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龍の力でハーレムを refrain  作者: 南都乃結輝
人の終わり、悪魔の始まり
9/9

悪魔の音5ー2、最後の夜に



馴れ合いなんてくだらない────そう言われることは分かってた。だって火野村先輩にも断られたから。

でも・・・・・・俺1人じゃどうしようもない。


無理矢理立ちあがって悪魔の服を掴む。


「助けて・・・・・・くれませんか。何でもします。だから・・・・・・早乙女先輩を助けてください! あの人は・・・・・・あの人は俺の────」


俺の・・・・・・なんだ? 憧れの人だ。沢山お世話になった。だから感謝してる。だから・・・・・・助けたいって思ったんだ。

でも・・・・・・それだけなのか? わからない。俺はどうしたいんだ? 俺は・・・・・・早乙女先輩あのひとにどうしてもらいたいんだろう?


「助けて欲しいというのは嫌ですが。貴男あなたに力を与えましょう。実験体が増えるのは私にとっても好ましい」


悪魔から黒い宝石を手渡された。ペンダントに付いていたやつと同じに見える。ていうか同じだ。

モルモットになれ・・・・・・か。それで助けられるだけの力を得られるなら喜んでなってやる!


宝石に魔力を流し込むと淡い光を放ち始めた。

そして俺の体の中に入り込んできた!


「うっ! あ・・・・・・ああああああああああああああああ!」


体を襲う鋭い痛みに叫びを上げる。

死ぬ、死ぬ、死ぬ! 全身に剣が刺さってるみたいだ! そして熱い。火を放ってるかと錯覚するくらいに!


「体に埋め込む・・・・・・。なるほど、そういう手がありましたか。確かにそちらの方が魂により強く干渉出来て力を発揮できる」


悪魔が頷いて俺を見ている。お前の実験なんてどうでもいい! 俺は・・・・・・俺は・・・・・・早乙女先輩を助けたいんだ。

だから・・・・・・こんなとこで死んでたまるか!


「があああああああああああああああああああ!」

「凄い・・・・・・凄いぞ! こんなにも力を発揮するとは! 体質の変化。そして能力の開花まで施すのか!」


手から黒い炎が舞い上がる。それに会わせて皮膚は鱗に覆われて禍々しく変化していく。


「龍の姿・・・・・・。ははっ! 人間を最強の力へと進化させた! これを悪魔に使うとどんな変化が────」

「黙れ」

「あ? 今、なんと言っ────」


悪魔の頭を掴んでドアに叩きつけた! 体が・・・・・・俺の言うことを聞かない? 少し憎いって思っただけで・・・・・・勝手に動き出しやがった!


「お前は・・・・・・あの人を利用しようとした。お前は・・・・・・殺す」

「感情の抑制が出来なくなってる。やはり失敗か。だが戦闘データは取らせてもらいましょう。────楽しみにしてますよ。貴方の崩壊を・・・・・・ね」


悪魔はそう残して魔法陣に消えていった。


「行かなきゃ・・・・・・。助けに行くんだ」

「春! 待ってください! あなた・・・・・・。これ以上はやめてください」


ふらふらと歩き出す俺の手を桜が掴んで止めた。桜の手の感触を感じない。・・・・・・貴方の崩壊・・・・・・か。もう時間がない。だから・・・・・・。


「離・・・・・・して、くれ。さ、乙女・・・・・・先輩を・・・・・・」

「嫌です! こんなの続けてたら死んでしまいます。あなたが死んでしまうのは・・・・・・嫌なんです。もう・・・・・・あの時と同じことは起きて欲しくないんです」

「あの・・・・・・時・・・・・・?」


涙を流す桜を見て五年前のことが頭によぎった。泣いてる桜と血まみれになった人間。五年前の大崩壊の時の記憶。

今・・・・・・思い出したら駄目な記憶だ。


「離れろ・・・・・・」

「で、ですが!」

「いいから離れろよ!」


桜を振り払って叫ぶ。魔力を抑えきれない今の状態であんなの思い出したら全員殺してしまそうで怖い。


「校長・・・・・・先生。他種族・・・・・・なんで、すよね?」


腕とそれから巻き上がる炎を押さえつけて校長先生を睨む。最後の賭けだ。俺が死ぬのは時間の問題。俺が死んだ後の早乙女先輩は・・・・・・。


「今日の12時だ。お前を殺してやる。それまでやりことは全部やっておけ。その後は・・・・・・俺がなんとかしてやる。聖騎士は気に食わねぇからな。ちょっとした悪戯いたずらくらいなら手伝ってやるよ」

「ありがとう・・・・・・ございます」


振り返って教室を出る俺に校長先生が言った。


「教会の天使には気をつけろよ。意地が悪いからな」


その言葉を背に受けて廊下に広がる血を歩き出した。





もう・・・・・・どれくらい時間が過ぎたんだろう。教会を回り続けて聖騎士を殺し続けた。

もう・・・・・・夜だ。視界は暗く・・・・・・紅い。その中で動く白い人間は止まったように遅い。少し走るだけで追いつけそうだ。


もう使えなくなった礼装に無理矢理炎を発現させて地面を蹴る!


「ひっ! 化け物・・・・・・」


言葉を放った聖騎士の首を跳ねて黙らせる。そしてそのまま他の聖騎士へと攻撃を開始した。

礼装を振るう風切り音が俺に攻撃のタイミングを教えてくれる。

横薙ぎに振るわれた剣をしゃがんで躱して刀を突き刺す。


俺が早乙女先輩に魔法を教えてもらうことになったきっかけ。その刀は揺らぎながら刀身を発している。


聖騎士の片目に刀を刺して動きを止めた。


「ぎゃああああああああああ!」


片目を押さえて叫ぶ聖騎士の頭に刀を突き立てて黙らせる。

即座に引き抜いて周りの聖騎士の向けて薙ぎ払う!

目の前の教会から火の玉が飛んできた。それは鱗の鎧を砕くことなく鎮火する。中にも・・・・・・いるのか。


「無傷・・・・・・。もっとだ! もっと撃て!」


聖騎士の叫びと共に幾多の火の銃弾が襲ってきた。


────魔法はイメージで大体なんとかなるんだよ。やろうと思うことが大事なの。


先輩がそう教えてくれた。そして今の俺は・・・・・・何でもできる!


炎の刀身を風に変化させる。刀身を介して周りの空気に干渉した俺の魔力は無理矢理風を巻き起こさせた!

これが・・・・・・宝石の力。普段時より魔力もイメージも強くなる。これを使ってれば先輩を助けられる。


火の銃弾の嵐を駆け抜け教会にいる聖騎士との距離を詰めて切り裂いていく。飛び散る鮮血の中俺は笑みを零す。


「あはっ。あははははは!」

「人間を殺し尽くして高笑いとは随分と壊れたねぇ、悪魔」


奥から女の聖騎士が出てきた。ここにいるってことは・・・・・・早乙女先輩はここに・・・・・・。


「お前を殺せば・・・・・・助けられる!」

「この化け物に1分か・・・・・・。時間稼ぎくらいやってやらなきゃねぇ!」


聖騎士と礼装を打ち合う。氷と炎が空に舞って光を放つ。こいつを・・・・・・殺せば!


「あんたは人とは思えないねぇ。他人の為に全てを捨てるなんて人の考えとは思えないよ!」


振り下ろされた剣を避けて刀を振り上げる!

聖騎士が左脇腹から右肩口まで開いた傷口を押さえながら言った。


「惚れた女にかっこいいとこ見せたいのはわかるけど。自己犠牲は好かれないよ」

「惚れた・・・・・・? 違う。先輩は・・・・・・俺の知る、好きじゃない」

「・・・・・・おや? もしかしてあんた、恋を知らないのかい? なるほどね。純粋で自分がないんだね・・・・・・」

「黙れ・・・・・・。そんなこと知らない!」


聖騎士の腹に蹴りをぶち込んで吹っ飛ばす! 聖騎士は長椅子を倒して転がっていく。

立ちあがった聖騎士が奥の部屋の扉の前に立ちはだかる。


「自分の気持ちに気づけないくらい子供なのか・・・・・・それともとっくの昔に壊れてたのか知らないけど。あんた、宝石それを使う前からおかしかったんだね・・・・・・」

「黙れぇ! 」


聖騎士の声をかき消すように叫び腹に礼装を突き刺した────はずだった。刀身が・・・・・・ない。

刀の柄だけが聖騎士の腹に当たっている。ぎりぎりでぶっ壊れた・・・・・・。

なんで・・・・・・このタイミングでかよ。


「あんたは・・・・・・誰に愛されたいんだい? 尊敬とか憧れって逃げてないで素直になったらいい。自分に嘘ついて自分を壊してたら世話ないよ。人間なら・・・・・・自分を大事にして精一杯生きなさい!」

「黙れぇぇ!」


手刀を突き刺す! それでも聖騎士は黙らない!


「哀れだよ・・・・・・。そのままのあんたじゃ誰にも好かれない。全てを否定して1人になるのがオチだ・・・・・・」


1人・・・・・・。また・・・・・・? それは・・・・・・嫌、だ。

でも、早乙女先輩を助けるには・・・・・・これしかないから!


手を引き抜いた俺に聖騎士が続ける。


「敵に諭されなくちゃわからない・・・・・・なんて駄目駄目じゃない。って説得まで使って時間稼ぎ出来ない私も駄目ね」


力なく項垂れた聖騎士を床に倒して部屋のドアを開けた。

いた・・・・・・。中に早乙女先輩が・・・・・・。


「桂木くん? なんで・・・・・・こんな所に?」


俺を見て驚いた顔を見せる早乙女先輩に微笑んだ。


「助けに・・・・・・来ました」


中に入って早乙女先輩を縛る手錠を壊す。今の俺なら簡単に壊せる。


「早く帰りましょう。そして・・・・・・沢山話しましょう。これが最後ですから」

「最後って。あなた、その力・・・・・・何をしたの? 命を対価になんかしてないよね!? 私なんかの為に・・・・・・そんなの・・・・・・」

「先輩は俺にとって大事な人なんです。だから先輩が嫌だって言っても助けます。何を・・・・・・使ってでも」

「彼女さんは? その人のことは無視なの? 死んじゃったら全部終わっちゃうのに」


目に涙を溜め始めた早乙女先輩の頭を撫でる。


「桜より先輩の方が大事です。だって俺は────」


俺は・・・・・・。


────惚れた女にかっこいいとこ見せたい────


聖騎士の言う通りだったのかもしれない。もしかしたら俺は・・・・・・この人が好きなんだ。だから守りたくて、一緒にいたかった。


「帰りましょう。そして前みたいに魔法を教えてください。もしかしたらこれ治るかもしれないんで」


俺自身の指さした手は突如横から飛んできた斬撃に切り落とされた!


「なっ!?」

「桂木くん!」


驚く俺と早乙女先輩に黒く黄金色こがねいろの剣が向けられた。


「ふむ。悪魔が2人・・・・・・? 処刑するのはどっちかな?」


白髪混じりの黒髪を揺らして笑うおじさんが・・・・・・そこにいた。

一瞬で理解出来た。戦わなきゃ・・・・・・死ぬ!


黒い炎を腕に纏わせて聖騎士に殴りかかった!

聖騎士の姿が消えて俺の攻撃が避けられた。そして首に剣が振るわれる!


「硬いな。龍の力を持ってるのか。面倒な悪魔だ」


おじさんが吹っ飛ばされた俺を睨む。この人、テレビで見た。あの時の・・・・・・テレビ。つまり、この人は聖王だ。


「お前の意見。テレビで見たぜ。ハズレだったみたいだな。悪魔の興奮剤」

「ああ。知ってる。あんなのは適当言っとけばなんとかなるからな。騙せりゃいいんだよ、それで」


最悪だな。今はそれどころじゃないっていうのが現実だけど。

どうにかして・・・・・・生きて帰るんだ。先輩と2人で・・・・・・。


既に切られてる腕を盾にして剣の猛攻を防ぐ。動きが見えない。どれだけ見ても・・・・・・見える気がしない。

礼装に無理矢理炎を灯らせる。弱い・・・・・・。でも・・・・・・ないよりマシだ。


「なるほど・・・・・・。あの石は能力の強化を施すのか。力に振り回されてるから丸わかりだ」


容易く礼装が砕かれた! まだ・・・・・・まだいける! 今の俺は悪魔に近いんだ。だから手から魔法を出せるはずだ!


聖王に手を向けて炎を発現させる。

聖王はそれに黄金の剣を向けて迎え撃ってきた!


「うらあああああああああ!」

「弱点を晒すとはな! その宝石を砕けば・・・・・・お前は終わる!」


腕の中にある石に剣が突き刺さった。目には見えないけどわかる。壊れた・・・・・・。

体を覆う鱗が剥がれていく。切り落とされた腕からは血が溢れ出してきて、また痛みが襲ってくる!


「まずは・・・・・・1人目。悪魔の消去だ」


聖王の言葉を突風の音がかき消した。

この状況で魔法が使えるのは1人しかいない。


「やらせない。桂木くんは絶対に殺させない」


早乙女先輩の言葉と共に激しい魔法が発せられた。それは聖王を直撃して聖王を外に吹っ飛ばした!


「ねえ、桂木くん。助けに来てくれてありがと。凄く嬉しかったよ。だからね、今度は私が助けるから。ここで待ってて」


そう言って外に出る早乙女先輩を俺は・・・・・・薄れていく意識の中で見送った。




氷・・・・・・? 体がやけに寒い。春なのに・・・・・・。

目が覚めた俺の視界に入ってきたのは一面の氷だった。教会自体が巨大な冷蔵庫になってるみたいだ。

俺の体にかけられてたコートを羽織って聖堂へと出た。そこにいたのは・・・・・・早乙女先輩だ。


「先輩! 大丈夫ですか? 血が・・・・・・。どうしよう」


先輩の体はボロボロだった。なんで立ってられるのか不思議なほどに・・・・・・。

治癒魔法は・・・・・・駄目だ。俺には使えない。なら・・・・・・どうすれば・・・・・・。


早乙女先輩が微かに手を動かして俺の頬を撫でる。


「良かった・・・・・・。人に、戻った。ねえ、桂木くん。あなたは、人らしく・・・・・・幸せに、生きて」

「何言ってるのかわからないです。俺は・・・・・・俺が好きなのは────」


俺の言葉はキスをして遮られた。前の時とは違う。冷たい感触。それがもう駄目だって教えてくれる。


「ありがと。でも・・・・・・ごめんね」


早乙女先輩はそう微笑んで動かなくなった。氷にヒビが入っていく。発現者の意志がなくなったからだ。


氷が消えて倒れてくる先輩の体を強く抱きしめる。違う、違う、違う。こんなの・・・・・・違うだろ。

俺が・・・・・・もっと早く気づけたら。俺が先輩に桜のことを話さなければ・・・・・・。俺が、俺が、俺のせいだ。

全部・・・・・・俺が悪いんだ。


「うわああああああああああああああああああ!」


誰もいなくなった教会に俺の叫びが木霊した。

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