第二話 忘れていたが、この世界はファンタジーの世界だ。今さらだが……
「で、まだ帰ってこないのかい?」
「いい加減にしてほしいよ」
兄貴の言葉に俺はそうため息混じりに言う。
朝方に喧嘩をしてすでに昼を通り越して夕暮れだ。
「なにか、騒動をしたら俺たちの監督不届きになるんだよな」
と、俺は呟きながら歩き出す。
「まあ、悪い人じゃないと思いますよ」
と、言うのはフルーだ。
「今まで、殺そうとした事はありませんでした」
「そうかよ」
まあ、はっきり言ってそれは最低限の分類だ。
と、俺はため息混じりに言う
「ま、一応は探しに行くか。
迷惑をかけていると困るし」
本気で、どこかで迷惑をかけていそうだ。
俺たちがこの世界の常識を知らないように、彼らも俺たちの世界の常識がまったく知らないのだ。そして、この街は異世界に転移したとは言え俺たちの常識で世界は回っている。こちらの世界も、俺たちがこの世界に来てしまうと言う。
それを考えて、謝罪をかねてがこの街でなら俺たちの常識で行動が出来る。
そう言うふうにしてもらっているらしい。
だから、よそ者であり異端なのはローイのほうだ。もちろん、多少の常識の違いなどならこちらとしても、生活を保護して貰っている。と、言う事から多少は大目に見る。
ただし、あくまで多少だ。
そもそも、苦労して悲痛な状況にさせられているのだ。
呪いの中には、日常生活でちょっと不便だな。と、言いたくなるような人間だっている。 だが、中には俺のように……呪いを早くに解きたい。と、思いたくなるような呪い。さらには、周囲の人間がどうしてこんな呪いにかかってしまったんだ? と、嘆きたくなるような呪いの人物だっているだろう。
良い例が、今朝方も素っ裸で父親が走っていくのを止めている女性だろう。
どんな呪いかは知らないが、野郎のストリートキングなんぞ見ていて楽しくない。いや、女性のストリートキング(ストリートクイーンと言うべきかも知れない)を見たい。と、言う訳では無い。念のため……。
つまり、その原因と鳴ったこの世界に対して腹を立てている人もいるのだ。
フルーの方にも咎めるような目で見る人間も多い。もちろん、フルーをどうのこうのしても無駄であったりして、理性などで抑え込んでいるのは事実だ。
とは言え、それでも怒りと言うのはふつふつとある。
ローイのやつなら、その怒りの堪忍袋を包丁でぶち切って緒を切り落としかねない。
魔法が使えない魔法使いなんて基本的に弱いだろう。
少なくとも、ゲームでは魔法使いと言う職業はマジックポイントを失えば、後は何も出来ないし、前衛や後衛を選べるならばまちがいなく魔法使いは後衛だ。
なにしろ、撃たれ弱いので魔法攻撃には強いが物理攻撃には弱い。と、言うのが基本だった。いや、あくまでゲームの話なのだが……。
それでも、あいつが身体能力が強いバリバリの格闘家……とは、とてもじゃないが思えないのだ。もちろん、根拠のないものだが……。日常動作から鑑みるに、実際に少なくとも武道をやっている人間じゃ無い。と、言う事ぐらいは解る。ローブを着こんでいるので、筋肉などの体作りは解らないが……。それでも、あまり身体能力は高く無さそうだ。袋叩きにあって大怪我をしているかもしれない。と、俺はぼんやりと思っていた。
「ローイが居なくなった?」
念のために来ていないか……と、フィリと薫の所にも向かう。
薫の事はともかく、フィリはたとえ勘当されたとはいえ同じ世界の出身である。勝手な仲間意識があるらしく、たまに文句を言っているが、フィリはそれを冷たくあしらっている。元々、家から女性と言う事から軽んじられていたこともあり、どうもローイのような人間に関しては嫌悪を覚えるらしい。
だから、来て見たのだが……今回は来てないらしい。
ちなみに、ローイの家出(と、言うべきだろうか? 俺の家は、断じてローイの家出はない)は、これで十以上は超えているはずだ。
そして、何回かに一度の割合でここに来る。
とは言え、瞬時に俺たちに引き渡される。
それをいい加減に学習しないのは、なんでなのかはわからない。
猿だってもう少し学習が出来るだろうに……。
「と、驚いていると言う事は……」
「今回は来てないわよ。
いい加減に学習したんじゃないの?」
「たしかに、バカだが頭が悪いわけではないはずだからな」
俺の言葉に薫が言えば、フィリがかなり失礼な事を言う。
とは言え、まあフィリが言う言葉は正しいはずだ。
魔法使いと言うのは、異世界の俺たちにはさっぱり解らないが、フルーやフィリが言うにはバカにはつとまらないらしい。
なんでも、魔力を認識して感じ取り、さらに操る。その上であり、その魔力を構成する上で魔法が発動するが、その構成に対する正しい知識と言うのが必要らしい。
その知識は専門知識……俺達の世界で言うと、科学の専門知識なのだろう。それを理解するのには、とても難しいらしい。
まあ、たしかに科学技術の知識を得るにしてもその専門家になるのには、もちろん頭が悪いとなれない。それを、考えるとローイやフールも頭が悪いわけではない。
そう悪いはずではないのだが……。
要するに頭が良いとバカじゃないと言うのは別らしい。
バカと天才は紙一重……いや、あいつの場合は天才とも呼べるかどうかすら怪しいのだが……。とにかく、ここに居ない事が解った。
「まあ、探すのは手伝おう。
一応とはいえ、同じ世界の出身だ。あまり迷惑をかけるのは、この街で住んでいる物としては、ほっとけない」
と、フィリが言う。
この街は、まだこの世界の住民と言うのは少ない。まあ、当然と言えば当然だろう。なにしろ、この街は呪われて言える街なのだ。
当然ながら好きこのんで来ようとする物好きは……フィリ以外にはまずいない。
ローイやフルーの方は仕事として来ているだけであり、仕事などで来る必要がある人間が大半でありだ。
当然ながら、彼らはこの街では何となくだがよそ者と言う印象がある。
まあ、この街の元々の住民がこの世界に良い印象を抱いていると言う確証はない。それを、考えるとこの街では異世界人がなにか、人様に迷惑をかけるのは連帯責任があるのだろう。それも、考えると心配なのかもしれない。
とは言え、それはこの街から出たら俺たちがその立場だろう。
そんな事を考えながら、俺たちは探す事になる。
こう言う時、スマホで連絡が取り合うことが出来ないのが不便だ。
フルーにこれをどうにかできないのか? と、言ったのだが壊しても良いなら……。と、言われて止めた。フルーなら確かに壊してしまいそうで怖い。
街は未だに呪われている。
とは言え、大半の人たちは呪いを徐々にだが受け入れてと言うか、妥協して生きて居る様子だ。
「そう言えば、まだ厄介な呪いがえーっと……九十六個はあるはずだろ。
その呪いの影響とかは出てないのか?」
九十六個もあるのだ。なにかしらの事件がすぐに起きると思っていたら、
「あの魔女は性格が悪いですから」
と、フルーが言う。一応とは言えど実の母親なのにずいぶんと嫌っている様子だ。とは言え、当たり前と言えば当たり前か……。
「呪いの威力が激化するのには、時間がかかったり呪われた相手の精神状態で悪化するようにしているのです」
そう言えば、薫もそうだったし他の二人も精神的に何かしらの問題があってそれが浮き彫りになったと言う感じだった。
「まあ、呪いも健全な精神を持っている人間はかかりにくいそうです。
聖者と呼ばれる人間は、呪いを無効化する事が出来たと聞きます」
「聖者ね」
脳裏に浮かび上がるのはイエス・キリスト。いや、あれは聖者じゃなくて聖人だったが……大した違いは無いだろう。
とは言え、現実と言うか実際にイエス・キリストのような聖人君主なんぞそうそういるわけないのが、現実だ。(と、言うかそうそういないから伝説になったんだと思うし)
そもそも、イエス・キリストと言うのは話によると十字架に磔にされて、痛めつけられた。だと言うのに、イエス・キリストはと言うとその痛めつけられていると言うのに、その相手を許して欲しい。と、神に懇願していたそうである。
右の頬を叩かれても、左の頬を差し出す。そんな人間ばかりならとっくの昔に人類は救われていただろう。何に救われているのかまでは知らないが……。
たぶん、戦争は無くなって居ただろうな。と、思う。
「まあ、今は潜伏期間だと思いますよ。
そう簡単に呪いが解ったら苦労はしませんしね」
「だよな」
と、俺はため息混じりに言う。
今までも仕事で呪いの解除や中和や弱体化などをしていたが、どれも九十九の呪いでは無かった。まあ、最初の頃に連発して起きたのでこれが普通かも知れない。
「それに、まだ呪いが感染していないだけの可能性もあります」
「? どう言う意味だ?」
「呪いの核が隠れ潜んでいて……自分の呪いに相応しい。
そう思える相手がいて、初めてその人に呪うと言う可能性もあります。
自動追尾というものです」
「悪質な」
フルーの言葉に俺は思わず呟く。もしも、それが本当なら悪質と言うより悪辣な気すらする。まあ、善良な呪いというのもどんなものなのかわからないけれど……。
「後は条件で発動する呪いもあります。
土地や立地と言った人ではなく場所にある呪いです」
場所への呪いというわけか……。
つまりは、場合に寄ったら呪いは人間だけじゃないと言う事だ。
そう思っている中で、
ぶわり! と、突風が吹いて居る中で突如として空から異形の人物が現れた。
「誰だ?」
俺はそう言って現れた人物を見る。いや、本当に人物なのだろうか?
なぜなら、その人物は弟の吉成にた感じの異形の姿だったからだ。
吉成は蜥蜴人間である。二足歩行する蜥蜴の人間である。この世界では、本来ならば湿地帯……沼地などのじめじめとして温かい場所に暮らしており、寒さに弱く厚さに強い。沼地などの足場がぬかるんだ水場などを好む。
寒さには弱いが、熱いお湯もあまり好かず、水浴びを好む。
人間では無くなったのだが、知性はあるし記憶もある。ただ、俺に惚れ込んだという点は……蜥蜴人間になった事とは無関係である。
とにかく、そんな蜥蜴人間と、突如として現れた異形の人物は余Kにていた。違うのは、背中に蝙蝠のような羽根が生えている事である。いや、良く見て見ると牙が鋭いし、爪も鋭い。さらに、上位の種族と言う印象を与える。
「何者だ? お前は?」
と、尋ねる。可能性はいくつかあり得るが、この場合、重要視するのは敵対する意識があるのか、無いのかである。さすがに、命を狙われるほど恨みを買わないようにしているが、フルーだけではなく俺の呪いで怨まれる心当たりがある。
警戒しつつ尋ねれば、
「ご安心ください。ラフェレア様の部下のキュリオと申します」
と、お辞儀をするラフェレアさんの部下を名乗る人物。
「この外見は、驚かれたでしょう。
私は、竜人と、呼ばれる種族です」
と、言う。
なんでも、ドラゴンに限りなく近い人種らしい。そのために、温厚だったり平和的だったりする小型のドラゴンと意志疎通が可能らしい。また、その翼で空を飛び口からは、炎、あるいは、雷、風、毒のいずれかのブレスを吐くことが出来る。
と、いかにも剣と魔法のファンタジー世界らしい種族らしい。ただし、その数は限りなく少ない。なぜならば、そもそも竜人と、呼ばれる種族と言うのは長寿の代わりに子供を遺す力が弱い。生まれる子供も十匹のうち、九匹ぐらいは劣化種族である蜥蜴人間になってしまうそうだ。
彼は、その数少ない竜人の一人であり魔法使いでもあるらしい。
「召喚魔法使いです」
「召喚魔法使い?」
「魔法使いにもいろいろあります。召喚魔法使いは魔獣や幻獣、神獣などを召喚して使役するものです。暴走したりするものを落ち着かせたり、宥めたりするのも仕事です」
と、フルーが言う。
なるほど、ゲームで言う所の召喚術士と言う感じか……。
「魔獣や幻獣、神獣はどう違うんだ?」
「目撃の数の違いと強さのランクですね。頻繁に見かけるのが、魔獣です。強さもピンキリですが、せいぜいが小さな町を破壊する程度です。それも、きちんと防衛をしていれば、まず町を破壊される事はありません。ごくまれに見られてますが目撃例がまったく無いわけではなく町を複数ほど破壊するほど強いのが幻獣。そして、一国を滅ぼす事が出来ると言われて増すが、目撃例は百年単位で無いとされるのが神獣です」
俺の疑問に答えのはフルーではなくキュリオとやらだった。
「キュリオさん。お久しぶりです」
と、フルーが挨拶をする。
「知り合いなのか?」
「はい。大丈夫です。前に、包丁が頭に突き刺さりそうになった時に止めてくれた良い人です」
それは、良い人と言えるのか? いや、悪い人じゃないんだろうが……。それは、普通の人間としての義務だと思う。いや、人間じゃ無いけれどさ。
「いや、それどころじゃ無いんです! この町に大型ドラゴンが来ています」
何とも言えない空気を打ち消すようにキュリオがそう叫んだ。




