第二話 出かける準備と敵意=殺意は間違っている
忘れてしまいそうだが、俺たちは異世界にいる。
剣と魔法とついでに、呪いが存在する世界だ。
とは言え、町ごと転移と言う非常識な事態のために俺たちの日常はあからさまに変わっては居ない。いや、呪いのせいで影響は出ているのだろうが、生活環境の変化は最小限だろう。住み慣れた家、慣れた部屋。愛用の布団。変わらぬ家族や友達……いや、変わり果てている家族や友達もいるが、会える家族や友達。
食生活も変わっていないが、間違いなくここは異世界なのだ。
とは言え、誰も街の外へと出ようとしなかった。
それは、恐怖と途惑いもあった。何しろ、街の外へと出ればそこは見慣れる異世界なのだ。生活が保障されていて、何よりも住み慣れた環境である街。
しかも、狭くも苦しくもないその場所を出る必要性は感じられない。
好奇心はある。興味もある。
だが、不安や恐怖もある。
だから、誰もが一歩を踏み出そうとしない。
とは言え、それだけはないだろう。
「良いのか? 俺たち……と、言うか俺や薫が街の外に出て、他の街に行って」
と、俺はラフェレアさんに尋ねる。
「俺たちは呪われているんだぞ」
そう。呪われているのだ。
まあ、薫の方の呪いは解けているのだが後遺症が残っているだけだ。対して、俺は純度百%間違いなく呪われている。
それも、三つもだ。男を引き寄せそして、魅了してそして自分自身すら破滅させてしまう呪い。そして、異性から嫌われる呪いの仮面。そして、ハリセンを常に身に着ける事になってしまう捨てられなくなる呪い。
俺は、この世界の住民たちがこの街の住民たちを良くしてくれているのは、理由があると解って居る。理由の一つは、原因であり元凶がこの世界であることだ。
責任を感じているというのも間違いない。だが、それだけではないだろう。
呪われた異世界人が何をしでかすか、どんな事件を引き起こすか? それは、予測不可能と言えるだろう。だからこそ、その予測出来ない事は全てではない。
つまり、ここは隔離されているようなものなのだ。不確定要素を引き起こしかねない面子を閉じ込めて、騒動をここに一角に押さえ込めようとしている。
そう思っていたのだが、
「まあ、たしかに不安の声もあるけれどね。
君達じゃないと困るんだよ」
「と、言うと?」
「フィリ……正確に言えば、フィリアの実家の方が来ているんだよ」
びくん。
ラフェレアさんの言葉にフィリが肩を振るわす。そして、
「つまり、フィリさんは本当はフィリアさんと言うお名前だったんですね」
「いや、そこは重要じゃない」
フルーの言葉に俺はツッコミを入れる。
まあ、フィリと言うのも女のような名前だったが、どうやら偽名だったらしい。
「フィリは実家から勘当されているんじゃないのか?」
「家が感動しているんですか?」
俺の言葉にフルーが尋ね返す。……かんどうと言った意味の意味合いが何となく間違っているような気がするが、そこは重要ではない。
それに、考えて見ればそれは俺の思い込みであった。
「感動じゃなくて勘当だ。お前はこの家の人間では無い。家族じゃ無いと言われたんだ」
「一応、勘当されているようなものだ」
と、俺の解説にフィリが言う。
「事実、家名を名乗る事すら許されず家へ敷居をまたぐ権利すらない。
今さら、なんのようだ?」
と、フィリが忌々しげに言う。
「解らない。けれど、有名な旧家でね。
来いと言われて居る以上、行くしかないわ。その面子にあなた達も入っているの」
「ラフェレア様は?」
と、フルーが尋ねると、
「……それが、ちょっとした問題でね。別件の用事で行く事が出来ないのよ」
と、不安そうに言う。
「必要な物や地図は用意しておくわ。
……念のために気をつけてね」
「質問ですけれど、行くメンバーは?」
と、俺は尋ねる。
「フルーとヨシキくんにフィリアちゃんの三人よ。
カオルちゃんは悪いけれど、呼ばれていないわ。けれど、ついて行きたいならついて行けるわ」
「まあ、フィリの実家には無関係ですし……。私も聞いた所では良い印象を持つことが出来ませんしね」
「だよなぁ」
カオルの言葉に俺は同意する。
今のフィリの性格、女が武道する事を異常なまでに否定するあの性格は、育った環境によるものだ。そこに、住んでいる世界が(そのままの意味で)違うとは言え、あの時のフィリと同じくらいか、下手したらそれ以上の否定的な台詞が出て来そうだ。
あの呪いが解けたとは言え、後遺症があると言われて居る。
呪いが発動するきっかけとなったような言葉が放たれる可能性がある場所に連れて行くのは、おすすめする事は出来ない。
「場合によったら泊まる可能性もある。
家族や学校などに連絡をしておいて」
「了解です」
そう俺は頷く。
「それと、気をつけるように」
「? はい」
気をつけるようにと俺に言うラフェレアさんの言葉に俺は怪訝な顔をする。
だが、俺の疑問を無視してフルーの方へと向き直り、
「フルー。必要になれば、自分から話す必要がある時もある。
その結果がどうなるかはわからない。悪い結果を生むかもしれない。だが、良い結果を生むかも知れない。……それを覚えておけ」
「大丈夫です。今まで、私は死んだ事がありません。
何があっても大丈夫ですよ」
ラフェレアさんの意味合いが何か感じさせる言葉。
その言葉に、どこか斜め横のような気がするような言葉で返すフルー。
その言葉にどれほどの意味があるのかは謎であるが、ラフェレアさんは予想していた答えだったらしい。深々とため息をつく。
「まあ、明日の十時頃には来てもらう。
準備ができたら、協会まで来るように」
「「「わかりました」」」
と、ラフェレアさんの言葉に俺とフルー、フィリがそう言ったのだった。
「土産は、饅頭が良いな」
「あたし、三角ペイント」
「あたしはぁ~、ご当地限定のぉ~キーホルダーがぁ~欲しいのぉ」
「俺は無修正のエロ本」
「俺、絵はがき」
この街の外……異世界の街を見る。と、言ったらそう言われた。
ちなみに、言った言葉の順番は三原から、鹿目に櫻木、厳左右衛門で陽向と言う順番だ。
「お前ら、俺は観光旅行に行く訳じゃ無いんだぞ。
それに、異世界に饅頭や三角ペイントにキーホルダーや絵はがきがあると思うのか?」
ちなみに、厳左右衛門のエロ本は無視する。
「良いじゃねえか。餞別もやるからよ」
そう言って厳左右衛門が百円玉を差し出す。
「あのな。今日日、こんなもんじゃ近所の自動販売機でジュースも買えないぞ。
さらに、異世界でこの通貨が使えると思っているのか?」
と、俺があきれたように怒鳴る。
「良いじゃないか。
それに、土産を買って帰ると言う目的があるだろ。
出かける前に、この旅行が終わったらみんなにお土産を渡すんだ。と、言えばいいじゃないか」
「それ、微妙に死亡フラグ」
厳左右衛門の言葉に陽向がツッコミを入れる。
「思慕フラッグとはなんですか?」
「死亡フラグだ。思慕フラッグじゃねえ」
フルーの疑問に俺はそう訂正する。
「まあ、死にやすくなる可能性が高いと言う意味だ」
と、俺が解説をする。ちょっと、違うような気がするがまあ、詳しい由来である死亡フラグについての説明なんてしたらきりがない。
「大丈夫ですよ。ヨシキさんの血色も良いので、そう簡単に死にそうには思えません」
「ありがとよ」
フルーには、この戦争が終わったら結婚するんだ。とか、告白するんだ。と、言った人間が死ぬと言うアニメや漫画の法則などを解らないだろう。
「まあ、その気持ちは嬉しいが……。とにかく、土産を飼うお金がないから土産話だけにしておけ」
「えー。エロ本」
「たとえ、金があってもそれは買わない。つか、なんで土産がエロ本なんだよ」
「なにを言うんだ。俺の親戚の兄ちゃんなんか外国の土産に無修正のエロ本を持って来てくれたぞ。金髪の色白、碧眼の美女が有象無象にいたぞ。
しかも、無修正のヌード。さすがは、外国のエロ本。異世界となれば、ネコ耳、長耳、エルフに獣人の素っ裸のヌード。エロい美人が有象無象に……。
これだけであと、五年が戦える」
「お前、それは学校で語る内容じゃねえだろ」
「あと、なんに戦うんだ?」
力一杯宣言する厳左右衛門に俺と陽向がツッコミを入れる。そして、その後に、クラス中の女子生徒に殴り踏まれて袋だたきにあっている。
顔は良いのに、言動がこれだからモテないのだ。
「エロ本の無修正のヌードとはなんですか?」
「すくなくとも、あまり沢山の人間に聞くないようじゃないな」
真顔で尋ねるフルーの言葉に俺はそうため息混じりに言う。
どんな羞恥プレイだ。これは?
放課後、学校が終わった薫と出会う。学校で薫はすごくモテる。
まあ、武道家で美人と言うか顔立ちは整っているが、その印象は一言で言えば凛々しい。と、言う言葉が相応しいだろう顔立ちだ。
女子校の風習と言うか、雰囲気と言うべきか……。同棲をお姉様や、王子様と言う疑似恋愛ごっこらしい。
まあ、武道に長けているのもその理由だろう。
その人気は角が生えていても、変わらない。
待ち合わせ場所では、同じ学校の女子生徒に囲まれていた。
そのそばでは、フィリもいる。フィリも凛々しいために憧れの眼差しで見ている女子生徒は多い。とは言え、フィリは女嫌いだ。まあ、あの騒動で最初の頃に比べてかなりマシになったが、話しかけるな。と、言う意志を全身で伝えている。
だが、それが逆に格好いいと感じているらしい。
美形は得だよな。と、思いながら、
「ごめん。待たせた」
と、俺が話しかけると途端にざわりとざわめきが広がる。
「なに? あの子」
と、言う言葉にそりゃ、そう見られるよな。と、俺は思う。学校では、俺を知って居る人間ならまず女になっている事に驚かれる。
だが、知らない人間から見たら……俺は奇異な女だろう。
顔の右上の四分の一を仮面を身に着けている。さらに背中には、刀や武器ならともかくハリセンを背負っている。
そのくせ、顔を隠して居るというのに美少女なのは間違いない。
男ならその呪いではともかく、女から見たら異端だろう。さらに、俺の呪いは傾国の美女だ。国を傾けるような美女と言うのは、何となくだが同棲に嫌われる気がする。
事実、俺への視線はちくちくとやや痛い。
「どうしましたか?」
「大した事は無いんだけれどよ。フルーは感じないのか?」
敵意混じりの視線は、フルーへも向かっている。
「? まだ、殺されかけてませんよ。
殺されかけているわけではないのに、なぜ問題視するんですか?」
「……この世界じゃ、殺人はそうそう起きないんだよ」
と、フルーの言葉に俺はため息混じりに言う。
なんで、敵意=殺意なんだ?
そりゃ、確かに敵は殺すと言うのは剣と魔法のファンタジーの世界ならあるだろう。だが、敵意の中にはライバル意識とかそう言うのもあるだろう。
と、言うかフルーと人との思い出は、敵意があるか死にかけた思い出しかきかない。
俺とフルーの会話に……と、言うかフルーの言葉に俺に引きつった表情を浮かべている女子生徒達。
無理もないよな。いくら、憧れの君や素敵な美形に近づく怪しい奴だ。と、敵意を抱いていたとしてもその程度で殺すわけ無い。
そもそも、フィリも薫も同性だ。あれは、おそらく一過性の恋愛ごっこなのだ。
引きつったような笑みを浮かべて、立ち去っていく女子生徒達。
「……助かった。と、言うべきか?」
「? なにがですか?」
「追っ払うために言った台詞なら、ともかく天然の台詞だからなぁ」
フィリの言葉にフルーが首をかしげる中で、俺はため息をつく。
天然の発言だからこそ、問題の気がする。
「? どうしたんですか? 協会へ行くんじゃ無いんですか?」
と、俺たちの思いを無視して(あるいは気付かず)、フルーはそう言ったのだった。




