第一話 高飛車暴君野郎は迷惑です。反省という言葉を知って居るか?
呪いの解呪屋の仕事は、順調……なのかは、知らないが時たまに依頼を受ける。なんでも完全に呪いを解くことは、九十九の呪いをどうにかしないといけないらしい。事実、薫には呪いの後遺症である角が生えているし、雅美さんも過眠症と言う一日、最低でも十時間は眠ってしまう。と、言う呪いの後遺症がある。
とは言え、目に見えて困るところもないのでそれで、納得して貰っている。
とは言え、その呪いだが、
「お前、呪いの解呪屋と言うのは向いていないのではないのか?」
と、言ったのはフィリだ。
呪いの解呪屋の仕事もして数回ほどあるのだが、フィリが疲れたように言う。
「し、失礼な! 私は魔法使いとして最優秀の成績を収めたのだぞ」
「けれど、実際に仕事では足を引っ張ってばかりよね」
フィリの言葉に反論するように怒鳴るローイに薫が冷たく言う。
まったくもって同感だ。
と、オレは聞きながらシャワーでぬれた髪の毛を拭く。
現在、俺たちは薫の家のほうにいる。薫の家は、道場をしている事も手伝ってシャワールームが大きめなのがある。
道場では夏場などに汗を噛むので、汗をぬぐうことも手伝ってシャワールームがあるのだ。それは、良いのだが……。現在、俺たちがシャワーを使った理由は違う。
使った理由と言うのは、呪いによる粘液をぬぐい取るためだ。
呪いによる粘液と言っても体に害がない。ただものすごく、ぬるぬるずべずべしており、しかもものすごく臭いという不愉快な液体であった。
あれなら、ヘドロを頭から被った方がマシだっただろう。
シャワーを浴びて体をしっかりと洗ったのだが、まだ臭いような気がする。まあ、とっくに匂いは花で麻痺をしているので、匂いはもうしないが……。
それでも、ここまで来るのにとても大変だった。
呪いの内容と言うのは、感情を爆発させる度に先ほど言った粘液が詰まった風船が周囲にあふれかえると言う呪いだ。そして、些細な衝撃で破裂して周囲に粘液をぶちまける。と、言う迷惑な呪いであり、しかも呪いにかかっていたのが……赤ん坊だった。
赤ん坊に感情を抑えろ。と、言うのは無茶な話である。
腹が減った。お漏らしをした。眠い。起きた。退屈、暇だ。何か不愉快だ。とりあえず、何か些細な事があったら、感情を爆発させて泣きわめく。子供に呪いだとか、感情が溢れると大変。と、言っても無意味だ。そのために、呪いをどうにかする事になったのである。
呪いでの核を抜き取るだけと言う簡単な呪いのはずであったが、
「お前のせいで、余計な騒動が起きたんじゃねえか」
そもそも、呪いの解呪を依頼をしたのは父親だった。最大の理由が、母親が育児ノイローゼになったと言うものであった。まあ、無理もないだろう。初めての子育てで、しかも子供が呪われて頻繁に粘液がぶちまけられる。俺でもノイローゼになる自信がある。
だが、ローイのやつが失敗……と、言うか暴言を吐き母親のノイローゼを加速。その結果、母親の呪いも悪化させたのだ。母親の呪いとは、赤ん坊と似たような呪いであり、感情が爆発するとその勢いで周囲に爆発が起きる。と、言う呪いであった。
その結果、捲き散らないようにしていた風船がものすごい勢いで爆発。結果として、依頼人の家は粘液でべとべとになってしまったのである。
アフターフォーローとして、俺たちは家の掃除までしたのだが……。
家の掃除ですら、ローイはまったくもって役立たずだった。
「喧しい! 私はこんな事をするために魔法使いになったわけではない」
と、学歴は良かったけれど就職に失敗して望まぬ仕事をする事になった人みたいな事を叫ぶローイだった。
「どんな職業だろうと、何をするためにだろうと……。仕事なら仕事だ。
きちんとやり遂げなければ意味が無いぞ」
「黙れ、貴様等のような凡人に私の事が何が解る?」
「はいはい。そう言うそちらは、凡人の事を理解出来ておりませんね。
世の中は、天才ばかりじゃないんですよ。
凡人の方が多いんで、凡人に理解されなければ悲しいですよ」
俺はため息混じりにそう言う。
世の中、そうそう思っている通りではないのだ。
つか、そう言う人間ほど実際に社会で役に立つとは限らない。
第一、学歴がよい=天才とは限らない。
天才発明家と言われたエジソンは、なんと小学校中退であった。
小学校中退。今日日、一定以上の文化と治安の水準値が超えていたらあり得ないほど悪い学歴である。その学歴でありながら、後生では彼を凡人と評する人間は居ない。
なにしろ、エジソンが発明した代表的な品である電灯を初めとして、人類の文明の発展を手助けしたのはまちがいなくエジソンである。
つか、自分で自分の事を惜しげもなく天才というやつが本当に天才とは思えない。とは言え、その事を指摘したところで何かが変わるとは思えない。
「くそ! なんで、私は未だにこんな事を!
お前ら、私を填めようと何か企んでいないか?」
「こちらとしては、とっととお前の面倒なんてみたくないんだけれど」
ローイの言葉にフィリがそうぼそりと呟く。
まったくもって同感だ。
どうも、生まれつきの貴族の出身というわけか……。俺達の一般庶民の生活に、やれ料理の品数が少ない。料理が変な料理。味付けがどうのこうの……。
贅沢ばかりを口にするのである。
仕事でもやたらと偉そうで、傲慢で無鉄砲。
周囲との協調性もまったく無い。
仕事の報告(魔法使いが仕事をすると定期的にそれを報告する必要があるらしい)で、その旅にこいつをどうにかしてくれ。と、懇願するのだが……。
未だにローイは魔法を封じられて俺達の手伝いを続けている状態だ。
「あのさ。どうして、そうなったのか。
それをきちんと理解しているのか?」
「当たり前だ。お前達が何か、卑怯な手段をしたのだ」
「反省しろよ。つか、そんな暇もないし、俺達がなにを得をしているんだよ?」
むしろ、迷惑をしている。と、俺はため息混じりに言う。
「つか、お前がいてちっとも得をして居ねえんだ。むしろ、迷惑をしているんだ!」
「なんだと! 私の何処に迷惑をしているというのだ!」
「一から十まで説明しなければわからねえのか!」
ローイの言葉に俺は怒鳴る。そもそも、そう言う所が迷惑をかけているのだ。
「きさま、私をバカにしているのか?」
「バカにしているんじゃなくて、腹を立てているんだ!」
と、俺は怒鳴り返す。
「良いか?
お前は、自分が悪いかも知れない。と、思わないんだよ。
自分勝手に自分がやっている事は総て正しい。そう思い込んでいる。
良いか。人間にはいろんな価値観があるんだよ。
お前は、貴族として……自分が天才として自分を中心としてしか見ていない。
俺はあいにくと、異世界人だ。お前がさる貴族で親が偉大な魔法使いとか、そう言うのなんて関係無い。お前個人しか見てなくて、俺はフルーを殺すべきだとも思っていない」
ローイについては、フィリから聞いた。フルーの方にも聞いたし、ついでに魔化されたときにラフェレアさんからも聞いた。
ローイはさる高貴な貴族……公爵の爵位を持つ。ちなみに、貴族爵位の順番で王様の下に居る貴族は偉い順から、公爵、侯爵、伯爵、辺境伯爵、子爵、男爵、準男爵とある。ちなみに、この世界の貴族と言うのは血統も重視されるが行いもあり、立派な行いをすれば爵位が上がるが、悪い子とすると爵位が下がる。
そう言う所は、俺達の世界とは違うと思う。俺達の世界は、今こそ身分制度はないが昔は身分制度があったときは、たとえぼろは着ていても爵位は高い。と、言うのはあった。と、言うか現代日本は別として現代の西洋などでは、爵位がある貴族はいる。
ただし、遺産の膨大な相続税が払えずにアパート暮らしのやつもいるらしい。世知辛い世の中である。
対して、この世界では貴族というのは飾りやら全世代の遺産ではない。現在進行形で権力を握っている立派な身分である。
また、こいつの両親がこれまたすごい。エルフの血を引く……エルフは魔法に長けているらしく、その血を受け継いでいる彼の一族である父親は、魔法の天才である。
宮廷魔法使いとして召し抱えられており、王の側近にして懐刀として活躍中。また、彼には兄が二人居る。兄の一人は宮廷の魔法使い団と言う魔法を使う騎士団のようなものに所属しており、若きリーダーとして将来は団長はまちがいなしといわれている。次兄は、魔法道具開発として名を馳せており、いずれは名うての開発者になるだろう。と、言われて居る。要するに才能溢れた一族の末っ子らしい。
そして、こういうのはありきたりと言えばありきたりだが末っ子というのは可愛がられるのがお約束であり、また優秀な親や兄弟にコンプレックスを抱くのもお約束だ。
優秀な両親を尊敬して、また可愛がられていた彼は自分も親や兄のようになりたいと努力したそうである。とは言え、同じ分野でやったとしてもずっと親や兄と比べられる。そう思った彼は、魔法使いとして別の道を選び始めた。
才能もあり、家に金のある彼は金をばらまくような行動もしており、当然ながら取り巻きも出来た。それを、仕事の忙しさなどで気付かない身内。
気が付いたときには、高飛車で才能と能力はあるが自意識過剰で自尊心が高すぎて、実戦的ではない自惚れくんとなっていた。
そもそも、優秀な成績なのも半分は彼の親や兄に親しくなりたい。と、言うごますりがあったらしい。
それに気付かないのが、彼の哀れな所である。
このままではいけない。と、父親が気付いた時にはもう時がすでに遅かった。呪いの解呪屋を自営させたのも言ってしまえば、荒治療の一つだったらしい。
とは言え、そのとばっちりがこちらに飛び火しているあたり、あった事もないこいつの父親を蹴り上げたくなる。
ちなみに、余談であるが母親は早くに亡くしているらしい。
母親でも居たら、このあまちゃんの尻でも蹴り飛ばしてくれたら良かったのに……。と、思うが貴族の奥様が実の息子のケツを蹴り飛ばす光景と言うのが思い浮かばない。
思い浮かぶのは肝っ玉母ちゃんと呼びたくなる庶民のおばちゃんが息子のケツを蹴り飛ばす姿であった。うん。きっと、貴族の中に悪徳貴族と言う言葉があるのは、貴族の奥様は子供のケツを叩く事もしないからだ。と、変な結論が生まれた。
だが、こいつを上手く使おうと思う人間は多かった。
それ故に、未だにこの性格というわけである。そして、今回の失態。いい加減にしなければならない。と、言う結論の元で俺達の元に魔法を外してしまったのである。
ついでに、この街は異世界の街だ。
貴族? へー、そうなんだ。の結論の現代日本人文化としては、ローイの家柄も身分も学歴も無意味なのである。
その結果、彼は初めて無力感と挫折を味わう……ことなく気付かずにいた。
挫折を知らない人間と言うのは、もろい。と、言う言葉がある。ような気がする。
今まで、可能で万能だった家名と地位。それらが、まったく使えずについでに、飛び抜けた能力と才能まで奪われている。
そのため、現在の彼は凡才以下のおじゃま無視である。
現在進行形で役立たずだった。
「とにかくだ。自分の食いぶちも稼げてないのに偉そうに言うな!」
現在、ローイは俺の家に居候している。
薫の家は、すでにフィリが居候している上にあそこは女性が多い。同年代の男性を止めるのは問題があるだろう。と、言う理由である。
……それを、言うとフルーが俺の家に住んでいるのは問題かも知れないが、トカゲ人間の弟に女体化した俺、そして植物の兄に魚の両親。
間違いが起きる心配はかなり無かった。
ローイに関しても心配は無いだろう。たぶん……。とは言え、個別の部屋として客室を与えている。ちなみに、フルーは俺の部屋だ。
誤解がないように言うが、間違いは無い。
そもそも、同性(の肉体)で、なにが出来るというのだ?
「なんだと?」
「当たり前だ。
お前の食費、服の洗濯に必要な洗剤や水道。
お前が着ている服はやたらと高いから、手洗いまで必要なんだぞ!」
何が楽しくて同性の下着なんぞ洗わなければならないんだ。
いや、異性の下着を洗うのもいろいろとヤバいかも知れないが……。
「お前は、仕事以外じゃなにもしない。
せめて、最低限の手伝いぐらいは出来ないのか?」
「な、由緒ある私が下々のまねごとを」
「由緒あろうが、由緒が無かろうが……。
米を炊かなければ、生米しか食べれないし野菜や肉に火をかけずに食べる気か?
塩胡椒だって、味付けしなければ味はしない。
服が汚れれば、洗濯して乾かす必要があるしものによったら皺を伸ばす必要がある。ほつれたらほつれを治す必要だってある。
お前は、何も無い所から調理された料理が出て来て、何もしないで服が出てくると思っているのか? 家柄が良い? そりゃ、たいそうなことだな。
だが、必要最低限の事をして初めて、何もしないで良いんだよ。
少なくともお前が、今までそう言ったことをしなくてよかったのは、親が金を出して報酬をしてそれをしなくて良い。と、言う許可を貰っていたんだよ。
ここじゃ、その許可はない。
最低限の事も出来ないのに、なにをしようと言うんだ!」
ぎゃっと俺は怒鳴る。
「な、なんだと?」
「はっきり言って、今のお前は乞食と大して違いは無いわ。
むしろ、偉そうにしていない分だけ浮浪者の方が多少はマシだ」
「なっ」
身分が下の中でも、最下層と言える浮浪者、乞食扱い。その言葉に、彼は絶句するが、正論だ。
「悔しければ、最低限の役にたってみせろ!」
「くっ! 喧しい!
今に目に者をみせてやる」
俺の言葉にローイは顔をゆがませて、家を飛び出た。
とは言え、他に行く場所なんて無いだろうが……。




