十三話 テレビもバカも殴っても治らないが殴りたい
久しぶりの更新です。
スパパーン!
軽快な音と共に鎧をハリセンでひっぱたく。
普通ならばそれは意味がないことだろう。けれども呪いを解くことに特化しているハリセンはその鎧にかけられている魔法も解呪する。
その瞬間に魔法やフィリの攻撃で騎士たちは倒されていく。
「意外と簡単に攻略できるな」
てっきりもっと苦戦すると思っていたのだが思ったよりも簡単にどうにかできている。もちろん来る前に念のためにと対策を考えていたがまさかこうもうまくいくとは驚いた。
「実力者がそろっているんだよ。
もちろんこいつらも衛兵だろうがな。装備に頼りすぎている」
そうローイが呆れたように言う。
「自力が足りていない。そもそもお姫様はそうそう危険な場所にでない。
護衛というのよりも前線で立つものじゃない。
家柄の良いエリートだが実践経験があるエリートというわけじゃない」
「なるほど」
ローイの言葉に納得する。
つまり近衛兵たちは俺たちの世界で言うところのキャリアと呼ばれる人たちなのだろう。ミステリーの刑事ドラマなどで現場に立っているのはノンキャリアと呼ばれる人たち。大して現場に出ずに難しい顔をして指示だけする人がキャリア組と呼ばれるのだ。
もっと正確にいうなら警察学校を卒業しただけの人たちはノンキャリア。大学を卒業して資格を得ている人たちはキャリア組だ。
一見するとキャリアと呼ばれる人たちが有能に思えるかもしれないが実際は違う。言ってしまえば彼らは参謀のようなものだ。
現場でのいうろいろな雑務を知らない。
つまりお姫様の護衛などにはたけているがこうした乱戦には不得手というわけだ。
騎士たちはそれでも数で圧倒できると思っているようだが、
「フルー。大丈夫か?」
「大丈夫です。大人数で襲われることはなれています。
今までずっと一緒にいてくれる人もいませんでしたし!」
「あー。そうか……」
どうしよう。フルーの笑顔で答えてくる質問に俺は頬を引きつらせるしかできない。
大丈夫には珍しく使い方があっている。
あっているがその返答には涙を誘う。
そんな相手でも俺は対応する。
俺も薫も戦いにはたけているわけじゃない。だが、攻撃をよけることに集中するなら対応は可能だ。
そしてフィリとローイ。
「あいつら強かったんだな」
「住んでいる世界が違うのよ」
俺の言葉に薫が言う。
「本気で命のやり取りがあ実戦の世界。
あたしたちみたいにスポーツの世界じゃないのよ」
「まあ。確かにな」
俺はそういいながらすれ違いざまに一人の騎士をスリッパではたく。
スパーン! と、派手な音と共に鎧の魔法を解呪する。
そこに攻撃魔法が命中して相手を吹っ飛ばす。
そして確実に騎士が減っていくが、それよりも先に魔法は完成してしまった。
「さあ。呪いが解ける時です」
そういう言葉と共に空中に現れるのは白銀に輝く二つの鐘。
「あれは?」
「祝福の鐘です」
俺の疑問にフールがそう答える。
「祝福の鐘。儀式系の解呪魔法としてはかなりの高位の魔法です。
周辺の呪いを解呪していく呪いでこの呪いで解呪できない呪いはそうそうないです。
けれど……」
不安そうにジュリアが口を開く中で異変が起き始めていた。
突如としてホテルのいたるところからどす黒い靄の様なものが溢れてきたのだ。その靄は白銀に輝く二つの鐘にしがみつくとその鐘の色が変わっていく。
「な、何事?」
「やっぱりトラップがかけられていたわね」
驚くお姫様とは裏腹に舌打ちをするアリス。
「トラップ?」
「ええ。呪いの中には下手な解呪をした場合、その解呪を逆に取り込んで呪いが凶悪化することがあるのよ。呪いの魔女王ならばその程度は簡単よ。
だからこそ解呪は身長にしなければならないのよ。
広範囲で問答無用何でいうのは強力だけれどスキもある。
だからあんたのハリセンは一定の核を破壊するという形にしてそういったトラップに影響を与えないようにしているのよ」
怪訝な顔をする薫にアリスが説明するので俺も納得する。
「なるほど」
どうりでだ。そうひそかに俺は納得する。
そんな大規模の呪いを解く方法があるならばそれこそ呪いの魔女が復活したときにすべての呪いを自動的に説くための手段ぐらい要しておいてくれてもよかったはずだ。
なのにどうして道具であり一つ一つをしかも核を見つけて破壊しなければならない。そんな手間暇かかる手段しかないのか?
そう思っていたがちゃんとした理由があったようで納得だ。
これで納得できないのはこのデザインがハリセンだということだ。
とはいえ、それについては今は議論するべきところではないだろう。
そう思いながら、鐘を見る。
先ほどまでは白銀に輝く祝福の鐘という言葉が似あう清らかな鐘。子供の誕生や結婚式などに響き渡らせていたらさぞかしロマンチックだっただろう。
男である。大事なことなのでもう一度言うが男である(少なくとも精神は)俺でもそういった光景にはロマンを感じる。
けれども今の鐘は違う。
黒々とした輝きは邪悪という言葉が似あうし外見も変わっており毒々しい。さながら悪魔や魔王という言葉が似あう印象の鐘だ。
さらに響く鐘の音も先ほどまでの澄み切った音ではない。デスメタルとかそういった音楽の方がまだきれいな音色だ。そういいたくなるような音。
いや。下手をすれば騒音よりもひどい。
さながらガラスや黒板に釘でひっかいたような音というべきだろう。
つまり生理的な嫌悪感が強い音だ。
その音が響き渡って俺は思わず耳をふさぐ。
けれどもそれを不愉快に感じたのは俺だけではなかった。
フールを始めとした薫たち。さらには騎士団すらも耳をふさいでいる。この近辺にも街があるはずだし通っている人もいるだろう。近所迷惑になっているだろう人たちに心の中で謝罪を投げかけている中で鳥が墜落したのが見えた。
音が大きくてびっくりしたのか? それともこの不快な音についに倒れたのか?
そんなことを考える余裕すらないほどの不快音。
ただ、
「気をつけろ! おそらくだがただたんに不愉快な音を響かせるだけじゃないぞ!」
そう声を上げるが、
「―――? ――――!」
そう薫が叫ぶが何を言っているのか聞こえない。
周囲の音がうるさすぎるのだ。
ひょっとしたらローイやフルー。アリスなどがこの魔法の正体を気づいているかもしれない。けれども会話ができないこの状況では意味がない。
そう思いながら俺は周囲を見渡すと足元の床が変質して言っていた。
いや。それだけじゃない。ホテルの周囲の空間すら変わっている。
空間に色がついており禍々しいという印象の煙が湧き出てくる。いや、煙ではなく瘴気というべきだろう。これは質が悪いものだ。
俺はなんとか耳をふさいでいた右手を話してハリセンをふるう。
それによって俺に近づいてきていた呪いが弱まる。
それと同意にアリスが何かをした。
その瞬間に俺たちの周りに光の魔法陣ができる。
「これは?」
音も聞こえなくなったわけではないが和らいだので会話ができる。その状態で聞けば、
「おそらくだけれど呪いの祝福ね」
「呪いの祝福?」
アリスの言葉に俺は聞き返すと、
「やっぱりトラップだったか……。
それは他者からの恨みや憎しみを苦しめる鎧にして操るという鐘だ。
しかもこれは連動しているこのホテル全体の呪いを強化させているな。
このままだとこの建物を中心として町全体がこのホテルのようになる」
「まじか」
ローイの言葉に俺は思わず呻く。
そうなればこの街はただでさえ混沌としているのにさらに混沌とするだろう。そうなればさすがにまともな人間は住めなくなる。
仕事でいやいや来ている人だっていなくなるだろうし立ち去る人も増える。この街はこの世界の人たちの善意でどうにか支えられている部分がある。
もちろん俺たちがこうしてここにいて呪われている。
その責任はこの世界にある。
けれども世界中のすべての人間がその贖罪をしなければならない義務はない。
根本的に悪いのは呪いの魔女王だからだ。
そして呪いの魔女王はここにはいない。
だからこそ厄介なのだ。
そして、
「それよりもあのお姫様。
呪いにかかっているみたいだぞ」
そうフィリが言う。
見てみると騎士団を始めとして姫様の姿が変化して言っていた。
それは一言で言うならば異形。まさしくそう評するにふさわしい姿へと変わっている。
「どうやらあの鐘の音のせいで呪いを防ぐ効果も限界を迎えたわね」
「それだけ恨まれているということか」
アリスの言葉に俺はつぶやく。善意を振りまき恨まれていると思っていなかった姫。けれどそれは違うという証明だった。
「なンで? どぉしてぇぇ」
狭い洞窟で反響するような悲鳴。その叫びに俺は何とも言えない顔をする。
彼女は確かに善良だったのだろう。
けして悪い人間ではなかったのだろう。
それは認める。
けれども、
「決まりとか行動っていうのはさ。
相手の気持ちになって考えろっていうだろ。
けれど相手と自分が同じように感じるという保証もないんだよ」
俺は呆れながら言う。
「お前はもう少し世界を見るべきだったんだ。
自分と違う生き方、自分と違う考え方。自分と違う立場。
そんな奴らがいてお前と同じものを見ても違うように感じて違うように見える。
そういうやつがいるということに気づくべきだったんだ」
静かに俺はそういいながら近づく。
まあ。要約すれば、
「お前はもう少し人の迷惑を考えろ!
善意で行動すれば何をしてもよいわけじゃないんだよ」
俺はそういうと走り出す。
けれどもそれを、
「そんなわけぇない!」
子供の様な否定が帰ってくる。
「善意で行動しているんだもん!
みんなありがとうって言ってくれたもん!
間違っていないもん!
だって私は正しいんだもん!
間違ったことをしていないもん!」
「いや。間違っていたよ。お前は」
俺は叫び返す。
確かに出発点は間違っていなかっただろう。
けれども、
「お前は出発点を間違えてはいなかっただけだ。
途中で道を間違えた。
そしてそれを止めようとしている人の声を聴かなかった。
それが最大の間違いだ」
俺は止めたしそれを否定した。
間違っていると伝えていた。
けれどもこいつの耳には届かなかった。
俺だけではないだろう。
今まで、絶対に誰かしら何かを言ってきたはずだ。
少なくともアリス。
……彼女が家にいたときに何度も何かを言ってきていただろう。
家出……正確に言うならば城出をする前までに家を変えようとしていただろう。
確認したわけではない。それでもだ。
けれども誰もその声に耳を貸さなかったのだ。
そう思っている中で反撃が襲ってくる。
けれども、
「させないよ」
アリスがそう叫ぶと同時にその攻撃から俺を守るように盾が現れた。




