第102話 最強の証明
ガルナスは軍刀を握り直した。
エリューシアの言葉は、確かに届いていた。
だが、それでも構えを解くことはない。
「……俺は、武を捨てられん」
静かな声だった。
「それだけを支えに生きてきた」
軍刀をゆっくりと構える。
エリューシアも二丁の魔導銃を静かに構え直す。
その瞳はどこまでも穏やかだった。
「はい」
短く頷く。
互いに構える。
静寂。
風だけがアリーナを吹き抜けた。
終司は腕を組んだまま、その二人を見守る。
誰も止めようとはしない。
過去から続く、一人の男の終止符を打つための一太刀だった。
「行くぞ」
「いつでも」
同時だった。
地面が砕ける。
ガルナスは軍刀を携え一直線に踏み込む。
迷いはない。
これまで積み重ねてきた武の全てを乗せた一撃。
対するエリューシアも足元へ淡い薄桃色の魔法陣を展開する。
「――Presto《加速せよ》」
自己加速術式を重ねる。
その速度は、もはや誰の目にも映らない。
「消えちゃいました……!」
旭が思わず声を上げる。
終司だけが静かに笑った。
「いや」
その視線は一点だけを見据えていた。
「速すぎるだけだ。肉眼で追えないほどに」
ガルナスは気配だけで軍刀を振る。
火花が散る。
銃床が軍刀を受け止めていた。
エリューシアから繰り出される格闘に銃撃。
全てが一つの流れとなって襲い掛かる。
ガルナスも負けじと応じる。
武器を持ち替える隙すら攻撃へと変える。
まさに武の極致。
それでも、一歩。
また一歩。
僅かずつ、ガルナスが押され始める。
「……そうか」
ガルナスは笑った。
「俺は」
一撃を受け流し、さらに踏み込む。
軍刀を大きく振りかぶる。
「俺自身の弱さに、負けていたのか」
その瞬間だった。
エリューシアは静かに魔導銃を交差させる。
薄桃色の魔力が二丁へ収束していく。
巨大な魔法ではない。
ただ、一点だけへ。
自らの信念を乗せるように。
「もう、終わりにしましょう」
エリューシアが静かに口を開く。
「どんな理由があったにしても」
ガルナスは軍刀を握り締める。
「人の命を否定していい理由には」
ゆっくりと銃口が向く。
「なりません」
その言葉と共に、魔法陣が大きく輝いた。
「――レイ・アダマス」
二つの銃口から光が走る。
音すら置き去りにする光の一閃。
ガルナスの軍刀へ真っ直ぐ突き刺さった。
甲高い音と共に軍刀が砕け、ガルナスの身体が数メートル後方へ吹き飛ぶ。
そのまま地面を滑り、静かに仰向けになった。
軍刀は手から離れ、乾いた音を立てて転がる。
静寂。
ガルナスは空を見上げ、小さく笑った。
「……そうか」
その一言だけだった。
目を閉じる。
「俺は、既に負けていたのだな」
力なく腕が落ちる。
背負い続けた執念は、ようやく静かに終わりを迎えた。
アリーナを、大きな歓声が包む。
そこにいる誰もがその決着を見届けていた。
エリューシアは静かに息を吐き、魔導銃を収める。
「お疲れ」
最初に歩み寄ってきたのは終司だった。
エリューシアは柔らかく微笑む。
「ありがとうございます」
「それはこっちの台詞だ」
「終司さんとの約束、守れて良かったです」
二人が笑う。
そこへ六条七理が歩み寄った。
「エリューシアさん」
深々と頭を下げる。
「私たちを……いえ、皆
を守ってくださり、本当にありがとうございました」
「私は、自分に出来ることをしただけです」
「それでもです」
七理は微笑んだ。
「あなたがいてくださって、本当に良かった」
続いてアヴレインもゆっくり近付く。
「見事だ」
短い一言。
だが、その表情には確かな敬意があった。
「いえ、終司さん達のおかげです」
「そうか……お前は少し、変わったのかもしれないな」
「そう、かもしれません」
少しぎこちなさそうな親子の会話だった。
そして、最後に拘束を解かれたワルクスが肩を竦めながら歩いてきた。
「いや、流石だったよ」
「ワルクスさん」
「助かったよ。やはり、終司に任せると最後は全部上手くいくね」
そう言って終司にも視線を向ける。
その視線に、終司はポケットからネックレスを取り出し投げて返す。
「おっと」
「何が依頼料代わりに受け取ってくれだ。それは返すぞ」
「君に預けておいて正解だったろ?」
「お前には後で別に請求するからな。冴鳴にもそう伝えておく」
「いいとも。冴鳴くんに、好きな額を請求するように伝えておいてくれ」
アリーナには笑いが広がっていた。
その輪の中心で、エリューシアは少しだけ照れくさそうに笑っている。
誰かに最強と呼ばれることに、特別な意味を感じたことはない。
けれど今だけは、その呼び名を少しだけ受け入れてもいいのかもしれない。
それは誰かを打ち負かした証ではなく。
大切な人たちを守り抜いた、その証だった。




