29 招かれざる来訪者 その2
「はっはっは!もちろん、返事は急がないさ。ゆっくり考えて…せ、瀬利亜さん!引きずっていくのはやめてもらえないか!!」
瀬利亜に『持っていかれそう』になって、カイザスが慌てて抗議の声を上げた。
「あのね、カイさん。日本においてはね、まだ『同性婚』は認められていないのよ。」
「「「問題はそっちじゃないから!!」」」
「瀬利亜ちゃん、大丈夫だから。愛さえあれば『国の差』はもちろん『性の差』すらこえてみせるから!!」
全員のツッコミもさらりとかわしてカイザスが力説する。
それを見ていて遥は気付いた。カイザスはあざといのではなく、小早川理事長同様「ウルトラクラスの天然さん」なのだと。
「当人同士が納得しているのなら、個人的には『同性婚』にも全然反対はしないわ。でも、キヨマーは残念ながらノーマルさんなの。そして、カイさん!美しい女性には目がないけれど、それ以上に美少年に目がないあなたが『どうして美少年でもない』キヨマーに告白するわけ?! ひとめぼれと言うのは冷めたら『ただの変な相手が残る』という無残な結果に終わることも多いのよ!」
(((瀬利亜さん、その言いようはキヨマーがかわいそうすぎるのでは…)))
悲しみの涙を流す清正を見ながら、瀬利亜とカイザス以外の全員が思った。
「瀬利亜、待ってくれ!確かにキヨマーは美少年ではないかもしれない!しかし、すごくいいやつなんだ。そんな言い方はやめてくれないか!きっと、カイザスさんはキヨマーの内面を見抜いたんだよ。」
少し赤くなりながらバネッサが懸命に清正をかばった。
「…く、『私のキヨマー』の素晴らしさを見抜くとは、ただものではないな!!
強力なライバル出現というわけか!」
カイザスはバネッサを指さすとしっかり『ライバル宣言』をし、指さされたバネッサは思い切りうろたえた。
「ラ、ライバルだなんて…私はキヨマーのことは…あの…その…」
真っ赤になってもじもじしながら黙りこくったバネッサを見て、クラスメイト達は「何としてもバネッサを応援しよう」と心に決めた。
「『日本人らしく』奥ゆかしいところも侮れないな。だが、ライバルが手ごわいほど、障害が大きいほど、恋愛は燃えるというものよ!」
叫ぶや否やカイザスは清正をひょいと抱えると、そのまま『空中を』駆け上がっていった。幸か不幸か文化祭では大掛かりなマジックが毎年のように行われていたため、事態を見た一部のグループ以外には『大がかりなマジック』と受け止められていた。
「な、なんなのよ、あれ!!!」
我に返った麗華が叫んだ。
「さすがは『魔神戦士』の二つ名を取るだけのことはあるわね。ただ、恋愛関連が『生きる目的の九割』を占めるのは改善してほしいところだわ。」
「瀬利亜!冷静に分析してる場合じゃないでしょ!あんなの野放しにしてたら、ものすごい迷惑じゃない!!」
「『任務に対しては誠実』だから、任務中はいいんだけど、聞き込みの時とか、任務終了後ははっきり『歩く迷惑』に近い感じだわね。光ちゃ…錦織先生も『言い寄られることも併せて』胃に穴が開きそうになっていたわ。」
瀬利亜が少し遠い目をしながら麗華に囁いた。
「…それはいいけど、追わなくていいのか?!」
詰め寄る麗華をなだめながら瀬利亜が言った。
「こんなこともあろうかとキヨマーに発信機を付けてあるから。それと、バネちゃんとちーちゃんが既に追跡に入っているわね。」
「ふっふっふ、ここならだれの邪魔も入らないよ。さあ、目くるめく愛の世界へ一緒に飛び込もうじゃないか。」
校舎の屋上でカイザスは会心の笑顔で清正に近づいた。
「待て!落ち着け!!返事は急がないんじゃなかったのか!!」
後ずさりながら、清正は懸命の説得を試みた。
「ライバルが強力なので、あまり待てなくなってしまったのですよ。ツンデレ系で、しかも『あなたの人柄が素敵』なんて表現する宝塚風の美女が相手ですからね。」
清正の絶対のピンチかと思われたその時、屋上の扉がバンと大きな音を立てて開いた。
「キヨマーにそれ以上近寄るんじゃない!!」
勇者装備を着込んだバネッサが扉から飛び出し、神那岐の太刀を構えた千早も後に続く。
「これはおどろきましたな!まさか、キヨマーを愛する美女がお二人、救出に来られるとは!さすが、キヨマーただものではないですね♪」
ほぼ戦闘モードに入っているバネッサと千早を見てもカイザスは落ち着き払っている。
「バネッサさんはともかく、私はキヨマーさんとは『ただの友達』です!」
「ほお、それはともかく、落ち着いて話し合いませんか?できれば力ずくはなしにしましょう。お二人では戦っても私には勝てませんよ。女性を相手に暴力を使うのは好きではないですし。」
淡々と話しているカイザスにバネッサが切れた。
「とっととキヨマーを離せ!!どんなことがあってもキヨマーは私が助ける!!」
「あなたもただものではなさそうですね。ですから、なおさら実力差はおわかりでしょう。それとも、『命に代えてもキヨマーを助けたい』とおっしゃるのですか?」
「当たりまえだ!いつでもそれくらいの覚悟はできている!!」
真剣に自分を睨み続けるバネッサを見て、カイザスは肩を落とした。
「…驚きましたね。命がけでキヨマーを愛する女性がおられるとは…」
「私もびっくりしたわ!」
いつの間にかバネッサ達の背後の屋上給水塔の上にシードラゴンマスクが立っていた。
「さすがは『勇者バネッサ』!愛する人を命がけで救出しようとし、その上命がけで『愛の告白』をするとは素晴らしい勇気だわ!!」
シードラゴンマスクの話の内容に氣づき、バネッサは顔を真っ赤にしてうろたえた。それを見ていた清正も思い切りうろたえた。
(最近、バネッサがやけに優しいと思ったら…こういう時はどうすればいいんだ?!)
「彼女いない歴」=「年齢」の清正がどう対応しようかと悩んでいると、いつの間にかそばに来ていた瀬利亜(変身を解いた)が清正に囁いた。
「…とりあえず、付き合ってみてその場その場で考えたら?
今の反応を見る限り「彼女いない歴」=「年齢」」なんでしょ?」
「…な、なぜそれを?!」
「…同病相哀れむ…と言ったとこかしら。この件はお互いに口外しないということで…」
「…わかった、頑張って告白を受けることにするよ。」
清正がガチガチになりながらもバネッサに向かって歩み寄り、手を取って言った。
「…こ、告白してくれてありがとう。…お、お付き合いよろしくお願いします。」
「キヨマー本当か!!ありがとう!!」
そのまま、バネッサがキヨマーに抱き着きそうになるのを瀬利亜が慌てて押しとどめて、「勇者の鎧を脱がせて」から、抱き着かせることに成功した。
カップル誕生を残念そうに見ていたカイザスは寂しそうに言った。
「傷心旅行&新パートナー探しの旅をもう一度やり直しか…。とりあえず、当初の予定通り光一君をもう一度口説くとして…。」
「……あの、もしかして、『日本の現状』を聞いて来てくれたのではなく、本当に『観光&パートナーゲットの旅』だったわけ?」
「はっはっは、もちろんさ!私は正直者だからね♪」
あっという間に立ち直って軽やかに笑うカイザスを見ながら、瀬利亜は頭がクラクラしそうになっていた。
「あら、カイくん、日本に来てたのね。元気そうで何よりだわ。でも、連絡くらいしてくれればいいのに。」
アルテアがニコニコしているのを見て、カイザスが不思議そうにしている。
「…どちらさまでしたっけ?こんな美女に会っていれば忘れるはずはないのですが」
「…あらあ、長い付き合いなのに、この状態ではわからないのかしら?では…」
アルテアが懐から「魔女人形」を取り出すと、アルテアの目が青白い光を放ちながら鋭く変わった。
「久しぶりじゃの、カイザスのボウヤ。日本に来て悪さなんぞ、しとらんじゃろうな?」
『大魔女』の声を聞いて、カイザスの顔色が真っ青に変わり、一〇歩ほど後ろにざっとさがった。
「……も、もちろん、悪いことなんかするわけがないじゃないですか…」
「…さっきの事件を起こした『反省』の心が感じられないんですが、カイさん」
ジト目で瀬利亜ににらまれて、カイザスの顔色がさらに蒼くなった。
「…瀬利亜嬢。さっきの事件とはなんじゃ?」
「…かくかくしかじかということがありまして…」
「…ぼ、僕そろそろ次の目的地に行かないと…」
「行状の悪い坊やは本国に『強制送還』じゃな!」
アルテアの懐から出た人形は高さ三メートル前後の六本腕の「インドの戦神」風の鎧を纏ったゴーレム戦士に姿を変えて、カイザスの眼前に舞い降りた。
「うわー、シードラゴンモードの私でもこんな怪物とはやりたくないわね。」
そして、第二校舎の屋上では男の悲鳴がしばらく響き渡った。
「で、無事カイザスはんは強制送還してもろうたわけやね。ほんま助かったわ。」
瀬利亜とアルテアの話を聞いて、光一は安どのため息をついた。
「キヨマーだけでなくて、光ちゃんも『貞操の危機』だったわけね。」
瀬利亜がやれやれという風に首を振った。
「それにしても、二人ともベトナム風の服装で校内デートとかやるじゃない♪」
カップルの初々しい姿を思い浮かべながらアルテアは嬉しそうに笑った。




