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「小娘………今 何と言った?」
男は、険しい表情を浮かべて 初めてティナに視線を向けた。
見た目は、普通に子供にしか見えない為 論外と判断していたのだろう。
けれど その少女の発した発言に 怒りを覚えたらしい。
「何と言った?
貴方は、頭だけではなく 耳も悪いのですね?
私は、馬鹿馬鹿しいと言ったんです」
何の躊躇もなく断言する様に 村人だけではなく、隊長に仕えている兵士達も開いた口が塞がらない状態だ。
そして 当事者である 無謀な発言を続けている少女と怒りで顔を真っ赤にさせている元・王太子の側近だった男を見守っている。
「戦争の発端となる原因を作ったのは、何を隠そう 貴方の乳母兄弟だったのでしょう?
本来ならな その方の間違った行いを正すべきだったのは、隊長殿だったのでは?
それなのに………貴方は、ご自分の立場を利用して 国民を苦しめるだなんて。
私は、ずっと旅をしてきましたが 貴方方軍には、王都より 緊急事態に備え、食料や武器が支給されていると窺いました。
それなのに 滞在先にて 食料を求めるのですか?
しかも 自分たちの欲望の為に、女性を寝所に入れようとするだなんて 最低だと思わないんですか?!」
反論を許さないように一気に言い放ったティナに 男は、怒りに任せて立ち上がった。
その手には、剣が鞘から抜かれている。
まるで空気のように見守っていた村人も他の兵士も、息を呑んだ。
「たかが 旅の小娘に そんなことを言われる筋合いなどないッ!
叩き斬ってやる!!」
隊長は、そのまま剣を片手に振り上げ ティナに襲い掛かった。
数人の女性が、目の前に起こっている光景に悲鳴を上げ 子供達も、顔を真っ青にさせながら抱き合っている。
けれど 次の瞬間 男の姿が一瞬にして 消えていた。
驚いて視線を下に向けてみると 隊長は、剣を手にしたままの状態で 地面に叩きつけられている。
誰もが、言葉を失ってしまっていた。
勿論 地面とお友達になっている男もだ。
「力任せで攻撃を仕掛けてくる時点で 無能な男の印ですよ?
武術には、様々なものがあって 中には、相手の力を反対に自分側に引き込む方法があるんですから」
ティナは、ニッコリと微笑む。
他の兵士達は、上司が簡単に倒されてしまった事実を受け止められずにいる。
「間違っていることを、正そうとしないだなんてッ!
こんなの 上下も関係ないのに………。
戦争中は、たとえ王族だって 一兵士として、命を賭けて戦うものなんじゃないんですか?
それを 自分の立場を利用してッ!
上の指揮を取っている人も、相当 馬鹿な人なんでしょうね?」
「ほぉ?
その発言は、聞き捨てならないな?」
※~※~※~※~
「おい………今の動き、見えたか?」
青年の問いかけに 後ろに控えている面々は、目の前に見える光景を見つめたまま 呆然と首を振った。
「驚いたな………この俺にも見えない速さで、あいつを投げ飛ばすだなんて」
どこか興味を持った様子の主に対して 皆は、顔を見合わせてしまう。
「あんまり 戯れた考えを持つなよ?
それだけでなくとも お前の立場は、微妙なものになっているんだからな?
一部の噂じゃ お前が、あの方を陥れたと言われているんだ。
そんな中で あんな公衆の面前で、あの方の側近を辱めた張本人を重宝でもしてしまったら………どうなる?」
「ああ………それは、母も心配していたわ?
今回の一件を利用して 主力交代を目論んでいる連中がいるそうなんだもの」
低い男の発言に対して ハスキーな女の声が、返される。
「お前達は、俺を信用していないのか?
あの好色な狸親父と違って あんな子供を相手にするはずがない」
溜息をつく青年に 顔を隠した人物が、”それにしても………”と 思案するように呟いた。
「あの少女………誰かに似ている気がするんですよね?
どこかで会ったような………」
その言葉に 一同は、おいおい………と 苦笑気味。
「殿下………皆様方 今は、暢気におしゃべりしている暇などありませんッ!
我妻の正体が知られてしまった以上 厄介なことになってしまうことは、間違いないのですから」
足を少し引き摺った男が、何度も広場に視線を向けながら 顔を歪めている。
「ああ………ごめんなさいね?
ディック……貴方の家族や友人も、あの場に連れて来られているんだっけ?」
女が、息をついて 片に背負っている弓を下ろし、矢の準備をし始めると 少女の甲高い声が、一行のいる場所にまで響き渡ってきた。
『間違っていることを、正そうとしないだなんてッ!
こんなの 上下も関係ないのに………。
戦争中は、たとえ王族だって 一兵士として、命を賭けて戦うものなんじゃないんですか?
それを 自分の立場を利用してッ!
上の指揮を取っている人も、相当 馬鹿な人なんでしょうね?』
この発言を耳にして 青年は、眉根を寄せる。
そして 仲間に一瞬だけ視線を注ぐと、そのまま大きく叫んだ。
「ほぉ?
その発言は、聞き捨てならないな?」
感情に任せて姿を晒した主に対して 皆は、深く溜息をつく。




