第二話 困難な仕事とストーカーだけで大変なのに喧嘩まで売られる
「で、なんでお前達まで来ているんだよ」
「仕事の噂を聞いたんでな。なにか役に立つかも知れないだろう」
「以下同文よ。それに、呪いを解呪してもらったお礼の代金も払っていないわ。
体で返そうと思ったのよ」
「体じゃなくて労働と言えよ」
フィリと薫の言葉に俺はそうツッコミを入れる。
まあ、たしかに呪いの解呪でお金を貰っている以上、薫からお金を要求するべきだろう。と、俺が思っている中で、
「いや。美人が勢揃い。両手に花だね。
男の中に女の子が一人いると紅一点というけれど、こう言うのは白一点と言うのかな?」
「あのな。俺も男のつもりなんだぞ」
厳左右衛門の言葉に俺はそうツッコミを入れる。
「あははは。俺は今は、由紀を無性別と思っているからさ。
ほら、カタツムリとかナメクジとかタコとか性別がない生き物が居るだろ」
「俺は人類だ」
厳左右衛門の言葉に俺はツッコミを入れる。そもそも、タコには性別がある。
「人類だって性別がない生き物が居るぞ。
男の娘や漢女とかな」
「なんか違うぞ。それは」
「男の子は男の子ですし、乙女は女性ですよ」
俺のツッコミにフルーがツッコミを入れれば、同じく首をかしげるフィリ。まあ、これは漢字を読めて初めて解る事だし、そもそも俗語なのでしらなくてしょうがない。
「あー。気にするな。異界の言語だと思え」
「はい。ヨシキさんたちが話す事は全て異界の文化です」
いや。そうなんだけれどな。と、フルーの言葉に頭痛を覚えながら歩いて居ると、
「やあ。僕の麗しき未来の花嫁。こんな所で会えるなんてやはり僕と君は運命の糸に結ばれているんですね」
「俺にはお前がストーカーにしか見えない。
それに、運命の糸なんかじゃなく呪いの縁にしか思えないね」
と、きっぱりと否定するが気にした様子がないシャルフ。
「ふふふ。相変わらずの茨だらけの姫君だ。
だが、その茨の奥底にはそう水晶のように輝き煌めく宝石よりも美しく輝く薔薇の花が咲いていると知って居ます」
「思い込みと言わないか?」
俺はそうツッコミを入れる。
「大変だな。お前も」
「君、人の彼女に馴れ馴れしいんじゃないのか?」
「いつ、お前の彼女になった? そもそも、なんでここに居る」
と、俺は背中に蹴りを入れる。
「ふっ。酷い呪いがあると聞いてね。
それなら、呪いの解呪の手伝いをしていると言う僕のマイ・スイートエンジェルが訪れると思ってこうして、見ていたのだよ。
君の危機にすぐに駆けつけられるようにね」
世間一般でそれをストーカーと言う。
「そうか。それじゃ、あのストーカーをどうにかしてくれ。
あ、怪我はさせずに話し合いでな」
俺の言葉に素直に向かうシャルフ。これで、ストーカーは片付いた。
とにかく、うっとうしいのがいなくなり清々しい気持ちでいた俺だが、それは長くは続かなかった。
「なぜ、貴様等のようなやつがいる? とっとと消えろ!」
と、目的地についた途端にそんな罵声を浴びせられた。
「いきなり、ずいぶんな暴言じゃない! 誰よ? あんたは?」
と、薫がそう言って暴言の主であるローイに尋ねる。
尋ねると言うよりも、噛みつくと言うような印象であるが……。
まあ、向こうも失礼極まりないので問題は無いだろう。たぶん……。
「ふん。そこの存在自体が間違っている女と違って、由緒ある魔法使いであり解呪の専門家だ。ここに厄介な呪いが起きているというので、解決をしにきた。
そこの女が来てしまえば、呪いが悪化する。とっとと消えろ。できれば、この世から消えて欲しいものだ」
堂々と、言う奴である。
事情を知らなかった頃は、なにかフルーに事情があると察する程度だが、事情を知っているとこいつの口の軽さに呆れてしまいそうだ。
「あいにくと、こっちも依頼を受けたんだよ。
依頼を受けた以上、それを中途半端に放り出すのは無責任と言わないか?」
と、俺は殴りそうな薫を止めて言う。
「ふん。貴様等が存在していると言う事が間違いだ。
責任を感じるなら、この世に生まれた事を悔い改めてほしいぐらいだ」
「いい加減にしろ」
そう言ったのは、フィリだ。
ローイを見るようにながら、フィリは言う。
「お前はたしか、グランツ家の長子だな」
「グランツ家?」
フィリの言葉に俺は怪訝な顔をする。
「この世界では、有名な魔法使いの名家だ。
まあ、ラフェレア殿に比べれば大した事がないが」
と、フィリが言う。まあ、名門名家の出身と言うのは予想していた。
あいつの性格はさておき、普通なら知って居ないはずの事実を知っていた。ついでに、あの偉そうな性格から察するにおそらくは、魔法使いでも大した実力者なのだろう。
ある意味では、予想通りである。
まあ、権力がある人間だが性格は悪いと言うのもある意味では、ありきたりだ。
「その事は、お前達魔法使いが極秘にしている事だ。
まあ、さすがに直接的に言って居ないようだが……。それ以上、話していて良いのか? 下手をすれば、魔法使いである資格を失うのでは?」
その言葉にぐっと詰まるローイ。
ざまあ。見ろと思う。
「そう言えば、こいつは俺を口説かないな」
と、俺はふと思いだせば、
「彼は呪いの影響を受けにくい体質なんです。
だから、呪いの解呪の専門家なんです」
「なるほど」
呪いが他者に影響を与える類……たとえば、俺の呪いだ。それで、口説き始められたらミイラ取りがミイラになるというやつの状態だ。
それは、無意味としか言えないだろう。
だから、呪いの影響を受けにくくするのも一つの資質なのだろう。フルーのほうは、おそらくだが呪いの主である魔女王の影響があるのかもしれない。と、俺は密かに納得しながら、静かに口を開いた。
「そんなに不満なら別々に同じ呪いを解くのをやれば良いじゃないか」
「なに?」
俺の言葉に驚いたようにローイが俺を怪しむように言う。
そう言えば、こいつは俺を口説いていなかった。おそらく、呪いに耐性がある事から、わずかとは言え中和されている呪いが影響を受けなかったのだろう。
「呪いの解呪なんて出来ないと言いたいんだろ。
なら、その実力を見てみれば良いじゃないか。それで、出来てないと思うなら、それを協会に報告すればよい。
呪いがこうも蔓延っている中で、出来ていない人物が呪いの解呪屋をしていれば邪魔だろうしな。だが、呪いの解呪屋として確かな腕がある。そう解れば、少なくとも呪いの解呪屋として仕事をする価値はあるはずだ。
なにしろ、呪いの解呪屋はこの町じゃ何人いても足りないだろうだからな。
それに、すくなくとも呪いの解呪でこちらの方が優秀なら、そんな事は言えないはずだ」
「俺に勝てると思っているのか?」
「こちらが負けると思っているなら、受けて損は無いはずだぜ。
それとも、負けるのが怖いのか?」
あざ笑うように言うローイに俺は鼻で笑うように言う。
「はっ! 面白い! この俺に喧嘩を売るとは良い度胸だ。
貴様等のような素人と出来損ない解呪屋ごときが俺に勝てると思っているのか?
その思い事態が、傲慢だと言う事を身の程にわきまえさせてやる。
そして、そこの女が解呪屋などを志す事が間違いだと言う事を教えてやる」
なんて釣られやすく単純なんだ。と、俺は呆れてしまう。
思った通り、プライドを刺激してやればあっさりと売られた喧嘩を購入している。
なんて安い男だろうか……。
喧嘩を簡単に買う男は、安い男と表明しているようなものだと言うのに……。
だが、これで計画通りだ。
おそらく、何を言ってもこの男には糠に釘でのれんに腕押しだ。言った所で、理解はしない。なら、何かしら約束と言う形でこれ以上、口出しを禁止させれば良い。
その方法がこの手段ぐらいだろうと判断したのだ。
自信が誇りを持っているプライドを持って勝負を挑む。プライドが高いなら、敗北を認めなかろうが事実を突きつけられる。敗北がしたら、すくなくともそれに関しては大きく言えなくなるはずだ。
「おい。大丈夫なのか? たしかに、この手のタイプは敗北をすればもう一度、勝つまではそれ以上には言わないだろう。だが、負けたら厄介な事になるぞ」
と、フルーが耳打ちしてくる。
「ものは言いようだ。協会に報告すれば良い。と、言ったが死ぬとも言って居ない。まあ、協会の方がなんらかの形で呪いの解呪屋をとして不釣り合い。と、判断したとしてもいきなり営業停止にするのは非常識だろ」
と、フルーの言葉に俺は小声で言う。
それこそ、事件を悪化させたりするどうしようもないほどの結果ならともかくだ。俺たちの世界でも営業停止になるとなれば、集団食中毒や大規模異物混入だ。
さらに営業停止から失業になるには、そこで死者まで出るほどだ。
「……つまり、俺たちが失うものは実質的には、ほとんど無い」
「「あくどい」」
俺の言葉に薫とフィリが呆れたように言う。
「向こうの性格に好感が持てていたら別だけれどな。
相手があまりにも性格が気に入らなくてな。死ねと殺意をもって言う相手に真っ当な勝負を挑んでやるほど俺は優しい性格じゃない」
と、俺はきっぱりと断言したのだった。
「良いだろう。貴様等の未熟さと傲慢さを見せつけてやる」
お前に傲慢と言われたくない。と、俺が思う中でずんずんと茨に進もうとして、
「おい。こら、まて」
と、さすがにストップをいれる。
「なんだ。今さら、怯えたか」
「ルールを決めときたいんだけれど」
あざ笑うローイに俺はそうツッコミを入れる。
「そもそも、俺たちは呪われた当人の姿や要望、年齢に居場所なんかもしれない。それに、どっちがどうやったら勝利で、どっちがなにをしたら敗北なのか?
それを決めて無いじゃないか。どちらかの考えて居る勝利条件が違ったら、それで勝った負けたと言い争いをするぞ。それこそ、不毛じゃないか」
つか、先走りすぎだ。と、俺は呆れる。
「まず、ルールその一。ルール違反をしたら失格。
ルールを守れないようじゃ、魔法使いだろうが商売人としても最低だと俺は思う」
「ふん。当然だ」
俺の言葉にローイは頷く。
俺が要求したルールは、四つだ。
一、ルール違反は失格。
二、無関係の人間、生物を殺すのは禁止。病む得ない場合のみ許可するが、なるべく生かすように努力をする。
三、相手への妨害を禁止する。
四、勝者は依頼人が決める。
一つめは最初に言ったとおりの理由だ。二つめは、俺個人の理念だ。殺人ありなんてルールでは、フィリはともかく俺や薫には不利だ。
現代日本で平和に生きてきていた俺たちは、殺人に関しては本能的にブレーキがかかる。いずれ、人を殺さなければならなくなるときがあるかも知れない。
だが、それはなるべく経験したくない。いずれ、元の世界に戻った時に、異世界とは言え誰かを殺した経験なんて後からフラッシュバックしそうだ。もちろん、ローイへは道徳観念と言う大義名分を口にしておいた。
三つめは念のためだ。呪いを解呪すると言う仕事をするのに、他者の足を引っ張るようじゃ最低だ。と、言っておいたがフルーを殺すべきと考えて殺そうとするのを妨害する役目もある。四つめは、ひとえに勝者を第三者にゆだねることで公平性を生み出すためだ。ここで、ローイに勝つと自分たちが得をする存在。あるいは、フルーが負けて欲しいと願っている存在が勝敗を決めると不公平な勝敗を突きつけられそうだからだ。
ローイはどうやら、良い家柄の出身だ。そして、地位もある。地位と家柄がある人間には当人の人格や性格や望む望まずと関わらず味方が存在する。ご機嫌を取っておけば、後々に利になると考える人間がいないと考えるのは楽観視だ。
そして、フルー。フルーは敵が多い。それこそ、出来る事なら死んで欲しいと願っているやつも多い。呪いの解呪屋をしていることが反対と言う人間も多いだろう。
だが、井上先輩とその母親、ローイに依頼した人だ。この二人は、別にローイのご機嫌を取る理由も無ければ、フルーに死んで欲しいと願っているわけでもない。
ついでに、五つめとしてフルーの事情を言うな。と、伝えておく。まあ、これはある意味では三つめの足を引っ張ると言う分類に入ると伝えておいたので正確に言えば、五つめではないのかもしれないが……。
ローイはと言うと、一つは敗者は依頼料を貰わない。二つは負けたら、無礼を謝罪する。三つめは負けたら、三つほど後で可能な限りの命令を聞け。と、言うのだった。
それは、ルールではなく勝利ではない。さすがに死ねとか奴隷になれ。お金を寄こせと言うようなある程度、無茶な命令でなければ可能な限りと言う条件を与えておいてそのルールで始める事になったのだった。




