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「ソフィアちゃんおはよう、早速なんだけどちょっとこれ魔法課にもっていって!」
「あ、総務にこの書類も! 今日が期限なんだよ、悪い!」
「はいはいはい、今行きます!」
元気に魔術研究所を駆け回っているおさげの女の子の名前はソフィア。
ソフィアはここ、アッシュホールド王国の王宮から少し離れた所にある魔術研究所の事務補佐だ。
事務補佐といえば名前は良いが、ようするにこうやって魔術師達の間をまわって提出期限のある書類を集めてきたり、備品を補充したりする、いわば何でも屋だ。
ソフィアはもうこの仕事をはじめて3年になる。
ソフィアは優秀な魔術学校を首席で卒業して、王都の宮廷魔術学校に入学する資格があったのだが、実家の子爵領の財政が数年前に領地を襲った大洪水の被害で相当傾いている事もあり、上の学校を目指す事はあきらめた。
上の学校どころか、この財政状況をなんとかしようとあまり資産運営の得意でないソフィアの父マーレ子爵が勧められるがままに行った投資運用の失敗で借金が加算で、気がついた時にはもう大損。
あと数年は子爵領の財政はギリギリの自転車操業・火の車である事は確定している。
ソフィアは貴族女性として辛うじてデビューは迎えていたものの、そういった訳で、結婚相手の出会いを求めて社交に赴くドレス代はない。当然持参金など用意できるあてはなく、もう貴族女性の結婚適齢期の19歳だというのに、ソフィアには婚約者すらもいない。
それどころか、そんな金欠子爵領を継ぐ下の弟の貴族学校への学費の捻出すらも危うい状況だ。
己の結婚問題はともかく、弟の学費問題は緊急案件だ。
なんとか捻出する為に、ソフィアの卒業した魔術学校の口利きで、こうして魔術研究所の事務補佐という仕事をして糊口をしのいでいる。
ソフィアは魔法学には正直未練がある。そして結構強めの結婚願望もある。
だが、泣いていても借金は減らないし、ともかく目の前に支払い期限がせまっている弟の学費をなんとかしない事には、弟の未来も子爵領の未来もお先真っ暗だ。
お人好しで夢見がちな両親とちがって現実的なソフィアは、おろおろするばかりの両親をおいてさっさと王都の魔術研究所に就職を決めたのだ。




