17 決戦 五重の塔 その3
横綱忍者と大魔女がにらみ合った次の瞬間、青い巨人騎士が横綱忍者に猛然と斬りかかった。同時に真っ赤に光る射手は素早くアルテアに歩み寄ると、形を失って、アルテアの懐に吸い込まれていった。
ガシーーン!!
斬りつけられた大剣は横綱が両手で挟み込んで受け止めていた。
「横綱流、真剣白刃取り!!」
そのまま、右足を跳ね上げると、横綱は青騎士の胴体に横殴りに蹴りを叩き込んだ。
ガラガラがしゃーんと金属音を立てながら、青騎士はバラバラになって吹っ飛ぶと、形を失ってアルテアの懐に吸い込まれていった。
グアーー!!
青騎士が吸いこまれるとほぼ同時に金色のマンティコアが横綱に襲い掛かっていた。
「ふんぬ!!」
顎での一撃を両腕でがっしりと受け止めると、マンティコアは動きを止めた。
そして、マンティコアは停止した瞬間を狙って、しっぽを横綱の右わき腹に打ち込んだ。
しかし…。
「ぬるい!ぬるすぎるわ!!横綱の筋肉をそんな物で打ち抜けるとも思ったか!?」
筋肉の圧力でとげのついた尻尾を弾き飛ばすと、両腕にさらに力を込めて、左右に大きく動かした。
マンティコアは顎を引き裂かれると、砂のように崩れ去り、金色の砂はアルテアの懐に吸い込まれていった。
「さて、次はお前さん……」
アルテアの方を向いて、横綱は言葉を失った。
高さ3メートルくらいの三本首の黒光りする巨大な猟犬が姿を現すと、横綱を睨みつけていた。先ほどのマンティコアとは比較にならないくらいエネルギーをみなぎらせた『地獄の番人・ケルベロス』は口元からちらちらと炎を吐きながら横綱の様子を窺っている。
大魔女の傍にもいつの間にか上半身が女性上のフォルムの騎士、下半身が蜘蛛という白銀色のゴーレムが控えていた。
それ以外にはゴーレムは見当たらなくなっている。
「お前さん用にゴーレム部隊を組み替えてみたんじゃ。気に入ってもらえたかの?」
大魔女の笑い声が塔内を響き渡った。
「シードラゴン流星拳!!」
「連続ゴールデンフラッシュ!!」
森の中では壮絶な飛び道具の撃ちあいであたりには「クレーター」が何十とあちこちにぽっかりと口を開けていた。
(戦いに加わらないでよかった…)
レディマントが遠くから、震えながら二人の戦いを見守っていた。
シードラゴンマスクは気の爆弾を黄金マントはエネルギー弾をそれぞれ無遠慮に連射し始めたため、レディマントは危うく巻き添えを食って昇天するところだった。
「やるな、シードラゴンマスク。これだけやりあって、息一つ切らさないとは大したものだ。だが、ただの人間がいつまで私とやりあえるかな?」
「そういう『ただの怪人』が私とここまで渡り合えるとはたいしたものだわ。体力については心配ご無用。48時間ぶっ通しでやりあったこともあるから。もっとも、今回はそこまで時間をかける前に決着をつけるけどね。」
(人間じゃない…いえ、黄金マント様はもともと人間じゃないけど、シードラゴンマスクもとんでもない化け物だわ…)
笑いながら再び攻撃しあう二人をレディマントは呆然と見つめていた。
グオオオーーーン!!
その巨体に似合わぬスピードでケルベロスは横綱忍者に襲い掛かった。
横綱忍者は後ろに飛んで躱すと、懐から直径1メートルを超える巨大な十字手裏剣を取り出すと、ケルベロスに投げつけた。
「横綱十字手裏剣!!」
手裏剣は回転しながらケルベロスの頭を二つ吹き飛ばすと、ブーメランのように横綱の手元に戻ってきた。
「では、もう一度…」
再び手裏剣を構え直した横綱忍者はケルベロスの首の切り口から新たな頸が二つずつ生えてくるのを見て、言葉を失った。
「そいつはケルベロスと不死の怪物ヒドラの合成でね。ちょっとタフだろ。」
大魔女の言葉が終わるや否やケルベロスの5つの口から黒い炎が横綱忍者に向かって伸びていった。
「そんな攻撃が当たるか!!」
横綱忍者はさらに飛んで炎を躱したが、周りを白い糸に囲まれているのに気付いた。
「人蜘蛛のゴーレムか!?」
蜘蛛の怪物、白いアラクネは糸の奔流を横綱忍者に向かって一気に解き放った。
「なんの、横綱ハリケーン!!」
横綱忍者は高速で回転すると、糸の奔流を弾き返して、魔法を使おうとしていたアルテアの眼前に迫った。
「まずはこの魔法人形を!!」
あと一歩でアルテアに届くところまで踏み込んだとき、横綱忍者の体はアルテアの視線にくぎ付けにされたまま動かなくなった。
「魔女の目『魔眼』をご存じなかったかしら♪」
アルテアはつぶやくと両手からの拘束魔法で横綱忍者をぐるぐる巻きにした。
「さて、まだ安心できんからの。アラクネよ。忍者の確認を…」
大魔女の指令にアラクネが動こうとした時、拘束されているのが「忍者服を着た丸太」だと魔女は気付いて愕然となった。
「これは現身の術!?」
「気付くのが一歩遅かったな!!横綱スパーク!!」
床板をぶち破って、現れた横綱忍者は全身を金色に光らせながら、大魔女に体当たりを敢行した。
大魔女の体が二つに裂けて、床に落ちると、アルテアと2体のゴーレムは糸の切れた人形のように力を失って、動きを止めた。
「結界を破るのに加減ができなかった。許せ。」
横綱忍者は大魔女の亡骸に頭を下げた。
(さて、仲間を助けないと…)
横綱忍者が周りを見回した時、妙な違和感を感じた。
大魔女の流した血が不自然に自分を取り囲んでいるのだ。
(これはただの血ではない!!)
慌てて拭い取ろうとしたが、真っ黒い血はあっという間に横綱忍者の全身を覆うとその呼吸を奪ってしまった。
(まさか、死してなお相手に復讐するとは恐るべし…)
横綱忍者の意識は闇へ沈んでいった。
「大丈夫ですか?!」
音が急にしなくなったのを心配して電脳マジシャンとバネッサが下の階から上がってきた。
「これはひどい!!」
全員床に倒れており、特に大魔女が真っ二つになって、いる惨状を見て、二人は仰天した。
「人形に入っているときだったけど、いろいろ親切にしてもらったのに…」
バネッサは大魔女の上半身に駆け寄るうとした。
そのとき、アルテアがふらふらっと立ち上がった。
瞳に力はなく、魂の抜けた人形のままのようだった。
「アルさん大丈夫?!」
窓から瀬利亜が慌てて飛び込むと、中をきょろきょろと見まわした。
「よかった。無事だったんだ。五重の塔の上階で気配がなくなったから、 戦いを切り上げて急いで来たんだから」
瀬利亜がアルテアを抱きしめると、アルテアの瞳に意志の光が戻ってきた。
「瀬利亜ちゃんも無事だったのね。よかった。」
‘いつものアルテア’がニコニコしながら瀬利亜を抱き返した。
「待って!窒息する!!嬉しいような気がしないでもないけど、今は待って。」
「瀬利亜はん!!それはどういうこと!?」
「ごめんなさい、私の方が『本体』で、おばあちゃんの方が人形でした。」
にこにこしながらみんなを見ているアルテアに『事情を知っていた』瀬利亜以外は呆然と立ち尽くしていた。
「ほら、私って、シャイで引きこもりのニートだから、本国では普段はこのお人形さんに代役をしてもらってました。今回みたいにいざという時は身代りになってくれるし。
ただ、『人形に魂を移している』と死んだ時の痛みも感じるから、やられた時は文字通り死ぬような思いをするわけ。」
アルテアはもじもじしながら、瀬利亜を盾にするように後ろに隠れた。
「変な日本語を覚えなくていいから……。大魔女らしく振る舞えとは言わないけど、『人見知り』は直していこうね。」
「瀬利亜はん宅でお会いした時は普通にしゃべってはりましたけど…」
「親友の瀬利亜ちゃんと一緒に瀬利亜ちゃんのお友達と話すくらいなら大丈夫なの。
知らない人と一緒はもう、全然ダメなの」
アルテアは恥ずかしがって、瀬利亜を盾にしたまま答えた。
「二〇〇〇年以上前からの大魔女ということでしたが…」
「私は一四代目で、今は三五歳です♪」
「そ、それは若いというべきか、それとも…」
光一が頭を悩ませていると瀬利亜が割って入った。
「延命の魔法とか一切小細工をせずに『二〇歳くらいの生理年齢』を保っているのだから、『若い判定』をするのが妥当だと思うな」
「小細工なしで二〇歳の生理年齢!?」
バネッサ、遥、千早の顔つきが変わった。
「ぜひその秘訣を教えてください!!」
瀬利亜を盾にしたままのアルテアに三人の女の子は思い切り食い下がった。
「よかった、ホンマによかった。」
光一は泣き出さんばかりに喜んでいる。
「そうね。敵も含めて犠牲者ゼロは本当によくやったと思うわ。」
瀬利亜も光一の言葉にうんうんうなずいている。
「一〇八センチが本物で、しかも無事で本当によかった!!」
「そっちかい!!」
光一は瀬利亜にどつき倒された。




