それに呪いというのも使い勝手次第では便利になる。
国王もそれを認めて城に滞在することを受け入れて宮廷魔法使いに面倒を見るようにと指示をした。
他の魔法を教わりつつも呪いの魔女王は王子について回った。
当初、それを誰も何も言わなかった。
何も知らない自分以外の人間がほとんどいない環境。ここに連れてきた王子を信頼しているのだろうということだ。
けれどもある程度、年月がたてば魔女王に身分をいい王子にあまり親しげにしないようにと忠告を始めた。
彼女がやはり呪いを得意としているという外聞もあるだろう。
また年齢が近いことや異性であこともあった。
だが、最大の理由が……。
「王子に婚姻の話が持ち上がったんです」
「なるほど」
まあ。別におかしな話では無い。
王子となれば婚姻のはなしがでる。
それは外交というか政略もあるだろう。
愛のない結婚というのもあり得てかもしれない。
けれども実際は違った。
国同士のこともあったが何よりも姫と王子は愛し合った。
そして姫は感じたのだ。
魔女王が王子に恋愛感情を抱いていると言うことをだ。
とはいえ、事情を知っていた姫は魔女王が幼い初恋だと……。
おそらくすり込みに近いものだと判断して距離を取るように言った。
距離を取り他にも異性と出会えば……王子への恋心を受け入れることができる。
きちんと昇華することが出来ると姫も……そして王子も思ったのだ。
けして王子は不誠実な人間というわけではなかった。
魔女姫をただ友人として対応をしていた。
ただ今まで、まともな人間関係を気づけていない。ろくな人間の知り合いがいなかった魔女王のその性根の捻れ具合を気づかなかった。
王子として良い人間関係に恵まれていた。
だからこそ気づかなかったのかもしれない。
魔女王は怨み、妬んだのだ。
自分が愛した王子を奪い結婚する姫を……。
自分が愛しているというのに他の女と愛し合う王子を……。
それを応援しようとしている国々も……。
祝福する人達も……。
世界全てを怨んだ。
そして呪った。
自分の思い思い通りにならないことは全て呪い。
そして思い通りにしようとした。
「けれども最初、誰も彼女が呪いを得意としている魔女だとしらなかった。
いや。気づかなかった。
山奥で隠遁生活を送っていた世間知らずの少女。
まさかそんなのが世界一の呪いの使い手であると言うことなど……。
予想することはできなかったのだ」
そう思い返すように言う。
まず起きた異変は些細なことであった。
病が流行って怪我人などが増えた。
恋人同士や夫婦の言い争いが増えて家庭環境が悪くなるものも増えた。
農作物の不作と家畜の不調も増えて生産性も落ち込んだ。
けれども……。
明確に呪いと気づくものはいなかった。
病も重病や疫病……。そんな危険な病気では無かった。
様々な病気であることも手伝ったし喧嘩の原因も些細なものだった。
むしろその流れは自然なものであったのもあった。
子供が病気になり看病に疲れた夫婦の仲が悪くなる。
看病が忙しく家業がおろそかになり収入が減る。
それによってさらに喧嘩がおきてしまう。
そういった騒動が起きてしまっていた。
けれどもそれで大きな現状変化が起きることは無かった。
「だが、確実に滅びと衰退は近づいていた。
気づいた時には……手遅れだった」
子供はほとんど失われて死に絶えていた。
家庭はバラバラであり家畜も失われ土地はもう雑草もろくにはえていない。
国は滅びようとしていた。
そしてついに姫に呪いがかけられた。
「これは一目で呪いだとわかる呪いじゃった。
生きながら四肢が少しずつ腐り始めて生きながらやがて腐乱死体となり……。
そして完全に腐り落ちるまで意識を失うこともなく狂うこともなく……。
その身にウジ虫が食らいつく痛みと激痛……。
そして自らが醜くなっていくのを実感していくという呪いじゃ」
「えげつない」
思わずうめく。
それが本当だとしたらかなり趣味の悪い呪いだ。
戦時中はそういったことがあるらしいが、少なくとも終戦を迎えてから約八十年近く。戦争を経験した人間もほとんどいなくなった現代日本人から聞いたら信じられないほどのこと。とはいえ、戦争のひどいときはそういうのもあったらしいが……。
それを狂うこともなく永遠というのは想像を絶するだろう。
「当然、呪いだとわかり二つの国の魔法使いが必死で調べた結果……。
犯人がわかった。
じゃが、そのときにはもう国は手遅れだった」
そうラフェレアさんはうめくように言った。
犯人がわかりすぐに捕らえようとしたが、失敗をした。
すでに彼女は国をてにいれようとしていた。
国王にも呪いをかけてそして国の中枢を支配した。
恐怖で支配した者。呪いで精神を支配した者。たんに私利私欲に目をくらませた者。その驚異的な力に魅入られた者……。
数々であり立ち向かおうとするものは少数だった。
そして王子に向かって魔女は言った。
「自分の夫となれ。
そうすればこの国の王になれると……」
王子はこの国の王になる者として姫との婚姻がある。
そう大臣に言われたのだ。
そのために彼女はこう思ったそうだ。
王になりたいからあの姫と結婚するのだ。
ならば姫と結婚しても王になれない。
自分と結婚すれば王になれる。
そうすれば王子は自分と結婚をする。
そう思ったそうだ。
だが、王子は断った。
まあ。当然と言えば当然だ。
そこではい。わかりました。と言う王子ならば後ろから蹴っ飛ばしても誰も文句を言わない気がする。やったことは無いが……。
けれどそれが理解できないのがその呪いの魔女王だった。
彼女は怒りに燃えあがりさらに呪いをまき散らした。
それはもう怒りを発散するためにという八つ当たりも入っていた。
「ひどいものだったよ。
近くを通った鳥を媒体に……川や大地にまで呪いをまき散らした。
そして王子を強制的に捕まえて……王子も呪った」
「自分を愛するように?」
そう尋ねれば魔女王は首を振った。
「いや。自分を否定した王子へもう憎しみしかなかった。
異世界のおぬしらは知らぬだろうが愛から強い憎しみが生まれる。と、言う格言がある」
「ああ。かわいさ余って憎さ百倍ってやつね」
ラフェレアさんの言葉に薫がつぶやく。
何処の世界でも似たような格言があるらしい。
「王子をも呪いで苦しめたが……。
それでも女だったのだろうな。
……王子との間に……子供を作った」
その言葉にオレはフールを見た。
呪いの魔女の子供。
その言葉を聞いてもフールは顔色を変えなかった。
興奮とは違う意味でドキドキとしながらオレは話の続きを聞く。
「だが、それでも魔女は孤独だった。
まあ。当たり前と言えば当たり前だ。
子供も愛していたわけではない。
ただ王子を欲した結果だ。
魔女はあまりにも愛にたいして無知だった。
城に来て読んだ絵本程度の知識しか知らない。
だから魔女は子供が生まれたら王子が自分を愛すると思っていたのだ。
けれども実際は違った。
それどころか……王子は心が死んでしまった」
その言葉にオレたちは黙る。
心が壊れた。
オレの予想が正しければその王子は……。
ちらりとフールをみるがその顔色は全く変わりが無い。
そしてそのまま話は続く。
「心が死んだ王子はそのまま本当に死を迎えた。
そして魔女にも計算外……いや。無知なことがあった」
そうラフェレアさんは語る。
「子供を産むということがどれだけ肉体に負担があるのか……。
それがとてつもなく大変なのか……。
それらの知識がなかったのだ」
出産。
その言葉に僕も納得する。
オレは生涯、子供を産むことはないと断言が出来る。
それでも出産というのは大変だということを知識としてだけならば知っている。
医療技術が発達した現代日本では出産のリスクは少なくなった。
だが、それはあくまでもある程度でしか無いのだ。
出産は文字通り命がけだ。
時に子供を産むのが命がけという状況はめずらしくない。
何しろ腹の中に自分とは違う命があるのだ。
場合によっては使えない薬というのもあるし出来ない治療もある。
体質によっては苦しくなる。
そして出産もある。
女性が人生で経験する痛みの中では一番の痛みだと聞いたことがある。
まあ。最近では無痛分娩という出産方方もあるらしいが……。今はそこを指摘してやるほど暇では無いので黙っておく。
ただ出産後の母体はひどく疲労困憊するという。
親戚の叔母さんが子供を産んだことがあるが一ヶ月ぐらいはなるべく安静にと言われたほどである。難産だったりすると病院に泊まり込んだりすることもあるそうだ。
それはこの世界でも同じ……。
いや。専門の医者などが診てくれなかっただろう出産。
だとしたらもっと体力などを消耗したことだろう。
それらを回復させるのはすぐには出来ない。
出産後、すぐに体力と気力がすぐに万全の状態になるならば産後鬱も産後疲れもありえない。生涯、子供を産むことが無い人間だから想像することしかできないが……。
軽い者。誰もが経験していること。
そんな風に考えた男が碌でもない目にあうということは聞いたことがある。
むしろ何も出来ずに体力、気力が常に万全な状態のままの男だからこそ手伝わなければいけない。そう今は魚となっている父がよく言っていた。
念のために言うならやらかしたのは父ではなく父の兄と弟である。
妊娠も安定期に入りましたが……激しい嘔吐と下痢に襲われました。
結果として一日で三キロ痩せました。
健康的ではないのでまねしないでくださいね。




