第十二話 善意で動けばハッピーエンドになる……わけない。
新年最初の投稿です。更新はゆっくりですが気長にお待ちください。
「な、なんだ!?」
「ああ。ついに呪いが解かれるのですね」
慌てる俺とは裏腹にマリアンヌはそううっとりとした声で言う。だが、
「何寝言を言っているのよ。
どうもそれとは違うわよ」
そう怒鳴ったのはアリスだ。
今まで見つからないように隠れていたがそれどころではない。
そう言いたげな様子で慌てていると懐から水晶玉を取り出す。
魔法使いらしい! そう一瞬、感動してしまったのだがそれどころではないとすぐに気を取り直す。
「何が起きているんだ?」
「最悪よ。呪いが妙な感じで活性化している。
やっぱり無理矢理な解呪方法だと呪いがさらに悪化するトラップが仕込まれていたのよ。呪いが一つに固まっていっているわ」
そう慌てたようにアリスが言う。
「これって魔力が危険地帯にまで近づいてるじゃねえが……」
「元々ある呪いの意思がさらに集まっています。
その結果、疑似人格を持った精霊化が見られます」
「専門用語を並べ立てられても困るんだよ!」
アリスの言葉にローイとフールが口々に言うので俺はそういってスリッパでひっぱたく。大変なことが起きていることはわかるが具体的に何が起きているかはわからない。
「わかりやすく言うと呪いに隠されていたものが出てくる。
おそらく精霊だ」
「精霊……」
その言葉で脳裏に浮かぶのは羽の生えた小さな小人。
「それってピーターパンに出てくるティンカーベルみたいな?」
「いや。それは妖精だろう」
薫の言葉に俺はそうツッコミを入れるが、俺自身も妖精と精霊の違いというのがよくわからない。それと俺たちが知っているのは所詮は架空の物語に出てくる空想の産物だ。
異世界の現実に実在している存在となれば話は別だったりする。
「精霊というのは魔力が固まって産まれた存在です。
今回、生まれるのは正確に言えば人工精霊です」
そう宣言する。
何でも魔力が高密度に集まりそこに意思があるとそれは生命と考えられる。それが精霊であり魔力の塊である彼らは魔力の質によって性質も決まる。
自然発生したそれらは普通に精霊と呼ばれる。だが、高位の魔法使いや長い時間をかけた儀式をすることで人為的に精霊を作り出せる。
精霊とはわかりやすく言えば意思を持ち命を持った魔法に近いらしい。
「なあ。つまり呪いから生まれた精霊って……」
「わかりやすく言えば意思を持った呪いそのものですね。
精霊が生まれた魔法となればその危険度は段違いに跳ね上がります」
「跳ね上がる」
ただでさえ厄介なことになっているこの現状。その危険度が跳ね上がるのはとてつもなく厄介なことになるのではないのだろうか? そう思っていると、
「大丈夫ですよ。私がやっているんです。
悪いことをしていないのに悪いことが起きるわけないでしょう」
まったく現実を理解していない脳内花畑女がそう言い出した。
「数多の人々の幸せと幸福を願いこうして慈悲を与えている。
そうしていることでなにゆえ、悪いことが起きるというのですか?
善意と愛を与えているこの行為。静寂なるこの街の人々はこうして守ってあげ我々が導いてあげなければ正しい道へと進めないのです」
ぶちん!
ブチ切れた音が聞こえた気がした。
「ふざけるな!
そんなわけねえだろうが!」
俺は気が付けばそう啖呵を切っていた。
「善意で動けば必ずハッピーエンドになる?
それなら世の中はもっと平和になっているわ!
善意で行動したところで結果として不幸な結末になるんだよ。
そうじゃなけれは悲劇も惨劇もおきたりしねえんだよ!
つか、現実をしっかりと見ろ!」
俺はそういって怒鳴る。
そして周囲を見回すように促す。
「よく見ろよ!
これが幸せに近づいているように本気で言っているのか?」
実際にホテルはどんどんと様変わりをして言っていた。
現代日本式のデザインだった建物のデザインはどんどんと漆黒に染まりまがまがしい呪いの建物へと変化して言っている。趣味の良い調度品はまがまがしい悪魔の像に代わり流れる水は毒々しい紫色の液体へと変わる。
それだけじゃない。
従業員にも変化が出ていた。
怪しげな煙に飲み込まれると同時にその姿が異形へと変わっているのだ。
「呪いの影響で肉体まで影響が出ています!
このままだとたとえ呪いを解いたとしても元の人間の姿へと戻れません。
……救うには命を奪うしか」
その言葉に俺は怒りが限界突破したのがわかった。
すでにこれ以上、怒ることはないと思っていたがどうやら限界を超えたらしい。
「このっ!」
俺は走り出す。
騎士たちも動けない。
状況が本気で最悪の結果へと向かっている。
そのことに気づいているのだろう。
そう思っている中で俺は一気に姫様に近づくと思いっきりその顔を殴り飛ばした。
どっご!
派手な音と共に姫様は吹っ飛んだ。
「姫様!」
「きさま!」
「うるせえ! このくらいで終わらせてやっているんだ!
このままだとこのホテルにいる人間すべてが人として死ぬんだぞ!
それをしたのはこの姫様だ!
つまり、この姫様は……大量殺人犯なんだよ!
それとも何か? この世界のこの国だと王族なら人を殺してよいのか?
そんな寝言を本気でぬかしているんじゃねえだろうな!?」
「そんなわけじゃないだろう」
きっぱりと俺の言葉にそう否定をしたのはローイだ。
「これは十分に国際問題だ」
ローイはきっぱりという。
「姫様。
今まで身分を気にしておりましたがそろそろ身分で解決しないことになってきましたよ。確かにあなたは善意で動いているでしょう。
けれども善意で動けばすべてが解決するわけじゃない。
私はそのことで大きな過ちを犯しましたが幸いにも最悪の結果はならなかった。
けれどそれを罪として反省をしています。
姫様。今ならばあなたも立ち止まれます。
けれどこのままだとそれもできませんよ」
ついでに言うと同情する気にもなれないからなぁ。
ローイの言葉に俺は思う。
ローイは術式の道具とされてしまっていて狂った信者たちのために操られていた。その結果だったので被害者の側面が強いというのが俺の判断だ。
けれどこいつは違う。
それでも止めようとしているあたり、ローイはわりと甘い男かもしれない。
俺が本当に女だったら少しばかり惚れていたかもしれない魅力だ。
ただし俺は体はさておいて精神は今でも男なので惚れない。
そして、
「まあ。おかしなことを言いますのね」
脳内お花畑人間にはその言葉は少しも伝わらなかった。
「罪だなんて……。
それは悪意を持った者たちが犯すことでしょう。
私は悪意なんて持っていませんわ」
「善意で行動すればそれはすべて罪じゃないとでも?」
そういったのはフィリアだ。
「だとしたらとんだお笑い話よ。
たとえば金がないけれど弟にご飯を食べさせたい。
そう思って店先から商品を盗む。それが罪じゃないとでも言うつもり?
いいえ。同情するけれどそれは罪よ。
そしてあなたがやっていることはもっと質が悪いわ。
もっと冷静に状況を見れば他に方法がある。
いいえ。他の最善の方法を試そうとしているのに……。
あなたは最悪の手段を取ろうとしている。
だというのにその行動が最悪の結果につながる。
そうわかり切っているのに善意で行動しているから最悪じゃない。
そう思い込んできちんと前を見ていないわ」
地獄への道は善意で舗装されている。
そんな言葉を聞いたことがあるような気がする。
その言葉が目の前の相手にふさわしかった。
「何をいっているのかわかりませんわ」
必死の言葉も相手には伝わらなかった。
「ジャマを何故するかはわかりませんが邪魔するならば止めましょう。
そして私は人々を救済するのです」
「ならこっちは実力行使だ」
俺たちはそういうと走り出す。
なるべく話し合いにしようと努力もした。
ついでに言うと念のためにとスマホで今回は記録済みだ。こちらの世界の司法制度はさほど詳しくはない。詳しくはないがこちらの常識から考えると会話の録音による証拠集めは大切だ。
少なくとも俺たちの世界では権力者は都合が悪くなると、
「記憶にございません」
そう言い張っていたものだ。
まあ。それはたとえ証拠である会話を記録されていたとしても主張していたのだがそこはさておいておこう。
その瞬間に騎士たちも動き出す。
そして切りかかってくるのを俺は避けて足払いをかける。
まったくもって両親には感謝しかない。どんな種類でもよいから格闘技を教える。それを持論にしており俺もこうして空手を学んだというわけだ。
もちろんこれで騎士相手に互角の勝負ができるなんて思ってはいない。そもそも平和な現代日本で空手で剣を持った騎士相手に戦うことを推定しているやつは普通はいない。ついでに言うと武器を持っている人間の方が基本的には武器を持たない人間より強いのだ。
格闘技の経験がない人間でも棒切れもって振り回せば多少は警戒しなければならない。そんな理屈だ。
そして相手は騎士。しかもお姫様の護衛を任せられているのだ。
実力だって本物だろう。
物語などで親の権力やコネで出世するバカというのはいることにはいる。けれどもまさか全員が全員そんな騎士団なんてさすがにあり得ないと思う。それを期待して戦ったら間違いなく痛い目を物理的に見るだろう。
それに何より相手は全身を鎧で守っている。
それを無視して殴り飛ばせなんて言うのは元の男の体でも無理だ。それが今や女の体である。筋肉も体のつくりも変わっている。
けれどもどうにか慣れており攻撃をよけることはできる。
呪われた人間やアイテムなどならば背中のハリセンで一撃必殺が可能なのだが、相手は呪われていないので効果がない。
けれど、
「稲妻雨」
カミナリが落ちているのかそれとも雨が降っているのかわからない技名が響く。
そんなツッコミどころ満載の頭の悪い技名だったが効果は本物だった。
上空からいくつもの電撃が騎士たちに命中する。
だが、
「おろかな! 我ら騎士団は邪悪な魔法を打ち破る加護を持った鎧を身に着けている。
姫様を守る我らに邪悪な者が使う魔法なんぞ無意味」
「大丈夫です!」
その言葉にフルーがそう宣言する。
そうこの魔法はフルーが使ったのだ。
邪悪と呼ばれているのだがフルーは気にした様子はない。
「その子とは知っています」
「だからお前、大丈夫の使いどころは間違っているって」
フルーの言葉に俺はため息交じりに突っ込む中で、
「加護返品」
そうローイが魔法を発動させた。
呪いを解呪させる専門家であるフルーとローイ。呪いの影響で解呪の魔法が苦手であるがローイは普通にできる。
そしてこの魔法を防ぐ魔法というのも実は呪いの一種だというのだ。
ほかの魔法にかからなくするという呪いともとれる。そういった使い方次第で守ることができる魔法を消す魔法を発動させたのだ。
もちろん国の姫を守るような騎士団が使っている鎧にかけられた魔法。
普通ならばそれはできなかっただろう。……そう普通なら……。
(02/03/24)誤字脱字を簡単にですがあらかた直しました。




