第一話 そういえば忘れていたが俺は傾国の美女なんだよな
傾国。
遊離や遊郭、あるいは遊女のことを言うが一般的には君主が心を奪われて国を傾けるほどの美女という意味である。
かの有名な妲己もその美しさが原因で皇帝の寵愛を受けたがそれが原因で国は滅んだ。そういわれている。
作品などによって悪女のイメージと化け狐のイメージが多い。
ただ歴史的に見ると一方的に皇帝が惚れこんでしまい彼女を喜ばせようとした結果。そういわれている。
まあ。実際のところはその時代に生きた人間が知ることだろう。
あったこともない見たこともないただ歴史という記録でしか知らない俺が真実云々を考えるのは専門家の仕事だ。
少なくとも俺は専門家ではない。
とはいえ傾国という言葉が他人事ではなくなっているのが今の俺だ。
朝目が覚めたら絶世の美少女。たとえハリセンつけて仮面をつけてジャージを着ていても十人中十人の男が見惚れてしまうような美女になっている。
それもただの美女ではない。傾国の美女。
国を傾けるというのはどうも男に惚れされ騒動を引き起こす。そういう呪いらしい。
しかもそれはけして俺に幸福を与えてくれない。
いや。野郎に惚れられてモテモテになったところで肉体はさておき内面は男のままである俺がそれを幸運。幸せ。そう感じるというわけではないのだが……。
オレに惚れた男が恋人、嫁を無視して見惚れてしまう。そんなことがある。
呪いを防ぐ仮面を身に着けていることでどうにかちょっと見惚れてしまっていた。と、言う程度で終わっている。
なので俺はあまりこの呪いの厄介さをあまり理解していなかったのだろう。
そう。理解しきれていなかったのだ。
「……どういう状況なんだろうな。これ」
縛り上げられ馬車に乗せられ俺は現在進行形で運ばれていた。
もちろん売られたわけではない。
不愉快なことに誘拐されたのである。
俺は痛む頭に眉を寄せながらも記憶を手繰り寄せる。
呪いの解呪の依頼を受けて無事に依頼を受け終えた。
そして帰りに行商人のところに来ていたのだ。
あのお姫様が来てから外からの行商人が来る。
たまにこちらの世界の技術の品を視たりして購入していたりする。
こちらの世界ではありふれたものでもあちらでは珍しい。それでなくても珍品ということで売れることもあるらしい。
もちろん異世界の技術で商売をする場合、その技術で得た利益の何割かはこの街の維持費に与えるという契約がされている。
その利益などで食料などを購入している。
俺達もそこで手に入れたりしている。ちなみにこの世界を知らないということで騙されないように見張っている魔法使いなどもあまたにいる。
俺達のほうももろ事情で世間知らずのフルーはさておきローイやフィリなどがいるので俺達は気軽に行商人と取引をしていた。
その日はちょっと変わった魚を購入した。
寄生虫が怖いので刺身では食べれないが煮つけにして食べよう。
そう思っていたのだが……。
そう思いながら歩いていると突如として後ろから殴られたのだ。
「フルー達はいないな」
てっきり狙いはフルーかアリス。あるいはフィリアかローイなどだと思っていた。ローイは詳しいことはわからないが家柄は良い可能性がある。フィリアはあの親が親だ。何かしらの因縁がありそうだと思う。
フルーとアリスは当然ながら。親の因果が個に報いているというか……。
狙われる心当たりというか騒動に巻き込まれる原因は山のようにある。
だが、捕まっているのが俺だけなのだ。
「言っては何だが誘拐される心当たりなんてないぞ」
オレは異世界人であるが異世界人なんてこの街には大量にいる。
家柄は平凡、収入も一般家庭並。誘拐したところで身代金なんてたかが知れている。ついでに言うと現在両親は無職というわけじゃないが金魚だ。
はっきりいって親の収入はほぼ内に当然に近い。
金魚なので……。
「うーん。無作為の誘拐? いや。それなら薫も一緒が普通だよな。
普通狙うなら女子供だし」
そうつぶやいてから気づく。
「ああ。オレ、女だった」
たまに忘れてしあう自分の今の性別。
いや。精神的には男のままなのだが肉体だけは極上の美女とかしているのだ。
不本意であるが……。
「女を狙った誘拐。
いや。それなら薫達も誘拐するよな。
それに誘拐するならば普通は夜を狙う」
俺は誘拐なんてしたことはないが(したことある方が問題だが)誘拐をするうえで大切なことというのは少しだけわかる。……主にドラマや漫画からの視て聞いた判断に基づくので事実と違う可能性があるけれど……。
基本的に誘拐は人目につかない場所で行われる。
まあ。そりゃそうだろう。
誘拐されたという報告というか通報。それが入れば警察が動く。警察が動いて誘拐による身代金請求。あるいは誘拐した人物の特徴。そういった情報が入ることで誘拐失敗のリスクは跳ね上がっていく。
誘拐を成功させるコツというのはどれだけの人間に知られずにというのだと思う。
……くどいようだが試したこともないし試す予定もないから無駄知識かもしれない。
俺なら無作為に誘拐するならば夜に歩く人を狙う。
この街では夜でも一人で行動する奴はいる。
呪いの影響もあるからだ。
だというのに昼間にしかも集団行動をしている俺を狙った。
「マジで動機がわからん」
そうつぶやいていると、
「おや。起きましたか」
そういって声がしてそちらをみる。
「少しばかり乱暴な手段をさせていただき申し訳ありません」
「謝るくらいなら最初からするなよな」
老人の言葉に俺は思わず呻く。
やってしまって謝ることは多々あるだろう。
子供だったら許すし年齢によったらしょうがないと納得する。
けれど目の前の老人。どう見ても年齢は六十を超えようとしているけれども腰は伸びていて凛々しく痴呆症の心配もない。大人の威厳を持っていると文句ひとつも言いたくなる。
俺はぎろりと相手をにらみつける。
「おや。手厳しいですね。
謝罪をしているというのに」
「あからさまに口だけの誠意のない謝罪ほど人を不愉快にさせる謝罪はないんだよ」
本当に申し訳ないと思っていない。口調こそ丁寧だが誠意は感じられない目。
さらに言うならば本当に悪いと思っているならばこの縛り上げている縄から解放してほしい。そして自由にしろと言いたい。
「謝罪していると主張するなら俺を自由にしてほしいね」
「おやおや。だめですよ。
レディーがそのようなしゃべり方をしては」
会話がなりたってねえな。
そう思っている中で男は勝手に話を続ける。
「ご安心ください。
今からご案内するのはけして悪い場所ではございません。
しばらくいればきっと幸せだと理解してくれるでしょう」
「あいにくと殴られて縛られて移動される。
それを幸せだと感じるようになるほど人間をやめてないんだよ」
「まあ。まあ。決して悪くないはずですよ」
そう老人が言う中で俺は降ろされた。
そこは一目で街の外だとわかった。
俺が見慣れた都市部ではない。
煉瓦でできた壁がまるで城壁のようになっておりそこに古い西洋風のお屋敷があり草花がきれいに並んでいる。
少女漫画かおとぎ話の童話に出てくる豪華なお屋敷みたいだ。
だが、煉瓦の城壁が気になる。
一見すると屋敷を守るための囲いのように思えるかもしれないが今の俺としてはそれはまるで俺を拘束するための檻のように思えた。
縄が外されるなかで、
「やあ。待っていたよ」
そういって現れたのは一人の青年だった。
輝くような金髪に純白の雪のような肌。そしてエメラルドのような緑色の瞳をした凛々しい印象を与える美青年。
彼が輝くような笑顔と共に俺に飛び込んできて、
「誰だ? お前は」
そう言うと同時に飛びついてきた男をよけた。
元々格闘技をしていたのだ。
素人のなんの疑いもない抱きつきをよけるぐらい造作もない。
勝手に受け止めてくれると思っていたらしい男はそのまま地面にキスをする。
そのまま俺は男を見下し……もとい見下ろしながら、
「あんたが俺を誘拐した主犯か?
あのさ。俺は家に帰りたいんだけれど……。
名前も顔も知らん相手に連れてこられてすっごく不愉快なんだけれど」
そう冷たく言い放つ。だが、
「大丈夫さ。
僕と君の真実の愛。それさえあればすぐに幸せの扉は開くよ」
「ねえよ。そんなもん」
真実の愛なんて今時、本気で言っているのは漫画やアニメなどでも少ないぞ。それこそ有料の夢の国ぐらいなものである。
有料の夢の国でも最近では真実の愛なんて言うのはいろいろと難しいぐらいなのに……。認識して数分。名前はいまだ知らない。そんな間柄で一体どんな愛が生まれるのだ?
どうやら俺はかなり痛い男に見初められたらしい。
「ここが君と僕の愛の巣さ。
ここで君は一生過ごすのさ」
「異世界に着て短いが愛の巣というのは俺の世界で『監禁場所』という意味だったのか?」
真顔で尋ねるが無視される。
まあ。世の中には俺の世界でも監禁場所を『愛の巣』と表現する人間はいた。勘違い系妄想ストーカー男である。
たいていは警察のご厄介になるか病院の厄介になっていた。病院は窓に檻がつけられているタイプである。
この世界にもあるんだろうか?
そう考えるがそれどころではないだろう。
「そしてここが君の部屋さ。
うれしいだろう」
「趣味じゃないし嬉しくない」
見せられた部屋は一言で言うならば少女趣味だった。
真っ白なフリルとレースがたっぷりの屋根付きのベッド。薔薇や蝶の詩集はされているしシルクでできているので肌触りが良いし羽根布団なのでフカフカだ。
ただ家具のほとんどがピンク色。レースやフリルがたっぷりのクッションや派手な薔薇が刺繍されたカーペット。
高級品なのかもしれないおしゃれなドレスを身に着けたウサギやクマなどのぬいぐるみ。化粧台には多種多様な化粧品にきらびやかな装飾品。洋服棚にはフリルにレースがたっぷりの現代日本ならば一生に着る機会はそうそうないだろう派手なドレス。
乙女の夢の部屋という代名詞でもつけたい。
あと、普通に居心地が悪そうだ。
そう思った。着せ替え人形などのごっこ遊びなら良いだろう。けれども実際に暮らすとなると掃除は手間だろうし無駄に装飾が多い家具がたくさんで家具を動かすのも一苦労。
見た目だけを重視して居心地の良さを考えていない。
あえて言うならば理想の見本を書いただけで会って現実味というのを書いていない。
本当に相手を思ってならばこんな部屋はできないだろう。
そう唖然としている中だった。
突如としてベッドに押し倒された。
「何をしやがる」
当然ながら俺は暴れた。
ベッドに押し倒す勘違い系ストーカー男。
男と女。
ベッドに押し倒される。
このことから何もわからないほど俺は初心ではない。
初心ではないが妄想なり想像なりしていた図式は俺が押し倒す側だった。
だが、現在。俺は女の肉体で押し倒されている。
そりゃもう暴れる。
あいにくと俺は初体験を女体化した状態で男性が相手というかなりマニアックな経験で彩るつもりはない。それならば安い風俗店で経験して鼻で笑われた方がましである。……たぶん。いや。おそらく……。
そんなことを思いながらも暴れていると、かちゃん。
そんな音がした。
「ああ。やっぱり似合う」
その言葉を聞いて、
「へ?」
思わず俺はあっけにとられたのだった。




