21 勇者と偽勇者 その1
「こうして、帰宅部の下校『交流タイム』が始まるのでした♪」
瀬利亜が先陣を切って校門に向かってスキップしていく。
瀬利亜、千早、バネッサ、清正に最近は遥まで加わって、一緒に登下校するのが日常になっていた。
クラスメイトからもようやく「冷たい視線」が送られてこなくなった清正はこのゆったりタイムをむしろ貴重だと思うようになってきた。
わいわい言いながら曲がり角をまがった際、前方にいるとあるグループを見て、全員が足を止めた。
ファンタジーRPGのコスプレ集団みたいな五人組が前方に待ち受けていたのだ。
(まさか、また勇者御一行様とか…いやいや、その勇者はここにいるから違うはず)
バネッサとの出会いを思い出し、一瞬どっきりした清正はふと、バネッサが青い顔をしているのに気付いた。
「おや、バネッサさん。魔王をほったらかしで何を遊んでおられるのですか?」
真っ赤な派手な鎧を着て顔を出している青年戦士が嫌味たらしく声を掛けてきた。
「勇者の剣と鎧を遊ばせておくくらいなら、『正規の勇者』の私に返してもらえますか?」
自称勇者が仲間から一歩前に出て、バネッサに語りかけてきた。
「ごめんなさい。『コスプレ集団』と遊んでいる暇はないから、そこをどいていただける?」
バネッサの前に歩みでた瀬利亜が涼しい顔でしっしっと追い払うしぐさをする。
五人組は「勇者」を除いて怒気が膨れ上がったが、一瞬眉を吊り上げた「勇者」は冷静さを取り戻して、ゆっくりと話しだした。
「あなたたちはバネッサさんの友達ですね。われわれは『落ちこぼれ勇者』のバネッサさんから、正当な後継者として勇者の剣と鎧を取り戻しに来ただけです。」
「ごあいさつどうも痛み入ります。私たちは『勇者バネッサ』と仲間たちです。これから勇者バネッサが活躍される際、勇者の剣と鎧は必須になります。そちらのご勇者様はよろしければ別の勇者の剣と鎧をご用意してくださいませ。」
「アルオン!そこの生意気な女を先になんとかしようぜ!!」
アルオンの嫌味たらしいセリフにも動ぜず、涼しい顔で返す瀬利亜に短気そうな戦士が怒号を上げた。
「ガゼル、相変わらず短気ですね。もう少し勇者一行らしく冷静になりなさい」
アルオンは苦笑してガゼルをなだめた後、再び瀬利亜に向き直った。
「われわれはバネッサさんがそこの魔王を放っておいて、遊んでいるようだから、本来の勇者である私たちが正規の装備を使わせていただこうとしているだけですよ。
まさか、その魔王まで仲間ということではないですよね?」
「うん、そのまさかです。ただ、元魔王の息子と言うだけで現在は『ただの一般人』の清正さんは仲間内では『うっかり八兵衛』的な役割を果たしてくれています。
悪人を改心させて仲間にするということは『親の勇者のパーティ』ではよくある話ですよね♪」
アルオンの嫌味を全く気にせず涼しい顔で返す瀬利亜にアルオン達の苛立ちは高まった。
「貴様ら!力ずくで奪ってもいいんだぞ!!」
「待って、それはいくらなんでも!」「おい、それは勇者のすることではないぞ!」
ガゼルが叫ぶと、女僧侶と魔術師が顔色を変えてガゼルをなだめにかかる。
「あらあ、ま・さ・か・強盗みたいに力ずくで奪おうとか『勇者御一行様』がおっしゃるわけですか?」
瀬利亜の兆発に顔を真っ赤にしながらもアルオンが黙り込む。
しかし、ガゼルはさすがに我慢できなくなって叫んだ。
「いいとも、力ずくだろうがなんだろうが、かまうもんか!!」
「というわけですよ。齊藤警部。速やかに連行していただけますか?」
いつの間にか忍び寄っていた齊藤警部がニヤニヤしながら警察手帳を提示する。
「殺人課の齊藤だ。恐喝の現行犯で全員しょっ引かせていただきます。」
(瀬利亜さん、いろんな意味で敵に回すと怖すぎる!!)
清正が瀬利亜の手口に震え上がっていると、少し躊躇していたバネッサが齊藤に声を掛けた。
「待ってください!斎藤警部。彼らは私と話をしに来たのです。連行するのは待っていただけないでしょうか?」
バネッサが熱心に頭を下げるので、齊藤と瀬利亜は顔を見合わせた後、うなずいた。
「了解、では今回は見逃すので、冷静に話し合ってもらえるかな?」
バネッサは「勇者の末裔の作った村」で生まれ育った。
父親を早めに亡くしたバネッサは将来の勇者を目指して頑張っていたが、体力は抜群だったが魔法の素質はからきしだった。
同じ勇者候補のアルオンは剣も魔法も得意で、村ではアルオンが勇者の最有力候補と見られており、口が達者なことも加えてアルオンはいつも周りからちやほやされていた。
それに対して魔法も使えず、朴訥で人付き合いも不器用なバネッサは半端者扱いをされていた。
それでもめげずに習練に明け暮れていたバネッサの17歳の誕生日、雨宿りのために村はずれに打ち捨てられていた祠に入った。
祠の奥には錆びついた剣と鎧が置かれていたが、バネッサが妙に魅かれるものを感じて手に取ると、剣と鎧は青白く光り始めると、その輝きを取り戻した。
剣と鎧は勇者にふさわしいものが来てくれるのを待っていたのだった。
しかし、村ではバネッサはかえって非難の的になった。
外面がよく、魔法はもちろん、剣の腕でもアルオンの方が上だったので、バネッサが勇者の剣と鎧に選ばれたのは『何かの間違い』とされたのだ。
悔しさのあまり、バネッサは村を出奔し、剣と鎧に相応しい勇者になろうとあちこちで修業を積んでいった。
そんなある日占い師のおやじが不思議な予言をしたのだった。
「お前さんは先代の魔王に逢う必要がある。」
「先代の魔王は生きているんですか!?」
「ああ、間違いない。そして、そこに至るまでの出逢いがお前さんの運命を大きく変えることであろう。さて、そこでじゃ。」
おやじが勇者の剣に手をかざすと、剣の柄についている宝石が一際大きく光った。
「これで、先代魔王やその血を引くものに近づくとこの光が強くなる。お前さんも霊感は強い方だから、それと合わせていけば、間違いなくたどり着けるじゃろう」
「ありがとう!!おっさん!!」
バネッサは親父の両手を握りしめてぶんぶん振り回した後、弾むように天幕を後にした。
「あれが、今度の勇者か。いい目をしとるの。リュウイチロウを彷彿させる元気のよさだのう。そういや、リュウイチロウとエリシエルには娘ができたそうだが、あの勇者と同じくらいの年になっとるんじゃなかったかな。勇者と会うことがあればおもしろそうだな。
あと、アルテアたん♡ 今頃は成熟した美女になっとるだろうな。」
『先代勇者』はぴちぴちだったアルテアを思い出し、にへらにへらと笑っていた。
「それで私たちと出会ったというわけなのね。」
バネッサの身の上話を聞いて、瀬利亜がうなずいた。
「そういや、バネッサは本来俺を追ってきたんだよな。どうしてまだ、ここにいるんだ?」
清正に言われてバネッサが固まった。
よく考えたら、魔王になって暴れる可能性はゼロ、「能力に目覚める可能性も皆無に近く」
まもなく誰の興味も引かなくなる可能性の高い清正の近くに自分がいる意味があるのかという根本的なことに思い至った。瀬利亜と千早がそばにいれば護衛の必要もないのだ。
「そ、それは…。」
ちっちっちと指を振りながら瀬利亜が割り込んできた。
「決まっているじゃない!バネちゃんは勇者として『さらに高い正義の意識に目覚めた』のよ。魔王の一件は片付いたものの、まだまだこの世に悪は多いわ!
そこで、日々、私たちと一緒に訓練し、いずれは『勇者兼スーパーヒロイン』として大活躍する予定になっているわけ♪
現在順調にコスチュームデザインもできつつあるわ!」
「さっきの『勇者御一行』というのは連中を退ける口実では…」
清正がおずおずと聞くと、瀬利亜が再び指を振った。
「もちろん、本気に決まっているじゃない!東洋の勇者と西洋の勇者の両方が揃ったパーティ、しかも、両方ともに『スーパーヒロイン』とか、私達しか考えられないでしょ♪」
「…えーと、それは…」
「それは本当ですか!?」
微妙な顔をするバネッサと対照的に千早は嬉しそうに瀬利亜にしがみついた。
「もう少し構想がまとまったら、ちーちゃんもデザインに参加してもらおうかな♪」
「それはいいから、そろそろ『試合』の方を…」
清正の言葉にはしゃいでいた二人は我に返る。
「了解、では、バネちゃん。まずはあなた一人であの『へっぽこ』勇者を粉砕していらっしゃい。」
結局石川邸地下の訓練用の闘技場で「勇者同士の単独戦」と「パーティー戦」の両方の試合をし、その内容を見比べてお互い納得の上で勇者の剣と鎧を譲渡するかどうか決めようという話に瀬利亜がまとめた。
両方とも楽勝と思っている「アルオン一行」は喜んでその条件を受けたが、バネッサ以外のバネッサ一行はどうして「パーティ戦だけにしないのか」瀬利亜の判断に首をかしげた。
遥と清正が(特に清正)完全に戦力外とは言え、瀬利亜と千早が圧倒的に強いので、楽勝間違いなしのはずなのだ。
「それは、勇者戦を見ていただいてのお楽しみです♪」
瀬利亜が一行ににっこりとほほ笑んだ。
そして、着信音を聞いて、スマホを取り上げると、瀬利亜はスマホに語りだした。
「一見お調子者だけど、根はすごく真面目で、思いやりのあるお兄さんね。配慮ができてすごく優しいけど、優しすぎて人に譲りすぎるからもう少し自己主張 してもいいくらいだわ。無理しすぎることも女性から振られる原因になっているから、もうちょっとわがままになりなさい。 あ、これ私本人が言ってるから ♪」
一気にしゃべった後、再び瀬利亜は口をひらいた。
「はい、ちゃんと心に刻んでおきます。いつもあ・り・が・と・う ♡」
「……今のはなんでしょうか?」
頭の上にはてなをたくさんつけながら遥が恐る恐る聞いた。
「試作品の実験に付き合いました♪」
それきりしゃべらない瀬利亜にみんなの疑問は深まるばかりだった。




