エピローグ
「宰相の前でも言っただろう、魔術師の蜜月は結構有名な話しなんだ。高位魔術師が恋に落ちると歯止めがきかなくなる。ああソフィア、僕は君と離れるのが辛いよ。いっそまたあの呪いに一緒にかかろうか」
ソフィアの右側を、子犬のようにベッタリとついて離れないブライスに苦笑いでソフィアは言った。
「ブライス、でもそろそろ右手を離してくれないと、私学校におくれてしまうわ。今日は転移魔法の試験があるのよ」
小さな海辺の街でのブライスの求婚後、ソフィアは身分差を理由に何度も断ったにもかかわらず、ブライスは全く引かなかった。ブライスは朴念仁の極みだが、一旦自分の気持ちに納得すると、後は一切引かないタイプらしい。
ソフィアがうんと言ってくれるまでは王都に戻らない!と駄々っ子のような事を言い出して、その間王宮では外国の要人からのブライスへの面談要求や法案の立法に伴う様々な案件への対応がたまりにたまって行く中、ついには困ったレイの命で、セバスチャンがこの海辺の街に派遣されてきたのだ。
「ああ、おいたわしいソフィア嬢、今度はこのロクデナシに執着されてしまいましたか。なんと運の悪いお方だ」
そんな事を言って大げさに天を仰ぐセバスチャンの目の端には、小さく光る物があった。
ソフィアをよく知るセバスチャンの入れ知恵で、ブライスは、ソフィアがブライスと婚約してくれたらソフィアの宮廷魔術学校への進学を応援する、という条件を提示して、ようやくソフィアはブライスとの婚約を受け入れてくれて、意気揚々とブライスはソフィアと共に王都に戻った。
尚、一般的にブライスのような高位貴族と結婚する場合は、花嫁は家政に専念する為に学校も仕事も辞めてしまうのが常なのだが、ブライスはこの国の魔術師の最高位である筆頭魔術師だ。ソフィアの宮廷魔術学校への進学は、ブライスの実家である伯爵家から、夫を支える妻の鏡だと、多いに喜ばれたのだ。
(尚、セバスチャンはソフィアを説得できたその功績で、レイとブライスから御夫婦での豪華客船の旅を贈ってもらったのだそうだ)
この国で最も魔術の才能に恵まれた若者が集結する宮廷魔術学校への進学は不安であったのだが、ソフィアはこの国の宮廷魔術師の筆頭であるブライスの隣で、ずっと静かにその研究につきあっていたのだ。
魔術学校を卒業して3年のブランクがあったのにも関わらず、最初の模試では学校で10位という好成績でブライスを喜ばせた。
ソフィアの実家である地方の子爵領に、ようやく事の次第の全ての情報が届いたのは、結婚の挨拶に二人が子爵領に訪れてほどなくだった。
実家の両親は娘が連れてきた結婚のお相手がブライスである事と、追随して入ってきた王都での娘のスキャンダルの知らせ、法案の立法化の全ての情報が一気に入ってきて、に腰をぬかさんがばかりにびっくりしていた。
だが夢見がちな両親の事、魔術師の蜜月という実に両親が好みそうなロマンチックのお相手に娘が選ばれた事に、そしてレイからの災害保障と貴族学校の奨学金というニュースに、盆と正月が一挙に来たとはこの事かとばかり、大喜びに喜んでくれた。
「ブライス。あなたは偉大な魔術師だわ。つい去年まで未来に希望なんて持てていなかった事務補佐の私が、貴方のような人の婚約者にになれて、そして貴方のおかげで宮廷魔術学校に通えているなんて。どんな魔法を使ったら私の夢を二つもいっぺんに叶える事ができたのかしら」
ブライスの研究室の机の左側には、今ソフィアの机が並んでいる。
研究の手をとめて、ソフィアは大きくため息をついて、言った。
ブライスはいつものようにヘラヘラと笑うと、ソフィアに口づけて言った。
「君はもっと大きな夢を叶えてくれた。君のおかげで僕の悲願だった法案は立法化された。そして僕は大好きな君と、永遠にずっと一緒にいられる夢が叶った。僕の左はもう寒くない。冷たくない。僕はもう有頂天だよ。愛しているソフィア」
「はいはい、ブライス、私も愛しているわ。じゃあ本当に遅れるからそろそろ手を離してね」
その後無事に学校を卒業して宮廷魔術師となり、ブライスと結婚して、ソフィアのもう一つの夢であるお嫁さんになるという夢と、ブライスの魔術師としての夢である、人体編成・・・可愛い二人の子供が誕生したのは、もう少し先の話し。
Fin




