第三話 呪いの魔女姫と聖淑女の姫君なんて字面だけは綺麗
「あの国ですかー」
と、フルーは淡々とした様子で言う。
「何を他人事のように言っている。お前を殺そうとしているかもしれないんだぞ!」
「別に珍しいことじゃないですしね。
ほら、ローイさんだって私が死んでほしい。と、言っていたじゃないですか」
ローイが怒鳴るように言えば、フルーが笑うように言う。
その言葉に絶句するローイ。パクパクと、酸欠の金魚のようだ。
ま、たしかにローイに言う権利はないのかもしれない。
俺はそう思いながら、口を開く。
「と、いうか知っているんだな」
「ええ。呪いの解呪屋を目指すなら一度は、最低でも行っておきたい国ですしねー。
宿で寝ていたら、捕まって塔に監禁されて水責めで殺されそうになりました。
そこで、アリスと出会ったんですよー」
「ああ。懐かしいわね」
「すごい状況で出会ったのね」
と、フルーの言葉に薫が頬をひきつらせながら言う。
「はい。その時は、アリスさんはお姫様でした」
「ああ。昔の話よ。
王位継承権も地位も権利もいらない。と、手紙を書いたわ。
あの魔法協会のエルフお姉さまは心配をしているけれど、ちゃんと言ったんだから用事はないはずよ」
「それ、本気で言っているのか?」
アリスの言葉に俺はうめくように言う。
どうやら、思った通りというべきかアリスはアイリスだったらしい。
「?」
「王族である。と、いうのは義務でもあるんだよ。
それも、お前の方は特殊な力を持っているんだろ」
「一応ねー。ま、処女じゃないとだめなんだけれどね。
あ、ちゃんと処女だからね」
と、あっけらかんという。
「あのな。異性を前に、そういう言葉を連発するなよ」
俺の言葉に同じく男であるローイがうなずく。
いや、今の俺を心の底から男だ。と、断言できるかは少しばかり怪しいのだが……。
「あたしはレズビアンよ!」
「自信満々に叫ぶな! そういうのは!?」
と、俺は叫ぶ。
いや、薄々と気づいていたけれどな。
「失礼ね。言っておくけれど、それはあの実家が望んだことよ。
何しろ、処女でいてもらうために徹底して、男と縁のない生活。そして、男が危険で恐ろしいとかの洗脳めいた教育。いや、さすがにそれを違和感をもっていたけれどね!
けれど、女性だらけの生活。
そのせいで、女性が恋愛対象になったわ!」
「うわぁ」
思わずと、いった感じでうめくフィリ。
「教育って、大切なのね」
と、よくわからないことを納得したように言う薫。
まあ、それはわかったが問題は違う所だ。と、俺は頭痛を耐えながら口を開く。
「向こうは、お前を自由にさせるつもりはないのかもしれないぞ。
相手は、何かをたくらんでいる。その可能性が高い。
警戒をしてもしすぎることはないはずだ。
下手をすれば、この町の中でフルーが殺される可能性が高い。
そうなったら、どうなる? この町の連中は、フルーの母親のことを知らない。
だが、殺されてしまったらフルーの呪いが発動する。そして、フルーの母親が芋づる式で知られる可能性がある。
暴徒が起きる可能性が高いぞ。呪われて苦労している人間も多い。
そして、死人が出たらその呪いの苦労がさらに火をついて狂気になる可能性が高い。
それだけじゃなくても、フルーがこの状況の現況の娘。それを知らしめて、世論を動かすという可能性もある。
次に、アリスを連れていく。
強制的になのか、それとも頭を使ってなのかは知らないけれどな」
正直な話、アリスの場合は死んでしまうわけではない。なので、フルーより困るわけではない。だが、だからと言っていなくなって良いわけではない。
フルーの事情を知っていて、こちらの協力をしてくれる人間。そんな奴は少ないはずだ。そのうえに、まともに魔法を使えるとなると数少ない。
「だから、気を付けるべきだな。
方法としては、この町から一時的にだが逃げる。と、言う方法もある」
「どういう方法だ?」
と、俺の言葉にローイが言う。
「俺たちの世界には、逃げるが勝ちという言葉があるんだ」
俺はそう断言する。
「けれど、現実的じゃないわよ。
この町は、特殊空間。入るのにも許可がいるし、出るのにも許可がいる。
あたしたち、この世界の住民は入るのに許可がいる。
まあ、入るのはそれほど難しくないけれどね。
けれど、この町の元からの住民が出るのは大変よ。
前回にこの町を出られたのは、ちゃんとした理由があったからよ」
「まあな。わかっている」
と、俺はうなずく。
前回も、前々回も魔法協会が許可をくれたからだ。
それを、考えると否定はできないのだ。
今回はさすがに難しいだろう。
そう思っている中で、
「なら、どうするんだ?」
「今、いろいろと考えているところだ。
まあ、なるべく拘わらないようにすることだな。
で、聞かれても知らない。他人です。と、ごまかす。
嘘も方便だ」
「なんですか? ウドの砲弾って?」
「嘘も方便。
嘘も使い方次第で正しいことになる。と、言う意味だと思ってくれ」
正確に言えばちがうかもしれないが、そんな感じだ。
嘘は泥棒の始まり。と、いう格言もあるので軽い矛盾が生じているような気がする。
それを指摘しないでおいてほしいが……。
まあ、今はそれどころじゃないだろう。
俺はそう思いながら、家にあるはずのものを考える。
そして、近くのお店でおそらく残っているだろう品を考えて対策を考えたのだった。
「オーソドックスだね」
「シンプル・イズ・ベストだ。
フルーのことだって直接知っている人間は少ないはずだ。顔まで知っているとなると、数は少ないだろうし、ごまかしがきくはずだ。
アリスだって家出して数年たっているんだし、王女を直接、まじかで見た人間なんて少ないと思うぞ。俺たちだって、天皇様やら外国の王様を直接、視たことなんてないだろ」
と、兄貴の言葉に俺はそう反論する。
そう。変装である。
今、俺たちの世界製品で品薄になっているのは食料だ。特に保存がきく食料はほとんどなくなっている。その二が、日用品や薬品だ。
たいして、売れ残っているのはパーティグッズや子供のおもちゃ、あるいは特に必要じゃない品々だ。その中には、髪の毛を染めるための品もある。
俺個人としては、髪の毛を染めることには興味ない。白髪染めなら理解はできるが、俺にはまだ縁がない。かつらやウィッグも今のところは縁がない。(ウィッグはともかく、かつらは一生、縁がないことを心から願う)。
それらを使い変装をすることにしたのだ。安物のかつらではごまかしが難しいが、髪の毛を染める事なら簡単だ。
それなりに良い品を使い、髪の毛を染めさせる。フルーもアリスもこの町の住民の大半の特徴である黒髪にして、カラーコンタクトで瞳を黒色……ではなく、茶色にしておく。まだ、色が濃い目なので気づきにくいだろう。
さらに、化粧をする。
問題は、化粧である。
俺は、自慢ではないが化粧をしたことがない。
「兄さん。あなたは、化粧をしなくても十分に魅力的だ。
本当の美とは、何かを彩らずただ存在しているだけで美しいのですね」
と、言う寝言を言う吉成の言葉は無視しておく。
普通、健全な男子高校生が化粧の仕方なんて知っているわけがない。我が家で化粧の方法を知っているとなれば、母さんであるがいまだに母さんは父さんと同じく、金魚として泳いでいる。
「なあ。薫は?」
「ムリよ。そもそも、化粧と言っても基本しか知らないけれど、格闘技で化粧はあまりしないし……。そもそも、化粧というのは基本は親から教わるのよ。
あたしは、販売員さんから教わったけれど限界があったわ」
と、家に来ていた薫に尋ねるが断られる。
同じ理由、さらに女であることを否定していたフィリは論外。そもそも、使うのは俺たちの世界の化粧品だ。
どうも、この世界の化粧品は質が良くない。さらに、言うならおしろいに水銀などが使っているらしく、体に悪い。そのことも手伝って、俺はこの世界の化粧品にすることにした。と、言うか普通の化粧品を近いうちに、販売するべき気がする。
この町の存在価値を高める方法も考えるべきだろうが、一介の一住民である俺には何かできるとは思えないのが事実だったりする。
「と、言うかたしかに女は化粧で化ける。と、いうけれどね。
化けるほどの化粧をさせれる人間は、それこそプロ級の腕前が必要よ。
そういう人間を雇うべきだし、そもそも化粧は毎日、落とさないといけないのよ」
「化粧、したまま寝たらいけないのか?」
「皮膚呼吸をしているのを、化粧は止めているのよ。
肌が荒れるわよ!」
俺の発言に薫はそういって俺の頬を引っ張る。
うーん。化粧でさらに、ごまかすという作戦は難しい様子だった。
「そうでもないですよ」
と、言ったのは、クラスメイトの三原だ。
今日は、下半身がタコ。上半身が猫。と、言う新種の宇宙人のような姿をしている。
「化粧は、それほど簡単ですよ。
肌の色を変える程度で十分ですしね」
そういって化粧品屋さんで購入したのは、ちょっと色が黒味かかった化粧下地というものと、ファンデーションという粉だ。
「ファンデーションなら見たことがあるけれど、化粧下地ってなんだよ?」
「化粧ののりをさらによくするものですよ。
化粧下地をするだけで、ずいぶんと違うからね」
そういって、三原さんは化粧をぬる。
「変装で肌のいろを大きく変えるなら、顔だけじゃなくて首回りや耳。あと、手や腕もそうする必要があるわね。あと、肌が露出している部分はすべて」
と、言って下地をぬっていきファンデーションで塗っていく。
二人とも、色白な肌なのだが今はその化粧で日焼けした小麦色の肌だ。
「なんか、息苦しく感じる」
「慣れれば大丈夫よ。
この程度は十分に薄化粧だしね」
と、肩をすくめる三原さん。
「ほら、世の中にはものすごい厚化粧の人とかいるでしょ」
「そういう問題?」
と、俺はつぶやきながら変装をした二人を見る。
アリスは、金髪を染め上げてブラウンヘアーにしており普段と違い髪の毛を後ろで一つ三つ編み状態にしている。小麦色の肌をしており、ちょっと活発な少女。と、言う印象だ。身に着けている服も、現代の服であり薫から借り受けたデニムズボンに、デニム生地のジャンパー。長袖長ズボンなのは、肌の色をごまかしやすいようにだ。
フルーは髪の毛を赤茶色へと染めあげている。
さらに、パーマーをかけておりストレートの黒髪からウエーブがかかったくせ毛だ。さらに、肌の色は小麦色であり、普段のじみ目な服装じゃない。
ダメージジーンズをはいており、チェーンがやたらとあるワイルドな服装だ。ただし、肌の露出はほとんどない。まあ、肌の色をごまかすために必要なんだからしょうがない。
とにかく、ごまかすのに必要なのだ。
しかし、
「肌の色を変えただけでずいぶんと印象が変わるな」
と、俺は言う。
「まあ、髪の毛の色が違うだけで助かるからな」
と、言ったのはフィリだ。
「オレも覚えがある。
家を飛び出たばかりの時はな。
もともと、変装などでうるときにかつらをかぶる。と、いうこともある。
かつらをかぶって顔をうつむいておく。そうすれば、顔は見当たらない。
何より、後日に聞かれたとしてもそいつの印象は、こういった髪形のやつ。と、いうふうになる。わたしの方は、髪形を変えると男らしくみえなくなるかもしれない。
そう思ってしなかったが」
「なるほど」
人の説明と言えば、髪形になる。たとえば、三つ編みの少女。ロングヘアーの少女。くせ毛の少女。ポニーテールなど、それだけで少女の印象だ。
俺はそう納得をする。とにかく気休めとはいえ、そう言ったことをしている中でついに、件のお姫様が来る日が来たのだった。




