19 学園に忍び寄る者たち その2
「捕まえた、忍者さん達を調べたらすごく大変なことがわかってきました。」
アルテアが水晶球を取り出すと、空中に立体映像が浮かんできた。
机を挟んで、青く瞳を光らせたアルテアと、数人の男女が対峙している。
「そうすると、お前さんたちはほとんど何も覚えていないというわけじゃな。」
「その通りです。厳密に言えば、ところどころぼんやり覚えてはいるのですが、まるで夢を見ていたような感じで、自分の経験とは思えない感覚なのです。」
長身の眼鏡をかけた温厚そうな青年がアルテアに丁寧に説明している。
「例えば、私はマジックが大好きな何の変哲もないただの『忍者』でした。…」
「待って!!この人達はもしかして!?」
瀬利亜があることに気づいて映像を睨みながら叫んだ。
「ええ、『闇の忍者軍団だった』人達です。」
水晶球の浮かべる立体映像はここで停止している。確かに写っている男女6人組は温厚そうな普通の青年たちにしか見えない。
「われわれは長い伝統を誇る忍びの里のものです。血なまぐさい時代にはいろいろあったようですが、まだまだ我々に対する偏見の根強い中、今は周りの人達と良好な関係を結びたいと思っていました。
そこで、われわれは自分たちの一芸を徹底的に磨くことにより、周りの住民たちの理解を得ようと思ったのです。例えば、私は『日本の伝統芸能の相撲の達人』になることで、その存在をアピールしようと思ったのです!」
大柄で実直そうなリーダーは熱く、自分達のことを語っている。
(((どこから何を突っ込んだらいいのだろう…)))
映像を見ている全員が『人としては好感を持てるリーダーの暴走』になんとコメントしていいのか悩んでいた。
「地域住民との交流イベントはしかし、大失敗に終わりました。『我々の全力でのアピール』が多くの方たちに怖がられてしまったのです。
我々が落胆して打ちひしがれていたあの日、『あの人』に出逢ったのです。
そこからは我々の記憶が途絶えていて、気付いたらあなたに起こして頂いたというわけです。そして、あの人がどんな人だったかもなぜか霧がかかったように思い出せないのです。」
映像はここで再生が終わった。
「ご覧いただいたように、秘密結社『スーパーモンスターズ』には他人をコントルールできる強力な精神魔術を使う魔法使いがいるか、そういうシステムがあるということね。」
アルテアがため息をついた。
「じゃあ、もしかしたら私たちもそうやってコントロールされる可能性もあるということですか?!」
千早が思わず叫んでいた。
「可能性はありそうね。ただ、それだけでもないかもしれない」
アルテアが厳しい顔で答える。
「例えば、マント四天王の一人、レディマントは彼ら忍者たち同様『元というか、完全に人間』なんだけど、同じように何らかの術が施されている可能性があるわね。」
アルテアは言葉を一つ一つ選びながら語った。
(私が操られている!?そんな馬鹿な!!)
教室から少し離れたところから会議を盗み聞きしていた麗華は息がとまるほどのショックを受けていた。
(確認を!!黄金マント様に確認を!!)
それでも何とか気力を振り絞り、音を立てずにその場を離れた。
「!瀬利亜さん、今!?」
千早がかすかな気配に気づいて、立ち上がると、瀬利亜がゆっくり答えた。
「うん、『自分が操られているかもしれない』話を聞いて、レディマントもショックだったんでしょうね。それでもなんとか、気配を殺して立ち去るとはさすがだわね。
敵のまっただかなに転校して情報を取ろうとするくらい根性が座ってるわけだわ。」
「ちょっと待て!転校して来たって!?」
「麗華さんの正体はレディマントだから。」
血相を変えて叫ぶバネッサに瀬利亜が涼しい顔で答える。
「そんなあからさまな行動を取られて、なんでそんなに落ち着いているんだ!」
バネッサはさらに瀬利亜に突っかかる。
「単なる罠にしては不可解すぎるから、『レディマントを倒さずに何とかしてみろ』という黒幕からの挑戦状じゃないかと思って様子を見ているの。」
「イギリスでも日本でも『モンスターバスタ―協会の被害が驚くほど少ない』の。」
瀬利亜の言葉をアルテアが引き継ぐ。
「幹部クラスの戦闘能力から言えば、モンスターバスター達の死傷者はもっと多くなければおかしいくらいだわ。でも、負傷者はたくさん出ていても、『死者がゼロ』なのはあまりにも不自然だわ。
だから、私たちは彼らの行動はモンスターバスター協会及び、人類全体への『隠された目的を秘めた挑戦」ではないかと推測しています。」
「お帰り、レディマント。どうしたんだい真っ青な顔をして。」
基地に戻った麗華を黄金マントは優しく見つめた。
「おかしいんです!?やつら、いろいろおかしなことを言うんです!?」
麗華は黄金マントに学校であった事を必死で伝えた。
「そうか、それは本当に大変だったね。」
黄金マントが麗華を見つめる瞳はあくまで優しいままだった。
「忍者軍団や私が操られているなんて、嘘ですよね!?」
黄金マントの瞳は麗華を優しく見つめながら金色に怪しく光りだした。
「もちろんだとも、麗華。『私は君たちの真の願いをかなえる手助け』をしているだけだ。間違っても君たちの意志を無視して無理やりコントロールするなんて『人間みたいに野蛮な行動』を取るなんてありえないよ。」
麗華は黄金マントの視線に夢見るようにうなずいている。
「お休み、麗華。大丈夫だ。すべてはきっとうまくいくよ。」
麗華は黄金マントの言葉に促されるようにそのまま寝室に行き倒れ込んた。
「石川瀬利亜、大魔女リディア。さすがは超A級の中でも穏健派、いや、「共存派」の二人だな。全員とは言わないまでもせめてバスター協会の多数が彼女たちみたいに振る舞ってくれたならこんな強硬策を取らないですんだのだが…。」
「こうしてみると、美夜さんが地球防衛軍に抜かれたのも痛かったですね。」
部屋に入ってきた巫女姿の女性が黄金マントに声を掛けた。長い黒髪の細身で長身の女性は優しそうな顔を憂いに染めていた。
「それは言わないことにしよう。彼女がいたらバスター協会ももう少し穏健路線になっていただろうことは確かだがね。
それより、こんなところにいたら君の立場がなくなるよ。モンスターズのメンバーに見られてもだし、ましてや…」
「わかりました。あなたも気を付けてくださいね。」
女性は黄金マントに優しい視線を向けると踵を返していった。
「おはよう!みんな元気そうやね。さあ、今日もみんなに素敵なお知らせがあるで♪」
いつも以上にニコニコしながら錦織が教室に入ってきた。
「このクラスに新しく副担任の先生が決まりました。では、入って下さい。」
長身の金髪の美女が入ってきて、クラス全員わが目を疑った。
「リディア・アルテア・サティスフィールドです。」
アルテアはにこにこしながら黒板に英語とカタカナで自分の名前を書いていく。
(アルテアさんが妙にうきうきしていると思ったらこんなことだったとは…)
バネッサと千早が呆然としながら見ていると、瀬利亜がすっくと席を立つと、教壇に近づいて行った。
「錦織先生!頭痛と神経痛と生理痛が酷いので、アルテア先生に保健室まで連れて行ってもらいますね!」
有無を言わさずアルテアの手を引くと、瀬利亜は教室からさっさと出て行った。
「アルさん、今はいいけど、私がいない時はどうするの!?魔女人形を使ったら不自然過ぎてどうしようもないわよ!!」
またしても空いた教室に飛び込んで、二人は密談を始めた。
「あら!?それは困ったわね…。そうだ、瀬利亜ちゃんが休みの時は私も自動的に休めばいいんだわ♪」
「私がいない時でも、レディマントに対応できるようにするためにアルさんが学校に来たんでしょ?!それじゃ意味なくない?」
「…うーーーーーん…」
しばし、悩んだ後、アルテアはふっと明るい顔になると瀬利亜に言った。
「そうだ、思いついたことがあるの。一旦教室に戻るね。」
教室に戻るとアルテアは千早の席まで行って、そのまま千早を抱えて教壇に戻った。
千早が目を白黒させている中、アルテアが瀬利亜に口を開いた。
「うん、こうしていれば大丈夫みたい。」
生徒達があんぐりと見ている中、アルテアが照れくさそうに言った。
「ごめんなさい、私極度の人見知りだから、『すごく親しい人』がそばにいてくれないと、緊張してうまく会話ができないの。」
「さっきは全然大丈夫でしたよね。それは何をされているのですか?」
遥が怪訝そうに口を開いた。
「瀬利亜さんだったら、『視界内にいてくれれば』大丈夫です。
千早さんの場合、『至近距離にいてくれれば』大丈夫そうです。
『効果範囲』がお二人で少し違うみたいです。」
心の底からの嬉しそうな笑顔に遥は言うべき言葉が見つかけられなかった。
(この連中、本当に大丈夫なのか??)
敵ながら、あまりのドタバタぶりに麗華は半ば呆然としながら成り行きをみまもるしかなかった。




