第二話 どこの世界でも思い込みの激しいバカはいるらしい
男の名前はアルバルト=ロー=ヴェンルッス。去る貴族の出身らしく容姿端麗、家柄よし財力ありという美青年である。
ただしかなり思い込みの激しい性格をしている。
どのくらい思い込みが激しいかというとだ。
それはまだ五歳のころである。当時五歳年上の従妹のお姉さんがいた。美人で優しく面倒見の良いお姉さんが彼の初恋の相手で会った。
なので庭でつんだ花束を持って将来、結婚してほしいと頼んだ。
当時、五歳の話である。
お姉さんは笑って大きくなったらね。そういったそうである。
珍しい話ではない。
小さな女の子が大きくなったらお父さんと結婚する。あるいは幼稚園の先生に結婚してと頼む。男の子だってそんなものだろう。
親戚のお姉さんや幼稚園や保育園の先生に結婚してという。
おしゃまというか早熟な子が言う言葉である。
たいていにそれは成長するにつれて忘れられるものである。
そして六年後のことである。
当時、アルバルトは十一歳。そしてお姉さんは十六歳。
お姉さんはとある冒険者ともいうべき傭兵に命を救われて運命的な恋に落ちる。冒険者が凄腕だったことや命の恩人であったこと。
それらが手伝い冒険者とお姉さんは結婚。
一応という形で貴族の位はなくなり離れた場所で二人で幸せになりました。
それに怒ったというか唯一、半狂乱になったのがアルバルトである。
彼にしてみたら結婚の約束をしたのに別の男と結婚をしたのである。
……とはいえ、俺から見たら五歳のことである。
おそらくお姉さんとしては覚えてもいないだろう。
そのために結婚したときの報告なども笑顔でしたりしていたらしい。
それがアルバルトを狂わせた。
理想の女性を見つけたら自分のそばにいて閉じ込める。
そうすればもうどこにもいかないという考えである。
「こじらせているんだよなぁ」
そう思いながらオレは屋敷を探索する。
そのたびにからん。からん。と、足から音がする。
念のために言うが下駄をはいているわけではない。
無駄に乙女チックなドレスを着せられている足首にあるアンクレット。
これは決められた場所から出れなくする拘束の目的があるマジックアイテムである。
当人曰く、君が邪悪な魔法にかからないようにするためだよ。だそうである。
要するに別の男に惚れられないようにという考えなのだろう。
「病んでいるなぁ」
その親戚のお姉さんにあったら文句を言いたい。
むろん、親戚のお姉さんにしてみたら自分の半分も生きていない子供の言葉だ。自分だって五歳のころに誰かに求婚しただろうが数年もしないうちに忘れただろう。
問題はその子供が本気すぎたということだろう。
とはいえ、
「だからってなぁ」
そういってオレはある部屋を見る。
そこにはそのお姉さんの絵姿……肖像画などが置いてある部屋。全てその顔の部分が破られていてカオはわからない。だが、服装が今、オレが身に着けている服そっくりだった。
要するにあいつはその初恋のお姉さんをオレに投影しているのだろう。
迷惑な話である。
だとすると、このお姉さんは本当にそう少女趣味だったのだろうか? そんな疑問もあったが実際は違うようだ。
正確に言うならばお姉さんはアルバルトが結婚の約束をしてからかなり長い間、家の都合などで会えなかったそうである。
これで一年後などに会って結婚はまだ? そうアルバルトが確認をしていたら話は別だったかもしれない。そうひそかに思うがそれは言っても無駄だろう。
そもそも本気で結婚したいと思っていたならば手紙でも送り続けていればよかった。そう思ったりする。幼いころにそう言ったきり手紙のやり取りもしていない親戚の子供。
そりゃ本気にしない。
閑話休題。
話を戻して、そのお姉さんはアルバルトがあった時はパーティーだったのもありこういったフリフリなのを着ていたしそういうのが似合う容姿であった。そのことから贈り物などもそういった品々が多かったらしい。
だが、成長するにしたがって趣味や好みも変わってくる。
実際に結婚前にはどっちかというとシンプルな大人っぽい服装を好んでいたという。ついでに言うと今ではおそらく質素というべき服を着ているだろう。
つまり、
「俺は初恋の人が理想の姿で成長した姿……なんだろうなぁ」
俺はそうため息をつく。
男にとって初恋の人というのは大抵は特別な存在である。
誰かが言っていたが男は常に初恋の人が特別だと聞く。
そして理想の相手が理想の相手だとも聞く。
おそらくだが初恋の相手と長い間、出会っていなかった。文通すらやり取りをしていなかったことから彼の中の初恋のお姉さんはもはや理想……もっと正確に言えば妄想が具現化された姿になっていたのだろう。
ふわふわの乙女チックなドレスを身に着けているお嬢様。
それが初恋の相手であり理想の相手。
そしてそれを今度はオレに投影しようとしている。
迷惑な話である。
「実際のところ、オレがすきなわけじゃないじゃないか。
それなら人形にでも求婚しておけばよいだろうに」
思わず俺はそうつぶやく。
理想の恋人の姿をしたリアルな人形。
それを相手にしていれば迷惑じゃない。
いや。問題はある気がするが……。
「つか、周りも周りなんだよ」
オレは舌打ちしながらそうつぶやく。
ため息をつく。
そもそもこれは立派な拉致監禁だ。
普通ならばそれを現実を主張して止めるべきだったのだ。
だというのに許してこんな拉致監禁だ。
そしてオレが脱走ができないのも現状だ。
それについてため息をつきながらもオレは屋敷を歩き回る。
表向きは運動不足解消であるが実際は違う。いや。体力や筋力を落とさないという目的もあるが屋敷の内部を詳しく知るためだ。
そして使用人たちの動き。
オレはこの屋敷から絶対に逃げ出すと決めていた。
まず帰るためにこの屋敷の内装。そして見張りのことなどを調べる。そして脱出経路を見つける。続いて街への戻り方だ。最悪、街がわからなくても近くの場所がわかればそれで何とかする。幸いなことに足は動くのだ。
歩き続ければいずれはどこかへとたどり着く。
魔法協会へとたどり着けばそこからつなげてラファエルさんへ連絡ができるはずだ。あの人はまだ信用できる人物だ。
これは立派な拉致監禁だ。
相手が貴族だから処刑やいつまでも懲役することは出来なくても一時的にはできる。そして対策もできるだろうしこいつの親も止める……だろう。たぶん。
少なくとも外聞が悪いだろうしローイ達のような貴族連中の力を借りることもできる。まあ。その結果としてあの変態野郎の家が没落したりするかもしれないがそんなことは知らん。まあ。オレは傾国の美女なのだ。
家の一つは二つ、没落させるのも当然かもしれない。
むしろオレはそうならないように努力をしていたというのにこうなったのはあちらの問題だ。オレは悪くないと主張する。
閑話休題。
とにかうオレは脱出方法を確保した。続いての問題は、着替えだ。
こんなシンデレラが舞踏会で王子様と出会った時のような恰好で街まで戻れるとは本気で思っていない。こんな格好で歩いていれば否応なく野党に狙われるだろう。
だから着替えが欲しい。
着替え。それはこの屋敷にある布を使い裁縫をして作った簡単な服である。一応、両親が共働きだったこともありある程度の家事はできる。
とはいえ本格的な……洋服店で売っているような服は作れない。作ったのは二枚の布を同じ形に切ってズボンとシャツを作る。ちなみにズボンは細長い布をリボンにしてゴム代わりにしている。そしてマント代わりに布をまとう形にしようとしている。
幸いなことに裁縫は許された。
まあ。ご令嬢が裁縫をしているのは納得なのだろう。まあ。イメージは刺繍などを嗜んでいるという光景なのだろうが……。
そして次に用意するのは食料だ。
曲がりなりにも人を拉致監禁しているのだ。
おそらくだが街からかなり離れた場所だろう。
それを考えるとオレはだいぶ、歩かなければならないということがわかる。
そのために今後を考えれば必要なのは食料と水だ。
水筒はないのだが水差しを用意しておく。続いて食料。出されたお菓子の一部をひそかに保管しているのだ。フルーツにクッキーやクラッカーにキャンディー。そういった日持ちするお菓子や食料などを保存しているのだが……。
「今日のお菓子はエクレアかよ」
シュークリームのシューを使ったような長い生地。それにたっぷりのカスタードをたっぷりと入れてチョコレートをかける。それがオレの知るエクレアだ。
けれどこれはそれよりたぶん五割増し以上で豪華絢爛なお菓子だ。たっぷりのチョコレートにたっぷりのイチゴやマスカット、メロンやパイナップルといった季節感のないフルーツがたっぷりと乗っており飴細工やザラメなどで装飾されたエクレア。
正直、手づかみで食べれずにスプーンやフォークを使わないと食べれない。
そして当然ながら日持ちしない。
冷蔵庫にいれていても持って二日ぐらいだろう。
当然ながら適当な布で作った簡単な袋もどきに入れるのに向いていない。保存食にも向いていない。ついでに言うと、
「どうせならポテチとかが食べたい」
別にエクレアが嫌いなわけではないが男子高校生の好みではなかった。
そもそも俺はここで出される料理に不満がたっぷりだ。
出される料理は見た目重視のおしゃれな料理ばかりだ。
朝はパンにフルーツのジャムとバター。香り豊かな紅茶にポタージュスープ。目玉焼きかオムレツかスクランブルエッグかはたまたゆで卵か。焼き加減まで好きに決めることができる卵料理にゆでたソーセージに新鮮な野菜を使ったサラダ。たっぷりフルーツにヨーグルトがついてくるといる豪華な料理。
そして昼食。フルーツや野菜をたっぷり挟んだサンドウィッチ。あるいはパンケーキなどに野菜のスープとサラダ。そして午後の昼下がりにおやつとしてエクレアやケーキの類。
夕食は豪勢なフルコース。前菜、スープ、魚料理、肉料理、ソルベにローストの肉料理。生野菜に甘味、フルーツ、そして食後のお茶。それらが出てくるのだ。
これらがとても不満だった。
まず朝食。俺は日本人だ。性別はさておいて少なくとも日本人である事実は誰にも否定させるつもりはない。その日本人が主張している。
朝に米を食べたい。
まず俺が望む朝食には炊き立て白米。別に米のメーカーやブランドには興味がないがそれでも米が良い。アツアツの炊き立てご飯にできることなら海苔の佃煮、焼きのりなどがついているとなおよい。漬物でも構わない。そして焼き魚が良い。魚の種類位は特にこだわりがないので鮭でもサバでも構わない。安物というか一般庶民が食べる魚で十分だ。卵はどうせなら卵焼きが良い。
野菜のキンピラをつけて一緒に食べる。お味噌汁の具にはこだわりはないが希望をいうならば豆腐とわかめが良い。
お昼ご飯は焼きそばやチャーハン。適当に昨日、残っていた野菜や適当に購入しておいたベーコンやハムなどを使った代物。別にこだわりがないのだが腹にたまる一品料理でラーメンなどでも構わない。
そしておやつ。ポテトチップスといったスナック菓子。成長期の男子高校生としては腹にたまる刺激の強めの料理が良い。
そして夕食。野菜の煮物に簡単な野菜炒め系列の料理。生姜焼きなどといった主菜と副菜が二品。箸休めに漬物などがあってもかまわないしなくても困らない。デザートなんてものはなくてよいから食後にお茶を飲みたい。
それがオレの理想の食生活だ。
一生のうちで半年とか一時的ならば話は別だろう。
けれどもこの食生活ではそれは空きが来る。
「米が食べたい」
そう思わずつぶやいたら翌日に出てきたのはリゾットやパエリアのような料理だった。確かに米料理だがオレが食べたい米料理じゃない。
行ってしまえば食生活に不満があった。
生きていくうえで妥協ができないのが食事だとオレは思う。
まあ。長々と演説したがつまりは、
「絶対に抜け出す」
時々に食堂などにオレは潜り込むと食料を調達する。
フルーツの類などは日持ちする上に生のままでも簡単に食べることができる。欲しいのは生で食べることができる料理だ。
胡瓜やトマトなどの野菜の類もあることにはある。
けれども日持ちがしない。
そうして食料をこっそりと集めながらオレは脱出計画を立てる。
そして、
「ようやっとだ」
食料もそれなりに集まった。
それを確認した俺は脱走計画を進めることにしたのだった。




