第五話 呪いの森の戦乱開始?
「アリスって戦えるのか?」
と、俺は走りながら尋ねる。
「大丈夫です。解りません」
「お前は、一度で良いから大丈夫の意味を調べろ」
と、フルーの言葉にローイが怒鳴る。
まったく持って同感だ。
「で、ローイ。お前から見てフルーは?」
「魔法使いが全て戦える訳じゃ無い」
と、俺の質問にローイは答える。
「魔法使いの中には、古代の魔法文字を研究する者。魔法の開発に特化したもの。魔法の道具を作る事に特化したものなどもいる。
言ってしまえば、専門分野の違いだ」
「なるほど」
と、俺は納得する。
言ってしまえば、同じ軍人でも司令部で指示を飛ばすには有能だが、前戦にたてばまったくの役立たずの足手まとい。と、言う軍人。
あるいは、前戦で戦えば百戦錬磨の強さを誇り、英雄と呼ばれるだろうが指令を出せと言われたらまったくの役立たず。と、いうやつだ。
漫画とかアニメとか小説とかでもたまに見る。
「どう言うこと?」
「魔法使いだって、ゲームでは防御や回復専門の白魔法使い。攻撃魔法専門の黒魔法使いとかいるだろうが! 白魔法使いは攻撃手段が無いようなものだ」
と、薫の質問に答える。
「えっと……」
「格闘家でも教えるのが上手な奴が強いとは限らないというやつだ」
「なるほど」
俺の要約した説明でようやっと理解した薫。格闘技の天才と呼ばれる人がいるが、そう言う人は大概は感覚で覚えている。なので、どうして出来ないのか? なんで出来ないのか? と、言うのがわからないのだ。逆に下手くそで鍛錬をした人は、どこが悪くてどうして出来ないのか? と、言う理由を理解してわかりやすく説明が出来る。
「少し違うような気がしますよ。
どちらかと言うと、剣術が得意か。あるいは、槍が得意か、飛び道具が得意か? と、言っているようなものかと」
と、シャルフが言う。
……まあ、たしかに言われて見ると先程のたとえば、天才と凡才の違いにもなっていたような気がする。つか、こいつは本当にまともな事を話せたんだな。
と、俺は感慨すら覚えてしまう。
「まあ、一般的に呪い屋と言うのは怨まれやすい仕事だ」
と、ローイが言う。まあ、たしかにどんな形……それが、正当な怨みだとしても怨みは怨みを生み出すと言う事だ。敵も多く作りそうな職業だ。
……それを、考えるとなるほどあまりマイナーな仕事と言うのはわかる。
「だからこそ、自分の身を守る手段をなにかしら持って居るはずだが」
「……そう言うのを考えているように思えなかったぞ」
ローイの言葉にフィリが言う。
うん。アリスに悪いが同感だ。良くも悪くも変人であり強いと言うイメージはいまいちない。どちらかと言うと、童話に出てくるお姫様とかのイメージだ。
つまり、物語に巻きこまれて間一髪で幸運か王子様で助けられる。そんな印象だった。
「大丈夫です。アリスはどちらかと言うと、敵が多く怨まれる人間です」
「それ、なにがどう……あーうん。わかった。
大丈夫です。と、言うのが正しいかどうかは解らないが、何を持って大丈夫と言ったかは理解した」
フルーの言葉に俺は頭痛を覚えつつ走りながら言えば、
「ごめん。あたしは理解出来ない」
と、薫が言う。
「敵が多い中で生きてきたという事は、少なくとも生き延びる手段を持って居る。と、言う事だ。まあ、それがどう言う手段かは解らないけれどな」
逃げるか勝ちとか、ただの幸運か……。隠れ潜むのか……真正面から戦うのか?
それは、わからない。と、思っている中で、突如として目的地がある……アリスの家と思われる場所から巨大な光の柱が現れた。
「……なに? あれ」
「なっ! あれは、まさか」
薫の言葉に答えたわけではないのだろうが、なんともタイムリーな事を口にするローイ。こう言う所は、魔法にまともに詳しいやつと言うのは便利だ。
何というか格闘技漫画とかで、謎の秘拳とか必殺技とか謎のアイテムに対して、やたらと詳しくあの武器は~~~と、解説して緊迫感を盛り上げる解説者のようだ。
「高位魔法のホーリー・ジャッジ・メント?」
「すまん。魔法名だけじゃわからん」
と、俺は即答する。
「聖魔法……。呪いなどを解呪する魔法系列の中にある攻撃魔法だ。
その中でもかなり高位の魔法であり、巫女や神官でも使える使い手となれば数が少ない。なにしろ、神そのものから力を借りる魔法だぞ。
あんな魔法を一体、誰が」
「アリスですよ」
ローイの質問に、スイカは野菜の一種なんですよ。と、言うような軽いノリで言ったのは、フルーだ。
『『『はあ?』』』
と、フルーの言葉にローイだけではなく俺たちも驚く。
いや、俺たちは(少なくとも薫と俺は)魔法に関しては詳しくない。だが、それでもアリスは呪いを掛ける魔法使いだ。
つまり、ゲームで言うならば黒魔法使いだ。それも、どちらかと言うと呪術士とかそう言う相手を状態異常にしたり、相手の能力を下げるような補佐系の魔法使いのイメージだ。
で、先程の魔法はどちらかと言うと白魔法使い。巫女や神官が使う……ただし、それでも超強力な攻撃魔法だが……。
アリスの職業とは不一致と言う印象があった。
「ちょ、ちょっと待て!
なんで、呪い屋が聖魔法を使えるんだ!」
と、フィリが言う。
「そうだ。本来なら真逆の系統だろうが」
あ、やっぱり系統は真逆なんだ。と、俺は思う。
「大丈夫です。本来、アリスは巫女の家系なんですが、呪い屋になると言って家を出て勘当されたそうです」
「どこらへんが大丈夫なんだよ!」
と、フルーの言葉にツッコミを入れつつ俺たちはようやっとアリスの家にたどり着く。
そこには、
「あー。もう。アリスってばビックリしたんだからね」
と、言っているアリスが杖を持って頬を膨らませていた。
「アリス! お前……何をしたんだよ?」
と、俺が尋ねると、
「キャー。嬉しい。ヨシキちゃん。心配してくれたの?
それじゃ、恋人になろう」
「いや、ならない」
寝言を言えるぐらいには余裕がある様子だ。
「つか、お前……」
「もう。みんな居ないからビックリしたよ」
「いや、ビックリしたのはこっちだよ。
食料が悪いから外で、食料調達をしていたんだよ。
なんで、お菓子しか……いや、それは良いけれど」
あんまり良くないような気がするが……。
「ん~。だって、あたしはお菓子しか食べたくないもん」
自分かってというか自由人なやつだ。
と、俺は思う。
もしかして、こいつは巫女と言う規則に厳しい(詳しくは知らないが、なんとなく節制を心がけている気がする)生活が嫌で、抜け出たのではないのだろうか?
「ところで……お前、こいつらに狙われる心当たりはあるのか?」
と、俺は本題へと入る。
「ん~。あるよー」
「あるのか!」
アリスの言葉にローイが言う。
「そもそも、呪い屋っていうのは最近じゃ何かしらに、呪いの帝国の配下扱いだからね」
と、肩をすくめるように言うアリス。
「なに!?」
「呪いの魔女王のせいで呪い屋は一気に犯罪者扱いだもん。
いまや、正しい呪い屋なんていないわよ。
そして、呪いの帝国としてみてはそんなのは邪道。
自分たちの思い通りにならない呪い屋と言うのも反乱軍にしか感じられないのよ」
と、アリスが言う。
「ま、大した事がないまじない程度の呪いならば関係がないみたいだけれど……。
あたしは、これでも高い実力があるからね。
何度か、勧誘を受けていたんだけれど断っていたの」
「断っていたんだな」
「だって、みんな可愛くない服ばっかり着ているのよ」
「「「そう言う理由!?」」」
アリスの言葉に思わず聞き返す一同。
いや、これで正義感とか道徳概念を語られても微妙な空気になっていたと思うけれど……。まさか、服のセンスで断っているとは思わなかった。
「えー。大切よ。
たった一度しかない人生を後悔がない程度に楽しみ尽くさないと……。
たった一瞬の快楽のために全てを捨てるのももったいない。
なるべく沢山の多の恣意を感じたいじゃない。
なのに、あいつらは呪いの魔女王のために、自分の幸せを全てを捨てる。
他人のために、自分の幸せを捨てるなんて冗談じゃないわよ」
「なるほど」
いろいろと頭のおかしい奴だが、少なくともその意見は理解できないわけじゃない。
自己犠牲を否定はしないが、自己犠牲だけの人生は否定したい。
こいつのは、いろいろと理解出来ない奴だが……理解出来ないだけじゃ無さそうだ。
「ふん。相変わらず厄介な女だ」
そう忌々しげに言うのは、生物学上はフルーの兄。実質、他人以下の男サオンが言う。
「私の妹の頼みは聞くのに、私の頼みは聞けないのか?」
「あんたのは、頼みじゃなくて命令じゃない。
それに、内容が可愛くない」
「内容の可愛さの問題か?」
「内容だけじゃなく、外見も可愛くない」
俺のツッコミにさらにツッコミどころをプラスさせた返答をするアリス。
こいつと、まともな会話をするのは難しいのかも知れない。
「ふん。そもそも、兄が妹と暮らすのが何がおかしい」
「とりあえず、一定の年齢を超えたなら兄と弟だろうが、姉と弟だろうが……。弟と兄だろうと、姉と妹だろうと一緒に暮らすとは限らねえぞ」
と、俺はツッコミを入れる。
この世界に、近親相姦と言う言葉があるのか? はたまた、それが禁忌じゃないのかまでは知らないが、とにかく俺たちの世界ではそうである。基本。
ついでに、言えば両親の離婚や滅多に無いが、事情があって養子縁組に出される。そう言った事からもあり得る。
と、言うか……、
「そもそも、俺はお前を誰かの兄貴と認めたくないね」
と、俺は宣言する。
「なに?」
「弟がいる身の上として……、そして兄貴がいる身の上として……。
弟であり兄である身の上として、言わせて貰う。
お前なんか兄貴を名乗る資格は無い!」
兄貴と言うのも弟と言うのも、良い利点があるし問題点がある。
隣の芝生は青いというやつだろう。俺にしてみたら、そのどちらもあるのが大変だと思うのだが、末っ子や一番上ではそれぞれ思う所があるかも知れない。
とは言え、そこは重要ではない。
ただ、兄弟が居るものとしても、兄を持つ者としてもそして、兄である者としてもこいつの言い方は気に入らないのだ。
たとえ、どれだけ何を語ろうと水より濃い同じ血が流れていたとしてもだ。
兄弟というのは、言ってしまえばどちらかが生まれた瞬間からの付き合い。ほとんど、同じ環境で育った身内であり、そして自分では無い人間だ。
どちらかの所有物と言う事は無いのだ。
否、
「つか、お前とフルーは家族を名乗る権利すら無いね」
と、俺は断言する。
家族とは血縁関係からものを言うのか?
それじゃ、夫婦はなんだ?
戸籍や形式や形だけでものを言うのか?
否、違うはずだ。
じゃあ、なんだ? と、言われた所で大して劇的な人生を(少なくとも異世界転移するまでは)送ってない俺が絶対の正しい答え。と、断言できるような答えなんて持ち合わせては居ない。
だが、少なくとも家族と言うのは、同じ家族を道具のように扱って良い。と、言う関係ではない。それだけは解る。
「ふん。我らが崇高な思考を理解出来ぬ凡人目」
「そう言うお前は、自分の幸せすら考えられない狂人だよ」
サオンの言葉に、俺はそう反論した。




