十四話 呪われたホテルを救うのは聖なる姫君ではなく呪われた者たち
盾を作ったのはアリスだった。
「アリス」
「一応、これでも呪いから守る魔法はそれなりにできるのよ。
確かにあんたの言う通りだ。
けれどさ。このバカがここまでバカになったのはあたしの責任もある」
血を吐くように言うアリス。
「諦めた。
そう。あきらめたんだよ。
こういうもんだと思ったしこれである程度はうまく回っていた。
もうどうしょうもない。
これ以上、悪くなることはないだろう。
そう思って見て見ぬふりをしてしまった」
アリスは後悔するように懺悔するように言う。
国の暴走。
絶対的な正義だと自分たちを妄信している。
それをおかしいと叫んでも受け入れられない。
おそらくだが今までもここまでじゃないにしても問題は起きていたのだろう。けれども今までの歴史や大国という立場。
それらが彼らに間違いを認識させることもなく目に見えない形で出て目に見えないまま消えていったのだ。
けれどもこの街は違う。
異世界から来たという特異上、この街の住民はこの世界の常識に当てはまらない。もちろん郷に入っては郷に従えという言葉はある。
日本人はそういうのでは忍耐強いものだろう。
けれどもそれと同時に集団行動をとる。
この街では日本人が圧倒的に多く街並みも丸ごと転位されていた。
個人……せいぜいが数十人程度ならばともかく街規模となれば違う。それ相応の主張や主義を言う。そのためにこの街は自分たちの街。そしてこの街の中では自分たちの主張や主義……言ってしまえば日本と同じ考え方を主張しているのだ。
それは異世界の姫君でも同じだ。
まあ。もっと言えば異世界の都合で無理やりな形で異世界転移。それも呪われてだ。
そうなっていても我慢できるほど日本人は我慢強くなかった。むしろ日本人だったことにこの世界は感謝するべきだろう。
下手したら暴動が起きていたかもしれないのだから……。
けれどもだ。
それと同時に日本人は本気になったらなりふり構わない。
かの有名な日本人が表立ってやった最後の戦争ともいえる第二次世界大戦。末期となった日本軍は頭がおかしくなっていたのか爆弾抱えて敵陣に突貫するという自爆テロリストみたいな作戦を本気で考えて本気で実行した。
よい子だろうが悪い子だろうがまともな奴ならマネしないことだ。
それを大真面目にやったのだ。
呪われているこの国の人たち。
万が一にでも本気で怒り暴動という形で一致団結すればどうなるか……。
俺にはわからないが阿鼻叫喚の地獄絵図になりそうで怖い。
そういう意味でも、
「そうだな。今のうちに止めないとな」
アリスの言葉に俺はそういって一気に近づいたのだった。
「うるさい! うるさい! うるさい!
私は正しい! 私は善意でやっているんだ! 誰も困っていない」
「誰も困っていない? 本当にそう思えるのかよ!
周囲を視ろ!」
俺は叫び返す。
そして周囲を見せてみる。
倒れた騎士、苦しむ人々。そして屋上からも見える。
ホテルを中心にして通りすがりの人が倒れて苦しんでいる。
呪いの影響を受けているのだろう。
「沢山の人が苦しんで困っているじゃねえか!
この苦しんでいる……困っている声が聞こえないのか?」
俺の叫びでも消えないのは呪いが悪化して苦しむ人々の声だ。
「これの原因が誰だ? こうしたきっかけは誰だ?
それはお前だよ。お前が原因だ」
俺は言う。
もちろん俺だってすべて目の前の奴が悪いんだ。
お前が諸悪の元凶だ。そういうつもりはない。
言ってしまえば厄介な奴がいるとわかっていたのに消極的な対応をしていて放置をしていたオレも悪い。こんな風になるまでこういう風に育て続けていたこいつの親も悪い。
それを止めようとしなかった周囲の人間も悪い。
いずれ問題が出るかもしれないのに放置していた連中も悪い。
いろんな奴が悪いだろう。
けれどもその悪い奴の中に、間違いなくいるのだ。
マリアンヌはそれを理解していない。
まるで幼い子供だ。
俺はそれを感じながら一気に駆け出す。
「いい加減にしろ! この大馬鹿やろう!
お前の善意は……迷惑なんだよ!」
そう叫びながら目の前の相手を思いっきりスリッパでひっぱたいてやった。
すっぱーん!
派手な音と共に呪いの元凶が吹っ飛んだ。
そして呪いを解呪する。
それと同時だった。
呪いの元凶が飛び出る。そこに、
「「「解呪!」」」
ほぼ同時だっただろう。フールとローイ。そしてアリスが呪いを解呪した。
それと同時に変化も終わりホテルも普通のホテルへと戻っていく。
「どうやら核となる九十九の呪いの一つだったみたいですね」
フールが安堵したように言う。
これで残りは、九十……四だったかな?
とにかく減ったな。まだ減った数の方が少ないというか片手で数える程度だが……。
そう思っていると、アリスがマリアンヌへと近づくと、
「起きなさい! このバカ!」
そう言うと同時にマリアンヌの胸ぐらをつかむと思いっきりひっぱたいた。
すっぱーん!
「ひ、姫様!」
悲鳴のような声を上げる騎士たち。
まあ。彼らにしてみたら護衛対象を痛めつけられたのだ。
慌てるだろうが俺は止めない。むしろ。良いぞ。もっとやれという気分だ。
思いっきりアリスがマリアンヌの頬をひっぱたく。ひっぱたいてもすぐに起きないので起きるまでひっぱたく。
アリスの往復ビンタだ。どうやらアリスは目覚ましビンタは覚えていなかったらしい。
やがて美少女の顔がふっくらと膨らみ西洋人形のような顔からお好み焼きソースに書いてあるおかめみたいな顔になったころに目を覚ました。
「え? え? お、お姉さま?」
「他人よ」
「え? けれどどうみてもアイリス」
「アリスよ。単なるあんたとは赤の他人。
血のつながりもない初対面よ。赤の他人」
「いや。腐っても一国の姫の顔が変わるほどひっぱたいておいて他人はないだろ」
他人を主張するアリスに俺はそうツッコミを入れる。
気持ちはわかるが無理がある。
それに他人だとしたら不敬罪で処刑されるかもしれないぞ。
言外にそう伝えれば舌打ちするアリス。
いい加減に腹をくくったらしい。
「たしかにアイリスよ。ただしアイリスは死んだの。
あたしはもうアリス。あなたたちとは縁を切ったわ」
きっぱりと宣言するアリス。そこまで帰りたくないのか。そう呆れていると、
「一度、どんな形でも王族という名を捨てて家を捨てた。
そこで勝手に帰るというのは無責任よ。
あたしは王族の責任を放棄して逃げ出した。
今更ながら帰ることなんて許されない。
そんな無責任なことはしてはいけないのよ」
そう断言するアリス。
おう。思ったよりもきちんと考えていた。
もちろん王女という地位が高いというのはわかる。そして王位継承権がある。
もしもアリス以外に王位継承者がいないのならば戻らないといけないかもしれない。けれども現実は違う。……どうも話を聞いている限りだとアリス以外にろくな継承者がいなさそうなんだけれどな。
いや。アリスがまともな継承者か? そう尋ねられると不安になる。
変人だし奇人だし変態だし……。うん。その国。滅んだ方が良い気がしてきた。
そんな失礼なことを考えているとはつゆ知らずにアリスは言う。
「けれど言わせてもらうわ。
善意で行動しているから問題がない。いいえ。善意で行動しているからむしろ迷惑よ。悪意で行動してくれていたら表立って文句を言えたのに!
善意で行動しようがあなたの行動でどれだけの人が迷惑をしているか。
それを考えなさい!
あんたたちもよ!」
アリスはそこまで怒鳴ると今度は騎士たちに向き直る。
騎士たちも声の方から行方不明の姫君だと気づいたのだろう。
そうじゃなければ姫の顔を千年以上前の日本美人(ただし現代ではウケが悪い)のような顔に変形させたことに関して切りかかっていたかもしれない。
けれども姫だ。
いや。当人は否定しているけれど姫だ。
だからこそ対応ができないのだろう。
そんな彼女に怒鳴られて騎士たちはびくん。そう肩を震わした。
「あんたたちはなんなのよ。騎士っていうのはただ王族の機嫌を守るだけのものなの?」
そう怒鳴るアリスは普段の変人、奇人、変態要素が全くなかった。
「まるで別人だな」
ローイがそうつぶやく。心の底から同意できる。
そんな俺らの心境を無視してアリスは言う。
「騎士というのは確かに王や王族を守る盾でありそして剣よ。
けれども王と王族というのは国を守り国のために戦う存在。旗頭。
けれどもね。民がいない国なんてそれはもう国じゃないわ。
そして王が間違っているならばそれは命を賭してでも止めるのが騎士じゃないの!?」
逃げたお前がいうのか?
そう思ったが空気を読んで黙っておく。
「ま。逃げたあたしがいうのもなんだけれど」
あ、理解していた。
「けれどもこのままだと遅かれ早かれ国は亡びるわ。
その時に一緒になって国を滅ぼしたのになるか? それとも国を滅びをどうにか立て直そうとしたのか? それはあんたたちがしなさい。
……正直な話、あたし一人ではもう無理だったから立ち去ったのよ。
薬で自我意識まで奪おうとしたし」
「犯罪じゃねえか!」
すぱん!
アリスの発言に俺のツッコミが入りついでにハリセンで頭をたたく。
「あたしに文句を言われても……」
「まあ。それはもそうだが」
確かに薬で自我意識を奪われそうになった。それを被害者に文句をいうのはお門違いだ。よくテレビとかで性犯罪者があっちがさそったんだ。惑わせるような恰好をしている奴が悪いと主張する話があるがそれくらい勝手な言葉だ。
いや。俺は加害者じゃないからそこまでじゃないけれどな。
ちなみに俺としては被害者に同情する。
何しろこの体になってから痴漢や露出狂といった性犯罪者にわりと会うのだ。
この前も貧相なものをこれ見よがしに見せびらかす野郎が現れた。
あいにくとそれに赤面して悲鳴を上げるような性根ではない(精神は男)ので無言で股間を蹴り上げて小さいのを見せびらかすな。そういって鼻で笑ってやった。
同じ男としては同情するが性犯罪者を同じ男の部類に入れるのも嫌なので容赦しない。
とにかく空気が変わった。その原因は俺なので責任を取って俺は口を開く。
「正直な話だが、俺たちは迷惑をしている。
俺たちは俺たちで必死でどうにかしているしなんとかしようとしている。いろいろな考えがあるんだ。善意だけでこれだけ大きな力と権力で動かされても困る。
それが本音だ。
悪気がないのはわかっているがそれでも迷惑だ。
むしろ悪気がない分だけ止めることができずにいてその結果がこの形だ。
俺たちにしてみたら異世界という全く無関係の場所で起きた問題。そのせいで俺たちはとてつもなく苦労している。それを善意? 善意じゃない。ちゃんと責任を獲れと言っているんだ。そしてきちんと確実な問題解決を望んでいるんだ。
すぐに奇跡的な解決を望んではいない。いや。なるべく早くと思っているがそれでも違うんだよ。確実が大切なんだ。
それにだ。善意であろうが悪意であろうが……死人が出たらどうするんだ?
死んだ人間は生き返らないんだぞ」
そう俺は言い切る。
俺たちだって生きているのだ。本来なら過ごすはずだった日常があるのだ。
「これ以上、俺たちを困らせるなら出て行ってくれ。悪党ども」
きっぱりと俺はそう言ったのだった。




