第六話 呪いの森の戦い
さて、一発触発。と、言う空気になったのだが……。
人数も戦力も相手が上だ。だとしたら、逃げるが良いだろうが……。
「……で、どうやって逃げる?」
と、俺は連中に聞こえない程度の小声で言う。
「……あれだけ、啖呵を切っておいて逃げる気なのね」
「勝てない試合や喧嘩でも得る物があるならするけれどな。
何も得ないどころか、負けたら命を失う。そんな殺し合いで勝ち目が無い状況。
それで、戦おうと思うほど戦闘狂じゃないんだよ。俺は」
と、薫の言葉に俺は答える。
あいにくと、俺は自分の頭で考える人間だ。
戦時中に、片道分の燃料と爆薬だけの飛行機で敵陣に突貫する少年兵でもなければ、そんな事を指示する盲信上官でもないのだ。
「だが、こんなやつらをのさばらせて」
「たしかに、放置してよい相手じゃないが……。
ここで、死んでも犬死にだ。
無意味すぎる。それに、こいつらに負けた場合、フルーもつれていかれる。
下手をしたら、呪いの魔女王が復活だぞ」
ローイの言葉に俺はそう反論する。
「あたしは賛成。
こいつら、自爆の死んでなお呪う手段も持って居るもん。
まともに戦うのは不利よ。
逃げるが勝ち」
と、アリスが言う。
頭は可笑しいところが有るが、馬鹿ではない様子だ。
「誰か、反対意見があるか?
言っておくが、プライドとか誇りとか正義感とかだけなら虫だ。
こいつらから逃げる事は、恥じゃないと思うぞ」
と、俺は言っておく。
「オレは賛成だ。
あいにくと、オレだって勝てない相手と戦うべき状況と、そうじゃない状況はわかる。時には傭兵として戦っていたからな」
と、フィリが言う。
「大丈夫です。私はいつも逃げていました」
と、フルーは何が大丈夫なのか解らない上に自信たっぷり言う事ではないことを言う。
……そう言うのは、きっぱりと断言する事じゃないと思うぞ。
「……ちっ。わかった」
と、ローイも渋々と頷いた。
よし、これで撤退は出来る。と、思ったのだが、
「覚悟! 呪いの呪帝国」
と、走り出したのは……シャルフだった。
「なっ!」
今まで、馬鹿だ。馬鹿だと思っていたし、色ボケをしているしナルシストだと思っていた。だが、こう言う無茶をするような人間だとは思っていなかった。
「ふん。たった一人で何が出来る!
やれ!」
と、サオンの言葉に呪詛が放たれる。
やばい! 命中する! と、思った瞬間だった。
「薔薇の守護女神の舞」
シャルフがそう叫ぶと同時にいつものように周囲に薔薇をばらまく。
その瞬間に、薔薇が呪いを受け止めて俺たちを守る。
「意味なく薔薇をばらまいていた訳じゃ無かったのか」
と、俺は思わず呟く。
てっきり、かっこつけたくてああして薔薇をばらまいていると思っていた。
「ほお。呪いを防ぐとは……たいした者だな」
「当たり前だ」
と、サオンの言葉にシャルフは断言する。
「私は、お前らを倒すためにこの技を究めていたのだ」
と、シャルフはレイピアを突きつける。
「ふん。剣使いが我らを殺す事が出来ると……。
本気で思っているのか?」
「そのために、私は血が滲むような修行を経験していたのだ。
家族の敵……晴らさせてもらう!」
「家族?」
その言葉に俺は思わず聞き返す。
それが、どう言う意味なのか……。いろいろと、考えられる可能性はあるが、それに対する答えがやってくると言う確証はない。
と、言うか今は答えてくれるわけではない。
それでも、いくつかの推測があるのがわかる。
「あいつ……間違いなく、私怨で暴走してやがる」
と、俺は舌打ちをする。
家族の敵。
それが、どう言う意味なのか?
考えるだけで、いくつもあり得る。
とは言え、基本として総じて言えば呪帝国によって、家族を殺されたと言う事だろう。
あり得ない。とは、言えない。
なにしろ、話しに聞く限りでは呪帝国は多方面に怨みを買っている。
それも、逆恨みとかではなく正当な怨みだ。
まあ、魔法の世界のテロリスト集団だ。
テロリストを怨んだり憎んだりするのは、当然と言えば当然なのだ。
それに関しては、驚かないし納得は出来る。
だが、あの脳天気バカがまさかそう言う過去を持っているとは予想外だった。
何よりもシャルフはフルーの出生を聞いたとしても、けして否定はしなかった。
てっきり、呪帝国も呪いの魔女王に興味が無い。
個人的な私怨がないと思っていたのだ。
「ま、無差別にというわけではなくきちんと怨みを制御できているみたいだけれど……。
さすがに、今回は違うみたいだな」
と、俺はそう言うと、
「けれど、ここは逃げた方が良さそうね」
と、アリスが言うと同時に何かの術を使った。
「迷いの森」
そうアリスが叫んだ瞬間に、周囲の森がざわめき始める。
「伊達に、この森で暮らしていた訳じゃ無いのよ。
この森をずっと研究していて……。一時的にならこの森を操る事が出来るのよ」
アリスはそう言うと同時に、森がサオンを包み込む。
「ただの森の迷路ではなく、呪いの森の迷宮だからそう簡単にでれないわ」
と、アリスはそう言ったのだった。
「しかし、家も無くなったし……。
もう、ここには住めないわね」
と、ため息混じりに言うアリス。
「あー。たしかにな。
とにかく、逃げるか」
と、俺たちは頷く。
「だが、あいつらを許すなんて」
「冷静になれ!」
シャルフの言葉に俺はそう怒鳴って蹴り飛ばす。
「ですが、ヨシキさん」
「お前がどんな事情を持って居るかは、解らないし知らない。
だがな。今、ここで俺たちを危険なめに会わせて犬死にさせたいのか?」
と、俺は反論をする。
「そ、……それは……」
「どうしても壊滅させたいなら、ちゃんと確実な手段を仕え」
と、俺は噛みつくように言えば、
「ああ。やはり……あなたは女神だ」
「……お前、さっきまでのあのシリアスな空気はどこへと消えたんだよ?」
うっとりと言うシャルフに呆れながらも俺は逃げる事を進める。
最悪、あの森が燃やされる可能性だってある。
「本当に時間を稼げるんだろうな」
と、俺はシャルフの首根っこを掴んで言う。逃げだそうとしても、瞬時に対応が出来るようにそう考えながら、俺はアリスに尋ねる。
「あの森は物理破壊は不可能よ。あの森は意味は無いけれど、微妙に危険だからね。
あの森が出来てから、何百年間も滅ぼそうとし続けていた」
と、アリスは言う。
まあ、たしかにあんな森があったところで百害……ほどじゃないが、害はあるが利はあまり無さそうだ。
人もろくに住めない土地。土地だって無限にあるわけじゃない。この森を焼き尽くして、まっとうな森を作る。あるいは、街を作ると言う事だってできたはずだ。
だが、それをしなかったのは……、
「あの森はなんかの事情で、壊れないのか」
「そう。破壊するには呪いを全て解呪する必要がある。
けれど、呪いはまるでパズルのように混じり合っている。
一つの呪いを解呪するには、別の呪いを解呪しないといけない。けれど、その呪いを解呪するにはまた、別の呪いを解呪する必要がある。
それらが延々と続くのよ」
「いたちごっこかよ」
アリスの言葉に俺はそうツッコミを入れる。
「いたちごっことは、どう言う遊びですか?」
「そう言う意味じゃねえ」
元々は、延々と続く遊びの事を言っていたそうであるが、今では基本的に延々と同じ事を繰り返して居て終わりが見えない。と、言う意味だ。
フルーの言葉に俺はそう言いながらも、とりあえず逃げていた。
「と、言うか俺の仮面は」
「一応、最低限のは出来ているわ」
俺の言葉にアリスはそう言って仮面を見せる。
「ただし、あくまで少しよ。ここからが本番だったわ」
と、不満そうに言うアリス。作品が完成させれなかったことが不愉快だ。と、言う顔だ。
「まあ、今から全てを作るよりはマシだろうな」
と、俺は肩をすくめる。
「とにかく、この森から離れるぞ。
あいつら、まさか人里まで来たりはしないよな」
と、俺は確認する。
人里まで来るようなら対応は考えなければならない。だが、
「大丈夫だと思います。彼らは、有名な犯罪者です。
街に行けば、間違いなく騎士が現れる事ぐらいは知っています。
この近くにあるのは大きな街なので、彼らも近づかないでしょう」
「なら、そこへ逃げ込むぞ」
と、俺は言う。フルーの立場もヤバいかも知れないが、俺たちと一緒だし家柄がよいローイもいるのだ。守ってくれるはずだろう。
と、俺は判断する。
家柄を利用するのは、良い事じゃないかも知れないが命を守るためなら手段を選んでいられないと言う言葉も……あったような気がする。
とにかく、俺たちはそう言って近場の街へとたどり着いた。
街と言っても、まだ小さな街だ。呪いの森の近くにある事からたまに冒険者が来るそうだ。とは言え、わざわざその付近に住む人間はアリスのような変わり者だけらしい。
街中に行き、ローイに警備兵などに報告したことにより警戒態勢が行われた。
「まあ、逃げたんじゃないかしらね。
あいつら、引き際はわきまえているし」
と、肩をすくめて言うのはアリスだ。
現在、俺たちは街の食堂で食事をしている。
俺たちは普通に昼食とも言えるパスタやらパンと言う洋食だった。
どうも、この世界は俺たちの世界で言う所の日本ではなく、西洋。フランスとかイギリスとかアメリカに近い感じだ。
ベーコンの厚焼きに、スクランブルエッグ。野菜サラダにフルーツジュース。
ただし、どれもそれらしきものというのがある。
「ねえ。これ、なんて食べ物なの?」
「ビライフの塩漬けを燻製にしたやつよ。こっちは、チキシフを味付けして炒めたものよ。
で、こっちは野菜のサラダ。これはオレジミアのジュースよ」
「オレジミアって言うのか……。オレンジジュースみたいな味だ」
と、薫とフィリの会話に俺はそう呟いた。
どうやら、食文化はそれほど大した違いは無さそうだ。こっちの世界の料理が死ぬほど不味いとか、そう言うのは無さそうだ。
ただし、醤油と味噌に関しては期待が出来ない。まあ、胡椒があるだけマシか……。
と、俺は思うことにした。胡椒は昔、金と同じ価値で取引されていたそうだ。この世界で塩と砂糖しか味付けがない。と、なったらさぞかし味気なかっただろう。と、思う。
「まあ、お前達の世界で言うミソシルか? あれは、さすがに無いが……基本的に食生活でそれほど、大きな違いは無いぞ。
さすがに、あの保存食の文化はたいしたものだが……」
「まあ、日本人は食文化には厳しいからな」
と、俺は肩をすくめる。
食事にうるさいのが日本人だ。と、言う話を聞いた事がある。
嘘か本当かは知らないが、日本人は食事にうるさいそうだ。
そう思いながら俺は、アリスを見る。一人だけ、パンやパスタと言った品ではなく生クリームたっぷりのフルーツパフェ(らしきもの)を食べているアリス。
こいつ、絶対に糖尿病になるな。と、俺は確信を覚える。
まあ、アリスはさておきもっと気になる子とがある。と、俺はシャルフを見た。




