第一話 初仕事入りました。そして、おまけもついてきました。
「呪いを解いて欲しい?」
「うん。そうなの。みんな呪いがかかっているからどうにかして欲しいんだろうけれど、せめて少しは中和をしてくれるとすごく助かるの」
学校の授業が終わった休み時間。
百鬼夜行状態の学校や町並みにもなれて来て、平和な日常……とは言えないが、とにかくなれて来た中でそんな話がやって来た。
俺は話を持って来た女子生徒を見る。年の頃は、どう見てもちびっこい幼稚園児の子供にしか見えない。だが、呪いのせいで幼児化してしまっただけらしい。
知能などにも困っていない。
「で、誰の呪いなんですか?」
と、フルーが尋ねると、
「お姉ちゃんの呪いをどうにかしてほしいの」
「お姉ちゃん?」
と、俺は怪訝な顔をする。
依頼人、二年生で俺から見たら先輩にあたる井原先輩には姉がいる。その姉も呪いにかかったらしく、眠るとその周辺でやたらと植物が育つらしい。
「中々にメルヘンチックな呪いだな」
脳裏に多種多様な花に埋もれて眠っている女性をイメージする。
「ああ。逆井さん。あなたならどんな花々もかすんでしまう」
「花に埋もれた由紀さん。素敵だろうな」
「ああ。今度、花を渡して告白を」
と、言うストーカー連中の言葉はスルーする。この所、定期的に告白を受けていたのでいい加減になれてきた。慣れては来たが、それと同時に心と言うか神経の何かがすり切れて言って居るような気がする。
生まれて初めてのモテ期がこんな形なのかと思うと涙が出そうだ。
だから、話があると言われたときもまた告白かと思ったら女性だったので少し、喜んだものである。……ただし、依頼と言う形だった。
このところ、告白されすぎて自信過剰になって居たようである。
恥ずかしい。
とは言え、それはさておく。
「いや。そんなメルヘンなものじゃないわ。
たぶん、逆井くんが想像しているようなものじゃないと思うわ。それだったら、良かったんだけれど……なんというか、あえて言うならグリム童話の茨姫みたいな感じなのよ」
「ぐりむどうわのいばらひめとはどんな国の姫君なんですか?」
井原先輩の言葉にフルーが首をかしげる。今回の疑問は異世界人であるフルーが知らなくてもおかしくはない。
「国の名前じゃなくて、おとぎ話の題名だよ。
……おとぎ話ぐらいはわかるよな?」
いろいろと育ちが複雑なフルーの事情を知ったのはつい最近だ。まあ、魔法については学んで来たのだが常識がないフルーはたまにこの世界の住民でも普通に知って居る知識がない。おとぎ話を知らない可能性も無いわけではない。
「はい。大丈夫です。
いくつか、祖父から聞いた事があります。とは言え、幼い頃の話ですか」
良かった。と、言うか……。
「お前、まともなタイミングで大丈夫です。と、言えたんだな」
普段、フルーが言う大丈夫です。は、大抵はまったくもって大丈夫じゃないときにしか聞いてなかった。フルーのまともな大丈夫に俺は思わず感動しそうになっていた。
とは言え、この世界に俺たちの世界のおとぎ話があるとは思えないので簡単に説明する。
「昔々……。と、言っても架空の国に王様と王妃様がいました。
まあ、詳しい長い説明をするのも面倒だからはしょるな。
わかりやすく言うと、生まれたときに魔女によって呪われたんだ。十六歳になると、糸車に指を指して死んでしまう。けれど、良い魔法使いによって死ぬんではなく、百年の眠りにつくと言う呪いに弱められたんだ」
「百年ですか……。それも、それで悪質な呪いだと思いますが」
「そんなの俺に言われても知らねえよ」
死ぬよりは、ましかもしれないが……。と、俺はフルーの言葉に肩をすくめる。
「だが、王様は不安でしょうがなく国中の糸車を燃やした。そして、十六歳の誕生日。お姫様は誕生日のパーティーに出るためにドレスへ着替えようとしていた。すると、なぜか国にはもう無いはずの糸車があった。生まれて初めてみた糸車に引き寄せられるように、触れると針が刺さり、姫は百年の眠りについてしまう。
そこへ良い魔女が現れて、姫を魔女の魔の手から守り姫が寂しくないように、茨で覆って国中の人たちを眠りに就かせた。
百年後、姫は茨をくぐり抜けてやって来た王子様のキスで目覚めた。と、言う話だ」
まあ、魔女や魔法使いではなく精霊や妖精だったりいろいろな逸話や諸説があったりするらしいが、一般的なのはこうだろう。
「理論上、いくつかおかしい所がありますね」
「おとぎ話に合理性と理論を求めるのは、無粋というやつだぞ」
フルーの言葉に俺はそうツッコミを入れる。
とにかく、そう言う感じで姉が眠ると周囲に茨が生えてきて周囲に広がるらしい。茨なので処理をするのも大変らしい。
「まあ、それだけなら困らないんだけれど……。
茨は日に日に太くなっていくし、成長スピードも上がっていく。それに、比例するようにお姉ちゃんの眠る時間が長くなってきていて……。
もう、半日以上は眠るようになっているの。
お姉ちゃんも眠っちゃ行けないと思って、眠らないように努力しているんだけれど、無償に眠くなってしまうみたいでお風呂の中や歩いて居る最中に、電源が切れたみたいに眠ってしまうの」
「デンゲンガキレルとはどう言う意味ですか?」
「ものの例えだ。意識を急に失うと言う意味だ」
と、フルーの質問に俺は答える。
しかし、急激な眠りと眠る時間の延長と言うのも呪いの影響の可能性も高い。
「で、フルー。それは、どんな呪いなんだ?」
「おそらく茨永眠の呪いだと思います」
「永眠!?」
フルーの言葉に顔色を変える井上先輩。
「はい。未来永劫、生きたまま眠らせ続けると言われて居ます」
「それって眠ったまま衰弱死をすると言う事?」
「大丈夫です。眠り続けて千年後に茨に包まれて茨そのものと同化します」
「それのどこが大丈夫なの!?」
と、フルーの言葉に井上さんが悲鳴を上げるように叫ぶ。
たしかに、世間一般ではそれを大丈夫と言わない。
「九十九の呪いの一つか?」
「大丈夫です。おそらく違うと思いますが、なんとも言えませんね。
とは言え、その呪いは蒼穹に対処しないと一日以上眠り続け始めたら解呪はほとんど不可能と言われるほどになります」
あまり大丈夫と思わせないような事を言うフルーの言葉に、井上先輩は卒倒した。
「で、呪いの解呪方法は?」
「呪われている当人によって解呪方法がいくつかに変わってしまうんです」
井上先輩に放課後に井上先輩の家に行くと伝える。まあ、もっと詳しい話を聞きたかったのだが、卒倒した井上先輩を保健室に連れて行ったりしていたら、平日の大半を過ごすわりに短い休み時間はあっという間に終わってしまっていた。
授業中、俺は小声で尋ねれば隣の席で本を読んで居る。(生徒ではないので、授業を受けるという行為を放棄している)フルーが言う。
「たとえば?」
「根っこと言うか茨の根源である種の処分です。
ですが、それは心理的な要素が関わっているんです。心理的な悩みと言うか、問題点を種にする事があるんです」
「心理的な問題点ね」
そりゃ、また、なんというか厄介そうだ。と、俺は思う。
性格と言うか内面、心に問題を抱えていない人間と言うのは程度の差こそあれど、無いわけではない。と、言うか人間性に問題が無い人間と言うのはこの世に存在しないだろう。
「正確に言えば、願望を夢に見せるんです。
甘い、誘惑で現実逃避を望んでいる種です」
「現実逃避……ね」
現実とはままならないものだ。理想的な女性と理想的な結婚をして、理想的な会社に入り、理想的な収入を得る。そして、理想的な家庭を得て理想的な人生を送りたい。誰もが、理想の形が違えと大半の男性が思う理想的な人生とはこうだろう。
だが、理想はあくまで理想に過ぎないのだ。
現実は冷たくそして、非情である。
全員が高校で理想とした学校に入れるわけではない。そもそも、生まれたときに理想的な家庭で生まれると言う保証もないのだ。
もちろん、絵に描いたような悲劇的な家庭もあるだろう。
だが、理想はあくまで理想であり現実的ではないのだ。
楽して遊んで暮らすのが理想でも、現実ではそうはいかない。高収入で顔も良くて性格も良くて、両親も優しい理想的な旦那と結婚を望む人はいても、その通りの相手と殺せると言う保証はまったく無いのだ。子供の頃は理想は願えば、そして年月がたてば全てが成功すると思っている。だが、実際には違うと言う事を成長して行くにつれて嫌でも解る。
俺も、成長すれば兄貴のようにモテモテになると思った。そして、ならなかった。
だからこそ、理想の物語を描いたり呼んだり、妄想したりするのだろう。人間は……。
しかし、その事から考えるに、
「現実への拒絶というやつか」
精神的な問題となると、そう言うのはむしろ精神医とかのお医者さんのほうがどうにかできそうだ。しかも、そう言うのはそう簡単に解決する問題ではないだろう。
引きこもりになった人物が年単位で部屋から出ようとしない。と、言うのがよい実例だ。だが、問題はそれが眠り続けていると言う事だろう。
「たとえば、解き方は?」
「そうですね。その人が最も愛しく思っている人物からの接吻と言うのもあります」
「茨姫か!」
フルーの言葉に俺は思わず大声でツッコミを入れる。
「逆井! 授業中だ」
と、二口女ならず二口男になった古典の先生がそう言う。ちなみに、頭の上の口はずっと何かを食べていないと腹が減った。と、うるさいために現在は饅頭をぱくぱくと食べていたりする。
「罰として、次の文章を読みなさい」
俺は渋々と教科書の音読をする事になったのだった。
「で、なんでついて来たんだ? 厳左右衛門」
「タッキーと呼んでくれ。と、いつも言って居るだろ。由紀」
と、ついて来た厳左右衛門はそう言って肩をすくめる。
「まさか、お前まで俺を口説くんじゃないんだろうな」
「俺は、いくら美少女でも本来の性別が野郎を口説くほど、落ちぶれていない」
俺の言葉にきっぱりと断言する厳左右衛門。
その言葉にごまかしがないので、嫌悪感はない。だが、厳左右衛門の言葉を否定はしないが、そうなると落ちぶれた存在が俺の後ろに無数にいると言う事になってしまう。
俺の後ろにいるストーカーに喧嘩を売った発言だ。
その事を、こいつは気づいて居るだろうか?
そう腐れ縁の知り合いを心配するが、
「俺はフルーちゃんや異世界格闘家のオレ娘や格闘美少女と有名な薫ちゃんとお友達になりたい。お前なんてどうせ、肉体は女なんだからそう言う関係になれないだろうが!
俺なら最後まで出来る」
その言葉を聞いて心配するのを止めた。
「最後までとはなにが最後までなんですか?」
と、フルーが首をかしげる。
人間関係を作るのに致命的な問題があったフルーなら、男女の交際の最後までの意味がわからなくても当然だろう。
当然だろうが、
「そう言うのは……そうだな。ラフェレアさんに聞け」
普通なら母親に聞けとでも言うと頃だが、フルーの母親はまともな話しの相手にならないので、除外する。
とは言え、ラフェレアさんも質問されたら困るだろう。なので、
「あと、良いか。厳左右衛門と言う人間が言っていた言葉だった。と、言うのもちゃんとつけ足すんだぞ。
間違っても、俺に教わったなんて嘘をいうんじゃないぞ」
「わかりました。
今度、聞いて見ます」
聞かれたラフェレアさんがどんな反応をするのか、元凶である厳左右衛門がどんな目に合うのかまでは知らない。知らないし、興味は無いし自業自得だ。
俺の知った事ではない。
「言っておくが、二人とも強いぞ。
それに、フルーは遊びで手が出せるほど軽い人間じゃないぞ」
「なんだ? 嫉妬か?」
「違う」
厳左右衛門の言葉に俺はため息をつく。薫もフィリも実力確かな武闘派であり、無理矢理不埒なまねをしようとしたら文字どおり、骨が折れる思いをするだろう。
フルーは世間知らずなので騙しやすいかも知れないが、その背負っている過去は重い。正直な話し、まだ親の借金で苦労している訳ありの少女の方が軽い。物理的な重さで言えば、東京タワーより重いかも知れない。
いや、もちろん東京タワーを背負ったことはないが……。と、言うか東京タワーは重さを比べるものではない。
「それに、井上先輩は美人だからな。
お姉さんも美人で茨姫の呪い。
王子様役が必要だろ」
「……厳左右衛門なんて名前の王子様がいるかよ」
「喧嘩を売っているのか」
俺の言葉に下心満載の厳左右衛門が叫んだのだった。




