20 人形と過去の話
「じゃあ、ホームルームはこれで終了。みんなお疲れや♪」
「みんな気を付けて帰ってね♪」
担任の錦織と副担任のアルテアに見送られて、生徒たちはそれぞれ、自宅へ部活へと散っていった。
「そういや、アルテアはん」
「はい?」
「瀬利亜はんも千早はんもおられんけど、大丈夫なんでっか?」
「ふっふっふっふ、休み時間にいいことを思いついたのです♪」
アルテアは嬉しそうに懐から二体の人形を取り出した。
「ミニ瀬利亜ちゃんと、千早ちゃんです♪」
可愛くデフォルメした瀬利亜と千早の人形を嬉しそうに両手に抱えた。
「へえ、可愛くていい出来でんね」
「しかも、本物ならこう話すだろう内容をちゃんと喋ってくれます。」
アルテアは瀬利亜人形を光一の前に持ってきた。
「いくら美人だからと言って、アルさんを口説こうとか思わないでね。振られて傷心で、恋人が欲しいかもしれないけど、相性とか社会的状況もちゃんと冷静に見てね。」
「…たしかに、本物なら言いそうでんね…。ところで、よう、学校の教師になる許可がおりましたね。」
光一が顔を上げてアルテアに問うた。
「うん、日本の文部科学省に知人がいたから相談したら、『何としてでもご要望に応えます』と即答してくれて、1時間後には『化学・物理・生物教師の免許』が頂けたの。もしかして、かなり無理してくれたのかしら?」
ぽかんと口を開けた光一に瀬利亜人形が囁いた。
「大魔女リディアは『政府機関や人類に対する最高アドバイザーの一人』で、ヒエラルキーは各国の政治家はもとより、王侯貴族より上扱いだからねえ。よほど変な要望以外は大概通るのよね。本人が基本わがまま言わない人だからほとんど問題が起きないけど。」
「アルテアはんを口説いたらあかんいう話は…」
「物語だと『王族との恋愛』はよくあるけど、光ちゃんも知っている通り実際はものすごく大変なのよね。アルさんの場合王侯貴族よりは『政治的なしがらみはずっとない』けれど、恋愛相手には『世界中から厳しい視線』が来るのは間違いないからねえ。光ちゃん、それに耐えられる?耐える自身があるならチャレンジしてもいいかもよ?」
「アルテアはん、ほんまにようできてますわ。」
冷や汗をかきながら、光一はあることに気付いた。
「アルテアはん、瀬利亜はん人形をもう一体作れませんか?」
光一がにっこりとしてアルテアを見た。
「瀬利亜はんは戦闘が抜群に強いからつい、見逃しそうになるねんけど、いろいろな視点から配慮された状況判断力もすごく的確なんはご存じですやろ。
こうして一体傍にいてもらえればいざというとき適切な助言を頂けそうでんねん♪」
アルテアはしばし、きょとんとして光一を見ていたが、やがてくすくす笑い出した。
「光一さんは瀬利亜ちゃんのことをすごく信頼されてるんでね。」
「ええ、こんな『男前な女性』は世界に二人といないと思いますわ。勇気、知力、思いやりの深さ共に一級品やから。」
嬉しそうに語る光一にアルテアは目を丸くした。
「あら、瀬利亜ちゃんは恋愛対象ではないのですか?」
「…恋愛??…うーーーん、非常に信頼でき、頼りになる血のつながらへんお姉はん…みたいな感じやね、年下なんやけど…。なにしろ、出会いの時がすごかったから…」
そう言って、光一は六年前のことを語り始めた。
当時、光一はグレる一歩手前状態になっていた。
離婚し片親で育ててくれた母親の言うこともうっとうしくなり出したし、学校の勉強も『初歩的過ぎて』おもしろくなかった。
小学校のころから習っていた武道も同年代で無敵に近く、その割には師匠がちっとも褒めないので、ふてくされ気味だった。
弱い者いじめは大嫌いだったし、つるむのも性に合わなかったので、飛び級をした学校の授業には何とか顔を出す…くらいの感じになっていた。
そんな時に六つ年下の銀髪のハーフの女の子が入門してきて、しかも、最初の相手が自分だと聞いてビックリした。そんなめんどくさいことをなんで、自分がと思ったが、師匠が強く言うので仕方なく相手をした。
開始早々、隙がないのにびっくりしたが、次の瞬間目の前に来ていたのにはさらにビックリした。気づいたら、あっという間に強い衝撃を受けてひっくり返されて呆然となった。
女の子はひどく心配した顔になって、自分に手を差し伸べていった。
「大丈夫?怪我してない?」
あんまり一生懸命心配してくれるので、つい笑い出してにっこりと返事をした。
「大丈夫や。びっくりしただけや」
「よかったあ。無事だったんだね。」
あんまり嬉しそうに女の子が笑うので、光一は自分が負けたことなどどうでもよくなった。
(この子かっこええなあ。自分はいろいろどうでもいいことにこだわっとたんやな…)
「わいの完敗や。おじょうさん、勝者の名前を教えてくれへんか?」
女の子はにっこり笑って手を差し出した。
「瀬利亜です。石川瀬利亜。お兄さんは?」
「光一や。錦織光一。これからよろしゅうな♪」
その少し後、瀬利亜が「あのスーパージャスティスの娘」であることを師匠の斎藤和正から聞いた時は仰天すると同時に妙に納得したのだった。
どう見ても格闘では瀬利亜の足元にも及ばないと悟った光一は興味のあったプログラミング技術を夢中になって鍛え上げた。
おかげで瀬利亜が一三でB級モンスターバスターになり、一五の時に「シードラゴンマスク」としてスーパーヒロインデビューした際も光一は自分の技術を駆使していろいろ手助けをした。
二年前には大学を卒業と同時に教員免許も取得し、風流院高校の教師になると同時に「電脳マジシャン」としてのスキルも齊藤たちの協力で磨きをかけていった。
「でもって、スーパーヒーロー同好会が協会に格上げになるよう、一緒にがんばっとるというわけや。」
「じゃあ、瀬利亜ちゃんのことは信頼し、尊敬する妹で姉みたいな仲間だけど、恋愛感情はないということなのね♪」
「そやね。まあ、本人に言うのは恥ずかしいんで、だまっといてもらえまっか。」
少し照れながら、光一は笑った。
「じゃあ、瀬利亜ちゃんは光一くんのことをどう思っているのかな?」
アルテアが瀬利亜人形に声を掛けた。
「一見お調子者だけど、根はすごく真面目て、思いやりのあるお兄さんね。配慮ができてすごく優しいけど、優しすぎて人に譲りすぎるからもう少し自己主張してもいいくらいだわ。無理しすぎることも女性から振られる原因になっているから、もうちょっとわがままになりなさい。 あ、これ私本人が言ってるから♪」
「なんですとーーー!!!」
光一はビックリして叫んだ。
「ごめん、これ試作品だから、時々本物と同調させて調整しているの。だから、さっきの光一さんのセリフは…」
「はい、ちゃんと心に刻んでおきます。いつもあ・り・が・と・う ♡」
そう言った瀬利亜ちゃん人形の顔は気のせいか光一の目には少し赤くなって見えた。




