第七話 自由への道、解放への道
「なにがあろうと、約束の時間を守らなかったのは事実です」
「そうですか。
そのわりには盗賊に襲われたと言う言葉を聞いても、顔色を一つ変えないんですね」
フィリの父親の言葉に俺はそう言いながら周囲を見る。
ぴりぴりとした空気があたりを支配している。だというのに、客の誰一人として平坦に食事などをしている。はっきり言って、異様な雰囲気だ。
そりゃ、ファミレスと言った空間なら他人に無関心だろう。だが、この場所は部屋ごとが近くなおかつ、BGMのような音楽もない。
こんな場所で、こんな会話をしていれば誰か一人ぐらい聞き耳を立てていたりする。なおかつ、かなり険悪な空気。俺なら嫌な予感を覚えてお会計をして立ち去る。
だと言うのに、客たちはなんの変化もない。
はっきり言って異様を通り越して、異常である。
最悪の結果がありそうだ。俺は、そう思いながらもフィリの父親を見る。
「随分と、口が悪いお嬢さんだ」
「あいにくと、俺はお嬢さんじゃないし……。
そもそも、礼儀がなっていない人間に丁寧に喋る必要を感じるほど大人じゃないんですよ。そちらの流派じゃどうかはしりませんけれどね。俺の故郷じゃ、武道家ならば相手が名乗ったなら名前を名乗れ。と、言うのが礼儀ですよ。
いや、武道家とかそう言うのを通り越して人類としての常識ですね。
それこそ、五歳の子供だって出来る礼儀だ。その礼儀も守れないような相手に、なんだって嫌われないようにしてやるつもりはないね」
「ふふふ。随分と、気が強い」
「まあね。それに、気に入らないのはそれだけじゃない。
盗賊たちは俺たちを殺すつもりで待ち構えていた。
俺たちは、本来ならばあまり人が通らない場所から来たし、俺たちがあそこを通ると言う事を知って居る人間は限られている。
で、その限られた人間の中には……あなた達がいるんですよ」
俺の言葉にフィリの父親は目を細める。
「ほお。まるで我々が君達を殺そうと企んでいるのではないのか? と、疑っているようだね」
「疑っていると、いうよりも犯人として最も怪しいのがあんたたちだと考えて居るんですよ。まず、盗賊たちはものすごく上等な武具や防具を身に着けていた。
フルーやフィリが言うには、普通の盗賊が手に入れられる品じゃないらしい。
つまり、黒幕には金があると言う事だ」
「ほお。我々は確かに、名家の流派としてお金はある。
だが、それだけで犯人呼ばわりは無礼だと思わないかね。
これだから、女の浅知恵は」
「その発言に言いたい事は、いくつもあるけれど……。
それだけじゃない。
上等な武器って言うのは、そう簡単に手に入れる事は出来ない。で、武器や防具を売っているお店からしてみたらある事にはあるが、大量には用意していない。そんなに大量に仕入れても中々、売れなかったら赤字だ。
つまり、あれだけの量を発注するには余裕をもっている必要がある。なら、かなり前から俺たちがこの町に来ると言う事を知って居る人間と言う事になりますよね」
俺はそう言うとフィリの父親を見る。
「この条件に一致するのはあなた達だけだ」
俺の言葉を聞いてもフィリの父親は顔色一つ変えなかった。
フィリの父親……いい加減に、名前ぐらいは名乗って欲しい。は、不敵な笑みを浮かべて尋ねる。
「なるほど、だが……我々が殺す動機が?
動機もないのに、犯人呼ばわりとはまったく女とは礼儀が――」
不敵な笑みを浮かべて言うフィリの父親。
「礼儀を語るなら、名前を名乗れって言っているんだろうが!」
いい加減にうっとうしくなって俺は警護を辞めて怒鳴る。
「つか、俺は呪いで女の肉体になったんだよ。最初から女じゃねえんだよ。
そもそも、考え方や感じ方で女がどうのこうのと言うのは、どうなんだよ?
それに、動機? 動機ならフルーから聞いているよ。
そもそも、お前らはフルーが過去に向かったときに、うっかりと殺しかけてしまったそうだな。……それが、偶然なのか?
フルーは気にしてないようだが、話を聞く限りじゃどう考えても悪意を感じるね。いや、悪意じゃなくて殺意か? そして、フルーの親の事も聞いたよ。
フィリからあんたたちが魔法協会と親しい事も聞いた。
魔法協会の暗黙の了解となって居るフルーの出生の秘密。
それを、知って居る可能性がある以上、殺す動機は十分にある。
それでも、否定するなら否定すれば良いさ。ただし、あんたたちとこれ以上、話すのも不愉快だ。要件だけ言ってさっさと帰らせてもらうぞ」
と、俺が言えば……、
「ふん。なるほど、その女の出生を理解しているというわけか」
と、フィリの父親が言った瞬間だった。
「ならば、話すしかないか」
と、言い出した瞬間だった。
レストランにいた客たちが一斉に立ち上がる。
「だが、むしろこちらとしても尋ねたいぐらいだな。
なぜ、その女を庇う。
そんな女、生きて居る価値もない。いや、生まれて来た事じたいが間違いだ。
だから、間違いを修正してやろうというのだ」
「ふざけるなよ」
と、俺はフィリの父親に怒鳴る。
「生まれて来たのが間違い?
人間は誰だって間違いをするだろうけれどよ。けれどな。生まれた事だけは、なにがあろうと間違いじゃねえよ。
それに、間違いを修正? いいや、お前らは問題を無かった事にしようとしているんじゃないんだよ!!」
男の言葉に、俺はそう怒鳴る。
「問題を解決したいなら、フルーの呪いを解く。その程度の気迫もなくなにが男だ。女とバカにするなら、もっと良い男になって言え」
「ヨシキ。男らしいわよ……。たぶん」
俺の言葉に薫がそう言うが、……たぶんってなんだ? たぶんって!?
「ま、あたしも同感ね。
フルーと知り合って……フルーが根からの悪人に思えないのよ。
あんたたちのやり方は、気に入らないわよ。ついでに、あたし達までついでに襲わせたあたりが気に入らないわよ」
と、薫が言う。
「フィリの印象も良くなかったけれど……。あなた達に比べたらマシね。
あんたたちと同調したくないわよ」
俺と薫の言葉を聞いても、フィリの父親は冷静な顔のままだった。
「ふん。所詮は、女。下らない情に流される」
俺は、あの事件まで十六年間は躊躇も迷いも無く男として生きて居た。そりゃ、外見も肉体も見た目も間違いなく女性となっている。
だが、心意気は変わっていない。
男とか女とかは関係無い。ただ、フルーを殺して終わりと言う考え方が納得できないし、許す事が出来ないのだ。
「男とか女とかは関係無いと思うけれどな」
と、俺は言う中で、
「フィリア!」
と、フィリの父親が力強く怒鳴る。
おい。俺との話は無視か! と、俺は思いながらフィリを見る。
フィリは父親に名を呼ばれて、びくんと肩を大きく振るわせた。
「きさまのような、出来損ないの女でも利用価値があるだろ。
それさえ、出来れば……存在価値ぐらいは認めてやる」
「……存在価値……ね」
フィリの父親の言葉に俺はそろそろ吐き気を覚えた。余裕がある状況ならば、胃の中のものを全て逆流させていたかもしれない。
吐きそうな嫌悪感を覚えるほどの偉そうな心。
……こりゃ、まだフィリのほうが精神がある。
「……わ……お、……オレは……」
と、引きつらせながらフィリは言いよどむ。
「健全な精神は健全な肉体に宿る」
と、俺は静かに口を開いた。
「は?」
「健全な肉体と言えるかどうかは、解らないが……。
お前らの精神は不健全なのは間違いないな」
と、俺は眉をひそめて言う。
「なにが、言いたい?」
「お前らは弱いんだよ。それこそ、武道家として最底辺だ」
俺はそう宣言する。
「なんだと?」
「そもそも、俺が名前を聞いたのは何度目だと思っているんだよ?
何度も名前を尋ねて答えない。
勝手に自分の言い分だけを喋り続ける。
そのうえ、今度は実の娘を脅迫?
存在価値を認める? 出来損ない!?
てめえらは、樹の股からでも生まれたつもりか? この世に、野郎だけで子供が生まれてくる分けねえだろうが! それとも、なにか? この世界の人類は、細胞分裂して増える単細胞生物か?」
単細胞には性別なんぞないのだが……。それは、さておく。
「女だから不完全だどうのこうの? 存在を認めない。ああ、認めなくて結構だ。女だからと言う理由だけで存在を認めないようなやつらに、認められる必要なんて無い。
お前らなんかが認めなくても」
俺はそこまできてきっぱりと宣言する。
「俺がフィリの存在を認めてやる。今は、弱くてもいつか必ずフィリはお前らよりも強くなる。フィリが今、弱いとしたらそれはお前らの責任だよ。
お前らの存在がフィリの足かせになっているんだ」
「なんだと」
俺の言葉にフィリの父親が頬を引きつらせて俺をにらみ付けた。
「女だ。女だ。
そりゃ、たしかに女は男に比べて筋肉がつきにくいのが一般的だ。
一般的だが、あくまで一般論だ。男だからって全員が全員、同じような筋肉がつくのかよ? 男だったら誰しも強くなるのか?
違うはずだ!?」
男女平等を語る日本では、男だから女だからと言う偏見が無い。と、までは言わない。病院で働く男性は医者、女性はナース。飛行機の客席乗務員は必ず女性。
とは言え、その職業に男性だから女性だからと言うので否定はされない。……まあ、やや難関であるが……。
そもそも、女性だって格闘技があるのだ。女子プロレスや女子レスリングだって世界に広がる武道だ。素人ではたとえ男でも女子プロレスラー相手には勝てないだろう。
「男には男の強さがあるように、女には女の強さがあるんだよ。
その程度の事が解らないようじゃ、お前達の流派の強さは……すでに天井が見えた。成長できないような流派なんて……。
所詮はそこまでだ。そこまでの流派を偉そうに大切にしていて、成長させようとしていないなら、そんな流派は他者の足を引っ張っているだけだ」
と、俺は冷静に言う。
「むしろ、そんな流派に囚われてないほうが強くなれるぞ」
と、俺が言う。
「ふん。武道を……死闘を知らない女風情が」
と、フィリの父親が言う。
「そんな寝言を言おうと、フィリア。お前が存在価値が無いと言うのは」
「いらない」
と、フィリが父親の言葉を全て言わせずに口を開いて宣言した。
「……オレは、あんたたちに追い出されて……。
ただ、強さだけを求めて居た。けれど、その結果は限界を見た。
それは、女だからだと思っていた。だが、違う。
ただ、オレは自分を否定して自分の強さに気づいて居なかった。
あんたたちの呪いでね。けれど、もうあんたたちに関わらない。
自由に行動させてもらう。
そして、あんたたちの命令は聞かない」
そう宣言するフィリ。
「もう、あんたたちとは他人。
あんたたちに存在価値なんて認めてもらうつもりはないわよ!
アーロイド!」
と、フィリは父親である男、アーロイドの名前を呼び捨てして拒絶した。
……ようやっとフィリの父親の名前がわかった。
「きさま……」
と、フィリに名前を呼び捨てにされて顔をしかめている。
「はっ、どうした?
たかがバカにしている女に否定された程度でずいぶんと怒るんだな。
今まで、存在すら否定していた相手が自分たちを認めて当然と思っていたのか?
否定されるのが怖くて、否定をするなよ。否定をするなら、否定される覚悟を持てよ」
と、俺は宣言する。
「……ならば、良い。
それならば、お前達に実力をみせてやろう」
アーロイドが宣言した瞬間に、客たちが全員立ち上がる。俺たちを殺すつもりだと、宣言している連中の敵意はしっかりと感じられる。
……最悪の結果のようだが、諦めるつもりはない。諦めたらそこで試合終了と言う言葉がある。……試合じゃなくて、死闘であって終了するのは命だろうが……。




