第四話 人の恋路に首を突っ込むと馬に蹴られる。だが放置しておくと寝覚めが悪い
厳左右衛門曰く、突っ込みどころありまくりのコントみたいな会話。それらを終わらせて俺たちは、茨の屋敷……ではなく、さらに詳しい情報を得るためにその告白を伝えた人物から話を聞くことにした。
茨の所にいかなくて良いのか? と、言う声も出たのだが、こうも爆発が起きる中で無目的に進むのは危険だ。得にフルーはものすごいドジ娘なのだ。
無駄に危険をさらすつもりはない。
ここで、井上先輩やそのご家族あたりが適当にやっている。と、言う不信感を抱きかねないのだが、
ちゅどおおおん!
「……また壊れたな」
本日、何度目かのローイの家の爆破。それを見る限りでは、慎重に……これ以上、家を壊す人物が増えないのは逆に好感度を上げるだろう。
こちらとしても、家を壊してしまったら修復しろ。と、言われても出来る自信もなければ弁償するほどのお金もない。
こちらとしても、壊しかねないと言う状況でそんな危険を冒してまで無意味な事をするほどアホではない。
「なあ。本当にローイって凄腕なのか?」
「少なくとも学院では優等生のようだぞ。
とは言え、今年に卒業したばかりだと聞く。
有名なのは家柄や家名、そして優秀な成績で卒業したという実績だけだ」
「あー。なんとなくわかったな。俺」
と、その言葉に頷くように言うのは厳左右衛門。
「卒業した学校は優秀。成績も優秀。家柄も優秀で家名も有名。
そんなお坊ちゃまが現実社会じゃ学んだ通りに動かない。家柄も家名も無意味な問題にぶち当たると、途端にどうしようもない無能になる。と、いうやつだろ」
「けっこう言うのね」
厳左右衛門の言葉に薫が呆れ混じりに言う。
とは言え、真実だろう。
「つか、そう言えばフルーも今年に魔法使いの資格を得たと言って居たな」
「はい。彼とは同じ学年でした。
しょっちゅう、存在を否定されたり学校を止めるように言う優しい人でした」
「優しいのか? それ」
と、厳左右衛門が言う。
「優しいですよ。
私を殺そうとはしませんでしたから」
「……そういうもんかね」
フルーの言葉に俺は考える。
たしかに、フルーを直接的に殺そうとしていない。それは、良い人間と言えるかもしれない。だが、悪意をある見方をしたら自分の手を汚したくないから、公的に殺すように手を回している。あるいは、家柄が良いことからフルーが死に瀕した場合に何が起きるかを知って居るから、殺そうとしていないだけ。と、言う可能性もある。
まあ、フルーを殺そうとしないあたり害はあるが被害は大きくないか。
「まあ、ものの感じ方はひとそれぞれだからな」
と、俺は厳左右衛門にごまかす。
フルーの事情を厳左右衛門は知らない。厳左右衛門が信用出来ないと言わないが、知らない人間は多い方が良い。
俺は密かにそう計算していた。
知らない人間が多い方がよい。秘密と言うのは、ダムに穴を開けるようにあっさりと漏れ出して秘密じゃなくなる。王様の耳はロバの耳で、床屋が大様の耳がロバの耳だと言う秘密を知った時、どうしても喋りたくなった。
地面の穴に向かって喋れば、木の根が聞いて木の根っこはぺらぺらと喋った。
いろいろとはしょれば、そんな話だったと思う。
とにかく、秘密なんて喋ってしまえばそれだけ漏れてしまう危険性がある。ついでに、危険に関わる可能性がある以上、知らない方が厳左右衛門の身のためだ。
世の中、知らない方がよいこともあるというのはこう言う状況のことを指すのだと思う。「それで、告白を伝えた人ってどんな人だ? 美人か? それともかわいい系? お色気系? お姉様タイプ? あ、告白の伝言役をすると言うことは面倒見が良いと言うことだよな」
「野郎だ」
「なんだ。つまらん」
勝手に女性と思い込んでいる厳左右衛門に俺が伝えれば、あからさまに落胆する。
良くも悪くも正直な奴である。もう少し、演技力と言うのがあれば……それは、それで信用が出来ない性格だっただろう。
「同じ大学で小学校から大学まで一緒で家も近所。いわゆる、幼なじみだな」
「幼なじみ! 解ったぞ!
井上先輩のお姉さんはその幼なじみが好きだったんだ。けれど、その幼なじみから別の人からの告白を伝えられる。それは、遠回しにその幼なじみが異性として自分を見ていない。好きではないと言う意味だ。
それに傷ついた井上先輩のお姉さんはそれが、心理的な要因になっているんだ」
「すごいですね。それだけで、わかるなんて」
「たったそれだけの事で、よくそんな発想が出るな」
厳左右衛門の言葉にバカ正直に誉めるフルーとフィリ。
「あほ。そりゃ、漫画の中でぐらいの話だろ。
お前、読んだ漫画をそのまま口にして居るだろ」
と、俺が真実を言ってやれば、
「失礼な。エロゲーだ」
「威張るな。アホ」
胸を張って言う厳左右衛門に俺はハリセンでツッコミを入れる。呪いの核を弾き飛ばす事が出来るハリセンでも煩悩ははじき飛ばせないらしい。
「まんがとえろげえとはなんですか」
「漫画は家に帰ったら見せてやる。
エロゲーは知らなくても良い」
と、フルーの質問に俺は即答する。
「あと、漫画については質問をしても良いがエロゲーは絶対に外で質問をするな。
フィリもだぞ」
「解りました」
「……薫」
「あとで、説明してあげる」
素直なフルーはともかく、フィリはまだ疑問を抱いているらしい。まあ、エロゲーのあたりで眉をひそめていた薫が説明するだろう。
「つか、厳左右衛門。お前は往来でそんな事を放して恥ずかしくないのか?」
「食欲、睡眠欲、性欲は生物の三大欲求だ。人間、正直が最も魅力的だ」
俺の質問に答える厳左右衛門。
……世の中の人間、みんなこいつぐらいオープンだったら少なくとも呪いなんて存在しなかったに違いない。と、俺はため息をつく。
ある意味、羨ましい。と、思いながら、やがて見えてきたのは井上先輩のお姉さんの幼なじみが住んでいる家だった。
「すごい豪邸ですね」
「いや、これはマンションだ。たぶん、フルーが思っているような形の家とは形式が違う」
ありふれた白い壁塗りにいくつもの窓とテラスが並んでいる側面と、怪談が見えてドアが均等に並んでいるでかい建物。俗に言うマンションである。
ちなみに、俺は未だにアパートとマンションの区別と言うのがいまいち、解らない。安っぽいのがアパートで豪華なのがマンション。ちなみに、めちゃくちゃリッチだとオクションと言うらしい。
マンションの三階にある306号室に住むトドロキショウゴさんがその井上先輩のお姉さん、雅美さんの幼なじみであり告白の詳しい事を知って居る人だ。
306号室に行けば、
「これ、トドロキで合っているのか?」
「知るか」
俺の質問に厳左右衛門が答える。
表札には、廿六木と書いてある。てっきり、轟だと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
「? 由紀さんたちの世界の言語なのに解らないんですか?」
「感じは複雑なんだ」
フルーの言葉に俺は言う。
音読みやら訓読みやらあるし、四月一日とかいてワタヌキや月見の里と書いてヤマナシ、小鳥が遊ぶと書いてタカナシと読む。と、言う名字だってある。
そう思いながらチャイムを鳴らせば、出て来たのは一人の男性だった。
「うわぁっー―――」
「すみません。廿六木ショウゴさんですか?」
と、俺は思わず驚いた声を上げる厳左右衛門の後頭部を殴って黙らせながら出て来た人物に尋ねる。
その人物は、一言で言えば……太っていた。胴回りは俺の二倍はあるだろう。顔も太っており、こぶとり爺さんの意地悪爺さんが両方のほっぺにこぶをつけられたような、ほっぺをしている。かといって、不衛生というわけではない。
だが、太っている。ふくよかと言う表現すら無理に生ぬるい表現と言われる。口の悪い人ならデブと言うだろうと言うほどだ。
「あ、はい。僕が正吾ですけれど」
と、太っている人……もとい正吾さんが頷いた。
「すみません。井上雅美さんの事でお話があるんです」
その言葉に正吾さんがびくりと方を振るわせた。
「えっと……おじゃまします」
と、俺たちは部屋へと入る。
それなりに整理整頓された部屋だが、人気はあまりない。
「あの、ご家族は?」
「ああ、両親とも曾祖母の法事で出かけていて留守だったんです」
と、俺の質問に彼は言う。
「そうですか。ところで、外見の方はあまりおかわりがありませんが、呪いの方などは?」
「ああ。呪い……。それは、その……。実は、呪いの影響か……嘘をつくと口から花が出てくるんです」
「また外見に似合わっ―――」
厳左右衛門の言葉を皆まで言わせず、薫が鳩尾に肘を入れる。
まあ、厳左右衛門が言いたい事も気持ちもわからないでもないが口に出すなよ。
「それは、軽度の呪いですね。それに、花で良かったですね。人によっては、泥や蟇蛙、昆虫などの場合もありますから」
と、一人マイペースにフルーはそう言った。
「まあ、あなたは軽度の呪いだったようですが……。
実は、雅美さんの呪いがかなり深刻な事になっているんです。
あの、失礼ですが雅美さんと最後にお会いしたのはいつでしょうか?」
「えっと……この世界に移動する前日です。
彼女に好きだと伝えて欲しいと言われて……伝えたときです」
と、言う正吾さん。
「実は、彼女は眠り続け周囲に茨を生やす……あー、眠り姫みたいなものだと思ってください。そんな呪いにかけられているんです。
このままだと、彼女はそれこそ百年度頃か永遠に眠り続けるんです」
と、俺が言えば正吾さんがさっと目を見開く。
「それは、本当ですか!」
「少なくとも、俺はそんな趣味の悪い嘘を言うつもりはありませんよ」
趣味の良い嘘と言うのはどんなものなのかは知らない。だが、この嘘が嘘だぴょーん。と、言う言葉で終わらせるような無いようではないことぐらいわかる。
「それで、その呪いには心理的な要因があるんです。
もちろん、根拠と言う訳では無いのですが告白をされると言うのは一つの心理的な要因担っている可能性があるんです。
まだ、俺は子供ですが……告白されるというのは大事だと思うんです」
と、俺は言う。
「それで、雅美さんに告白した方というのはどのような方ですか?」
と、俺は尋ねる。
「あー、えっとこの街に住んでいる人で同じ大学のサークルに入っています。
えっと……写真がありますよ」
そう言って正吾さんが持って来たのは、一枚の写真。
おそらくサークル活動での記念写真なのだろう。
「えっと……これが雅美です」
と、指さした先には井上先輩を少し大人びた印象の女性。長い髪の毛をポニーテールにしており、活動的な印象を与える美人だ。
その隣には、正吾さんがいる。そして、その後ろを正吾先輩が指さす。
「彼が、雅美に告白した赤沢優真です」
と、指さしたのは、
「うわ。俺のあまり好きじゃ無いタイプだ」
と、厳左右衛門が言う。
「お前、美形を見るといつもそう言うよな」
と、俺は呆れ混じりに言う。
間違いなくイケメンである。顔立ちは、厳左右衛門みたいな少年アイドルと言うよりも舞台や映画に出てくる俳優に近い。細身だが鍛えられている細マッチョだと写真でも解る。
美男子だと断言できる人物だ。
「まあ、見ての通りのイケメンで……。
性格も良くて明るくて良い奴なんです。
だから、すごくモテているんだけれど、初めて好きになったのが雅美だ。って、今まで告白とかはされてきたけれど、自分から告白するのは初めてだから……。
頼むって」
そう言う正吾さんだが、何か少し元気が無い。
どうしたのだろうか? と、思っていると、
「正吾さんは、お二人が付き合う事に関してはどう思うんですか?」
と、薫が尋ねる。
その瞬間に、正吾さんが肩をぴくり……もとい、ぶるんと振るわせた。
贅肉が思いっきり揺れたのを俺はスルーすることにした。




