おお。聖女よ。来なくてよいので帰ってください。
聖女が来た。
思わず帰れ! そう叫びたくなる。
「このホテルが呪われていると聞いてこられたそうです。
魔法協会の方が来ているといったのですがぜひとも自分にも協力をと」
「あー。ちょっと待ってください」
俺達は慌てて顔を合わせる。
ここですべての事情を話すわけにはいかない。
すべての事情、フルーがすべての元凶の娘であり復活の媒体である。アリスが聖女の姉だということ。それらを話すのはいろいろと複雑すぎる。
なので当たり障りのない話をすることにした。
「すみません。実はどうも聖女の方が我々と誤解をしているのです。
こうして俺たちが呪われているのに手伝っている。
それに関して聖女は良い顔をしていない様子でして……」
まったくの嘘ではない。毎日、毎日のように来ていた聖女。とてつもなく高飛車というか善意百パーセントで見下してきていた。
上から聖女目線。
「彼女はその善意で動いています。
ですが善意であると同時にどうも俺たちを見下しているように感じるのです」
「ああ」
しばらく会話をしていてそれを感じていたらしい。
俺の言葉に納得した様子のオーナー。
「毎日のように家に来られて……。
いい加減、このままだとノイローゼになる。そう感じたんです」
これも嘘ではない。
あんな風に毎日のように来てやれお茶や茶菓子の味に文句を言う。家の作りに文句を言う。しかも聖騎士だがなんだかしらないがそいつらが所狭しといて圧迫する。
聖女と名乗っていたとしても迷惑極まりない人間だった。
ノイローゼになるというのもあながち大げさではない。
「なのでこの仕事を魔法協会から受けたんです。
家を空けてしばらくいれば……。
あ、モチロン。ホテルの呪いを解こうと努力しています。
手を抜いていたりはしていません。
ただ知り合いの家にも行けなかったのは事実ですが……。
もちろんこのホテルの仕事が終わったら別件で泊まり込む仕事場はあります」
前半は本当だが後半から嘘になっている。
そうそう泊まり込みできる仕事なんてない。
だからここがおわったらまた仕事なしの状態へと戻ってしまうのだ。
その場合、どこか適当な山でも住み着いてサバイバルをしようかと考えている。
町ごと異世界転移しておいてなんで山に潜ってサバイバルをするのかはわからないが……。それはしょうがないということであきらめている。
サバイバルといってもテントはあるしキャンプ道具も用意してもらっている。
どちらかというとサバイバルというよりはキャンプだ。
俺も子供のころはサマーキャンプなどに行ったしボーイスカウトにも参加した。そのためにそれなりにキャンプ慣れをしている。文明の利器があればそれなりに良い環境で眠ることができるだろうと思いたい。
そう話しながら俺は涙ぐむ。
そして呪いの仮面を少しだけ外す。俺の魅了がオーナーにダイレクトに命中した。
いや、別に何かが決定的にぶつかったわけじゃない。ただその俺の魅了にときめいたようなオーナー。もちろん少しだけなので呪いの影響もないだろう。
涙ぐんだので涙をぬぐうために仮面をずらしたように見せるのも忘れない。
「異世界というもともと、生まれ育った国どころか世界も違う。
また彼女は王女様です。俺たちとはいろんな意味で住む世界が違うんだと思います」
これは本当だ。
地位が違うとその不平不満はわからないし国が違えば環境が違う。
たとえば秋の至宝の味覚と評されるマツタケ。あいにくと食べたことなんてせいぜいインスタントのお吸い物ぐらいしかない(そもそもあれに本物が使われているのかすら怪しい)俺にはわからないが外国ではマツタケの香りは悪臭だそうだ。
そもそも生魚(さしみ)を食べるのも国によっては信じられないことだ。納豆なんて良い例で国にとってはとてもじゃないが人類の食べ物じゃない。そう主張する者もいる。
……納豆は国どころか人によって受け付けない人もいるんだけれどな。
そして地位。
俺は生まれも育ちも根っからの平民だ。
王様の考えなんて俺には理解できないだろう。
「まあ。確かに」
その言葉にオーナーも理解してくれたようだ。
「なので協会から正式な協力要請があるならばその証明をみせてほしい。
それがないのならば失礼ながら不要。
姫様の助けを求めているものはたくさんといます。
どうか姫様はほかの方を助けてください。
そう言っていたと伝えてください。
下手に協力してしまえばどちらがどちらの意見を聞くか。
それでいらない騒動になるかもしれません。
急な話でこちらも対応がしきれませんし」
「なるほど」
オーナーは俺の言葉に納得してくれた。
そもそもいきなり協力しましょう。と、言われても困る。
これが学校で職員室に書類やらノートを持っていく。そういうものだったならば手伝おうか? そういわれたら助かるな。その程度だがこれはどっちかというと会社でやっている一大企画だ。
どちらが主体になるのか、誰が支持を出すのか。そしてその利益はどちらがどうとるのかで余計な喧嘩になるかもしれない。そんな感じだ。
何しろこれでわかるのは新しい呪いの形とそしてそれの解呪方法だ。
これがわかれば判明して分析した、そして解呪した人間は名を広く知らしめる。つまり名誉を手にする。名誉というのに俺は興味がないといえば嘘になるが魔法に関しての名誉なんぞどうでもよいというのが実情だ。
だが、あちらの国にしてみたらそれは違う。
姫君が呪われた異界の都市にわざわざ赴いて呪いを解呪していった。そしてその中で、新しい呪いを発見してその呪いも解呪した。
そうなれば姫君への引いては国への名誉が名が上がり国家同士での話し合いでも有利に動くだろう。つまり争いの種になるかもしれないのだ。
姫君がどんな反応するかはわからないがこちらの感情を理解してくれるとは思えない。騎士たちはあのお姫様が白と言ったら黒い犬だって白だと主張しかねない。そんな忠誠心と何も考えていないは同じじゃないだろ。
そういいたくなるような騎士たちでは話し合いにもならない。
だから俺たちは速攻で断ったのだ。
しかしこれで厄介なことになったな。俺は嫌な予感を感じながらため息をついた。
「まあ。聖王都にいつまでも隠し事ができると思っていた方が無駄だからね」
そういったのはアリスだった。
「そういうもんか?」
「そうよ。あの国は聖騎士だけじゃないわ。
聖職者も当然いるわ」
聖職者。この場合は神官、巫女、僧侶という意味だろう。
「けれど国家だからね。きれいごとだけじゃダメなの。
暗殺部隊とか諜報部隊とかそういう汚れ仕事を担当しているやつらもいるわ」
「聖人君主を名乗っていても所詮は人間というわけか」
元王女の言葉に俺は肩をすくめる。
「冷静だな」
薫がそうつぶやけば、
「事実は事実だからな。
今時でもそりゃ暗殺者はさすがにいないと思いたいがたぶん殺し屋という職業はどこかにいると思うし、政治家が邪魔な政治家を秘密裏に始末する。
そんなことをしていたなんて話があったとしてもおかしくはないぞ。
……気分はよくないけれどな」
汚職に賄賂、脱税などなど……。
政治家の悪事なんて探せばキリがない。
それにこの世界は俺たちほどに政治は安定していない。
戦争がどこかで起きていてもおかしくない。
だとしたらそういう存在がいたとしてもおかしくないのだ。
「江戸時代だってそうだろ。
一応、繁栄の時を長く知らしめたけれど……。
その裏で暗殺、毒殺、病死。忍者だって活躍していたと思うぞ。
表立っての大騒動にならなかっただけだろうけれどな」
「まあ。確かにね」
日本史をある程度、それこそ小学生レベルでも不自然な死というのは探せばある。
それに、
「暗殺者とか言う言い方が気に入らないなら諜報員ならどうだ?」
「あ、なるほど」
俺の言葉に薫も受け入れる。
諜報員。スパイ。
それならば不思議と現代でもよく聞く気がする。
まあ。言ってしまえば日本警察でも潜入捜査官というのがいたりおとり捜査がある。それだってスパイとか諜報員といえばそう言えなくもないのだ。
「まあ。この中に裏切り者がいるという意味じゃないけれどな」
「大丈夫です。
聖王都の中枢の人ならばたいていは私を見た瞬間に殺そうとするのでわかります」
「だからそれは大丈夫ないからな」
フールの言葉に俺はそうツッコミをいれておくのを忘れない。
つか、条件反射レベルなのか?
そう尋ねたくなる。
「まるで条件反射みたいに」
「あ、そんな感じよ。あたしは例外だけれど」
薫も同じことを思ったらしくつぶやけばアリスが絶句したくなるようなことを言う。
「余計にあのお姫様にフールを合わせるわけにはいかなくなったな」
合わせた瞬間に殺そうとした結果、フールの第二の呪いが発動する。
その場合を想像したらゾッと血の気が引いたのがわかった。
とにかく最悪の状況に対する対応を考えることにした。
もちろん呪いの解呪もしているがそちらはフール達にお任せだ。俺がやるのが最悪の可能性対策だ。そもそも最悪の状況を考えて対策をとる。それが大切だ。
小学校で避難訓練をするのも地震、雷、火事、親父からの対策のためだ。……いや、親父は関係ないけれど(つか、親父って父親という意味じゃなかった気がする)
良い例が大震災だろう。地震がおきて津波が起きた。まあ。ここまではよくある……とまではいかないが因果関係として結べる。そうそう起きないような大きな地震だったのが問題なんだけれどね。
けれどもっと大きな問題は発電所での大パニックだ。大きな会社のところだったのも手伝っての連日報道と電力不足の問題。さらにその電気発電によるデメリットが大きく取り上げられた。最悪の状況が訪れたようなものだ。
だから俺も最悪の状況に備える。
最悪の状況とは何か? 答え、フールの呪いが発動して死人が出てフールが元凶の娘だということが町中に広まってしまうこと。
そうなった場合どうするか? どうしようもないだろ。それ
起きた場合の対策がないことがわかった。
なので防ぐ方法を考えることにする。
その1、姫様ご一行とフールのエンカウントを防ぐ。
現在進行形ですがどんどんと難しくなっております。
その2、フールを守る。
姫さまの戦闘能力はよくわかりませんがたぶん騎士たちは強いですよ。
その3、人気のない場所にしておく。
それでも厄介だよね。
「……対策が」
あっというまに困ったな。と、言う状況になってしまった。
「フールがフールだとばれないようにでもしてみるか」
俺はそうつぶやく。
ホテルの中にはコンビニがあるのが最近の流行? だ。いや、語弊があるが駅近くのホテルとなるとコンビニが内蔵されている。
お土産向けのお菓子とか部屋で飲めるよなご当地お酒とおつまみ。お風呂上りに食べれるようなお菓子に退屈しのぎ用の本が主体だが他にもある。
こだわる人用に旅行用の小型のシャンプーやトリートメント。そしてその中には髪の毛を染めるやつとか簡単な帽子やスカーフ。それと下着の類もある。
さすがに普通の服はないんだけれどね。
まずフールの髪の毛を黒に染め上げます。
そして三つ編みにしてまとめ上げます。
……こちらの方は薫がやってくれた。
「よくできるよな。こういうの」
「まあ。手間がかかるのは認めるわ。
けれど特徴の長髪を隠すならこれが一番なのよね」
俺の言葉に薫がそういう。
三つ編みにして編み込んでそこから大きめのバンダナで結ぶと黒髪のショートヘアーに見えるようになるというわけだ。
さらに服装を俺の持っていた男性用の服に着替えてもらう。
そうしてあとは化粧をすれば、
「これでごまかせるかな?」
「まあ。大丈夫じゃないか?」
男! と、断言できないがボーイッシュな女性。あるいは中性的な男性。
そんな感じにフールはなっていた。とはいえ、それで安全というわけではないが……。




