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 「どうしたんだい………そんなに慌ててさ?

そんなに叩かなくたって すぐに出るよ」

マチルダは、扉に向かいながら 呆れた声を発した。

「どうせ リリーが、旦那さんと喧嘩して 相談しにきたんだろ?

一昨日だって 朝までグダグダ言いにきて………結局は、旦那のブライアンが迎えにきていたし。

うちは、駆け込み寺じゃないっていうのに………」

ヴィクターは、呆れたように 溜息をつく。

ティナが、不思議そうに首を傾げていると チェルシーが、教えてくれた。

「リリーは、私やディックの幼馴染のブライアンと最近 結婚したばかりの奥さんのこと。

ブライアンは、元は王宮に仕える近衛兵だったんだけど………今は、怪我で療養中で 新婚な奥さんを連れて 実家に戻ってきているの。

詳しくは、聞いていないんだけど 亡くなった前の王太子殿下付きだったらしくて ちょっと 立場が微妙になってしまっているらしいわ?

リリーも 王宮にいたそうなんだけど………あんまり話してくれないの。

まぁ………ブライアンが選んだ人だから 悪い人じゃないと信じているんだけどね?

話ができるんなら 秘密の末のリリアーヌ姫様の話とか聞きたいのに………」

「リリアーヌ姫様って 確か 王宮内で隠された姫君のことですよね?

旅をしている中でも………話だけでも窺ったことがあります。

色々と悪意のある内容も含まれているようですけどね?」

ティナは、苦笑したように 言う。

「ブライアンの話では、とても素晴らしいっていうことなんだけどね?

まぁ………今は、奥さんをもらったから 他の女性を褒めちぎるなんて出来ないでしょうけど」

「そういえば………ブライアンの奴 何かさっき、手紙を受け取るなり 村を飛び出していたぞ?

何があったのか 顔を真っ青にさせてさ?」

義姉の話に相槌(あいづち)を打っていたヴィクターは、そう言って 首を捻る。

「もしかしたら リリーは、置いてきぼりを食らったことで相談に来たのかも………」

チェルシーは、唸りながら呟いていたが 言葉を失ってしまう。

扉の開く音が聞こえて 何かの金属音のような響きが聞こえてきたのだから………。

「………………ッ!

アンタ達、一体?!

何の権利があって、そんなモノを振りかざしてくるんだろうね?」

マチルダの声から、何か異様な雰囲気を感じ取って 一同は、扉の方に近づく。

扉の前に立っていたのは、武装した兵士だった。

顔は、仮面を被っている為にわからないが 身に着けている紋章から 階級は、そこそこだろう。

その後ろには、同じような格好をした兵士が数人 整列しているらしい。

纏(まと)っている空気は、明らかにいいものではなかった。

異様な緊迫感が流れる中 一番上の階級であろう兵士の1人が、口を開く。

「早く、出てくるんだッ!

他の連中は、既に広場に集まっているぞ?

これは、命令だッ!

抵抗するのならば 容赦せずとも良いというお達しを受けている!!」

厳しい一声に チェルシーは、幼子を抱きしめ ヴィクターは、兄の妻とティナを守るように前へと出る。

けれど 相手は、完全な大人の男性であり 訓練を重ねているのだ。

引き摺られるようにして 家の中から連れ出されてしまう。

広場へと連行されていくと そこには、女性や老人に子供達が固まって抱き合っていた。


































※~※~※~※~


 「どうやら 揃ったようだな?」

兵士に引き摺られていくと 中央で高みの見物をしていたらしい人物が、声を発した。

視線を向けてみると 他の兵士と違って着飾ったような衣装を身に包んだ男が、ニヤニヤしながら 集められた人々を見つめている。

そして ある女性に視線を止めた。

「これは、これは驚きましたな?

王のお戯(たわむ)れによってお生まれになった卑(いや)しい身分の姫君が、こんな田舎の村にいるなんて」

その発言に その場にいる人々は、驚きを隠せない。

「リリアーヌ姫は、陛下の話によれば 乗っておられた馬車が崖から落ちたことで亡くなられたと窺っていたのですが?」

男は、顎に手を当てながら ”どういう事でしょうか?”と 笑みを零している。

皆から注目されている女性は、凛とした様子で 目の前にいる男を睨み返していた。

「嘘………リリーが、末のリリアーヌ姫様?!」

チェルシーが、我が子を抱きしめながら 息を呑む。

それは、彼女だけでなく 同じ村で生活をしていた者達も同じ反応だ。

ティナは、そんな皆の反応を見つめながら 冷静に事の展開を考えていた。

噂でしか知られていない 隠された末の姫の存在。

彼女の母親は、勿論のこと その経緯さえも知られていない。

噂は、様々な推測を連ね 何が真実なのかわからなくなっている。

「まぁ………姫君が、生きているにしても他人の空にしても 関係ない。

お前達には、差し出してもらわなければならないものがある」

その言葉を受けて 皆が、ビクリと体を震わせた。

「第一に 食料をもっと差し出してもらおうか。

お前達は、守られる立場なのだから 少し食べるものが減っても文句など言えまい。

第二に 夜伽(よとぎ)で呼ばれたものは、刃向かうな。

我々は、数え切れない極限状態にある。

最初の理由と同じく 拒否権はないぞ?」

その言葉を受けて 村人達の顔から希望が一切消え去り 絶望だけが残る。

「馬鹿馬鹿しい」

静まり返った広場に 少女の声が響き渡った。


 

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