第三話 童話はわりと残酷で呪いはとても迷惑だ
「異世界というのがやっかいですが……。
おそらく悪夢迷宮の呪いかと」
「悪夢……。と、言うとこれは夢なのか?」
フールの言葉に俺はそう言って頬を引っ張ってみるが……。
やはり痛い。
「はい。ただし痛みや苦しみはしっかりと感じます。
そもそも夢で痛みや苦しみを感じないというのは違います。
この呪いで見た夢は現実にも大きく左右されます。
もしも足を切り落とされたら足は失われますし……。
燃やされれば実際に肉体も燃え上がる。
夢がとてつもなく現実味を感じて……。
現実にある肉体もその通りに作用するんです」
「……ありえない。とは言えないな。
魔法を抜きにしても……」
魔法ならではのなんでもありと切って捨てられない理屈だった。
「こっちの世界でも思い込みで火傷をしたりする人もいるからな」
実際にありえるのだ。
催眠術で熱く熱した鉄の棒を触ってしまった。
そう思い込まされてしまった結果、脳の誤作動で本当に火傷をしてしまう。
そういった事件も起きたのだ。
自己催眠というやつもある。
自分は無理だ。出来ない。
そう思い込んでいるとどうやっても出来なくなるとも聞く。
絶対にそうだとは限らないが……。
それでもそういったことは珍しくないと聞く。
それが夢なのだ。
それも魔法がかかっている夢。
それを強く現実だと思い込ませれば……。
肉体が燃えている。
そう思い込ませて肉体が燃えることもある。
体が同じような理屈で切り落とされることもあるだろう。
ぞっとしない話だが……。
「だとしたら……俺の体は大変なことになるかもしれない」
夢の中で巨大化したり子人と化したりしていたアリス。
もしも肉体が本当になるなら……。
俺の家は壊れるかもしれない。
「とりあえず得体の知れないものは食べるなよ。
童話の世界の食べ物は油断できないから」
「大丈夫です。ちょっとやそっとのものを食べてもお腹は壊しません」
「お腹を壊す程度で終われば良いんだけれどな」
アリスの不思議食品以外でも……。白雪姫の毒林檎。飲めばロバになると言うやつや食べると馬になってしまうというまんじゅう。
それだけではなく眠り薬が入っていたという飲み物もあるし危険な薬品もある。
それがなくても口にすれば魔女やら何やらに因縁がつけられる品もある。
「飲み水にも気をつけないといけないな」
夢の中でも飢え死にの危険性があるかもしれない。
そういったことを考えると確かに悪夢だった。
「それで解綬する方法は?」
「この呪いは一度、発動すると周囲の人間も巻き込むんです。
なので呪われている人。呪いの本体を探す必要があります。
今回はこの呪いにかかっている人ですね。
そしてこの夢を見ている人でもあります」
「夢を見ているヤツか……。
つまり、童話に詳しいということか……」
フールの言葉に俺は冷静に判断する。
不思議の国のアリスならある程度、有名なので名前だけなら聞いたことがある。そういった人は多いだろう。
何しろ、世界的に有名なネズミの映画でもかなり知名度がある作品だ。
だが、
「千枚皮はけっこうマイナーな作品なんだ」
童話の中で有名どころは数多くある。
東西南北、世界各地にある物語。
その数々の物語があるということから……。
特に口伝……誰が言い出したか分からない物語というのもある。
そう言ったのがあるので物語と言うのは無数にあるのだ。
「そうなんですね」
「とりあえず……夢の主も夢を見ているのか?」
「はい。あと、朝になれば目を覚ますはずです。
……朝になるまでは絶対に起きませんけれど……」
「寝坊の心配がないのが良いんだけれどな。
難しい問題だな」
まあ。難しいがどうでも良い問題だ。
「問題は誰が夢を見ているかだな。
正直、千枚皮はともかく……。
不思議の国のアリスを知っている人間なんて……。
俺達の世界出身なら無数にいる」
かといって千枚皮を知っている人間なんてのは逆にわからなさすぎる。
「読書家というやつだろうな。
絵本で千枚皮を扱っているのを見たことがない」
何しろ親子間で結婚という話が出たりと……。
かなりすごい話だった。
そのためにか絵本として市販され散るのを見たことがない。
もしかしたら探せばあるかもしれないが……。
むしろそういうのがある家だとしたらなんとなく読書家のような気がする。
「となると……本を読んでいる人間か。
それでこういった本が好きな人間……だよな?」
悪夢なので嫌いな世界というのもありえるが……。
そう思って言えば、
「うーん。夢は悪夢になりますけれども……。
見ている夢を完全に操る呪いではないんです。
無差別に被害者を増やしていくのがこの呪いの特性でして……。
夢の内容を完全に操る上に無差別無作為範囲にするのは……。
限度があると思いますけれど……」
魔法も万能ではないらしい。
まあ、ゲームでも体力回復、状態異常回復の魔法は終盤にならないと使えない。そのうえ、レベルは高レベルでかつ魔力消費も激しいというのが基本だった。
「それにあくまでもこれは呪われた方の夢。
つまり、その人の知らないものは夢にでないはずです」
「まあ。それはそうだよな」
科学的に見たら夢というのは、その人の記憶の整理でもあるらしい。
そのためにしらないものは出ない。
なんでこんなものが? と言うのも当人が覚えいないだけの記憶らしい。
「となると……。
この夢の人物はかなりの読書家ということだな。
しかも童話系が好きか何かしらの思い入れがある」
思い入れがある記憶というのは間違いが無いだろう。
「とにかく夢の主を探すことしかないな。
それでこれは目を覚ますことが出来るのか?」
「いえ。それがラビリンスと言うとおり……。
夢の中に入り呪われて人物を見つけ出して呪いを解除する必要があります」
「面倒な事になりそうだな」
そう溜め息をつく。
呪われた人物がどこにいるかはわからないが……。
範囲が広ければ広いほど被害が出そうだ。
「それで、最初の一夜でどのくらいの規模だ?」
「大丈夫です! たしか町内全体ぐらいです」
「うーん。微妙」
はたしてそれは大丈夫と言えるのか……。
甚だ疑問だったりする。
「じゃあ。二つ目だが……。
この夢は覚めるのか?」
これが重要だ。
町内全体が眠ってしまうならば……。
この町は大変なことになってしまう。
「呪いが解けるまで目を覚ませない。
そうなると下手したら飢え死にだからな」
「大丈夫です。
呪いで不特定多数に眠らせてしまう。
その上で悪夢を見せるというのはかなり難しいです。
そういった呪いはかなり時間がかかります。
あの呪いは一つ一つは微々たる呪い。
なので、そこまで強力ではありません」
「そういった呪いはないとは言わないんだな」
「ええ。ありますが……。
大規模なのろいですよ。
それこそ、私にかかっているのろいみたいなものなので……。
さすがにあの女でもそれはしませんよ。
呪いとしては非効率的すぎます」
「……そうか」
他の誰もないフールがいうとコメントのしようが困る。
「とはいえ、俺の夢のことも考えると……。
怪我人やへたをしたら死人もでるかもしれないな」
俺は夢だと気づき、道筋を外れることが出来た。
だが、
「中にはそう簡単に安全を保証できるのはないからな」
人魚姫の王子になれば物語序盤で下手をしたら土左衛門。
ヘンゼルとグレーテルは初っぱなから姥捨て山。
「うーん。確かに、私もいきなりやばい目をした男の人に結婚しろ!
と、言われたので、逃げました」
「おー」
はたしてその人物は呪いの被害者なのか……。
それとも夢の中にいるだけの人か……。
後者だといいなぁ。
そう本気で思うのだった。
「とにかく、出来る事を確認するしかないだろう。
それでフール」
俺達は適当に歩きながら問いかける。
「一度、起きて目を覚ましてからもう一度、寝た場合。
また夢の続きになるのか?」
何しろ元は夢だ。
目を覚ましてまた夢を見れば、その内容は大きく変わる。
それに何より、今は夢の中でフールにあった。
だが、また翌朝になればフールを探す必要がある。
そうなったら面倒だ。
そう思っていると、
「大丈夫です。
夢はずっと続いていきます。
なので迷宮と言われているんです」
「まあ。それなら良かった……のか?」
良かったと言ってよいのかはわからないが、それでも確実に言えることだろう。
「呪いの核は……」
「夢の持ち主ですね。
ただ面倒なのは……。
これは呪われている人が眠っている。
夢を見ているその夢の中にいる人の内側ではないとダメなんです」
「なるほど、現実だと出来るのは誰が呪われているのか?
それについて調べるだけなんだろうな」
そう俺は冷静につぶやく。
起きている間に出来る事はかぎられている。
だが、出来る事はするべきだろう。
とはいえ、
「問題はこれからどうするかだな」
「とりあえず、探索をしていきましょう」
「……そうだな」
うまく行けば今夜で終わるかも知れない。
……いや。あまりそれは期待できない……。
そう心の中で付け足しながら俺は考えるように歩く。
「そういえば、ハリセンは常にあるんだな」
「呪いを解除する品ですからね。
伝説の魔法道具と言える品なんです」
どうせなら剣とかそういう見目が良い品が良かったなぁ。
そうハリセンを見ながら思う。
ハリセンに選んだ理由をいつの日か知りたい者だ。




