第三話 オレはお姫様じゃないしそもそも本当の女でもない
大量の水。食料。それらを手に入れたオレは続いて服を用意した。
そして真夜中。
オレは布団を使った人形もどきをして頭から布団をかぶった状態にする。
ちなみに数日前から気分が悪い。帰りたいと言ってそうしているようにしている。
それによって前々からそういった状態と思わせているというわけだ。
使用人たちの方も多少はオレが不愉快に感じているとわかっているのだろう。ナーバスになっているとも割れているのか、最初の方はよく来ていたが今は様子を見るだけという状態になっている。
それを待っていたというわけだ。
どうも使用人たちもオレが本当は男だということは知らないらしい。
そのためか所詮は女性という考えがある。
まあ。オレから考えると、
「女がか弱いっていうのは実際のところ幻想なんだよなぁ」
確かに女性の大半は虫が苦手だったりするし平均的な筋力とかそういうのは男性より弱いのが一般的だ。だが、総合的というか肝の据わり方というのは女性の方があると思う。
ジャンヌ・ダルクは預言を信じてというか信託を信じて男装して戦った。ほとんど詐欺に近い形で処刑されたというのにそれでも神を祈っていたという。
まあ。あのちょっと暴走気味の女性はさておいてもだ。
かかあ天下という言葉がある通り女性は存外、逞しい。
そもそも十キロを超える体重をした子供を背負い時にそこに大量の買い物をもって買い物。十キロ近い子供を背負ったり抱っこしたり高い高いをしたりする。二十四時間、三百六十五日もの間、子育てと家事をしなければならないのだ。
そりゃ確かに睡眠時間とか最近では保育園や幼稚園というのもあるが……。
母親は強いというのは反論できないだろう。
特殊な例外というか一般的なものじゃない母親(虐待、育児放棄などするようなのを母親と呼ぶのをオレは認めない)は、時に子供を守ろうとわが身を犠牲にできるという。
そもそも生まれたばかりの子供は三時間おき……いや。産後、一カ月もたっていない場合は下手をしたら三十分おきぐらいに赤ちゃんは母乳を欲してなく。母乳が欲しいわけじゃなくてもなく。二十四時間、ほぼ休みなしというわけである。
しかも出産も命がけである。陣痛なんか特に痛いらしく男性がその痛みを味わったらショック死するとまで言われている。その出産を耐えることができるように女性は出来ているのだからすごいと思う。
とはいえ、今のところ特に痛みが強くなったという実感はわかない。あいにくと出産を経験したこともないので何とも言えない。
ただ世間一般では鼻からスイカを出すぐらい痛いらしい。あいにくと鼻からスイカを出したことがないのでわからない。(そもそもこんなたとえをされても経験した人間は男女問わずいない気がする)
まあ。すごく痛いということはわかる。その痛みを母は、
「まあ。生んでしばらくしたら忘れた」
と、言えるぐらいで三回も経験したのだ。
すごいと思う。
閑話休題。
何が言いたいかというと女性というのは男が思っているよりもきっと根性があるのだろう。そう思いながらオレはシーツを使い外へと飛び降りる。
すでに出口はわかっている。
この屋敷のゴミ捨て場。そこは外へとつながる通路だ。生ごみなどもあるのでとても臭く普通の女性ならば嫌がるような空間かもしれないが、精神は男のオレは大丈夫だった。
鼻で呼吸しないようにして口で呼吸をしていたがそれでも悪臭で口が染みた。
それを感じながらもどうにか抜け出たら外へと出れた。
そして来ていたドレスから簡易的に作った服を着替える。
ちなみにここで着替えた理由は臭いを誤魔化すためだ。
ここで犬を飼育していることを知っている。
その犬が可愛がるためだけではないということぐらい気づいていた。
何しろかわいいふわふわの子犬ではなく飼育されているのは訓練された猟犬だ。
おそらく俺が何らかの形で逃げ出した。あるいはこの屋敷からいなくなった時に追いかけるためのものだったのだろう。
そのためにオレをおいかけたくてもこの悪臭でわからなくするためだ。
途中で川に入って匂いを消すのも一つのアイデアだが、とりあえずはオレの匂いが染みついた服を捨てるというわけだ。
まあ。あの悪臭が染みついている服をずっと気づつけるのが嫌というのも大きい。
身に着けた服を着替えて俺は走る。
「まったく。
世の中、ろくでもないよな」
オレはそういう。
おそらくあのお坊ちゃんは自力で逃げ出そうとする。
そんな人間だと思っていなかったんだろう。
それを思いながらも俺は走る。
おそらくいつまでも不在を気づかせないわけじゃない。
それにどっちの方角へと向かえばよいのかわからないのだ。
それを考えると、急いだほうが良いだろう。
「くそっ。まったく迷惑な」
一応、簡単に外せないのでつけていた仮面をオレは押さえつける。
「この仮面をつけていると油断していたな」
仮面をつけているので魅了の効果はほとんどないはずだ。
それでも俺にあそこまで熱烈求愛するようなやつがいるとは思わなかった。
しかもそれがあんなはた迷惑とは……。
世の中、思わぬ方向で苦労するらしい。
そう思いながら俺はとにかく歩く。
土でできた地面なので石などを踏んでしまっている。
地味に痛いので俺は布を用意して足に巻く。
とっさに造った簡単な靴である。
災害が起きたとき用の勘異様の靴の作り方を応用したやつだ。
災害時はガラスが落ちて割れていたりゴミがある。そのために歩くと怪我をする可能性があるからというので簡単にあるもので靴を作る。
そういうのを聞いてみて覚えていたのだが……。
「異世界で役に立つとは思わなかった」
思わずそうつぶやく。
まあ。異世界でも必ず靴があるとは限らないし……。靴の一つで文明が変化するというのも聞いたことがあるあたり靴にも油断できない。
そう思いながら俺は歩く。
しかし、
「やっぱり平らな靴は良いな」
あの屋敷だとあのお坊ちゃんの趣味で与えられるのは歩きにくいハイヒールだった。
なんとか辛うじて歩けるようになったが足の負担はとんでもない。
なにしろヒールの靴はかなり高い。ほぼつま先立ち状態だった。世の女性はよくあんなもんを履いて人によっては走れるものである。
コルセットも息苦しい。ブラジャーは必要だという理屈はわかったがコルセットの意味は解らなかったので本当に嫌だった。
だというのに相手は聞かないのだ。
おそらくだがあいつらは呪われた街にいたということは知っていても俺の性別は知らないのかもしれない。
ひょっとしたら口調が粗暴になるとかそういう呪いだと思っているのか?
淑女としてとかそういったことを説教してくるし……。
そのことを思い出して思わずため息をつく。悪い人たちじゃなかったのだろうが、良い人たちではなかった。
主人の行動をたたこう呈して臨むがままに行動する。
そういった行動がいずれとんでもないことを引き起こす。
いや。現在進行形で引き起こしている。
これは立派な拉致監禁だ。
一方的な恋愛感情をこじらせて好いた相手を誘拐、そして一か所に閉じ込める。
この世界の法律はよく知らないが、俺の世界では昼のワイドショーにでも取り上げられそうなニュースである。
つか、わりと昼のワイドショーなどでたまにみるぞ。
たいてい、犯人は引きこもりの独身ニートが大半であり家を改造して好みの子。たいていは小さな女の子を誘拐して監禁するというやつだ。
まあ。俺は小さな女の子ではいろんな意味で違う。ついでに言うとあの男も別に無職ではないだろうが……。
「実際のところ犯罪者なんだよな」
独身というのはどうやっても共通している。
いや。お嫁さんがいてほかに女性を監禁しているというのもそれはそれで問題だ。
そう思いながら歩く。
「急がないとな。
変装ができていればよいんだけれどな」
そういってため息をつく。
呪いの影響で見るものすべてが印象を残してしまう美貌。それを封印しようとしているのだがその結果が仮面。そしてもう一つのハリセン。
すなわち、オレを見かけた人間からしたらすごい美人だろうに仮面をしているハリセン持った女性というインパクトに落ち着く。
それをわすれろというのは少し無理だろう。
オレならばたぶん最低でも一週間は忘れない。
せめて髪の毛を斬ったりして印象を変えることができたらよいのだろうが……。
呪いの影響で外見を大きく変えることもできやしないのだ。
髪の毛を切っても染めてもすぐに元に戻ってしまう。
香水をつけても意味がない。
つか、心なしかゴミ捨て場を通った後だというのにそのゴミの匂いも薄れている気がする。ひょっとしたら呪いの魔性の美女の影響かもしれない。
美女の条件はよく知らないがおそらく腐ったごみの匂いがする美女はいない。そういうことだろう。まあ。なっとくである。否定はしない。同感である。
とはいえ、そのこともありおそらく臭いを消すのも難しいだろう。
「とにかくせめて魔法協会に……。
いや。無理だろうな」
一部の人間は信用できるが教会全体はフルーのこともあるので信用できない。
そもそもオレは異邦人だ。
僅かな知り合いはさておいてそれ以外の連中から見たらオレの存在は努めてどうでもよいだろう。無理をしてでも助けようとは思えない存在だと気づいていた。
とにもかくにも歩くことが大切だ。
とにかく近くの町にたどり着けば町への方角くらいはわかるだろう。
馬車に揺られていたが一日もたっていなかった。
そのことからも考えるに近くの町ならば話に流れているのではないのだろうか?
まあ。話題に放っているだろうということは確信があった。
何しろ異世界から移動してきた街なのだ。
しかも住民の全員が呪われているのだ。
それを考えると当然ながら話題になるだろう。
まあ。都合が悪いということで国家機密になりそうな気もしないでもないがある国が大々的に来ていたりしていたので大丈夫だと思われる。
少なくとも噂になっていると思いたい。
近場ならば噂ぐらいにはなっているだろう。
そう思いながらオレは歩く。
「しかし、戻ったところであの貴族にはどうにかしないとなぁ」
ただ歩くだけなので暇なのも手伝って今後を考える。
あの貴族の俺への執着心。
あれはもうヤバイぐらいだ。
ストーカーの類に入るのは間違いがないだろう。
そしてまた誘拐、監禁するだろう。
しかも二回目となるとろくな結果にならないと思う。
下手をすると首輪をつけられてのベッドか部屋に監禁。牢獄暮らしというアリスとほぼ変わらぬ生活環境に陥る可能性がある。
「……この世界、監禁とかって合法なのか?」
思わずつぶやきたくなる。
しかし愛情と監禁は直結していない。
すくなくとも俺にとってはそうだ。
その問題をどうにかしないといけないなぁ。
「ただ話が通じないのが問題なんだよなぁ。
いや。ちゃんと話が通じるならば監禁しないよなぁ」
根本的な話である。
それを思いながらオレはため息をつく。
問題としては話しても通じない。しかも一応は貴族。あの様子なら爵位と身分だけはあるけれどお金はないという悲しい貧乏貴族でもないだろう。
それに日本ならば地位とか身分なんてほぼ無意味なのが基本だ。けれどもこの世界だと違うのはほぼ間違いがないだろう。
権力、財力がある男というのは厄介なのは間違いないだろう。
オレは深々とため息をついた。
ため息をついてもそれをどうしようが現状は変わらないのだが……。
「まあ。せめてもの幸いとして金目の物を盗まなかったんだけれどな」
その気になれば金になりそうな調度品は山のようにあった。
何しろ与えられた装飾品。
金メッキではなく本物の純金製の代物。いや。キラキラと輝く黄金だけではなく白金もあったし使われている宝石も親指の爪ほどもあった。
オレのお袋が大切にしている指輪なんて小指の爪の半分ほどの大きさもなかったのにだ。ダイヤモンドだけじゃなかった。サファイヤにエメラルドにルビーに真珠もあった。
おそらくだがそれは人工宝石や偽物ではないだろう。本物の宝石。あれだけの大粒。
まあ。別に宝石に詳しいわけでも真贋判定ができるわけでもないし価値を見ることができるわけじゃない。わけじゃないがあれが一つでいくらするのか。想像するだけでも肝が冷えるのだった。




