30 招かれざる来訪者 その3
「『リストランテ ミラノ』へ行きたいか!!」
「「「「??????」」」」
瀬利亜の叫びにクラス全員が面食らった。
「…失礼!昨日の売り上げが想定の3倍くらいあったので、『ステーキハウス・ニューヨーク』をやめて、高級イタリアンの『リストランテ ミラノ』で打ち上げをすることにしました!!
すでに予約済みですが、今日の売上次第では、『コース料理のグレードアップ』の可能性も高いです!!」
「「「「おおおおおーーーー!!!!!」」」」
昨日の開始前よりクラスは3倍くらい盛り上がっている。
「そして、昨日よりさらに忙しくなることが予想されますので、材料は昨日の2倍用意してます。そして、さらに助っ人に来てもらっています。」
雪組の前にタキシードを着込んだ久能巧が入ってきた。
「石川家の執事をさせていただいている『久能巧』です。雪組の皆様、今日は一日よろしくお願いします。」
40代半ばの温厚でダンディーな紳士が学生たちにも丁寧にあいさつするのを見て、女生徒たちが大きくざわめいた。
「巧さん、今日は料理長をお願いしますね。」
「かしこまりました。お嬢様」
巧はさっとコック服に着替えると、手早く仕込に入りだした。
「遥、今日はせっかくだから食事を頂いてみようと思って、早く来たよ。」
遥の父、綾小路健吾が開店と同時に入ってきた。
「…お父様、今日はお仕事だったのでは?」
「ふっふっふ、お客様をこちらでおもてなしするという趣向を凝らしてみたのだよ。昨日は料理の質もプロ並みだったと聞いたのでね」
同年輩の紳士と一緒の席に健吾は着席した。
「飲茶セットを2つ頂こうかな?」
「わかりました。『お客様』。……お父さん苦情が出ても知りませんよ。」
遥は後半部分を父の耳元で小さく囁いた。
「蒸し餃子、ミニ冷麺、コーンスープ、胡麻ダンゴかね。おいしそうだね。
早速スープから頂こうか。」
健吾は嬉しそうに蓮華を口に運ぶと、そのまま動きが止まった。
「…う、うまいぞーーー!!」
(…この繊細でいて、しかも素材の味を引き立てる味付けはなんだ!?コーンスープとはこんなにうまいものであったのか!!)
「は、遥!!料理長さんは一体何者かね?!」
歓喜の色をたたえて聞いてくる父・健吾に遥は目を白黒させた。
(…巧さんは一体何者なんでしょう…)
(…速い、速すぎや!しかも、動きの的確さは瀬利亜はんの比じゃないし!)
厨房では巧の調理を光一が手伝っていた。
巧は昨日の瀬利亜以上の手際の良さと、瀬利亜を大きく上回る味付け、仕上げの良さがさらに評判を呼び、「忙しさへの対応のため」に巧を呼んだはずが、さらに忙しくなったのは嬉しい誤算であった。
「久能はん、食材が今のペースだとなくなりそうなんですが?」
「はっはっは、錦織さま、ご安心ください。すでに追加食材は発注を済ませてます。」
流れるように調理を続けながら涼しい顔をしている巧を光一は呆然と見ていた。
(…『執事最強説』というテンプレをどこかで見たような…)
『各国民族衣装・飲茶』が昨日以上の大盛況にてんやわんやしている昼過ぎにパトカーが一台校門の前に止まった。
中から「和風コロンボ」斎藤警部とアロハを着た初老の男が出て、学園祭の盛況ぶりを眺めていた。
「斎藤さん、わざわざ送ってもらって助かったよ。」
頭も薄くなった60くらいになる温厚そうな初老の外人は齊藤に会釈をしながら言った。
「いえいえ、あなたには友達たちがいろいろお世話になったので、これくらい全然かまいませんよ。では、夕方に迎えにまいりますぜ。」
「そいつは助かるの。ではな」
男は齊藤を見送ると嬉しそうにスキップを踏みながら校内に入っていった。
「すみません、1時間待ちになるんですが、よろしいですか?」
「いえいえ、全然かまいませんよ」
遥が男に済まなそうにお辞儀をすると、男はニコニコしながらきれいな日本語で返事をした。
その時、男の視界にある人物が入ってきた。
(想定範囲外の色っぽい服装をしているが、あれは!!)
突然、目の前から初老の男の姿が消え、遥は戸惑った。
(今のおじいさんは幻覚??私疲れているの??)
次の瞬間、バネッサの悲鳴が聞こえ、遥が慌てて振り向くと、なぜか老人はバネッサの後ろに立っていた。
「だれだ!私のお尻を触ったのは!!」
アオザイ姿のバネッサが振り向くと、アロハシャツを着た初老の男がニコニコ笑っていた。
「…あんた、『占い師のおっさん』!!久しぶりだな!!……でも、なんでこんなところにいるんだ??」
自分を清正のところに導いた占い師の出現にバネッサはお尻を触られたことも忘れて、当惑していた。
「久しぶりじゃなあ、バネッサ。本当に立派になったな。特にお尻が♪」
「いやいや、おっさん、何をいってるんだよ!」
「本当になにをおっしゃっておられるのでしょうね、『勇者』オルテウス!」
瀬利亜に『生暖かい視線』で見られて、オルテウスはたじろいだ。
「わしの正体をなんで…いや、あの『銀髪のガンナー・エリシエル』の娘ならすぐにわかるか…。それにしても、美人じゃのう。体型はエリシエル以上に出るとこが出て、引っ込むところが引っ込んでおるの♪」
「瀬利亜!この人が勇者て、どういうことだ!」
「ええ、バネちゃん、順を追って話すわ。」
裏世界では「自称魔王」は案外出てくる。大概、優秀な冒険者に瞬殺されてしまうが、20年に1度くらいは「魔王の名にふさわしい魔王」が現れて、世界を恐怖の渦に巻き込んだりする。
四〇年前にもそんな「魔王」が現れたが、「聖剣の勇者」オルテウスがたった一人で魔王に挑み、見事に退治して見せた。
各国の王は莫大な地位と報酬で仕官を誘ったが、オルテウスはそれを固辞して、あてのない旅に出た。
一八年前の魔王は前回の魔王よりさらに強力だった。
さすがのオルテウスもたった一人では太刀打ちできず、
「トウヨウの格闘家リュウイチロウ」
「銀髪のガンナー・エリシエル」
「神の知識を持つ若き魔女アルテア」
の三人の助けを借りてようやく魔王軍を退治したのであった。
「ちなみに、最初の旅の時は最初は数人のパーティだったそうだけど、オルさんのあまりの自由人振りと、セクハラのひどさで、『結果的に一人になった』のが真相だそうね。
それと、二度目のパーティでも、相手が人妻だろうが、セクハラをしようとするトンデモ親父だと母がぶつぶつ言っていたわ。」
「そんなあ、瀬利亜ちゃん、セクハラおやじとか言う表現はあんまりでないかい?」
ちっとも堪えていなさそうな涼しい顔でオルテウスが抗議する。
「ところで、どうして一目でわしがオルテウスだとわかったんじゃ?瀬利亜ちゃんとは会ったことはないのじゃが。」
「一八年前の魔王討伐の旅の様子を『立体映像と音声付』のダイジェストをアルさんから見せてもらっていてね。それと『要注意人物』という警告と現在の推定容姿の画像と声も聞かせてもらっているので。」
『要注意人物』と強調しながら話す瀬利亜にさすがのオルテウスも苦笑いしている。
「…そうじゃ、そのアルたんは今どちらに?」
急にうきうきしながら聞くオルテウスの後ろから長身の女性が姿を現した。
「あら、お久しぶりね。勇者オルテウス。『いろんな意味で』お元気そうで何よりだわ。」
目から不自然に青い光を放ちつつ、冷たい口調のアルテアに瀬利亜とバネッサは戦慄した。
「…相変わらず、きれいで…なによりじゃな…ところで、久しぶりに会ったのじゃからもう少し友好的な態度を取ってもらえると嬉しいのじゃが…」
「それはもう、『本当にいろいろ』やらかしてくれましたからね。私やエルさんのガードが鉄壁だとわかると、旅先の他の女性の方々にいろいろご迷惑をおかけしたようですし…。
間違っても、この学校ではそんなことはしないでくださいますよね♪」
「も、もちろんじゃとも!一般の女生徒さんには『今からは』セクハラはしないと約束するから、その目で見るのはやめてもらえんか!!」
『今からは』の言葉に瀬利亜とアルテアの眉がぴくっと動いたが、ややあって瀬利亜が口を開いた。
「ところで、今日はなぜわざわざこちらの来られたのですか?懐かしい再会のため…という感じでもなさそうですが。」
「おお、そうじゃった。肝心なことを伝えねばいかんの」
普段の様子に戻った瀬利亜の質問にオルテウスも一息ついて答えた。
「この勇者・魔王センサーで現在の勇者や魔王の強さなどがわかるんじゃが…」
そう言いながら、オルテウスは水晶球付きの石板を懐から取り出した。
「最近のバネッサちゃんの成長が著しいようでの。真の勇者になってもらうためにわしが直々に修行の旅に連れ出そうと思ってきたのじゃ」




