第九話 茨姫を目覚めさせるのはイケメン王子とは限らない。絵にはならないがな。
雅美さんと言うか井上先輩の家の天井は無くなって居た。
「すみません。井上先輩。
俺たちのせいで、家の天井が」
と、思わず井上先輩に俺は謝罪する。
いや、俺たちが何かをしたという訳じゃ無いんだが……。
なんというか、思わず謝罪したくなるような現状だ。
もはや、雨漏りがするね。と、言うレベルではなくドールハウスなどで遊ぶために屋根を取り外しました。と、言う印象だ。
「ううん。あなた達のせいじゃないわ。
あははは。大丈夫よ。うん。元々、あの家で寝泊まり出来てなかったんだしね。
姉さんがちゃんと起きてくれたら」
と、虚ろな目をして言う井上先輩。
そんな中で、またも爆発音がして何かが落ちてきた。
「ふん。ずいぶんと呑気だな。
そのような対応だからこそ、お前らの依頼人がそんな生気のない目をしているんだ。
そんな目をさせて、呪いの解呪屋として失格だな」
「……俺たちのせいなのかな?」
どちらかと言うと、おまえの責任だと思うな。と、ローイを見る。
あれから、家の屋根が無くなるほど吹っ飛ばされていたらしい。
……少しは、学習しないのか? と、本気で思う。
猿だって痛い目を見たら、痛い思いをしないように考えると言う。
学習能力がないのか、痛覚がないのか……。どっちだろうか?
「ふっ、僕なんてすでに雅美さんと言う人の姿を確認できたんだぞ」
「屋根を破壊して、姿の確認って……」
「むしろ、尊敬するところではないですよね」
「いや、あそこまで行くとあきれを通り越して逆に尊敬できるぞ」
俺の言葉に薫があきれたように言えば、フィリがそう言う。
まあ、確かに呆れも通り越してある種の尊敬が出来るが……。
まねをしようとか、見習おうと思う事は出来ない。
「とにかく、お前さ。しばらく見ておけよ」
「ふん。私の力に畏れたのか?」
「好きに言えばいいけれどさ。
とにかく、お前の依頼人の顔色ぐらいはうかがったらどうだ?」
俺が指さした先には、頬を引きつらせている井上先輩のお母さん。
「ふっ、君達があまりにもふがいないからこうして怒っているのさ」
「あんたに怒っているのよ!」
ローイの言葉に井上先輩のお母さんがそう言ってローイを殴り飛ばした。
今まで、よくもまあ、我慢していたものである。
俺なら、もうちょっと早く怒っていた気がする。
「な、なんで僕を怒る?」
「あんた、人の家の屋根をあんなにばんばん! 壊して!
誰が修理代を払うんだい?
言っておくけれど、依頼料は出さないんだからね。
むしろ、弁償して欲しいぐらいだよ!」
と、怒鳴る井上先輩のお母さん。おそらく、今までは井上先輩のお姉さんである雅美さんを目覚めさせるためと我慢していたのだろう。だが、あれだけ壊していてようやっと姿を確認できただけ……。と、聞いて怒りが爆発したのだろう。と、俺は思った。
「さて、どうやって入るか……。だな。
これ以上屋根を……壊す部分もないけれど、これ以上家を壊しても良くないだろう」
幸い? な、事に屋根は壊れて居るがまだ壁やら天井があるし、無事な家具も……たぶん、あるだろう。きっと……。
見ていないが、たぶん大丈夫だ。
脳裏にローイの手によって無残に破壊された家具が頭に浮かぶ。
「あいつ、家が一生物の買い物だと解って居るのか?」
家を買う。口で言うのは簡単だが、ローンやらなにやらでそのお金を全て、払い終えるのにはそれこそ、数十年ぐらいの時間がかかる。
その高額な家を(ひょっとしたらまだローンが残っているかもしれない)あそこまで、壊されれば腹が立つはずだ。
それだけでなく、家具だって種類によったら高い。
それに、家には思い出がある。
家とは成長していくものだと言ったのは死んだ祖母である。
死ぬなら、この家で死にたい。と、父がどれだけ言おうとあの残された家で最後を迎える事を決めた。不満や欠点があるが、それも徐々になれていく。
やがて、自力で直していくこともあるだろう。
そうして、家は成熟していくのだ。
「私の死で家は、一度死ぬわ。
この家がまた新しく生まれるのね」
と、祖母が行っていたりした。
それを思いだしながら俺は茨に包まれた家を見る。
ほんの半日にもみたない(それにしては、濃厚な時間だった気がするが呪われてからの日々は常に濃厚だ)時間で、茨が急成長をしている。
「拒絶……か?」
「大丈夫です。あっています」
正解でも大丈夫とは言えないな。と、茨に包まれている家をみて思う。
フルーの大丈夫は大丈夫とは限らない。と、俺は思いながら茨を見る。
「無理矢理、力尽く……は、止めた方が良いな」
これは、兄貴の言葉であるが女の心を力尽くで開かせようとしても駄目らしい。口説く事に関しては天才的な兄の言葉であるので、信用は出来る。
まあ、たしかに人の心を力尽くでこじ開けることは出来ない。
「それじゃ、どうする?」
「声をかける。と、言うのも無駄だろうな。
声をかけた所で、寝ている相手に聞こえないし……。
静かに向かうしかないな。ただし、こちらから反撃はするな。
身を守ることだけを考えろ」
「大丈夫です。そう簡単に死にません」
「お前も身を守る事を考えてくれよ」
フルーの魔法の暴走だけは防がないといけない。と、俺は思う。そう思いながら俺たちは、茨をも傷つけないように気をつけながら中へと入る事にするが、
「薫とフィリは外で待っていてくれ。あのバカがまたきた時に状況を悪化させる結果しか、想像が出来ない」
ローイが訪れて、今度は学習をしている。と、考える事は悪いが出来ない。脳裏にはまたも無茶をして……俺たちが入ったのを知って、さらに無茶をするバカだと思う。
「怪我しない程度に止めてくれ。悪いな」
「気にするな」
「そう言う事」
俺の言葉にフィリと薫はそう言って笑みを浮かべた。
茨をかき分けて進む。
「厳左右衛門。お前も外に居ても良かったんだぞ。
外にいても、大した戦力にはならないが……。怪我はしないぞ」
「あのな」
呪いの解呪に必要なのは、正吾さん。そして、呪いの専門知識(技術の実行力は問題あるが、知識はある)があるフルー。そして、呪いの核をはじき飛ばせるハリセンを盛った俺らの三人だ。
正直に言えば言えば、厳左右衛門がなんの役に立つのか解らない。それに、この中ではまちがいなく怪我をする。と、言うか現在進行形で俺たちは怪我をしている。
トゲだらけの茨が生えており、まるで威嚇するように俺たちの侵入を邪魔する。
「お前、俺をなんだと思っているんだよ?」
「女にもてたい残念なイケメン」
「残念な。は、余計だ」
即答してやれば顔をしかめる厳左右衛門。
女にもてたい。と、イケメンと言うのは否定しないらしい。
「お前が唯一、男にモテると言えるだろう顔に傷を作ってもしらないぞ」
「バカにするな」
俺の言葉に厳左右衛門が言う。
「友達を危険な目にあっているのに、何もしないなんて格好悪いじゃねえか。
そんなの顔に傷一つ無い男だって最低でモテない。
俺は、友人のためなら危険に飛び込んでモテる男になる」
「お前は、そう言うところがモテない所だと思う」
「えっと……」
茨をかき分けながらの俺と厳左右衛門の会話に何とも言えない顔をする正吾さん。
勘違いしないで欲しいが、俺と厳左右衛門は友人の類だ。
ただ、素直に言い合うことが出来ないのとある意味では本音を言い合える仲なのだ。
俺の本音としては、怪我をするぞ。と、言う心配もある。だが、それを素直に言えなくて、バカにしたい顔に怪我するとモテなくなる。と、言う本音だけが言えた。
対して、厳左右衛門の言葉も本音だ。
ちゃんと格好いいと思える行動をしたい。そして、俺を見捨てたくない。俺を友人と思っていると言うのも本音だ。
こう言う事を言い合える友人と言うのは、希少なので大切にしよう。
「なにより、今のお前は美人だ。
美少女を守っている気分になると楽しい」
「お前が死にかけても、容赦なく見捨てる事にする」
おのれ、今、人が最も気にしている外見の事を言いやがったな。
と、俺は思う。
そんな中で、俺たちが反撃をせずにただかき分けて進む。
あまりにも重度に壁のように張り詰めているなら、回れ右をして別の道を探す。
それを繰り返しながら進んでいく。当然ながら手や腕などに傷が出来る。
「大丈夫か? フルー」
「大丈夫です。この程度、山のようなナイフが空からふって来たときに比べれば大した事がありません」
「うん。そりゃ、そうだろうね」
そんな怪我をしていたら、回れ右して帰って居る。そして、作戦を立て直す。
「なあ。由紀。いつも思うんだが、フルーちゃんは過去になにかあったのか?」
「知らない方が幸せだぞ。友人」
「ごまかしていますね」
厳左右衛門の言葉に俺が答えれば、正吾さんの鋭いツッコミが走った。
とにかく、どれだけ歩いただろうか……。時計を途中で見つけたが、大半が壊れて居たので意味が無い。スマホを使えばよいのだろうが、ほとんど意味をなさなくなっており電源を切って家に置いてある。
大半の人がそうなので、通話にも困らない程度だ。
腕時計は最初から持って居ない。腕時計よりもスマホを見た方が便利だからと言う理由だったが、今では腕時計の方が便利だろうな。と、俺は思う。
問題は電池式じゃないちゃんとした時計と言うのは、めちゃくちゃ高いと言う事だろう。と、現実逃避をするぐらいに俺たちは歩いて居た。
「なあ。少し、休まないか」
「休まない」
厳左右衛門の言葉に俺は間髪いれずに言う。
「茨は動いているから、歩きを止めると襲われる可能性もある。
ついでに、待ったところで状況が好転するとは思えないね」
茨は未だに成長を続けている。
ここで動きを止めたところで、何かが変わるとは思えない。むしろ、状況を悪化させる気がする。
なにより、
「座る場所も無いんだぞ」
「うう」
俺の指摘に渋々頷く厳左右衛門。
「それに、正吾さんも頑張っているんだぞ。少しは男気を見せろ」
「俺は、恰好をつけるだけで運動はしない男だ」
情けない事を宣言する厳左右衛門。だから、モテないのだ。
正吾さんは体が大きい(身長もだが太っているのもあって)ので、茨に怪我をしている。それでも、動きを止めていない。
ただ、まっすぐに前を見て少しでも雅美さんを探そうとしている。
そんな中だった。
「雅美!」
と、正吾さんが声を上げ場所には、雅美さんがベッドで寝ていた。
不思議な事に雅美さんの周辺は、茨は無かった。
「たどり着けた」
ようやっとと言いたげな厳左右衛門が膝を突いてため息をつく。
「あのな。ようやっとスタート地点だ。
ここまで来て、初めて呪いの解呪が出来るんだ」
と、俺が言う。
「で、フルー。どうする?」
「とりあえず、ハリセンで叩きましょう」
お前、考えて居るのを放棄してないか? と、思ったが他にアイデアが思いつかないのと、口に出すと正吾さんが不安になると思ったので、軽くハリセンで叩いた。
「失礼します」
と、言って叩いた瞬間だった。ぐにゃりと何かがゆがむように薄く反応が生まれる。
そこに、
「雅美!」
と、正吾さんが声を上げた。
「ごめん。僕じゃ君を幸せに出来ないと思っていた。
僕と付き合ったら君が笑いものになってしまうと思っていた。
いや、それは総て言い訳だ。僕は君に嫌われるのが怖かったんだ。
けれど、言う。僕は君が好きだ」
その瞬間、雅美さんの体から何かが抜け出た。




