第四話 統べる呪いの姫君
残酷な描写があります。
ようやっと、フルーの真相を語れます。長かった。
「おい。逃げるって……。
フルーはどうするんだよ?」
と、俺はフィリに言う。
「あの呪いはヤバいんだよ。あいつは、呪いの解呪屋じゃないのか?
あんなの一流の呪術士でも使えないぞ」
と、血相を変えて言うフィリ。
「どう言う」
ことだ? と、尋ねるのより早くにそれは起きた。
ばっしゅ! と、まるで電子レンジで卵が破裂したような音がした。
だが、破裂したのは卵ではなかった。
破裂したのは、盗賊たちだった。
魔法陣が広がったのと同時に魔法陣の中に居た人物は、フルー以外は破裂した。
あっさりと、まるで虫を潰すように……表情一つ変えずに殺した。
そのまま、真紅の瞳で俺達を見た。
普段のエメラルドのような瞳ではなく、真紅の……ルビーのようだ。最高級のルビーはピジョン・ブラッド……鳩の血と呼ばれる。
まるで血のような真紅の瞳だ。
その真紅の瞳が見える中で、俺は気付く。
フルーの怪我が治っていっている。
血が止まり、失われた怪我がみるみる内に治癒していく。
まるで、映像を逆再生しているようだ。
そう思っている中で、ふっと意識を失うように倒れるフルー。
「フルー」
俺はそう言って近づくが、フルーは倒れたまま意識が無い様子だった。
「フルー。大丈夫か?」
俺はそう言ってフルーを揺する。
すると、ぱちりとエメラルドのような緑色の瞳が開く。
「……おはようございます」
「いや。今、昼間だし……。
そう言う返事じゃないと思うんだけれど」
フルーの言葉に俺はツッコミを入れる。
薫もなんとも言えない表情をしている中で、
「なるほど……。
噂で聞いたことはあった」
と、フィリが口を開いた。
「……お前……統べる呪いの姫君だったのか」
「…………はい」
フィリの言葉にしばらく沈黙したフルーは表情を一つ変えずに頷いた。
「なんだ? そのかーなんたらって……」
「呪いを統べる魔女王は復活すると言われて居る」
俺の質問にフィリは警戒するように言う。
「呪いを統べる魔女王には娘がいた。
その娘にも魔女王は自ら呪いをかけた。
自分が死んだ時、自分の魂が娘の中に眠り……いずれはその娘を取り込み復活すると言う呪いだ。そして、その娘の事を統べる呪いの姫君と呼ばれている」
「「なっ」」
フィリの言葉に俺と薫は絶句した。
それは、フルーが俺たちがこの世界に来てしまった原因。そして、俺や薫が呪われた元凶である人物。言ってしまえば、諸悪の根源だ。
その諸悪の根源とフルーが親子。
「……とにかく、ここから離れないか?
あまり長話する環境には思えないんだ」
と、俺は言う。周囲には、破裂した肉片と血みどろの場所。
あまりの状況にいろいろと驚いてきたが、血の濃厚な匂いと肉片の匂いが広がる。生臭いと言うか、もはや生理的嫌悪感で嗅覚が麻痺をしている。
だからといって、このまま話をしていたいわけではない。
なによりも、
「ここじゃ、座ることも出来ないからな」
血と肉片だらけの場所に座る事も嫌だ。
「……まあ、それもそうね」
俺の言葉に薫は毒気が抜かれたように言う。
とにかく、俺たちは盗賊から少し離れた人気のない野原にたどり着いた。
近くの野原に座ると、
「責めないのですか?」
と、フルーは顔色一つも変えずに尋ねる。
「いや、お前を責めて現状が変わるなら何かが変わるならするけれどさ。
そうでもないし……。
なによりも、お前が訳ありなのは解って居たからな。
その訳がそれだったと言う事だろ」
俺はそう言って肩をすくめる。
「……まあ、言わなかった理由もわからないわけじゃないしな」
「言わなかった理由?」
俺の言葉に薫が怪訝な顔をする。
「お前さ。たとえば、親戚や身内に犯罪者……。
それも、万引き犯とか賽銭泥棒とかじゃない」
「今日日、賽銭泥棒なんてまず居ないと思うわよ」
薫の言葉に俺が例えを言えば、そうあきれたように言う薫。
「賽銭泥棒とはなんだ?」
「知りません」
と、フィリの疑問にフルーが答える。
「神社のお布施を……盗んだ」
「わりと、大罪だぞ。それ」
俺の例えに、フィリが言う。
「あー。少し違うんだよ。あえて言うなら、土地神と言うか……。小銭をいれて願いがかないますようにと願掛けするだけで……。まあ、ちょっといろいろとな。
そもそも、俺たちの世界……と、言うよりこれはお国柄だな。俺たちの国は、あまり宗教には熱心じゃないというか寛容なところが有るんだよ」
これは、事実だ。一時に、宗教関係にハマって調べたのだが……。日本は世界でも一、二を争うほど宗教に寛容なのだ。
仏教、神道、キリスト教。それこそ、正月を祝って成人式をして節分、ヴァレンタインデー、おひな様にホワイトデー。花見に端午の節句にお盆にハロウィン、クリスマスに大晦日。年がら年中、宗教チャンポンで祝っているような国だ。
「それに、たしかに最近はないんだよ。昔……まだ、俺たちの文明や文化が低かった……戦争がよく起きていた頃な。その頃は、戦争とかで親を亡くした子供が多い。
お寺や神社……フルー達わかりやすく言えば、神殿かな?」
と、俺は首をかしげながら説明をする。……話がそれていると思いながら……。
そこで、そう言った孤児を育ててくれたけれど……。みんながみんなそこで暮らせる訳じゃ無い。そう言う所が無い場所もあるからな。で、そう言う所だと賽銭箱からお金を盗むやつもいたんだよ」
とは言え、全員がそう言う人間というわけじゃない。
「子供のやることだしさ。言ってしまえば、生きるためだ。
俺たちの世界の宗教じゃ、例外があるが基本的に神様は困っている人。とくに子供なんかのために、施し? をするのが基本だしな。
もちろん、そうじゃないなら大罪だろうけれど……。
つーか、話はそこじゃないだろ」
と、俺がそこまで説明してツッコミを入れる。
「えっと……どこまで話したか?」
「万引きや賽銭泥棒じゃないと言った所じゃない?」
「わりと出だしから転けたな。
まあ、俗に言う軽犯罪じゃない。大量殺戮とか、大規模破壊と言った大犯罪をした身内がいる。それを、世間に知られたらどんな反応があるか……。
薫なら少しは想像が出来るというか知って居るだろ。ほら、マスコミが犯罪者の身内をどうのこうのと言うやつがあるだろ」
「ああ」
俺の言葉に薫が納得する。
「マスコミ?」
「情報屋みたいなもんだよ。俺達の世界では、情報が一瞬で地球の裏側……世界の果てとまではいかなくても、世界中の一定以上の文化水準がある国には伝わるからな。
その情報を集める仕事のやつらがいる。
……まあ、中には非常識で無責任で無礼者もいるけれどな」
俺はそう言って肩をすくめる。
「まあ、それでだ。犯罪者の身内と言う事でどうのこうの言われる事があるんだよ。
けれどな。俺から見て見れば犯罪者の身内だからと言う理由で犯罪者。人殺しの身内だから人殺し予備軍と言うのは、暴論なんだよ。
俺はフルー個人を見てきた。……たしかに、さっきのは驚いたが……。
話を聞く限りだと、あれはフルーの意志じゃないんだろ?
それに、フルーの母親……魔女王は自分の娘すら道具として利用したと言う意味だ。
そんな相手が行った事を、道具として使われた……。言ってしまえば、一番の被害者であるフルーを責め立てるのは最低の行動だと俺は思う」
と、俺は言う。
これは、あくまでも俺の理論でしかない。
だが、
「けれどさ。だからといって、黙っていたと言うのは腹が立たない?」
と、言ったのは薫だ。
「言ってしまえば、フルーの身内の責任でもあるんでしょ。
そりゃ、被害者でもあるけれどさ。あたし達も被害者よ。
少しはごめんなさいと言う事ぐらいはしないの?」
「……薫は知らないと思うけれど……。いや、薫も知って居るか。
魔法の協会でのフルーへの対応。あれは、むしろ死んで欲しい。と、思っている対応だっただろ」
薫の言葉に俺はそう言う。その言葉に薫もフィリも黙る。
だらだらと頭から血を流しているフルーを中々、誰も助けようとしなかった。
「それに、フルーが時折に漏らしていた過去や人付き合い。あれは、恵まれたとはお世辞にも言えないね。無関心でもない。敵意と悪意しかない」
それは、長く一緒だった俺には骨身にしみるほどの……辛い事実だった。
「だから、俺は語りたくなければ基本的に聞かないつもりだった。
それが、こんな形で解ったのも俺の選択の結果だ。
それにだ。下手にこの事実を語っていたら、どうなるか? 少しぐらいわかるだろ」
と、俺は薫に言う。
「呪いの中には笑ってすませられる呪いがあるさ。……俺の呪いは笑ってすませられないけれど、ネコ耳やら犬耳やら生えたとかその程度なら些細なものだ。
けれど、中には日常生活が反転してこの呪いに対して嘆いているやつがいる。
感情が暴走君のやつがいる。……薫もそうだったしな」
「まあ、たしかにね」
俺の言葉に薫は頷く。
「場合によったら、身内だからと言う理由で被害を出そうとする人間がいる可能性があるだろ。……事実、俺達の世界でも被害者の親族が加害者の親族への加害者になると言う事件を聞いた事があるだろ」
「ああ」
復讐と言うのは、学校の復習と違って何も得ることはなく良い所はない。
そりゃ、怒りや憎しみ、恨みと言う感情はあるだろう。だが、それを抜いてしまえば得る物などは何も無いのだ。理不尽と言うのはあるだろうが……。一時の感情で行動すれば、それは時に航海する事がある。
得に、負の感情はそれが大きい。
「得に集団となれば、怖いからな。ほら、魔女狩り。あれも、ある意味では恐怖と言う感情だ。恐怖と言う感情が伝染して、魔女狩りが行われた。火あぶりに魔女裁判による拷問。ありゃ、どっちにしても死ぬぜ。
フルーがそれを語らないのは、憎悪を抑えるためだ。フルーがいずれ呪いの魔女王に取り込まれてしまうかも知れない。それなら、殺してしまえ。と、言う発想をする人間はいるだろう。その憎悪が集団となれば……。
何が起きるかは解らないな」
と、俺の言葉に薫もフィリも黙る。
「ま、魔女王もバカじゃないみたいだな。あの反応から察するに……フルー。お前に欠けられている呪いってどんな呪いなんだ?」
「……わかりました」
と、オレの言葉にフルーは語り始めた。
簡単に言えば、フルーは二十歳になると自我意識が魔女王に乗っ取られる。つまり、あと四年しかフルーがフルーで居られる保証は無い。
ちなみに、二十歳なのは肉体が最高潮の状態を迎える次期としては理想だかららしい。
当然、そんなフルーを殺してしまおう。と、考える者は後を絶たなかった。
だが、フルーは死ななかった。
それは、守られたからではない。魔女王は自分の新しい肉体となる人物が二十歳になるまでに死なないように呪いをかけていた。
瀕死の重傷を受けると、治癒能力が活性化され周囲の敵を全滅させる。あの状態になるらしい。ちなみに、その時はフルーの意識は無い。無意識状態になるらしい。まあ、意識があったらフルーならあんなことはしないだろう。
とにかく、それでも敵は多く憎しみや憎悪。隙あらば、死んで欲しいというのがある。どうやったら殺せるかというのも命題らしい。
「けれど、わたしはわたしでいたいんです」
と、フルーは断言する。
「あのクソ爺もその思いを解ってくれました。正確や根性が腐れ落ちて、娘の教育に間違えたすっとぼけのアホですが、救いようのないバカではありませんでした。
私を……孫を助けようと研究を続けました」
と、フルーは淡々とそう説明をしてくれた。
シリアス編です。




