第三話 お前かよ! と、思わずツッコミを入れる呪われた存在
改めて、隆司さんを見ると呪いが二つ見えた。
青色と赤色の二色の呪い。
そして、続いて総司さんを見る。
総司さんには紫と青の呪い。
だが、青ではなく総司さんが主体となっている呪いは紫だ。
「この人の呪いが原因じゃないな」
「そうだな。
……この呪いは……」
と、ローイが分析を始める。
なんでも、ローイはきちんと優秀な成績の持ち主らしく、プライドから空回りさえしなければ有能らしい。
「こいつの呪いは……異性からの生理的嫌悪だな。
異性から生理的に受け付けなくなる呪いをかけられている。
とはいえ、呪いそのものは弱いから……ここまで、嫌悪されるのは当人の問題だな」
「自業自得じゃねえか!」
と、俺はツッコミ次いでにハリセンでひっぱたく。
とはいえ、生理的嫌悪は消えない。
不潔でデブでその上に引きこもり。
うん。仲良くなろうとする気にならねえよな。
世の中には、デブ専という太っている男性が好きだ。と、いうマニアックとまではいかないが、そういうのが好きな人がいる。
それに、太っている人間が駄目だというつもりはない。
とはいえ、やはり心が大切だし清潔感も大事だ。
太っている人が好き。と、いう人だってきちんと毎日、お風呂に入っている人じゃないとだめだろう。ほのかに彼からするのは酸っぱいにおい。
脂ぎっているし、髪の毛はぼさぼさ。
何より、二次元という妄想の世界から出てこないのだ。
そんな人間を相手にするような存在は、そうそういないに決まっている。
不潔、デブ、働かない。
そんな三拍子が整った男性なんぞ、まず気に入られない。
まあ、女性だって最低だと思う。
そんな人間が好きというのは、よっぽどの変態か特殊な性癖の人間ぐらいだ。
「青色の呪いが気になるな」
と、俺は青色の靄がする方を見る。
そちらの方へと続いて俺たちは歩くと、
「この部屋は?」
「あ、これは……兄にゃんのもう一つの部屋ですにゃん」
「もう一つの部屋?」
「ええ。元々、俺たちは二つの部屋を持っているんですよ。
親は金持ちでしてね。だからこそ、お兄様ももともとはエリート街道まっしぐらニャ。
けど、ご主人様はドジだからちょっと失敗したんだニャ」
なるほどな。金持ちで両親に期待をかけられていて、今までそれを答えていた。
金持ちで成績優秀ということから、自分は恵まれた人間。
失敗なんかするわけない。と、いう思い込みから初めての挫折。
そのことから、引きこもったのだろう。
「で、ここにはお兄ちゃんのペットがいるニャ」
そのペットというのはちゃんと動物だろうな。と、ひそかに俺は思った。
ぺっとといいながら、実は人間を飼育している。と、いう犯罪者だった。と、いう落ちはなかった。人間としていろいろと問題があるが、さすがにそこまで落ちぶれてはいなかったようである。内心、そんな失礼なことを思ったことは内緒にしておく。
とにかく、その飼育しているのは一匹の……、
「豚?」
「猫ちゃんですニャ」
ものすごく偉そうにふんぞり返っている猫である。
でっぷりと太っているのは、無駄なぜい肉であり標準的な猫の体形の三倍はあるだろう。
「異世界の猫は太っているんですね」
「いや、これがひときわデブなだけだ」
フルーの言葉に俺は言う。
野生……もとい、野良猫というのならばここまで太ることはないだろう。だが、飼い猫の中にはものすごく太ってしまう猫がいる。と、いう話を聞いたような気がする。
まあ、何しろ三食、毎日のように栄養満点……場合によったらおいしい食事。外敵の心配もなければ、暖かい寝床は常に用意されている。
本来、猫はねずみを刈り取ることが仕事であったはずなのだ。人間が猫を飼い始めたのも、言ってしまえば猫としての仕事。すなわち、ねずみ退治が仕事というのだ。
嘘か本当化は知らないが、天竺からお経が伝わるのと同時に猫も伝わってきたそうだ。経文をかじってしまう鼠を猫が退治する。と、いう役目をもってだ。
だが、現代では鼠を退治する猫ばかりとは限らない。飼育されているために、えさを取るということを忘れてしまったのである。
まあ、猫好きにしてみたら猫はただいるだけで十分。と、主張するそうだ。
ついでに、現代ではねずみ退治の道具や薬も豊富だしな。と、俺は思う。
とにかく、おそらくこの猫はまともに運動をしなかったのだろう。
「あのさ。ちゃんとダイエットさせなよ」
と、俺は言う。
動物は飼育していると気をつけないと、肥満になりやすい。
何しろ、本来動物は動き回るし本能的に、食べれるときに食べるという考えを持つ。狩りをしている動物にしてみれば、いつおなか一杯に食べれるか。と、いう保証がないのだ。
だが、飼育されていたら普通は大丈夫なのだ。
とはいえ、気をつけなければ猫は大量に食べ続ける。そして、運動をろくにしなければ太っていく。太っていくと、体が動かなくなりさらに肥満が増えていく。と、いう悪循環だ。人間と違い、猫や犬といった動物は肥満が原因で死にやすい。
いや、人間も肥満が原因で死ぬことがあるんだけれどな。
俺の指摘に、隆司さんは、
「ご主人様が甘やかすんですにゃん。
ダイエット用のご飯をこっちがあげているのに、いつもいつも高価なキャットフードを揚げたり、タイやおさかなの良いのまで上げるんだニャ。
私がこうなってから、特にひどいニャ。
お父様とお母さまの貯金を切り崩す勢いですにゃん」
「ん?」
その言葉に俺は眉を顰める。
別に、財産を勝手に食い漁っていることに嫌悪を抱いた。と、いうわけではない。いや、それもないわけではないが……。
それよりも、気になることがあるのだ。
「ひどいというと?」
「毎日のように高級なキャットフード。下手をしたら、自分の食事よりも良い食事を与えているほどですにゃ」
その言葉に俺は寝ている猫をじっと見た。
猫である。いや、猫というよりも豚と呼びたくなるような奴だ。
だが、まあ、それは特に気にしない。
肥満が原因でこの猫が死のうが、それは俺が言うことではない。言ってしまえば、そういうのは獣医の仕事である。
だが、
「なあ。フルー。あと、ローイにアリス。
なあ、呪いを受けるのって人間だけか?」
「いえ。違います」
と、俺の質問にフルーがそう答えた。
「呪いの対象に選ばれるのは、人間が圧倒的に多いだけでして動物にもあります。
知恵があまりない知能が低い動物の呪いは簡単ですしね」
「それに、人によっては動物を過剰にかわいがる奴もいる。
愛犬や愛猫、愛馬が呪われて死ぬのが、自分が呪われるよりもつらい。
そう感じるものだって多い」
「なるほど。そういうのは、人間でも同じだな」
と、俺は納得した。
動物の保護というのは、あまりないがかわいがる人間はとてもかわいがる。下手をすれば、犬や猫といったペットのために、大金を払う。と、いうのもいる。
飼い主にとって、ペットは家族である。とはいえ、子供といった人間が誘拐されたり、殺されたことで警察はあまり大々的に動かない。と、いうか本気にならないのだ。
また、万が一にでも犯行が解って捕まったとしても、犬や猫を捕まえたから死刑。と、いうわけにもいかない。と、いうわけだ。
「それに、猫や犬に魅了の呪いをかけるのもあるわね。
動物にメロメロにさせて政治を乱されさせたりするのもあるわ」
「あー。生類憐れみの令みたいなやつか」
と、アリスの言葉に薫が言う。
「ショールイアワレミノレー?」
「まあ、わかりやすくいなら動物はかわいがりましょう。
犬を特に可愛がりましょう。と、いう決まりを作った王様が居たんだよ」
王様ではなく殿様だったのだが、そこまで細かいことは言わない。
「で、犬や猫を大切にしすぎてな。
他に類を見ない悪政として悪い法律と後世に名を刻んだんだ」
まあ、もとをただすとなんでも動物や子供を大切にしましょう。子どもを捨てるな。老人を大切にしろ。と、いうマナーを作りたかったらしい。
それが、どう間違えたのかは知らないが民を苦しめる悪政になったそうである。
まあ、聞きかじりだが……。とにかく、財政を苦しめて犬の保護施設まで作っていた。その結果として、財政は傾き徳川の江戸時代が終わる一因を作ったといわれているほどだ。「そもそも、政治家とか権力者とかは犬や猫とかの動物をかわいがるのが多いからね」
と、アリスが言う。
「地位が高いとその分だけ、他人を信用はできない。
お互いに私利私欲や裏事情があるからね。
友人だって、言ってしまえば家柄がかかわっていく。権力や地位や財力ね。
そういうのを一切なく、たた無償の愛情をかける。
そんなペットに癒されるのよ。だからこそ、そのペットを使って相手を呪うというのもあるのよね」
と、アリスが言う。
さすがは専門家である。
服装やら行動やらは奇抜だが、知識はきちんとあるし説明もわかりやすい。
と、俺はひそかに失礼なことを思いながら猫を見つめる。
「なるほどな。どうやら、呪いは動物にも感染しているみたいだぞ」
と、俺が言えば全員が驚く。
「それ、本当ですか?」
「あいにくと、そんな嘘を言うほど俺は暇じゃないんだ」
と、俺は肩をすくめる。
「間違いないよ。
まあ、どんな呪いかはわからないけれど……。
隆司さんがかかった呪いの原因はこいつだ」
「ほお。わかったか。
人間風情が」
と、いう声がした。
そういったのは、猫だった。
「猫がしゃべった」
と、薫が驚きの声を上げる。
そう、どこまでも偉そうにふてぶてしくそうしゃべったのはその一見すると、豚としか思えないような肥満の猫であった。
「偉そうに」
と、俺は言う。
「ふん。奇妙なにおいがする人間の雌よ。
あまりに不遜な態度だと、我の下僕とする名誉を与えんぞ」
「猫ってしゃべるとこんなに偉そうなのか?
それとも、異世界の猫特有か?」
と、ローイが疑問を口にする。
「さあな。この猫特有かもしれないし、呪いの影響かもしれないな。
あいにくと、俺の世界の猫は基本的にしゃべらないんだよ」
と、ローイの疑問に俺は答える。
猫の言葉がわかるというおもちゃがあるが、あれはあくまでようやくなところがある。言ってしまえば、外国語を直訳した結果だ。
実際には、もっと口が悪い口調だとしても例文のようなきれいな言葉になっている。と、いう可能性だってあるのだ。
関西弁も英語で書いたら標準語扱いになるようなものかもしれない。……いや、ちょっと違うかもしれない。
とにかく、これでわかった。
「呪われているのは、この猫だよ」
「そうみたいだな。
どうやら、その猫のせいでそいつはそんな見ていて胸が切なくなって可哀そうというか、痛々しい感じになったわけだな」
「痛々しいといわないでほしいにゃん」
ローイの言葉に隆司さんが言う。
そういうのを、イタイというのだ。
問題は、自分がすきこのんではないということだろうな。
「けれど、どういう呪いなんだよ?」
と、俺はたずねる。
飼い主の家族を萌えキャラ化するような呪いって……。
そう疑問を口にすれば、
「これは、傲慢の呪いだと思います」
と、フルーが言い出した。
「傲慢?」
なんだか、仰々しい名前の呪いが出てきたのだった?




