第四話 とにかく図書館に行こう
翌朝、目を覚めればぐったりとした兄がいた。
「大丈夫か?」
「ああ。大丈夫だ。
ただ妙な夢を見てな」
そう言って説明をしてくれたのだが、吉成は羊飼いになっていたらしい。
問題はどんな物語の羊飼いかである。
同話で羊飼いはわりといるが……。悲惨な末路をたどる物語も多い。
詳しく説明をすれば、昌義兄が口を開いた。
「……それは気をつけた方がよいな。
俺はこんな体になったからか影響がないようだが……」
「ないんだ」
「自立樹木は動物というよりも植物に近いからでしょうかね?」
フールが冷静につぶやく。
「童話の中には危険なものが多くあるからな。
友達と肉屋ごっこをしていた結果、友達を殺してしまった。
そういった童話もあるぐらいだからな」
「あー」
童話としてはかなりマイナー系だが……。
「千枚皮というマイナーな物語が出てくるぐらいだ。
注意は必要だぞ」
「確かに……」
そもそもとして千枚皮も童話としてはマイナーな物語だ。
「つまり……この呪いを受けているのはかなりの読書家。
かつ、大人は大げさかも知れないが……。
ある程度の年齢になっているだろう」
「確かに……」
少なくとも子ども向けの本には千枚姫はもちろんだが、直接的な死。
そういった物語を伝えようとしていない。
童話は大人が子どもに語りやすいと改編していくのが多い。
中には問題があると判断して伝えられなくなった物語もある。
「それを考えると、知識が豊富としか思えないな」
「となると……かなりの読書家だな。
……だとしたら……図書館に行くか」
「図書館……ですか?」
「ああ。本好きなら自力で本を買う可能性もあるが……。
童話を全て買うのはあまりにも非現実的だからな」
フールの言葉に俺はそう答えたのだった。
図書館。
当然ながら俺の住んでいる町にもある。
国レベルで有名というわけではないが……。
それでもそれなりの規模である。
「簡単に入れるんですね」
「そっちの図書館は違うのか?」
「はい。身分を証明しなければ難しいですので……。
小さな子どもも入れませんね」
「あー。印刷技術の違い……か?」
考えてみればこの世界での印刷技術についてまったく知らない。
「この世界の本ってどんなもんで……。
どうやって増やしているんだ?」
「基本は、写本ですね。
一部のものは擦り写しもありますが……。
魔道書や歴史書など貴重な書物などは、その数も少ないですね。
特に禁術や秘匿情報を書いた書籍の場合は覚えている人間も少なくするために、人間性の確認も必要なので……。
かといって魔道書の書物……。
特に魔法陣などを下手に書き写しにミスを起こせば……。
とんでもない大災害が引き起こされますからね。
未熟な者が写本してスペルミスをした結果……。
国が一つ、滅び書けたという話もあります」
「あー。うん。だいたいわかった」
要するに印刷技術もかなり遅れているということだ。
「まず、この世界だと印刷技術があって……。
まあ。その気になればわりと大量に本を大量生産出来る」
電子書籍に関しては……さておいておこう。
面倒なことになりそうなので……。
「そして……。まあ、危険とかそういうのはそういう専門施設にあり……この町にない。
この町にあるのは一般人が読んでも国が滅びることはない。
そういった危険性のすくない本。
だから子どもも簡単には入れるんだよ」
中には図書館職員の許可が必要なものもあるが……。
それはさておいておく。
そんな会話をしていると、香とフィリがやってきた。
「おはよう。
それにしても……大変だった」
そう香が溜め息交じりに言う。
その隣ではフィリもどこか疲れた顔をしていた。
結論だけ言えば、二人とも夢に関わっていたらしい。
「私はホレ婆さんだったわ」
「どんな話ですか?」
「確か海外……俺達の住んでいた国とは違う国だな。
そこにある民話だ。
ストーリーそのものは珍しく無いけれどな。
継母と連れ子が主人公をいびる。
そして、いろいろあって無理難題を押しつけられた娘が出会ったのがホレ婆さん。
そしてホレ婆さんと一緒に暮らし始める。
家事をして、特にお婆さんから頼まれた布団をふかふかにすることだ。
それはホレ婆さんにとって大切なことだからな」
その後、お宝を貰った娘。
それを見た継母は自分の娘にやるように言うが、甘やかされていた娘は家事をせず怠けてばかりいた。
その結果、娘は泥だらけで帰ってくる。
激怒して継母は娘を連れてホレ婆さんに宝を要求するが……。
神に近い存在だったホレ婆さんによって天罰を暗い帰ってくることは無かった。
と言う話である。
「序盤だったからさ。
クソババアとクソガキの二人にこき使われて……。
シンデレラみたいな扱いだったわ」
「まあ。物語としてはシンデレラとさほど違いが無い展開だからな」
オーソドックスな物語と例えたのはそこである。
「どういうことですか?」
「あー。物語としてはよく聞くパターンなんだよ。
継母が自分の娘を可愛がるが、主人公である義理の娘は冷遇する。
いろいろあって主人公は幸運を掴み、継母と甘やかされていた義姉か義妹か……。
どっちかは破滅する。
そういう展開だ」
シンデレラやホレ婆さん以外でもそう言った話は古今東西ある。
日本の話でもやはりそういう話は聞く。
「甘やかされ片方だけ扱いが違って甘やかされた方がダメになる。
まあ。今でもそういう話は聞くけれどな」
甘やかされすぎた愛玩子が常識も忍耐力も身につけられずに破滅する。
そういうのは現代でも聞く王道展開と言える。
「私とは大分、展開は違いますが……」
「あくまで物語のパターンだからね。
全てが同じ展開じゃつまらないからな」
とはいえ、アリスはかなり特殊な展開であるが……。
「けれども、問題は今後だな。
出だしならともかくストーリーの展開によったらヤバい展開になることもあるからな」
うめくように言う。
物語の展開次第では主人公が悲惨な展開になるのはある。
「特に白雪姫になっているやつはやばいぞ」
「確かに」
「白雪姫?」
「あー。端的に言えば、継母に嫉妬されて三回ぐらい殺されるが三回とも生き返った姫君の話だ」
子ども向けのふんわり物語だった場合は、林檎だけで終わるのだが……。
「え? 三回?」
「あー。原文だと三回殺されるんだよ。最初は腰紐で首を絞められ、次は毒薬つきの櫛。
けれども、すぐに蘇生したんだよ」
論理的な理屈は謎であるが……。
仮死状態だったのか……。
まあ、そこは物語だ。
細かい事を語っても困るだろう。
「で、毒林檎を食べたときは蘇生できずにいた。だが、死体は腐ることもなかった。
そこに王子が出て姫に一目惚れして持ち帰ろうとした」
「死体ですよね?」
「……ああ。死体でもな」
ちなみに原書では王子は死体愛好家というヤバい性癖の持ち主だったりする。
「夢の中で物語通りに進むという展開。
そう言った前提条件なら大丈夫だろうが……。
死んでいる最中に夢が覚めてしまったら……」
「大変なことになりますね」
さすがのフールも大丈夫です。と言わないらしい。
「物語の中には死んでしまったが、生き返る話もあるし……。
厄介なことになる。
苦難を背負うのはたくさんあるからな」
場合によっては呪いで姿形が変わることだってある。
「子ども向けのおとぎ話と思っているが……。
原文だとわりと残酷なこともあるからなぁ」
実は恐ろしい物語というのはわりとある。
「主人公が死ぬってありえるんですか?」
「ありえるな。
『ネズの木』とかが、良い例だな」
「ネズの木? 人間ではなく木の話ですか?」
「いや。まあ。いろいろと語ると主人公が継母に殺されて鳥になって復讐する話だ。
他にも山で暮らしていた三人が殺し合いを始める物語もある」
その時のフィリの顔は、信じられないというか正気を疑う顔をしていた。




