第三話 異世界だ! 街の外に出た。 だが、何も起こらない……わけではない。
開けましておめでとうございます。年末年始は忙しく、更新が本気で止まっていました。
以下、残酷な描写がありますので気をつけてください。
「おお。ゲームみたいだ」
と、俺は不謹慎にもそう興奮しながら用意された服を見る。なんの革なのかは謎、あえていうなら牛革に近いのかもしれない。だが、あいにくと俺は牛革と言うのを真剣に見たことが無いが、何となくそんな気がする。
そんな立派な革で出来た膝まであるブーツ。なんの糸で出来た布かは解らないが、やたら頑丈で肌触りがよく薄くて軽いのに、温かい布で作られたローブ。
護身用と渡された手袋は衝撃を吸収してくれ、さらに電撃を纏う事が出来る品だ。そして、一度だけ任意で自分の身代わりの護符と言うペンダント。
ゲームのキャラクターがしているような服装で、ゲームの武器屋で売っているような道具。これを渡されて、興奮しない男子高校生はRPGを一度もしたことがないつまらない奴(偏見)だけだ。
「あんたね。なにを興奮しているのよ」
と、興奮している俺をみながら薫が言う。薫も俺と同じような格好だが、黒一色の俺とは違い白と黒の二色カラーだ。モノトーンと言うと地味そうだが、そんな印象を与えないオシャレな色合いなのは、薫のセンスの良さだろう。
ちなみに、フルーとフィリは着替えてない。元々、二人とも旅が出来る服を着ていたらしい。……武者修行(と、言う名の勘当による放浪の旅)をしていた、フィリはともかくとしてちゃんとした職業についていたフルーがどうして旅衣装なんだ?
いや、呪いを解呪してほしいと言う遠出の依頼があるためかもしれない。
それよりも呆れた目で言う浪漫の解らない薫にこのすばらしさを言うべきだ。
「あのな。この服装、そしてこの装備!
まさしくゲームで言うと頃の旅立ちの準備じゃないか!?」
「背中にハリセンつけて、変な仮面を顔につけてなにを言っているのよ」
「余計なお世話だ」
たしかに、これでいろいろとグダグダな感じなのは否定出来ない。
「あの二人も呆れてどこかに言ったわよ」
「荷物を取りに行ったんだろ」
と、薫の言葉に俺は反論する。まあ、あの二人から見たらこれが普通なので俺の興奮はやっぱり異様に見えるだろう。あえて言うなら、ただの服を着て興奮しているようなものだ。……日本好きの外国人が畳を見て興奮するのを見た日本人の感覚になるかもしれない。
「着替えが終わったぞ……って、何事だ?」
着替えが終わった(念のために言うと、衣装部屋が同じだっただけであり着替えは個室ですませた)俺が部屋から出ると、フルーが頭から血を流していた。
「大丈夫です」
「どこがよ!? 頭からダクダク血を流しておいて大丈夫と言う人間なんて初めて見たわよ!?」
「大丈夫です。一ヶ月に十五回は頭から血を流すものですから」
「それは、お前だけだと思うぞ」
フルーの満面の笑み(ただし、血まみれ)で言う言葉に、さすがにフィリがツッコミを入れる。未だ、友好的とは言えないフィリすら会話に自ら加わらせるとは……。さすがと、尊敬してしまいそうにすらなる。
「つか、止血しろよ。フィリ。お前も女が嫌いだろうが、止血しろよ」
「あのな。放置していたわけじゃねえよ。治療魔法使いが来ると言っていたから待っているんだよ。ちっとも来ないけれどな」
「大丈夫ですよ。血はそのうち止まるものです」
困惑したり、慌てたりしている面子が居る中でその原因であるフルーだけは相変わらずだった。
さて、旅立つことになった。……ちなみに、治癒魔法使いは結局来なかった。
「まあ、いつもの事です」
「お前さ。オレが言うのも珍しいけれど、嫌われてないか?」
平然と言う(血が止まった)フルーの発言にあきれたように言うフィリ。
「まあ、生まれたときから嫌われている事の方が多かったですね」
と、淡々と言うフィリ。
淡々と言うが、かなり飛んでもない内容だ。
この世界とは愛情と言うのが薄い世界なのかもしれない。
そう思いながら、俺は地図を見る。
兄貴が地図にこの世界の文字の翻訳を書いてくれたので、俺でも地図が読める。ちなみに、俺が地図を読んでいるのは理由がある。
まず、フルーの天然どじっ子娘に地図を任せたらドジをしてどこへ行くかわからない。 薫は、凛々しく文武両道を地で行くのだが実は方向音痴と言う欠点がある。地図を見たところで、東西南北が解らないのだ。
フィリはどうだかわからない。とは言え、念のためにと言う事やここ近辺の場所を覚えたいと言う思いから俺は地図を見ながら進んでいる。
「地図は大丈夫でしょうね」
と、薫が言う。
「なにがですか?」
「いやさ。フルーはやたらと嫌われているような気がするわね。
嫌われている人間に対する行動って、時にとんでもないのよ」
きょとんとした表情で尋ねるフルーに対して、薫がそう肩をすくめて言う。
「大丈夫だろ。これ、兄貴が翻訳したんだ。
つまり、兄貴が翻訳を正しいかも会長さんが調べた。
あの会長さんはフィリを嫌っている様子は無かったしな」
と、俺は言う。
むしろ、心配している様子だった。兄貴も信用が出来る。色欲と言うのが無くなり、感情と言うのが薄い印象を与えるようになった兄貴だが、あれでも兄貴だ。
家族への情と言うのまで失っているとは思えない。
たとえ、家族への情を失ったとしてもこんな事に手を貸すような人間では無い。と、俺は思いたい。
「まあ、たしかにね」
と、薫が頷く。
「とは言え、敵がいると言うのは間違いが無さそうだぞ」
と、フィリが言った瞬間だった。
ぶわりと俺たちの前にそいつらは現れた。
「敵が現れた。……って、やつかな」
と、俺は呟きながら周囲を見渡す。
不潔、不細工、悪人面。その三拍子をこねくり回して人間にしたらこんな人間になるんだろうな。と、思わせるような外見をしている男達がいる。
その数はおおよそ、十数人ぐらいだろう。
ゲームで言うと頃の、山賊、盗賊というやつだろう。不衛生な印象だが……気になるところが有る。
「こいつら……盗賊か?」
と、フィリが疑問形で口にする。
「なんで、疑問形なの?」
「装備が最新式だ。あんな最新式の装備は上等な品だ。
盗賊や山賊なんかに簡単に購入出来る品じゃないぞ」
と、フィリが言ったのだった。
確かに鎧だけは綺麗で新品だと一目でわかる。手にして居る武器も、武器に関しては、兄貴や弟から教わった程度ぐらいだが、それでも業物(刀剣類の良い品の事)だと解る。
確かに、盗賊と言えばゲームでは高確率で雑魚キャラだ。あるライトノベルなんぞ、主人公が日常的に盗賊を倒していたぐらいだ。
とは言え、実際に盗賊は危険だろう。
「……てめえらが、あの異界街から来た四人組だな」
「俺たちを知って居るのかよ」
盗賊の言葉に俺は構えを保ちながら尋ねる。
「はっ、誰しも怨まれる人間はいるんだよ」
「怨まれる……ね」
語るに落ちるな。と、俺は盗賊の言葉に呆れる。
つまり、盗賊達は何者か……俺たちの誰かをターゲットにしてくれ。と、頼んだ可能性がある。それは事実なのだ。
とは言え、それをあっさりと言うとは自分達の実力に自信があるのか……。
はたまた、何も考えて居ないか……。
依頼人を言わない辺り、ただのバカなのかもしれない。
「魔法使いは殺せ。他の三人は好きにして良いそうだ。
特にあの女は是非とも生け捕りにしろ。あれだけの美貌の持ち主だ。
裏で高くに売れるぞ。
お嬢ちゃん。大人しくしていれば、楽しい人生を送れるぞ。
一生、何もせずに足を広げていれば楽に暮らせるぞ」
「あいにくと、そんな商売女のような人生を送る予定はねえよ」
盗賊のお頭あたりの言葉に俺はきっぱりと断言する。
そもそも、男を相手にそんな事をするつもりは無い。
ゾッとしない話に俺は鳥肌が立つのが解る。
「はっ、まあ。良い。だが、あまり傷ものにするなよ」
と、お頭が言った瞬間だった。
一気に迫り来るって来て襲い掛かって、俺たちへと迫ってくる。
「フルー。お前は、離れていろ」
と、俺は叫ぶ。フルーは魔法使いだ。魔法使いに関して詳しくないが、ゲームでは魔法使いは後衛で遠距離攻撃の方が得意と言うのがイメージだ。
ついでに、あいつらはフルーだけは殺すつもりだ。
念のために言うなら、フルーは十分に美人だ。おそらく、依頼主である黒幕はフルーを絶対に殺すように要求したのだろう。
そう思いながら、俺は下卑た顔をして近づいて来た山賊の腕を掴むとそのまま、投げ飛ばす。ついでに、俺は鳩尾を踏みつけて昏倒させる。
俺を美人と考えた盗賊たちは、欲をかいた。俺を傷つけない事を選んだらしい。
俺をか弱い女と思ったらしいが、
「あいにくと、自衛のために鍛練は続けているんだよ」
と、俺は言うとさらに近づいてくる相手を急所に殴りつける。
もちろん、体重が軽いし腕力も無いがその代わりに急所だけを狙っている。まあ、武器を持っていたらヤバいだろうが、俺に対してのスケベ心が働いているのだろう。
念のために周囲を見れば、フルーは近づかれないように気をつけている。援護をしようとしているのだろうが……。不発と言うか失敗しているようだ。
頼りない魔法使いだが、他の面子は頼りになる。
二人とも情け容赦のない攻撃で、薫に至っては股間に蹴りまで入れている。……男としてそれに関して、同情したくなるぐらいだ。
まあ、とは言え正当防衛だろう。
そう思いながら、相手を殴りつけている中でキラリと言う矢の光が見えた。
「やばい!」
と、俺が声を上げる中で放たれた矢がフルーの胸元に命中する。
「フルー!」
俺はフルーに駆け寄ろうとするが、盗賊たちがそれを妨害するように襲い掛かってくる。
「おい! フィリ! お前、怪我を治せるか?」
「あいにくと、応急処置程度しか知らないな」
俺の言葉にフィリもそう言う。
薫も俺と似たり寄ったりの知識だろう。
普通、RPGでは、回復役が必須なのはこう言う状況のためなのだろう。とは言え、その回復役が居ない今はやばい。
事実、フルーの胸元からは大量の血が流れていく。
このままでは、一時間もたたないうちに死んでしまう。
そう思って居る中で、突如としてむくりと起き上がるフルー。
「ほお。まだ起きるか」
と、盗賊団のボスがそう言ってフルーを見る。
胸元から大量の血を流していてもたっているフルー。だが、なぜだろうか?
その様子を見て、俺は一瞬だが誰だか解らなくなった。
フルーのはずだ。だが、フルーじゃない。そんな気がする。
そう思っている中で、盗賊団の一人がフルーの頭を殴る。
ばっしゅ!
と、言う音と共に派手に頭から血しぶきが吹き出る。
「フルー!!」
俺が叫ぶ中で、さらに盗賊たちがフルーへと刃を突き刺す。
散血が飛び散り、内臓や肉片が飛ぶ。
俺はもおう声も出なければ、動けない。平和な日本。犯罪、殺人、死がない世界とは言わないが、それほど凶悪な状況は日常には無かった。
濃厚に広がる血の臭い。そして親しい者、身近な者の死。それに俺は、思うように躯が動かない。
そこに、襲い掛かってくる盗賊たち。
やばい。
だが、死を前にいて俺の体は動かない。
武道をやっていて、試合をしていても死は身近には無かった。その事に硬直しながら、妙にスローモーションに俺の前へと刃が振り下ろされるのが解った。
だが、その瞬間だった。
ぶわぁぁぁっ!
突如として突風が吹き荒れ、俺や薫、フィリだけではなく盗賊たちが吹っ飛ばされる。
俺が離れる中で俺は突風が吹き荒れた中心地を見る。
その中心にたっているのは、フルーだった。だが、
「……フルー……なのか?」
真っ赤な髪の毛が輝きながら、俺たちを見渡す。
だが、その瞳の色がいつもと違う。
エメラルドのような緑色の瞳が、ルビーのような真っ赤に染まっている。
「我が肉体を損なう汝に死を与える」
そう言った瞬間だった。
ぶわりとフルーの周囲に闇色に輝く巨大な魔法陣が広がる。
「げっ! あれは」
と、フィリが顔色を変える。
「逃げるぞ」
フィリがそう言うと、俺と薫を引っ張って走り出した。




