16 決戦 五重の塔 その2
間が少し空きましたが、再開です。
「ぐぬはーー!!なんてことだ!!」
苦悶のうめき声を発し、電脳マジシャンはその場に崩れ落ちた。
「一体、どうされたのです?!」
そばにいた遥がおもわずかけよった。
「一〇八センチの巨大カップがまさか作りものだったとは?!」
「一〇八センチ!!!」
千早、バネッサ、遥、清正の声がハモる。
「に、人間じゃないです~…。」
「まさか、そこまで巨大だとは…。」
千早、バネッサもうずくまってしまう。
「光ちゃん、『まもなく結婚かも』とか言っていた彼女のことはどうなっているわけ?」
シードラゴンマスクの目つきと言葉がかなりきつめになっている。
「そりゃあ、彼女はんのことはとても大事やし、もちろん浮気なんぞする気はあらへんけど…あの『芸術品』が偽物だったなんて…くーーー!!」
「はっはっはっは、それは残念じゃったの。じゃが、完全に偽物というわけでもない。わしの若いころの姿をきっちり再現しておるからの。」
「えーーーーーー!!!!」
今度はアルテアとシードラゴンマスク以外の全員の声がハモる。
「こんなスーパー美女がこんな『枯れ木』のようになるなんて、世の中はなんて不条理なんや!!」
「千早、私たちも頑張れば、ここまで『大きく成長』できるかもしれない!!」
「わ、私もできれば『若かりし頃』にその『構造物』にうずもれてみたかった。」
「…お館さま、正気にお戻りください!!」
クノイチ忍者に揺さぶられて、棟梁は慌てて首を振った。
「お前たちもとっとと正気にもどれ!!いざ尋常に勝負だ!!」
「二対六になるけど、私が棟梁とやるから、残りはアルさんに任せるので、OK?」
「ガチンコ勝負はシードラゴンさんの方が得意だからね。まかせるわ」
シードラゴンマスクが老魔術師の傍で囁くと、滑るように前進していった。
(これでは、イギリス侵攻部隊が全滅するはずだ…。)
棟梁忍者はシードラゴンマスクと大魔女リディアとそのゴーレムたちを油断なく見据えながらも一人ごちた。
(ゴーレム一人一人の生命エネルギーがシードラゴンマスクにも匹敵するうえに、全てのゴーレムが魔法のエネルギーで直結している感じだ。そして、全てのゴーレムからあの老婆と同じ鋭い視線を感じる。
だが、まずは、目の前の相手からだな)
棟梁忍者はシードラゴンマスクとお互いに隙を窺いつつ睨み合っている。
しばし、殺気を衝突させ合った後、シードラゴンマスクが突っこんでいった。
闘気をため込んだ素早い右回し蹴りはしかし、棟梁忍者の左手で軽く受け止められた。
あまりのダメージのなさにシードラゴンマスクはさっと数歩後ずさる。
その後を棟梁忍者の右張り手が襲うが、間一髪シードラゴンマスクは躱した。
「体捌きは大したものだ。だが、軽い!この私に肉弾戦を挑もうとは無謀なり!」
棟梁忍者は忍者装束の上半身を脱ぎ捨てると叫んだ!
「我は『横綱忍者』!!日本の究極の武道と忍術の両方を極めた存在なり!シードラドンマスクよ、まず、貴様を倒し!その後、毛唐の魔女も葬ってくれよう!!」
「相撲と忍者の取り合わせってなんかおかしくない?」
髷をゆった、鋼のような筋肉質の大男にシードラゴンマスクが眉を顰めながら言った。
「確かに、並の相撲取りなら忍術を身に着けることなど到底かなうまい。だが、究極まで我が筋肉を鍛え上げることにより、横綱の強さと忍者マスターの両立が可能になったのだよ!!」
(黄金マントと言い、こいつといい、この連中はやたら『筋肉比率』が高いわね…。)
シードラゴンマスクの視線が鋭さを増し、右手に闘気を集中させる。
横綱忍者は四股を踏んで、両手を広げて身構えた。
「シードラゴン・ソニックウェイブ!!」
「横綱・分身・千手張り手!!」
双方の激突はしかし、シードラゴンマスクが横綱の分身を捉えそこなったがゆえに横綱忍者に軍配が上がった。
シードラゴンマスクは強烈な張り手とそれに続くぶちかましをくらわされて、建物の壁をぶち抜いた後、そのまま五重の塔から放り出されてしまった。
「あたたたた、やってくれるわね…。」
落下で叩きつけられた木から滑り降りると、シードラゴンマスクは再び五重の塔に向かおうとして、後方からの殺気を感じて振り向いた。
「『横綱』の攻撃を食らってもまだまだ元気そうだな。」
黄金マントとその連れらしいマント姿の女性が空から舞い降りてきた。
「妙な気配を感じたので、戻ってきたが正解だったな。」
黄金マントが鋭い視線でシードラゴンマスクを睨みつけている。
「黄金マント様、ここは、私が参ります!!」
縦ロールの長髪のきつめの美少女がやる気満々で前に出ようとする。
「レディマント、やめておけ!」
しかし、黄金マントはレディマントを左手で制して自分が前に出る。
「少し怪我をしているようだが、生体エネルギーやオーラに全然乱れがない。
お前ではまだ早い。巻き込まれないように下がって見ていろ。」
その時、シードラゴンマスクと黄金マントの二人が「五重塔での変化」に気づき、しばし、そちらに注意を向ける。
「あら、急いで戻る必要がなくなったみたいね。では、じっくり決着をつけましょうか?」
「お前さんを倒したら、次は塔の中の敵の相手をせねばいかんかもな。」
二人の間の緊張が急速に高まるのを感じ、レディマントは思わず後に下がっていった。
真っ赤に輝く鎧を着た四本腕の射手は二組の弓を構えると、次々を矢を放ちだした。
真っ赤に燃え上がった矢は数十条に分かれると、忍者たちに一斉に襲い掛かった。
そのうちの一条を受けた、「クノイチ忍者」がひざを付くとマジカル忍者が駆け寄った。
「大丈夫か!?怪我はないか!!」
「痛みはないわ。でも、急に力が入らなくなった気が…。」
「安心せい!その矢が当たっても絶対に死にはせん。ただし、精神エネルギーを消耗するから、たくさん当たると数時間は気絶したままになるがね。」
大魔女リディアが話し終えると、今度は射手はクノイチ忍者に集中して矢を放った。
マジカル忍者はなんとかか自分だけは躱したものの、クノイチ忍者はそのまま倒れ伏した。
ガシッ!ガシッ!!
テコンドー忍者がトンファーで、黄金色のライオンの牙を何とか躱しつづける。
(人間の知恵を持った野獣がこんなに手ごわいとは!?)
テコンドー忍者はインドの山奥で修業をした際、虎などの猛獣とも何度もやりあったものだ。しかし、目の前の相手はこちらのフェイントなどを正確に読み切って一進一退の攻防が続いている。
(おそらくゴーレムは自立した精密な戦闘システムを持たせておいて、要所要所で魔女が適切なコマンドを入れて反応させているのだろう。)
相手は疲れを知らないゴーレムなので、時間が長引けば不利だと感じたテコンドー忍者は一気に攻勢をかけた。
「トンファーハリケーン!!」
トンファーを嵐のように振り回しながらテコンドー忍者は突っこんでいった。
ライオンはそれを両前足でがっしと受け止めると、両者の動きが止まった。
(敏捷さが売りの獣がわざわざ自分で動きを止めた?!)
不意を突かれて一瞬動きが止まったテコンドー忍者は右わき腹に鋭い痛みを感じた。
はっとしてみるとライオンのしっぽの先端にサソリのようなかぎ状の針があり、それが自分のわき腹に刺さっていた。
「すまんな、それはライオンではなく『マンティコア』じゃ。ただし、毒はマヒ毒なので、安心して眠れ。」
魔女の言葉とほぼ同時にテコンドー忍者の意識は暗闇に沈んだ。
ガギーン!ガギーン!
サムライ忍者は青い巨大戦士と壮絶な撃ち合いを続けていた。
巨体に似合わぬ素早い動きにサムライ忍者は苦戦を続けている。
(なんて馬鹿力だ!!しかも動きに隙がない!!ならば!!)
「影分身」
叫ぶと同時にサムライ忍者は五体に分かれた。
そして、一斉に切りかかろうとした瞬間、巨大戦士の胴体から左右に2本ずつさらに片手剣を持った腕が生えてきた。
そして、四本の腕をなぜか背中に隠して剣を見せないようしながら前進してくる。
(剣の動きを見せないようにして躱しにくくする狙いか!厄介だがそれくらいなら)
五人の忍者達は四本の腕の動きにも警戒しつつも一気に間合いを詰めた。
しかし、戦士の腹から一気に四本の剣が飛び出してきたのには対応しきれなかった。
「剣が体をすり抜けた…」
斬られた五体の忍者はばったりと倒れた。
「剣と腕が胴体をすり抜けるとは魔法生物ゴーレムならではで、面白いじゃろ。
その剣も斬った相手の精神力を吸うだけじゃ。安心して眠れ。」
大魔女の言葉の後半はサムライ忍者には届いていなかった。
魔女帽子を被った「アルテア」の何条もの光でできた拘束魔法をマジカル忍者は躱しつづけた。
(さすがは「大魔女」!私とは魔法の威力が桁違いだ!だが、殺そうとしないことが隙につながっている!)
マジカル忍者は閃光魔法を放つと、一気にアルテアの背後に回り、手刀を撃ち込んだ。
マジカル忍者の右手がアルテアに触れた瞬間、その姿は手ごたえなしに消え失せた。
(これは幻覚!?)
マジカル忍者は背後から金色の閃光を浴びて意識を失った。
「しばらくお休みなさい♪皆さんご無事ですよ。」
アルテアは自身の声で優しく語りかけた。
(こいつは強すぎる!!本体を叩かないと話にならない!!)
「闇忍者」は陰に潜みながら戦況を冷静に窺っていた。
大魔女とゴーレム達は絶妙の連携プレイで『忍者五芒星』に全く隙を見せないままあっという間に倒していった。
(ならば、忍法「闇潜行」!)
無言で真言を唱えると、闇忍者の体は「時空の狭間」に飲み込まれていった。
「もらった!!」
闇忍者が右手刀を大魔女の背中に突き刺したと思った瞬間、全身に強烈なしびれが走った。
そして口から泡を噴き出すとそのまま倒れた。
「大魔女の防御結界を甘く見ないことじゃな。」
涼しい顔のままで大魔女はにやりと笑った。
「ほお、そちらは場外乱闘かいの。一勝一引き分けといったところかの」
大魔女の言葉に横綱忍者が振り返った。
そして、周りを見回し、大魔女を厳しく睨みつける。
「そう、怖い顔をするな。あんたのお仲間は全員生きておる。そして…」
なにかを感じて、大魔女がにやりと笑う。
「外でも二回戦が始まったようじゃ。こちらも二回戦を始めようかいの」
『最強の忍者』と『伝説の魔女』とが鋭い視線を交わし合った。




